久しぶりに古き友人(彼)と再会した。
最後に顔を合わせたのは12年前。札幌でのことだ。
12年前、彼は自分の会社を倒産させた。理由を尋ねても教えてくれなかったが、「自分が悪いのだと」しきりにつぶやいていたのを思い出す。
当時雇用していた従業員は複数の取引先などに頭を下げて、再雇用をお願いしたようだった。誰もいなくなったオフィスに残された彼は、残された借金に頭を抱えながら、これからどうしようかと、途方に暮れていた。
その後住んでいた家にも住めなくなり、路上生活や友人の家を転々とする生活をしていたが、ある日、ちょうど札幌でも桜が咲くころ、「実家に帰ることにする」といって、苦しそうな顔で別れの挨拶にきたのが最後だった。
あれから12年。久しぶりに再会した彼の顔は、当時と変わらない、人を和ませてくれる優しい笑顔だった。
ベンチに腰掛けながら、彼が手渡してくれた缶コーヒーを開けた。
「無事だったのか? 連絡しても返事がこないから心配してたんだぞ?」
「ワルいな。マジで」
そういって彼は口元をほころばせた。
「俺さ、情けない気持ちを抱えたまま実家に帰ったんだ。そしたらさ、親父が『疲れただろう』て、昔俺が使っていた部屋に布団を敷いてくれたんだ。あのころ、ろくに寝ることもできなかったから、顔に『マジで疲れた』て、書いてあったんだろうな」
「そっか、お前んち、親父さんしかいなかったんだよな」
「そう。あの厳しかった親父が優しく俺を迎えてくれたんだ。ま、ぶん殴られるのを覚悟で帰ったんだけどさ」
「で、今はなにをしてるんだ?」
「あれからまた起業したんだ。小さな会社だけど、親父にも手伝ってもらってさ」
「そうだったんだ」
「そうだ」
彼は大きく深呼吸をして、言葉をつづけた。
「とにかくがむしゃらに働いて借金返した。倒れたらまた立てばいい。今はもう失うものは何もないんだから、目の前のことを一生懸命に頑張ろう。人の3倍は頑張ろうって」
「失うものがなければ、がむしゃらになれるよな。わかるよ、それ」
「ああ、まったくだよ」
失敗しても、命までは取られない。そう開き直ったから、一心不乱に働けたと彼はいった。
「当時働いていた会社の親会社が、俺が働いていた会社を閉鎖するってことになって、それを機会に俺は独立を考えた。親父に『大丈夫なのか?』と訊かれたけど、『見ていてほしい、十年後を』と誓った。一度失敗してから、なぜ失敗したのかをとことん考えてみた。今はその理由がわかるよ」
失敗をすることで、なぜ自分が失敗したのかを彼はとことん考え、反省したという。
人は失敗という経験をすることで成長できる。だがその経験を活かすことができなければ、意味がない。
彼は今、北海道のとある地方で、農産物の加工業を行う会社を経営している。幸い経営のほうは順調のようなので安心した。
彼が毎日続けていることは、どんなに忙しくても「経済、経営、社会の動向」などを勉強することだという。
努力すること。常に前へ進もうとするその姿勢がとてもまぶしかった。
別れ際、彼がいった。
「今度遊びに来いよ。俺のかみさんの手料理、マジで旨いからさ」
「そりゃ楽しみだ。近くまで行ったら、俺もかみさんを連れてお邪魔させてもらうよ」
「ああ、待ってる」
そういって笑顔で別れた、12年後のある晴れた日の午後だった。
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