70年代に松岡正剛氏が創刊した雑誌『遊』を刊行した工作舎の証言集『工作舎物語 眠りたくなかった時代』(左右社)が上梓されました。装幀を中心としたグラフィックデザインに関する執筆活動を続けてこられた著者の臼田捷治さんに、60年代から現在までを振り返っていただきました。
【以下からの続きです】
1/6:「印刷とデザイナーの協力関係が密な時代、それが60年代でした。」
2/6:「出版は原初のあり方に戻りつつあるのではないでしょうか。」
3/6:「『遊』は全部が豪速球でした(笑)。」
4/6:「デジタル技術とうまく距離を置きながら、その人らしさがにじみ出ているブックデザイン。」
再び、シルクスクリーン印刷
──雑誌『デザイン』はグラフィックデザイン全般を取り扱っていたわけですが、臼田さんの著された本はすべて装幀に関するものですよね。
臼田:自分で限定したわけではありませんが、次第にブックデザインやエディトリアルデザインに関する文章を書く機会が増えました。もっとも『杉浦康平のデザイン』(平凡社新書、2010年)では、杉浦さんのポスターやダイアグラムについても詳しく触れたつもりです。
──それは先ほどのお話のように、ポスターからエディトリアルデザインへと時代の要請が変わったことによるものでしょうか。
臼田:そう思います。装幀についての本を書くようになった直接のきっかけは、1995年にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催されたブックデザインの展覧会「日本のブックデザイン1946-95」の図録の編集を手伝ったことでした。監修は田中一光さん、勝井三雄さん、柏木博さんです。この図録とは別のかたちで一冊本ができるんじゃないかと思いまして、その4年後に『装幀時代』(晶文社、1999年)としてまとまりました。
──臼田さんは学校で講師もされています。
臼田:女子美術大学で教えていましたが、それも2014年度でおしまいです。ビジュアルデザイン概論と印刷概論を5年ほど教えていました。
──学生の反応はいかがでしたか。
臼田:ビジュアルデザイン概論の反応はいまいちでした。美術系ということもあるんでしょうが、いわゆる硬めの本をほとんど読まないようで、マンガやイラスト、絵本のほうに興味があるみたいです。
──今は文字よりもビジュアル表現のほうが圧倒的に優位かもしれません。SNSも、Instagramの利用者がTwitterを越えたそうですし、むしろこれからビジュアルデザインが求められるような気もします。
臼田:何しろ自分の孫みたいな世代なので、僕と感覚がだいぶ違っていますが、逆にいえば僕のほうが時代からズレていたということでしょうか。印刷概論では、レトロ印刷の印刷物を教室で回したところ、面白いと喜んでいました。活版印刷物にも興味を示してくれました。別の先生の指導ですがシルクスクリーン印刷の実技も人気でした。実際に自分の手で刷る面白さ、楽しさを感じ取れるのがよいのでしょうね。若い人たちには、今のオフセット印刷一辺倒に対する不満があるみたいです。
──今の若者がシルクスクリーン印刷に興味を示しているのは面白いですね。60年代の若者たちがサイトウプロセスに通い詰めてシルクスクリーン印刷でポスターを刷っていたけれど、オフセットの登場によって熱が冷めてしまったことを連想します。今の若者もやはりフラットな仕上がりのオフセット印刷よりも、箔押しや活版で名刺をつくったりレトロ印刷やシルクスクリーン印刷のような味わいのある印刷のほうが面白いと思う。つまり、いつの時代も変わらないわけですね。
臼田:例えば版ズレが面白いって言ってましたからね。そういう手応えを若い人は求めているんだと思います。
[6/6「装幀の専門家だけだとどうしても類型化してしまいますから。」へ続きます]
(2014年12月22日、臼田捷治さん自邸にて)
●聞き手・構成:
戸塚泰雄(とつか・やすお)
1976年生まれ。nu(エヌユー)代表。書籍を中心としたグラフィック・デザイン。
10年分のメモを書き込めるノート「10年メモ」や雑誌「nu」「なnD」を発行。
nu http://nununununu.net/
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