• 中国の当初の思惑から遠ざかるアジアインフラ投資銀行

    by  • April 5, 2015 • 日文文章 • 0 Comments

    何清漣

    2015年3月30日

    全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun

    http://twishort.com/yuVhc

    中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)のメンバー資格申請が3月末で終わります。中国の国家発展開発委などは3月28日に「一帯一路」(*海と陸のシルクロード沿い国家開発援助)の「ビジョンと行動」として、「5通(*政策、施設、贸易、資金、民心のコミュニケーション)と「一帯一路」上の数十各国の「利益・運命・責任の共同体」を推進するものだと宣しました。しかし、”一帯一路”にあるキー国家のひとつであるスリランカは、今月初めに中国との「港湾プロジェクト」停止し、この計画には多くの予想外の問題点がある、と表明しました。

    中国は多くの国の賛同を得るために、「拒否権」を放棄しましたが、これはこの銀行計画が中国が当初、考えていた過剰生産能力を輸出するプラットフォームにしょうという思惑とは違ったものになってきた、ということをあらわしています。

    《現実と本来の目的がますます乖離していく》

    中国がこの銀行を計画したのは元々は「一帯一路」計画に対しての融資の土台を作るためでしたが、各国の熱がさっぱりだったので、やむをえず拒否権を放棄して 各国の賛成をとりつけたものです。英国が率先して参加することによってEU各国が次々と加入を求め、北京はメンツを保ったと言えましょう。ただ、これから起きる問題はまだまだ多く、今後の動きに影響をあたえかねません。

    第一の問題は理事会の席の配分です。国際金融機構の最大の特権は投票権です。創設メンバーだけが規則制定に参与できる、つまりゲームのルールを決められますし、会員国の立場にたってのみ各投票権が得られます。これがEUで英国の加入後、始終もめた原因です。将来はどんないい点があるかはともかく、まず先に加入してゲームのルールを決める資格を取得して、ごちゃごちゃ争うのはゆっくりあとでということです。

    もともとの計画では中国は理事を15人から20人ぐらいにして、わずか3つだけを「域外」、つまりアジア以外の国のメンバーに残しておくつもりでした。これがまず7つのヨーロッパの国の誰をいれるかが最初のゲームになります。今年1月にはやくも加入申請をしたニュージーランドは中国にしてみれば「最初に参加表明した功績」があります。英国の姿勢は他の国極めて強い影響を与えました。ドイツは欧州経済の大黒柱です。フランスは二流国家におちぶれてもプライドは一流国家ですし、特別に敏感です。これらはみなこの銀行の「大株主」ですから中国はしっかり対応せねばならず、たぶん最後には理事の数を増やして各国の意に沿うでしょう。

    もうひとつの予想される重大な争いはどの国この銀行の欧州支店を開くかということです。欧州にはおそらく1支部でしょうから、欧州の中心におくとしたらロンドンははいりません。しかし英国は世界金融の中心地のひとつです。中国の投資の理念は西側国家と大変な違いが存在するので今後、面倒なことはさらに増えましょう。現在、中国の官製メディアが伝えるところによると;拒否権の行使ができませんが、これはいつか必ず争いの種になるでしょう。

    今、すでにある例としては国連の常任理事国の拒否権がありますが、このために国連はいかなる重大な国際業務の上でも一致することが極めて難しくなっています。世界銀行やIMFがまだ仕事ができるのは投票制度と借款の付加条件のおかげです。例えばアメリカは世銀に対して事実上の否決権を持っており、IMFメンバー国は一国のGDP総額、開放度、経済の波、国際準備金などに基づいて公式で計算された投票権利を持ち投資決定は比較的客観的であり、思いつきや経験で適当に決めているわけではありません。中国がこの銀行をやろうとしているのは過剰な生産能力を輸出したいためです。各国が参加しようというのは中国に好感をもってもらい貿易の上でのカードにしたいという思惑です。しかし将来、投資政策を決定しようというときには必ずや利益を比べることになるでしょう。その時に中国ははじめて拒否権を失ったことがどれほど重要なことだったかに気がつくでしょう。

    《中国の対外経済援助と対外投資の境界は曖昧》

    「人民日報」の解説するこの銀行の優越点というのは「世銀やIMFの借款は西側の価値観を表し、借款の重点は世界的に貧しさを減らすという重点がおかれ、多くの限定的条件がある。例えば貸し出し対象国は私有化、対外開放、外貨自由化、財政緊縮、赤字削減などその国の主権を侵害する条件がついており、あまつさえ人権条項まであり多くの発展途上国が受けたがらない、これに対して中国提唱のアジアインフラ銀行はこうした条件を設けない」、としています。これは確かに中国の一貫したやり方で過去には中国はアジア・アフリカ・ラテンアメリカの国家への経済援助と低利息無償借款は西側のこうした原則を持たずに、政治的な結果だけを重んじ、経済収益も重視しませんでした。

    例えば、国連人権委員会に中国の劣悪な人権状態を譴責させない、とかなどです。こうした政治的利点のためにこうした国々の国家的債務を免除するというのが中国の外交ゲームの常套手段だったのです。

    中国の海外投資の効果は誰しもが認めます。2014年中国経済貿易促進会の王文利会長が対外に公開したことですが、20000以上の企業の海外投資で「9割以上が損している」です。「中国の世界投資追跡」データバンクには「トラブルプロジェクト」の項目がありますが、あとで監督機関にダメをだされたプロジェクトです。2005年から2012年の合計で88、総額は1988.1億米ドルになります。

    最初のうちトラブル・プロジェクトは大部分がエネルギー関連企業でしたが、のちには多様化してきました。はっきりって中国政府の大河援助と投資の境界は曖昧模糊たるもので往々にして援助で投資を促進します。

    中国は他国の人権状態は考慮しませんが、しかし一種の政治的考慮をします、たとえばイデオロギー(北朝鮮)、中国に対する友好度などですが、中国にとって頭の痛い問題であるベネズエラの200億ドルの借金を踏み倒しはまさに「中国人民の良き友」であったチャベツ大統領に対して友情のあかしとして貸し出した債務でした。

    《スリランカの例ー友情はいつまでも青々とばかりはしていないこと》

    スリランカの例が北京への警鐘です。3月上旬、スリランカ政府は中国の投資14億米ドルのコロンボ港プロジェクトを暫時停止、と決定しました。理由は「これは公平な取引ではない」として「中国の借款は高利率」であり、「返還期限の延期や現在の借款の償還期限条件の緩和など」をトップレベルで交渉することを望んでいます。スリランカは重要な海路の戦略拠点で、中国はこの港を「海のシルクロード」で貿易拡大と国家の影響力増大計画上、おおいに必要としています。

    その隠れた目的としては中国海軍のインド洋前進基地としての必要性です。独裁者型のラージャパクサ大統領時代は、スリランカと中国は関係を深めました。2014年中国海軍の攻撃型原子力潜水艦が二度コロンボを訪れ、国家主席の習近平もこのプロジェクトの開始式典に参加しました。このプロジェクトは長い交渉の結果うまれたもので、中国はこのために大変多くの経済援助をし2005年の東南アジアの大津波の後、中国政府は返済期限の来たスリランカの債務を全て免除しました。ラージャパクサの任期内、戦争中の人権侵害問題が欧米諸国との関係を悪化させた機会をとらえスリランカに大量の援助をおこない、インフラ整備も手出すけしました。同時に国連内でもスリランカを支持しました。

    しかし去年の選挙で10年間政権にあったラージャパクサが、シリセーナに敗れると中国とラージャパクサの友情は新総理の側からすると負の遺産とみられ、シリセーナは選挙綱領にこのプロジェクトの再評価を約束しました。というのも中国からの資金の一部がラージャパクサの親族に流れたといわれている上、前政府と中国の協定の中に、中国企業が埋立地を優先的に使用する許可が盛り込まれていたため、スリランカの産業界では「コロンボが中国に占領される」という心配の声があがっていたのでした。

    《2つのシルクロードの沿線国家は大半が信用不安国》

    英国のファイナンシャルタイムズはかつてベネズエラの対中債務問題で「ベネズエラの危機は中国にひとつの大事な教訓をもたらした」と題して、オーソドックスでないタイプの政策と政治的魅力を備えた指導者に条件のゆるい借款を与えると、自分の身を焦がすことになるということを指摘しましたが、この教訓はスリランカにもあてはまるだけでなくさらに「海と陸のシルクロード」沿線の大多数の国家にもいえるのです。それらは不安定で、国家の信用もひどいものです。今後中国とこの銀行がいかにして収益を確保していくかというのは大問題です。

    中国の計算だと2011年から2020年の間にアジアのインフラ建設には8兆ドルの資金が不足しており、強大な需要があります。ですから中国側がその資金を提供すると申し出るのであれば協定を達成することは何ら難しいことはありません。この計算はそんなに突拍子もないものではありません。しかし、本当の難題は投資を回収できること、そして利益があるか、という点です。これらの国家の中にはインド、カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、ベトナム、イラン、スリランカ、インドネシア、モルジブなどスダンダード&プアーズや、フィッチ・レーティングなどの国際評価機関が各国につける信用評価ではその大部分がB級以下で、イランにいたっては評価の等級外です。ましてや中国はすでにこうした国々に少なからぬ投資をしており、2013年までにインドネシアに307億米ドル、ナイジェリアに207億ドル、イランに172億ドル、ハザフスタンに235億ドル投資して大部分がまだ投資回収期を迎えていません。

    この銀行の理事会の西側国家のメンバーは中国と共同してことにあたるとなれば、人権原則は放棄するかもしれませんが利潤の原則に関しては決して放棄したりしませんでしょうし、中国の「援助を投資とし、政治的な友誼を固める」といった原則も受け入れますまい。そして中国はといえば援助を使ってその国々の支持をとりつけるという金銭外交の経験しかありません。いかにしてこの銀行を自分の「ふたつのシルクロード」計画に役立てるかということは北京にしてみればひとつの巨大な任務、と言えましょう。(終)

    拙訳御免。

    何清漣氏の原文は;亚投行:离中国初衷渐行渐远 http://www.voachinese.com/content/he-qinglian-china-asian-infrastructure-investment-bank/2699417.html
    何清漣氏のこれまでの論考日本語訳は;http://heqinglian.net/japanese/

     

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