——曽野綾子さんのコラムで問題と思われる部分は?
安田:彼女はコラムのなかで、人手不足が叫ばれる「介護労働の現場に外国人労働者を受け入れたらいい」と、一見寛容な姿勢を見せていますが、基本的に介護労働そのものを軽視しています。
介護労働はターミナルケアも含め、高い専門性が要求されます。すでに介護の現場では外国人も働いていますが、日本人も含めて離職率はかなり高い。それは、介護労働が思った以上に簡単な仕事ではないからです。
人間と人間を通じてつきあっていく高度な知識と経験が必要でありながら、今の日本社会で介護労働は軽んじられており、曽野さんはその空気感を継承しています。
——「近隣国の若い女性に来てもらって」という表現について非常に違和感を感じます。
安田:若い女性、つまり若い娘さんに来てもらってお金を稼いだらいい、というニュアンスみたいですが、一見優しそうな言葉に潜む偽善性を感じます。若い中国人実習生の女性が働くある縫製工場の経営者の口から、同じような言葉を聞きました。
「ウチの娘たちには、お父さん、お母さんと呼ばせている。頑張ってお金を稼いで帰って欲しい」
でも、本当の親子として一生面倒を見るわけではない。あくまでも安価な労働力として「いずれか、いなくなる労働力」として期待していながら、家族という擬似的な結びつきで不平等な雇用関係を成立させる欺瞞ともいえます。