近年は郊外から都市部へシフトし始めたしまむら。写真は江戸川区役所前店(東京) (撮影:梅谷 秀司)
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「目新しさを出せなかった。アイテム数だけ膨らんで、品ぞろえが失敗した」(野中正人社長)
「デフレの勝ち組」とされてきた、低価格のカジュアル衣料大手、しまむらが岐路に立っている。3月30日に発表した2015年2月期の決算は、売上高が前期比2%増の5118億円、営業利益が同12%減の368億円に沈んだ。2014年2月期も約8%減で、2期連続減益は1988年の上場来初だ。
主力業態は「ファッションセンターしまむら」。消費増税後も内税表示で実質値下げしたが、円安進行もあり、商品構成見直しで価格を上げ始めている。だが天候不順や客の節約志向で、主に地方郊外店を軸に低迷。客数は同0.2%減に終わった。
■ 肌着など実用衣料が足引っ張る
中でも不振なのが、肌着や靴下など実用衣料だ。肌着部門は婦人衣料部門と並ぶ稼ぎ頭だが、粗利率は3期連続マイナスで足を引っ張る。
たとえばこの秋冬。しまむらは「軽くて薄くて暖かい」という従来のトレンドを踏襲した商品を並べた。が、ユニクロでヒットした「極暖」のように、「厚みがあり暖かさを実感できる」ものが求められ、誤算に終わった。
そのユニクロを展開するファーストリテイリングは、目下好調だ。2015年8月期は過去最高益を見込み、上期の既存店売上高は前年同期比8.4%増。増税後の対応が早く、高品質シフトによる値上げも受け入れられている。
衣料業界の2強だが、両社のビジネスモデルは大きく異なる。SPA(製造小売業)のユニクロと違い、商品仕入れが基本のしまむらは、取引先への発注は半年以上前。原価を抑える全量買い取りで、柔軟な商品変更が難しい。
強みの豊富なアイテム数も裏目に出た。商品数を1000点程度に絞り、少品種・多量販売するのがユニクロ。片やしまむらは、数万点のアイテムを持つ。店内には、ハンガーにかかった多彩な色や形の服を所狭しと並べ、サイズなどがなくなっても、基本的に売り切りで追加発注しない。それでも売れ残ったときには在庫を抱える。前期は在庫を消化すべく、値引き販売を拡大せざるをえなかった。
「アイテム数を増やし価格を下げれば売れる、という慢心があったのではないか」とドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは指摘する。
しまむらの場合、約8000世帯の小商圏にドミナント出店し、日常買いの来店頻度を上げるのが基本である。その安さで主婦からの支持を獲得。2009年ごろには従来の主婦層に加え、「しまらー」ブームによって、ティーンの女子も一時押し寄せた。
しかし、アベノミクス効果もあり、時代はデフレからインフレモードに移った。著名海外デザイナー起用などでセンスを磨いたユニクロ、台頭してきた外資ファストファッションなどにも押されている。新業態としてスタートした、「アベイル」など若者向けや「シャンブル」などの雑貨も、業績がかんばしくない。しまむらはどこか垢抜けないイメージのままだ。
■ 国内主体、店舗数もユニクロ抜く
野中社長によれば、今後は全社的にアイテム数を絞り、価格も見直すという。
復活のカギを握る一つが、高品質PB(プライベートブランド)の「クロッシー」。2014年秋に売り出した「裏地あったかパンツ」は40万本を超えるヒットになった。「現場は2300円でないと売れないと言い張ったが、モノがいいから“しまむら価格”を超える2900円で行け、と号令をかけた」(野中社長)。できるだけアイテム数に頼らずに、高品質な商品投入で収益力を向上させるという。
人口減の中、国内店舗数で、しまむらはユニクロを抜いている。今期も80の大量出店でグループでは2000店に届く勢い。SPAのユニクロが中間手数料を中抜きし、50%近い粗利率を稼ぐ反面、しまむらは約30%にすぎない。販管費削減の徹底で埋め合わせてきたが、近年は都市部の出店を加速している。「賃料が高いので利益を出すのは容易でない」(野村証券の正田雅史アナリスト)。
このまましまむらの賞味期限は切れるのか。野中社長はどこか組織もルーズになっていたと反省。5月からの取締役半減や執行役員制導入で社内引き締めに必死だ。旬が過ぎたと言われぬよう、3期連続減益は許されない。
(「週刊東洋経済」2015年4月11日号<6日発売>「核心リポート01」を転載)
2015/4/6 12:45 更新
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