OSHIOKIの時間
--- 第三者視点 ---
魔法は存在するが魔道具がほぼ存在しないこの世界における夜の闇は深い。
それはこのアルコン王国首都ロサンゼルスにおいても例外ではなく、主要な道を極僅かに照らすランタンの灯りから離れてしまえば、その殆どが闇に覆われていた。
貴族及び極一部の限られた冒険者達が住む王都の中心部、第三防壁内であれば、彼等が用いる安くない灯りの助けも借りて誰何の声をかけることは叶うだろう。
だがしかしこの第三防壁外、第二防壁から第三防壁までの中流階級が広く暮らすこの区画では、灯りを個人的に用いる家庭は極僅かである。
それが深夜二時、丑三つ時ともなれば尚更の話であった。
その夜の街を今、四人の人影がある場所を目指して進んでいた。明かりは僅かに空から照らす下弦の月の光のみ。果たしてその歩みが遅いのは、ただ暗いからという以外の理由も含まれていた。
「ねぇ、ダイキ。もうこんなことやめようよ。私怖いよ」
「心配するなよミーシャ。俺は誰にだって負けたりしない。皆守るし、奴隷の人々だって助け出す」
「……私のお父さんとお母さんは両方助けてもらったよ? 私はもう十分だよ?」
「だからって、他の人達を助けないっていうのは何か違うだろ?」
「ううん、そうじゃなくて……」
先頭を進む少年らしき人物から声をかけられた二番目を進んでいた少女は、その言葉を受けつつちらりと後ろを見る。暗くてよく見えないが、そこにはもう二人の女性が後を付いてきている。彼女らもまた、先頭を行くダイキに強引に助けられた元奴隷達だった。
ダイキと呼ばれるその青年、鈴原大輝は転移者である。剣道を習うと同時に異世界トリップ物の物語にも憧れていた彼は、ある日不幸な交通事故に遭いその命を落とした。
そこに運命の女神を名乗る美しい女性が夢の中に現れて、彼に新たな肉体と力を与えてこの世界へと送り込んだのである。
彼が女神より授けられた能力はソードマスター。およそ剣を扱う限りにおいて、彼に敵う者はほぼいない。彼は異世界トリップ物の物語に憧れてはいたが、魔法を自由自在に操った一方的な蹂躙よりも剣を使った正々堂々とした戦いを望んでいた。
だからといってソードマスターの能力により大幅に補正された彼の近接戦闘能力を考えれば、それはやはり一方的な蹂躙でしか無かったのだが。
彼はこの王都近くの森へと送り込まれた。彼の初期武器は鉄の剣ではなく今まで道場で使い慣れていた竹刀で、そのことを周囲に馬鹿にされつつもソードマスターの能力を駆使し周囲を圧倒してみせた。
冒険者ギルドに登録して日銭を稼ぎ、安価な鉄の剣を手に入れると彼の戦闘力は更に加速した。
その勢いは留まることを知らず、彼は一躍有名に……は、実はなっていない。
何故ならば、同じ剣の道と思われる大型新人の名にバリアスが既に台頭していたからだ。
『あらゆる魔物を一刀両断。不可視の斬撃、不可視の剣』である。
実際にはドミネーターバリアの使用によるインチキ技ではあるが、そのインパクトは所詮実剣で目に見える斬撃を扱う大輝の剣術よりも更に上をいっていた。
大輝の剣術は正にソードマスターを名乗るに相応しい出来だったが、剣速を高め手数によって勝負する彼の戦闘スタイルは、おおよそ一刀両断からはほど遠い。
それでも彼はその正義感から精力的に活動し、弱きを助け強きをくじき、雑用レベルの仕事でも積極的に請け負う為にギルドの受付嬢達からの人気を徐々に集めていた。
だがそんな彼の運命を変えた、変えてしまったのは、とある奴隷の少女、ミーシャとの出会いだった。ちなみにこんな名前であるが別に猫耳獣人ではない。彼女はただのちょっと可愛いぐらいの人間の少女である。
ある日大輝が街を歩いていると、人間の奴隷商人が粗相をした奴隷の少女をしかりつけている現場に遭遇した。実はその時奴隷商人は大事な商品であるミーシャに対して鞭なども振るっていなかったし、ミーシャがやらかした失敗も叱られて当然のものであったのでその行動には何の問題も無かった。
ただ奴隷商人はミーシャに対して鞭を見せつけるようにして威圧していたし、そして何よりも運が悪いことに彼は少々、いや弁解出来ないレベルで肥え太ってしまっていた。
つまりどこからどう見ても典型的な悪役の肥えた豚の奴隷商人がいたいけな少女を虐めている図に、大輝の目からは見えてしまったのである。
まるで物語の一場面のようなその状況を見て、大輝の心に間違った方向で火が点いてしまった。
彼はその場に躍り出ると奴隷商人を恫喝。そうしながら『こちらは戦っても良いんだぞ』とでも言わんばかりに、剣の柄に手をかけたのである。
それを見た奴隷商人は三流悪役のような振る舞いをするかと思いきや、その場の処理を部下達に任せて立ち去った。
その部下達もまた物語によく出てくるような見た目が完全にチンピラな連中だったのであるが、彼らは剣を抜こうと気を逸らせる大輝に対し、『待て待て落ち着け』と数人がかりで必死になだめすかした。
その対応にやや拍子抜けしつつも大輝の中では彼らが既に悪者というイメージで凝り固まってしまっていたので、その場に放置されてへたり込んでいた奴隷のミーシャに手を貸して立ち上がらせ、その後二、三言葉を通わせた後に立ち去ったのである。
その後大輝はこの国の奴隷商について調べ、彼らが隷属魔法により奴隷の自由を制限していることを知った。
大輝の正義感は暴走し、彼の持っていたソードマスターの力のことも含め、遂に彼に過ちを起こさせた。
人々が寝静まった夜間に彼はミーシャが囲われていた奴隷商を襲撃。更には隷属魔法を解除する目的で、その奴隷商を殺害してしまったのである。
その見た目が肥えて太った豚だったからといって、彼はこの世界の常識に照らし合わせれば何も悪いことはしていなかった。見た目で損をするにしたって命まで取られるとはあまりにも残酷な話である。
大輝がわざわざ夜間を選んで襲撃した理由は、彼がその奴隷商に関する悪い噂を集めようとしても全く集まらなかった為である。
そのことに対して彼は、この世界は隷属魔法を用いた奴隷制度に慣れ過ぎてしまっているせいなのだと勝手に思い込みで判断した。
それは必ずしも間違いだとは言えないが、だからといってわざわざ人目に付かない夜間を選んで凶行に及んだのはやはり人からの評判を気にしてのことである。
だが彼の想いは、ミーシャのこれまでの発言により更にねじ曲げられてしまったのだ。
『助けてくれてありがとう』『でも私のお父さんとお母さんも別の奴隷商に捕まっているの』『他の人達も助けてあげて』などなどである。
奴隷の少女ミーシャは、奴隷の両親の下に生まれた為生まれた時から奴隷だった。彼女の両親はそれなりに納得のいく理由がありそれぞれに奴隷の身分に落とされたのであって、奴隷商の側に大きな非は認められなかった。
でもそんな事情を娘であるミーシャは全く知らなかったし、結果として彼女の中のイメージだけであれこれと大輝に語ってしまった。
その結果大輝はミーシャが囲われていた奴隷商に続いて、更に他の二つの奴隷商を夜間に襲撃したのである。
この一連の騒動の中において大輝はミーシャの両親を解放していたが、他にも二つ戦利品を手に入れていた。奴隷の少女であるミーシャはそこそこ可愛い部類には入る。
それに引き続き二カ所を襲撃したことにより、ミーシャと大体同じ程度の年齢の、これもまたそこそこ可愛い部類の少女を二人手に入れてしまった。
三人ともが人族であまり映えないメンバーではあるが、大輝はちょっとしたハーレム気分に浸れてしまったのである。ちなみにまだ手は出していない。三人がまだ幼いということもあるが、それ以前に大輝はややヘタレ気味だった。
今回大輝が新たに奴隷商を襲撃する理由は、正義感からの行動というのも無くはないが、それよりもむしろ新たなハーレムメンバーがもう一人増えないかなーなどという、私欲からの行動であることは明らかだった。
ミーシャは追加で実行した計二カ所の襲撃により増加した二人のハーレムメンバーの存在を警戒しており、リーダーである大輝が更にハーレムを拡充しようとしていることに焦りを感じていた。
そもそもの話として、彼が行っていることはこの国においては重大な犯罪行為である。討ち入り強盗の末に殺人まで犯しているし、大輝自身は実は奴隷商から命以外何も盗んでいないのだが、解放された奴隷達の内少なくない人数が金目の物を盗み取ってから逃亡していたことをミーシャは知っていた。
これではもう一度でも憲兵に発見された瞬間、彼らの人生は終わりを告げてしまうのではないか。
実際に犯行を遂行した大輝だけではなく、それを知りながら止められなかったミーシャ達奴隷の少女三人も、罪に問われるのではなかろうか。
だからミーシャは今からでも遅くはないと、大輝を止めようと努力はしたのである。だが時既に遅かった。
とある細い路地の地面にほど近い場所にある、幾つも並んだ鉄格子。これは半地下の部分に作られた奴隷達を置く部屋に外の空気を取り込む為に設けられたものだった。
大輝はその内事前に調べて目を付けていた特に大きな鉄格子を剣で切り裂くと、開いた穴より内部へと侵入。その後から三人の少女達が続く。
深夜二時の屋内は重い闇に包まれており何も見ることは適わない。何らかの違和感を覚えるが、それが何なのか彼らは気付くことが出来なかった。とはいえ、今更気付いても全てが遅かったのだが。
大輝はかすかに呪文を唱えると、部屋全体を十分に照らすことが可能な光球を天井へと浮かべた。バリアスとは違い全属性への素質は無いものの、光や炎、風といった属性に関しては彼は高い素質を有していた。
そうして照らし出された室内を見て、彼等ははっと息を呑む。
牢屋のように鉄格子で区分けされた室内には、幾人もの奴隷達が倒れていた。これまでにもそういった場面には遭遇してきたのだが、そこに致命的な違和感がある。
入ってきた牢屋内、すぐ傍に倒れている奴隷の男性を観察し、彼らは遂にその違和感の正体に気付いた。
『この部屋にいる奴隷達は、全員息をしていない』
そのことに気付いた瞬間……大輝の心を、義憤の炎が熱く熱く焼け焦がした。体表を迸る魔力が淡い光を放ち、彼の戦闘力が上昇する。
この状況を生み出した犯人を探そうと周囲を見回し始めてからしばらくして、地下室を閉じていた重い鉄の扉がゆるやかに開かれる。
その扉から現れた人物は――異様な姿であった。
やや高い身長に、全身を包む大きく盛り上がった筋肉。その顔は精悍で、その翠色の瞳からは只ならぬ殺気が放たれていた。その男は数歩前へと進み出ると、こう告げた。
「やぁ、こんばんは諸君。こんなところで何をしているのかな? ……お兄さんからの、お仕置きの時間だよ?」
男はそう言い放つと、口角をにやりとつり上げた――
--- バリアス視点 ---
今更な話だが、俺は三流悪役というものが大好きだ。
悪役ロールプレイというのは、実に素晴らしい。それも言葉の端々から負けフラグや噛ませ犬臭が漂っていれば最高である。
そしてここからがポイントなのだが、俺はそういった初見では三流悪役的印象の人物が、実はかなりの実力者で後々物語に大きく絡む展開が大好物なのだ。とはいえ、そういう話の展開は非常に難しいのだけれども……。
俺を敵だと認識した鈴原大輝クンの行動は、実に素早かった。
俺と彼との間を阻む鉄格子を直ちに切断したかと思うと、音速を思わせる速さで魔力を纏わせた突きを放ってくる。
あ、これはガードしないとヤバイかな? 銃弾とかよりも威力高いかもしれないし、生体バリア任せだと突き抜けたかも……。
『シールドバリア』
俺は最も単純にして最高クラスの耐久力を誇るそのバリアを彼との間にあらかじめ展開しておいた。
シールドというのは要するに、一平面のみのバリアである。
防御する範囲が狭い分その硬度は以前使用したキューブバリアを上回るし、発動速度も最速クラスである。
別にわざわざ素直に受けてやる必要も無いんだけどさ。今後のことを考えると、一応ね?
シールドとはいってもその範囲は、俺と大輝クンとの間を横一直線に縦横部屋いっぱいにまで展開してある。
つまり彼がこちら側に来るには、建物から一度出て迂回してくるしかないわけだ。俺のバリアを破壊出来るわけがないのだから。
大輝クンの突きがシールドバリアに突き刺さり、突き刺さった部分から激しい火花が舞った。ちなみにバリアってのは、堅くてやわらかいものである。
耐久力はすんごく高いその一方で、あらゆる衝撃をふんわりやわらかく受け止めてくれる。
だからそのまま受け止めたならばボッキリ折れるであろう彼の剣は、折れずにそのまま残るわけだ。
今まで自分の攻撃が防がれたことは無いのだろう。物理的に金属盾や剣で防がれたのならまだしも、空間に張られた実体のないバリアに防がれてしまったというその事実に、彼は非常に動揺した様子であった。
「そ、そんな……」
「どうしたのかね、異世界からの来訪者、鈴原大輝クン? まさかこんなところで諦めるつもりかい? そんなことをしたら君の……そちらにいる君の大事なお友達を、私が喰ってしまうよ?」
「な、なんで俺の名前を……ま、まさかお前、魔王の手先とかなのか!?」
「さぁ、どうだろうねぇ? それよりそんな悠長なことを言っていていいのかい? 彼女達をまず逃がさないと、さ」
「あ、ああああああ……み、ミーシャ! 皆を連れて逃げろ! 今すぐ皆逃げてくれ!」
「そ、そんな! ダイキはどうするの!?」
「俺はこいつを食い止める!」
……ヒューッ! 男の子だねえ! おじさんちょっと燃えてきちゃったよぉ!? さぁ、早く次の展開を!
少女達三人は入ってきた経路、鉄格子が切り裂かれた空気窓の部分から外に出ようと、協力して身体を持ち上げて突破しようとした。だがそこは既に、俺があらかじめ彼らが侵入してきた後すぐに展開しておいたシールドバリアで封鎖してあるんだよな。
見えない壁が存在し外に出られないことを知った少女達の顔に、絶望の色が浮かぶ。
「だっ、ダイキ……出られない、出られないよぉ……」
「なんだって!?」
「くっくくくくく……ハーハッハッハッハッ! ――私が君達を逃がすとでも思ったのかい? 皆殺しだよ。君達は今日ここで死ぬ。そろそろ覚悟を決めたらどうかね」
「くっ、くそお!」
転移者鈴原大輝は、その力を全力で発揮してがむしゃらにこちらのバリアを斬りつけてくる。
だがね、無駄だよ、無駄。生体バリアの耐久力ならまだしも防御効果オンリー、しかも一平面のみのシールドバリアはとんでもなく堅いんだ。
殴り続けていればそのうち突破可能というならまだマシだが、時間経過によりバリアへのダメージは補修されていくから、少なくとも彼のような雑魚ではその修復速度を上回ることは出来ない。
まぁ、生体バリアだと貫通されそうで怖いんだけどね。スフィアバリアとかでもちょっとやばいかも。
大体二分余り過ぎた頃だろうか、バリアに対して攻撃し続けていた大輝クンの息があがってきたのは。俺はそのタイミングで、元々予定していた台詞を白々しく言い放つ。
「あぁー、そうだ! とても良いことを思いついたぞ!」
「な、なにっ!?」
「君がそうやって足掻いている間、少しずつ君の仲間を殺してあげよう。……まずはそう、その娘が良いかな?」
「ひ、ひぃっ!?」
「な、ミーシャ!? お、お前、一体何を――」
「さよならだ」
俺はそういって――既に彼等四人全員はドミネーターバリアで確保済なので、ミーシャと呼ばれたその少女の身体を休眠状態に落とし、首だけでなく両手足まで含めてばらばらに切断する。
そして切断だけして、決してバリアは解除せずにそのまま継続させる。あとでくっつけてから起こしてやれば、傷もなく元通りになるはずだ。途中でドミネーターバリアを解除してしまうと目も当てられない大惨事になってしまうが。
瞬時にバラバラ死体となった彼女の姿を見て、他の二人の少女達が青ざめた顔でその場に崩れ落ちる。
その内片方は壁際まで後ずさるようにしながら「やだ、やだよぉ、助けて……死にたくない……」と呟いた後に気絶してしまった。
よくよく観察したら切断面から一切血が出ていないことだとかそういうトリックに気付かれそうだが、光球一つに照らし出されただけの薄暗い室内であるし、まず大丈夫だろう。
「そ、そんな……ミーシャ……」
「大輝クン、そんな悠長に悲しんでいる場合かね?」
「な、なにっ!?」
「君が私のバリアを突破出来なければ……そこに残っているもう二人も、その少女と同じ末路を辿ることになる」
「……きさまああああああああ! 絶対に許さない!」
転移者鈴原大輝が吠える。その姿は少年向けの物語における主人公の覚醒のようにも見えた。
おぉ、こわいこわい。なんだか体表に魔力みたいなの迸ってるし。やっぱり戦闘系のチート能力持ちっていうのは違うねぇ。俺そんなオーラとか纏える気が全然しないよ? バリアは常に身に纏ってるけどさぁ。
覚醒後の鈴原大輝クンが、その全力を以て俺の張ったシールドバリアへと打ちかかる。大体ダメージは修復速度の一割弱、総耐久力からいえば一パーセント未満といったところだろうか。
数値が小さすぎてどれぐらい強いのかさっぱりわからん。さすが俺のバリアは最強過ぎた。
また数分が過ぎたところで、再び息があがってきた彼に俺は提案を持ちかける。これもまた悪役のテンプレだと思うんだよね、俺。
「なぁ、鈴原大輝クン? ここはひとつ、お兄さんと取引をしようじゃないか」
「取引、だと?」
「あぁ、そうさ。ここに二つの選択がある。君にはそのどちらかを選ばせてあげよう」
「くっ……」
バリアが突破出来ないことで心が折れかけているのか、一応話ぐらいは聞いてくれるらしい。
「まず一つ目。そこにいる二人の少女達をこちらに捧げれば、今この場では君を逃がしてやっても良い。だがその後彼女達がどうなるかは教えられない。もっとも、その場合今後二度と彼女達に会うことは無いだろうことは確実だが?」
「お、お前……どこまで最低な奴なんだ!」
「もう一つは、そうだな……逆に君がその命を自らこの場で絶つというのならば、そちらの二人は逃がしてやろう。……ククク。もっとも、死体となった君にその後のことを見ることは出来ないが? 信じるかどうかは君次第さ」
「な、な、な、な……何なんだよお前! 信じられるかよっ!」
「ハーハッハッハッハ!」
大輝クンはこちらに対して激怒しつつも、ちらりと後ろの二人を見た――気絶した少女は既にぐっすりお休み中であるが、気絶していない方は絶望した眼差しで彼のことをじっと見つめている。
「だ、ダイキ……私達のこと、見捨てたりなんかしないよね!?」
「そ、それは……」
「嘘よ! そんな……お、お願いおじさん。私死にたくない。私こんなところで、死にたくないよぉ……!」
「……」
「うっ……えぐ……ひぐっ……」
少女は泣き出してしまい、辺りはいたたまれない雰囲気に包まれた。
うん、まぁ……大体これぐらいでいいかなー? そろそろちょっと俺も疲れてきちゃった。
だってさ、今何時だと思ってるんだよ。深夜の二時だぜ? いつもはベッドで可愛いシャルロッテとぐっすり添い寝中だってのに、OSHIGOTOの為にわざわざ起きてるんだっつうの。
まぁ今日のコレはOSHIGOTOってよりOSHIOKIって感じですがねぇ!?
「あぁ、うん。もうそのあたりでいいや。最初からどっちを殺すかは決めてあるから」
「は?」
「それでは転移者、鈴原大輝クン……さよならだ」
俺はドミネーターバリアで彼を休眠状態に落としてから、その首を刎ねた。ただしバリアはまだ解除していない。
---
俺はまずミーシャとかいう先ほどばらばらにした女の子の切断した身体を繋ぎ合わせて元通りにし、それからドミネーターバリアを解除した。
ついでに他二人の状態をドミネーターバリアにより健常な状態へと復帰させ、その後彼女ら三名を連れて地下室を出た。ミーシャがバラバラ死体になっていた件については、三人の記憶を改ざんすることで無かったことにしておいた。
鈴原大輝の首チョンパ死体(ただしまだ死んでいない)は地下室の外に運び出してから適当に隅の方に転がしておき、それから地下室にいた奴隷達にかけていたドミネーターバリアによる休眠状態を解除した。
彼らはずっと仮死状態に近い休眠状態に置かれていた為、今夜起こった出来事を誰も見ていないし知らない。
まぁそれでも鉄格子が一部破壊されてるから、何か起こったことは気付いちゃうだろうけどさ。
向かった先には騒ぎを聞きつけた奴隷商の部下数名と国の憲兵二名が待機しており、元奴隷の少女達三名は彼らから根掘り葉掘り事情聴取を受けることとなった。
それにより最近三件立て続けに起きた奴隷商襲撃事件が全て転移者鈴原大輝の仕業だったことが確認され、彼の処分として死刑が妥当であると公式に判断された。
既に半分死んでいるようなものだから、あとは首チョンパ死体を憲兵に引き渡した後にバリアを解除すればそれで断罪は終了する。
下手人である俺は一応司法取引というかなんというか、鈴原大輝に付き従っていた少女三名についてその罪を問わないように彼らに要請した。
その申し出は一応受け入れられたものの、彼女らは再び奴隷の身分に落とされた。
まぁそれぐらいは仕方ないね。仕方ないさ、仕方ない。
こうして俺は、二人目の転移者に対するOSHIOKIを完了させたのである。……どっちも殺したけどな!
王都での物語はまだまだ続きますが、話の都合上ここまでを二章として区切ることにしました。
第三章からは新ヒロインが追加され、更に怒濤の展開になるはずです。たぶんきっとそう。
+注意+
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