酒サムライ:若手蔵元ら奮闘 「ワインの首都」英国に照準
毎日新聞 2015年04月07日 13時11分(最終更新 04月07日 18時17分)
最新の流行と伝統が息づく英国を発信地にして、日本酒を世界に普及させる取り組みが進行している。「酒サムライ」を名乗る若手の酒造業者(蔵元)グループがけん引し、世界最大級のワイン品評会に出品したり、英王室の総料理長らも巻き込んだイベントを開いたりと奮闘中だ。市場としては小さい英国を狙う彼らの深謀遠慮とは−−。【ロンドン坂井隆之】
「職人芸だ。レストランのワインリストに並んでも何の違和感もない」。2月下旬、美しい調度品が並ぶ駐英日本大使公邸の一室。端正にスーツを着こなした男性が、日本酒の注がれたグラスを手にうなずいた。マーク・フラナガン氏。バッキンガム宮殿で、エリザベス女王ら王室の食卓をつかさどる「ロイヤルシェフ」のトップだ。会場には大手紙幹部や著名料理ライターらも姿を見せ、日本酒と食事を堪能した。日本から駆けつけ、和装で解説にあたった「浦霞(うらかすみ)」(宮城県塩釜市)醸造元の佐浦弘一さん(52)は「普段経験できない料理と日本酒の組み合わせや、文化的な背景にも関心を持ってくれた」と手応えを語った。
日本酒造組合中央会などが主催したこのイベント。仕掛け人を務めたのは、日本酒普及グループ「酒サムライ」(約800人)の英国代表、吉武理恵さん(60)だ。酒サムライは若手蔵元を中心に2005年に結成され、「日本酒を世界に」を合言葉に手弁当で活動を始めた。ボランティアで参加した吉武さんは日英ビジネスのコンサルタントとして培った人脈をフル活用し、英国の「トップクラスの発信力を持つ人たち」に日本酒の魅力を売り込んできた。
ワインと言えばフランスやイタリアを思い浮かべるが、実はワインの国際取引センターとして「世界のワイン首都」と呼ばれているのは英国・ロンドンだ。自国に有力産地が無いのを逆手に取り、ワイン関連の品評会、ジャーナリズム、オークション、輸出入業者、教育機関が集積し、ワインを評価、値付けし世界に送り出すハブの役割を果たしている。日本酒の輸出量に占める英国向けは2%と、市場規模では北米、アジアを大きく下回るが、酒サムライがロンドンを狙う理由はここにある。