農林水産省が日本の「食料自給力」を公表した。低迷する食料自給率が発表されるたびに、漠然と広がる食料危機への不安を解消するには力不足だが、食料安全保障を考える契機になるのではないか。
国内で消費される食料のうち、国内産が占める割合である食料自給率(カロリーベース)は先進国では最低レベルで、二〇一三年で39%。61%は輸入に頼っている。
民主党政権の二〇一〇年に目標だけは45%から50%へと引き上げた。しかし遠く及ばず、政府は先月末に閣議決定した計画で、目標を45%に戻す現実路線に転換した。
それでも実現は容易ではない。国内生産力のあるコメの消費は減り続けている。その一方で環太平洋連携協定(TPP)が妥結すれば関税が下がり、海外の安い農産物の輸入はさらに増える。自給率の低下は避けられない。
低迷する自給率に国民が抱く不安は内閣府の世論調査にも示されている。一四年の調査では「将来の食料供給に不安がある」との回答は83%。ほとんどが国内の供給能力低下を理由にあげた。
海外からの輸入が途絶えた時に、国民が必要とする食料をどれだけ供給できるのか。潜在的な生産能力を示す指標として農水省が初めて試算したのが食料自給力だ。英国では耕作可能な全農地で小麦を生産した場合の供給力を試算している。
今回、花などを栽培している農地や再生利用可能な荒廃農地、二毛作も含め、農地の潜在生産能力をフル活用して得られる食料のカロリーを示した。
その結果だが、現実の食生活に近いコメ、麦などを中心にする場合、確保できるのは必要なカロリーの七割程度。一方、朝昼夜の三食とも主食を焼き芋二本にし、漬物や野菜いため、焼き魚を副食に添える芋類中心型の食事なら、栄養は偏るものの必要量を三割程度上回るとしている。
芋の苗や肥料をどう確保するのかなど、試算には現実感に欠ける面もある。ただ、飽食の日本で示された「三食焼き芋二本」の試算には、食べ物が大量に捨てられる食品ロスや肥満、途上国の食料危機や飢え、食の安全や気候変動など、食をめぐる問題をあらためて考えさせる力がある。
食料自給力は自給率とともに毎年八月、公表されることになる。食料安全保障はもちろん、食をめぐるさまざまな課題について議論を深めるきっかけにしたい。
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