伝説マンガ紀行『オタクの細道』#01
りえちゃん14歳
生涯一美少女マンガ家として貫きます!
取材・文/おおこしたかのぶ 構成/吉岡
りえちゃん14歳……「名は体を表す」というが、この人の場合、当てはまったら大変なことになる。なにせ当人は43歳になる中年のおっさんなのだから。
今回のインタビューのためわざわざ名古屋から上京してくれたりえちゃん14歳氏は、決して自分を全面に押し出すタイプではない。ポツリポツリと控えめに話す。基本的にシャイなのだが、女のコのことを語りだすと情熱が剥き出しになる。このひたむきな「14歳」の部分だけは、彼を表しているのかもしれない。
——本日はよろしくお願いします。噂によると、りえちゃん14歳さんは、現在は某有名作家のところでアシスタントをしているとか。
りえちゃん14歳 あっ、りえちゃんでいいですよ。う〜ん、その話はあまり……。お手伝いした本にはアシスタントの名前は出てないですし。
——そんなこといわずにぜひ教えてください。
りえちゃん14歳 はぁ……。『マンガ嫌韓流』の山野車輪先生にお世話になっています。
——えっ、あの、社会現象にもなったヤツじゃないですか! それは意外ですね。すると、あのマンガに出てくる女のコたちはりえちゃんが描いていたんですか?
りえちゃん14歳 いや、ボクは背景とか説明図などを描いただけです。女のコは山野先生がちゃんと自分で描いているんですよ。
——ウソでしょう。あの女のコたちってマンガの内容とイメージ合わないじゃないですか。
りえちゃん14歳 山野先生は女のコを描きたい人なんです。もともとは少年マンガ家を目指していたそうですよ。
——でも、りえちゃんも女のコを描きたいでしょ?
りえちゃん14歳 女のコは自分の作品で描けばいいので、他の人の作品で描きたいとは思いませんね。アシスタントと割り切ってやってます。
——本がバカ売れしたんでアシスタント代もかなりもらったんじゃないですか?
りえちゃん14歳 いや、普通ですよ。山野先生はお金には厳しい人なんで。儲かっているわりにはいつも「金ない」「金ない」って言ってます。
——しかし、山野先生はなんであんなに韓国が嫌いなんですかね?
りえちゃん14歳 特に韓国だけが嫌いとか、右翼だとかということではないんですよ。過激なことを言いたいだけなんです。「嫌なことがあったら難しいことは考えないでとりあえず言いたい!」という純粋な気持ちでマンガを描いている方なんです。昨年は『「若者奴隷」時代』という、雇用問題がネタの本を出しましたし、今は出版不況ネタのマンガを描いています。
——じゃ、次は原発問題ですか?
りえちゃん14歳 いや、それはなさそうです。社会正義に根ざしているわけではなく、あくまで自分が関心があるかないかみたいですね。
——なぜ、山野先生のアシになったのですか?
りえちゃん14歳 知り合いの知り合いがたまたま知り合いだったというだけで、本当に偶然です。今、名古屋の実家にいますので、アシの仕事が入ると東京の山野先生の事務所まで泊まり込みで行くんです。実は背景はあまり得意ではないので、ボクでいいのかな〜と思いながらやらせていただいてますけど。
——近況をおうかがいしたところで、デビュー当時のお話をお聞きしたいのですが。
りえちゃん14歳 当時は女のコが載っているグラビア雑誌ばかり買ってました。お世辞じゃなく、白夜書房、少年出版社の雑誌が好きでしたね。なぜかというと、投稿ページが一番しっかりしていたんです。中でも『熱烈投稿』の「ブルセラ新聞」という投稿コーナーが好きで、よく女のコのイラストを描いて投稿してました。たまたまコミック誌の『漫画ホットミルク』に投稿したら、「入選」をいただきまして(*注1)。そして、ある日突然、編集部から「マンガを描いてみませんか」と原稿依頼があったんです。しかも、センターのカラー4ページで。
——それはすごい。ということは、デビューまでまったく下積みの苦労がないわけですね。
りえちゃん14歳 そうなんです。実は女のコの写真が好きだっただけで、マンガ家を目指していたわけではなかったんですけどね。
——それまでは何をしていたんですか?
りえちゃん14歳 高校を卒業してから約1年間はアニメーターをしてました。アニメ雑誌の社員募集告知を見て、なんとなく応募したんです。絵を描くことは昔から好きだったので。その会社は主に東映の下請けが仕事で『筋肉マン』『北斗の拳』なんかやってましたね。ボクは一番下っ端で動画のトレースや中割を手伝っていましたが、全然上達しないんですよ。もともと飽きっぽいこともあってこりゃダメだな、と思って1年でやめちゃいました。それ以降は近くの本屋でアルバイトなどをしながら投稿職人をしてました。
——影響を受けたマンガ家っていますか?
りえちゃん14歳 マンガではありませんが、一番影響を受けたのは、画家のおおた慶文さんです。
——あっ、なるほど、あの淡い水彩絵の具のタッチのルーツはおおた慶文でしたか。
りえちゃん14歳 こういう雑誌におおた先生の名前を出していいのかな……。マンガ家なら内山亜紀先生ですね。
——中島史雄、吾妻ひでおと並ぶロリコンマンガ家の草分け的な作家ですね。
りえちゃん14歳 あとはメジャーどこでは遊人さん。写真家ならデイヴィッド・ハミルトン。そういった自分の好きな作家さんたちの描く女のコが原型にあり、そこに『熱列投稿』などに載っている女のコを自分の中で融合させて、1枚のイラストにするわけです。
——(りえちゃんが描いたイラストを見ながら)これは諏訪野しおりが元ネタですよね。こっちは『すっぴん』のグラビア、これはビニ本を参照してますね。なんとなくわかります。デビュー当時の作風には当時流行っていた少女マンガの影響もうかがえますね。りえちゃんのイラストには当時のあらゆる美少女カルチャーがしみ込んでますよ。自分はロリコンである、という自覚はあったんですか?
りえちゃん14歳 ボクにとってはあくまで美少女=ファンタジー。決して性的な対象ではありません。でも、おおた慶文先生が少女のヌードを描かないから、「こりゃ自分で描くしかないかな〜」と思ってエッチなイラストを描きはじめたんですけど。
——ロリコンのエピソードとかあります? 幼女を誘拐したことがあるとか……。
りえちゃん14歳 ないですよ! 本屋のバイトをしているときの話ですが、夏なんか女のコがノーブラ、ノースリーブで買いに来ると、お金を払うときにふくらみかけの胸がチラッと見えたりして、そんなときはちょっとだけ幸せを感じたりもしましたが……。
——デビューの翌年に例の宮崎勉幼女連続殺人事件が起きましたが、影響はありませんでしたか?
りえちゃん14歳 ボクの作品はそんなに過激な内容ではなかったし、連載していた『ホットミルク』自体もソフト路線だったのでそれほど影響はなかったですね。今は児童ポルノ規制法案で単純所持も禁止される時代ですから、ボクらの頃よりも厳しいんじゃないですか。これからどんどんロリコンマンガ雑誌もなくなっていくだろうし、自分を表現する場がなくなってくるでしょ。ボクは自分の作品を投稿する場所があったから健全でいられたんだと思います。たとえそれがマイナーな場所でも社会的に認知された、ということが嬉しかったんですよ。これからは「2ちゃんねる」など閉鎖的なところで語り合うしかない。そうすると知らない人からするとよけいにオタクに見えてしまう。それは可哀相かな、と思いますね。
——ロリコンマンガ雑誌がなくなってしまったら投稿マニアの三峰徹氏がどうなってしまうか、心配ですね。
りえちゃん14歳 そうですよ。彼だって投稿をし続けたからこそ『タモリ倶楽部』出演できて、社会的にものすごい承認を得たわけですから。
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