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【社説】

中学教科書検定 「なぜ」考えさせる授業に

 来春から中学校で使われる社会科教科書は、日本の領土に関する記述が豊富になる。安倍政権の意向が反映された形だ。中身をうのみにさせるのではなく、なぜなのかを考えさせる授業が大切だ。

 文部科学省は一年前、社会科教科書の検定基準を見直した。例えば、近現代史では政府の統一見解や最高裁の判例があれば、それに基づいて記述するとした。

 教科書作りの指針となる中学校と高校の学習指導要領の解説書も改めた。地理や歴史、公民の分野で、北方領土のみならず、竹島と尖閣諸島を「固有の領土」などと明記するよう求めた。

 日本を悪者扱いばかりする。国益を損ないかねない。そうした偏った見方を排し、愛国心を養うといった教育基本法の目標にかなう教科書にそろえる狙いからだ。

 合格しないと日の目を見ないから教科書会社は従うほかない。竹島と尖閣諸島の領有権を取り上げたのは三分野の全十八点に上り、日本編入の経緯も記された。

 バランスの取れた教科書に仕上がったといえるのだろうか。教科書会社の考え方によって扱い方の大小に差が出るのは当然としても、気がかりなのは中身だ。

 日本の立場については、竹島は「韓国が不法占拠している」、尖閣諸島は「領有権の問題は存在していない」などと横並びの表現をしている。外務省のホームページを参照したケースも多いという。

 ところが、韓国や中国の主張も、対立の歴史的背景も見当たらない。これでは子どもたちに政府見解ばかりが刷り込まれ、敵対心をあおりかねない。なぜ問題になっているのかという素朴な疑問を素通りしては教育とはいえまい。

 竹島について韓国は「朝鮮の古い文献や地図に載っている」、中国は尖閣諸島をめぐり「日本が日清戦争を通じてかすめ取った」などと反論している。先生は授業で取り上げ、子どもたちと共に調べ、議論する工夫が欠かせない。

 歴史では、新規参入の教科書会社が初めて一九九三年の河野談話を載せた。自虐史観批判を受けて、十年前に教科書から消えた慰安婦問題が再び登場した。

 無論、軍や官憲による強制連行を示す資料は発見されていないとする政府見解も、併せて紹介している。検定の決まりを守れば、題材選びは自由と心得たい。

 重要なのは、子どもたちに正確な素材を多く与え、考える機会をつくり出すことだ。大人の萎縮は教育の放棄につながりかねない。

 

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