2015年4月3日02時07分
政府が「食料・農業・農村基本計画」を決めた。5年に1度改定しており、新計画は15年度からの政策の指針となる。
農水産品やその加工品を海外に頼るわが国の「食と農」で、どんな対策を講じるべきか。新計画は実現可能性を重視したという。ならば現状を厳しく認識することが出発点のはずだが、今回の計画もこれまでと同様、願望まじりの甘さが目立つ。
食料自給率(カロリーベース)については、民主党政権が決めた前計画での50%を改め、それ以前の自民党政権時の計画と同じ45%に戻す。
「50%」はそもそも「持てる資源をすべて投入した時に可能となる高い目標」だった。自給率は、長期的な下落傾向に歯止めがかかったものの、13年度まで4年続けて39%止まりで、引き上げは容易ではない。今回の見直しは、実現できる計画への一歩ではあろう。
ところが、その一方で、現実から離れたあいまいな新指標を導入した。「食料自給力」だ。
農林水産業の潜在的な生産力を評価したという。草花類を作っている農地も食料用に変え、後継者不足などの悩みもない、といった前提を置く。そのうえでどんな作物を栽培するか、その際の食生活はどんなイメージか、4通りに分けて示した。
栄養バランスを考慮しつつコメ、麦、大豆を中心に作るケースでは、今の食生活で得ているカロリーの約6割を摂取できる。イモ類を中心に作付けすれば、栄養は偏るものの現状を上回るカロリーが得られる。そんな内容が話題になっている。
日本の農業が秘める生産力は、食料自給率が示す水準よりも高い。消費者や食品業界は国産品の購入や活用を増やし、後押ししてほしい。そんな思いが込められているようだ。
だが、自給力は、計画も認める通り「現実と切り離された潜在力」にすぎない。それを引き出すという理由で、効果があいまいな政策が増えはしないか。
消費者は、価格や品質などをてんびんにかけ、国内外の産品から買う価値があると判断したものを選ぶ。
生産の大規模化やITの活用でコストを下げ、海外産に対抗する。おいしさや安全・安心を極める。消費者が欲しくなる商品に加工して売り込む。自給率を高めるには、そんな基本を一つひとつ積み重ねるしかない。
甘い見通しのもとで予算をばらまき、成果を十分検証しないまま、新たな指標を持ち出して予算を確保する。そんなずさんな政策展開は許されない。
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