このブログは個人的なものです。向精神薬については、日常臨床でふと思いついた感想なども書いており、いくらか主観的だとは思っています。その他、「ドラッグ・違法」に属するものも記載しています。このようなドラッグをよく知らないで使う人たちも多くいると思うので、啓蒙になればという気持ちもあります。内容は、決して厳密なものではないです。こういうことをわかっていてほしいです。なお、このブログは2倍の文字サイズで書いているので、ブラウザソフトの文字設定を最大にすると本文の文字が大きくなって読みやすくなります。
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2015-04-06 07:40:41
テーマ:急速交代型
ある時期、非定型精神病の患者さんのコントロールがうまくいかず、ドロドロの状態が続いていた。
あれは今考えても不思議な病態で、高速で躁うつおよび意識障害を繰り返していた。朝はあたかも統合失調症のような妄想を語り、同じ日の夜にはうつ状態になり悲哀感から泣いたり、大量服薬や自殺企図もありえる状況だった。
双極性障害で、いわゆる急速交代型の亜型であり、よくもまあ入院させずに外来治療したと思う。(どう考えても入院レベル)入院させなかった理由は、本人の強い希望と、家族も本人の意思に沿ったことが大きい。それでも入院しか選択肢がないと思われたなら、強く勧めたであろう。
その女性患者はちょうどお昼くらいには中間、つまり比較的安定している時間が僅かにあり、その時は、今後の治療内容などや見通しなども話すことができた。しかし幻聴がかなり活発だったこともあり、昼に話したことも夕方には忘れていた。
この人、どうすんの?
と言ったところである。彼女は、リーマスは副作用のために処方できない他、不適切な薬物が比較的多かったが、それでも中毒疹まで生じる薬はわずかだった。気分安定化薬ではデパケンRは比較的治療的だった。セロクエルも有効だが、この2剤で十分なコントロールはできないのである。
ラミクタールは3度くらいデパケンR投与下での最高量、200㎎まで使ったが、良いのか悪いのか、病状が動きすぎてなかなか見極めがつかなかった。ラミクタールを3度も漸増で最高量まで増量する試みは、大変な時間と労力を要する仕事である。
最終的に、ラミクタールはむしろ使わない方が良いという結論に至った。結局中止してしまったのである。
ラミクタールは、なまじ中毒疹以外の副作用と言うか、精神症状に対し不調和な関与が不明瞭なので、合わないまま高用量が使われ続ける傾向がある。(極めて重要)
ラミクタールを3度最高量まで試みた結果、結局中止したとしても、それが治療の流れとして間違っていたとは思わない。それも治療の1つの結果なんだと思う。(そのような説明は時々患者さんにはしている)
抗うつ剤は微妙であり、サインバルタやレクサプロも何度か使ったが、結果的には芳しくなかった。
なぜ「結果的に」かと言えば、サインバルタやSSRIも比較的良い時期もあるからである。しかし、半年間くらいウソみたいに改善したとしても、急速交代という病態はとてもじゃないがコントロールできなかった。
唯一、リフレックスだけはそう悪くないように見えるが、悪影響を与えないだけで、有効かどうかは疑わしかった。
つまり、この人は、一般的な気分安定化薬と抗うつ剤およびセロクエルでなんとかしようとしてもコントロールは難しいのである。
本来、急速交代型には抗うつ剤は推奨されていない。しかし、いろいろな病態改善の試みの1つとして、抗うつ剤を試みるのはありだと思う。だいたい、そのようなことまで規制されていると、精神科医としてやることがなくなる。
モーズレイのガイドラインでは、急速交代型の双極性障害について、やや悲観的な内容が記載されている。
一般に非急速交代型双極性疾患より薬物治療に反応しないと考えられており、うつ病罹患率と自殺の危険が高い。英国立医療技術評価機構(NICE)ガイドラインでは,第一選択治療としてリチウムとバルプロ酸の併用を推奨しているが、以下の戦略もその大枠に沿っている。双極性障害や急速交代型における活性が証明されている抗精神病薬の追加は、次の段階とすべきである。実際には治療への反応は個人によって異なり、ある1 つか2 つの薬剤にのみよく反応することがある。自然とまたは治療により急速交代型の約3 分の1 が寛解に至る。薬物以外の治療法も検討しなければいけない。
また、最初の試みとして、抗うつ剤を中止せよと言っている。また、自然治癒もありうると言及していることに注意したい。
ステップ1
全ての患者で抗うつ剤を中止。
ステップ2
考えられる因子の評価。
(アルコールなどの薬物、甲状腺機能低下などの身体要因、外的ストレス)
ステップ3
気分安定化薬治療を最適化。
気分安定化薬の併用を考慮(例:リーマスとデパケンの併用)。
リチウムは比較的効果が弱いかもしれないが、明らかではない。
ステップ4
他の治療選択肢を考慮する。以下の薬物を挙げているが、いずれも支持するデータが弱い。唯一、セロクエルだけは支持するデータが最良で、(ステップ4では)最適かもしれないと指摘している。
望ましい治療選択肢(ステップ4)
エビリファイ
ラミクタール
ジプレキサ
セロクエル
リスパダール
可能性のあるもの(ステップ4、ただし支持するデータは限られている)
クロザリル
イーケプラ
トピナ
ニモジピン(カルシウム拮抗剤)
サイロキシン(チラージンS(T4)、これは定番、過去ログ参照)
一般に、急速交代型を診たら、気分安定化薬を主体にし、抗うつ剤は控えるのが普通だが、それでもうまくいかないことも多いため、次第に気分安定化薬と抗てんかん薬の併用になりやすい。モーズレイのステップ4では、イーケプラやトピナまで挙げられているのは特筆される。
また、セロクエルを主体に治療するのが推奨されている上、副作用的にも無難なことがわかる。
このようなことから、難治性の急速交代型を治療する際、気分安定化薬のコンビネーションか、それに抗てんかん薬あるいは、非定型抗精神病薬を試みるしかない。精神症状が極めて悪く、また薬物反応性が悪い場合、滅茶苦茶な処方になるのは必至と言えよう。
また、急速交代型のように極めて現代的で、アレルギーや広汎性発達障害など身体的要素が大きい精神疾患は、時に薬物的にたいして関与しないケースも自然回復することもありうる。これは全てが自然治癒ではなく、バイオリズム的に自然に快方に向かうこともあると言う意味である。
過去ログには、双極性障害を治療をする場合、薬効に疑念を持ちやすいといった記事もある。
最初に挙げた患者さんには、あまりに治療がうまくいっていなかったため、ある時、彼女に僕はこのように言った。
経過中、突如、うつになるのは脳が生きている証拠だから。
この「突如うつになる」と言うのが重要で、このようなパターンは急速交代型だからこそ、指摘しやすい。それは本人にも理解できる範囲だからである。また、そう見えないかもしれないが、これは激励のメッセージでもある。
過去ログには、重度の統合失調症の患者さん(宇宙語で書かれたノートを持ってくるような人)は、うつ状態がないと指摘している。(ただし、アパシーはある)。なお、うつ状態とアパシーは真の精神科医でないと、鑑別は難しいとよく言われる。
そして、抗うつ剤のサインバルタと気分安定化薬のラミクタールを漸減中止し、気分安定化薬はデパケンRの1200㎎だけとした。また、セロクエルは比較的良いように思われるため、600㎎まで増量している。
問題は、気分安定化薬の併用薬または、補助薬である。すでに色々な薬物を試みていた。たとえば、
イーケプラ
トピナ
エクセグラン
バルドキサン
ブプロピオン
ベンラファキシン
マイスタン
リリカ
いわゆる神田橋処方( 四物湯+ 桂枝加芍薬湯)
抑肝散ないし抑肝散陳皮半夏
水素(メガハイドレートのこと)
メマリー
ぱっと思いつくだけでこれだけだが、もう記憶にも残っていないものもある。上記で明らか悪いのは、トピナ、ブプロピオン、バルドキサンだけで、他は効果がないか乏しいだけである。
このような流れで、1つだけ、あまり使ったことがないが、効果が期待できるかもしれない抗てんかん薬があった。それはガバペンである。
ガバペンは、GABA誘導体の抗てんかん薬で、日本では抗てんかん薬しか適応がないが、疼痛系に有用なのはよく知られている。また不安系の疾患に試みる価値がある薬でもある。新規抗てんかん薬の中では、イーケプラやラミクタールに比べ、インパクトはやや薄い薬だと思う。効果はともかく、副作用の点で比較的使いやすい薬の1つである。
彼女には、400㎎程度から開始し、漸増して、一時は2400㎎まで使った。その後、副作用のバランスを考慮し、1600㎎まで減薬している。
結果だが、ガバペンは良かったのである。意識障害が霧が晴れるように清明になり、急速交代型の忙しすぎる病状変化も完全に消失し就労できるまでになった。
しかし、それでもなお100%は信用できない。過去に、少なくとも半年くらいは改善した薬はあるからである。
そのタイミングで、家族にある疾患が発生したこともあり、急激に普通の人になった。つまり、心理的状況とはこのような生物学的要素が大きい疾患でさえ関与しうるのであろう。
今や、完全復活している。
ほらね、突然、うつになるのは脳が生きている証拠と言ったでしょ。
というと、彼女は笑っていた。彼女はその言葉はほとんど憶えていないらしい。
このような経過をみると、精神症状に支配されて、うっかり自殺してしまうことが、いかにもったいないことかがわかる。(なぜ自殺が良くないのか )
今回の記事は、ガバペンが急速交代型双極性障害に極めて有用といったものではない。上記に挙げた、エビデンスの乏しい薬物群(ステップ4)の中には、ガバペンのような一風変わった抗てんかん薬も並列して扱われて良いという意味である。
いずれも成功率が低いと思われるが、無策よりは100倍マシだと思う。
精神医療とはそういうものだ。
参考
双極性障害を治療する際、薬効に疑念を持ちやすい話
統合失調症にうつはあるのか?
不安という精神所見とガバペン
急速交代型のテーマのすべての記事
2015-04-04 22:58:56
テーマ:旅行
2015-04-02 19:30:16
テーマ:日記
今回は、先日の「SIMフリーのスマホとタブレット 」の続き。
この時期、レセプトチェックで忙しいが、いつも小型スマホを持っていると、非常に便利なことに気づいた。それは、ある薬剤で、正確な効能・効果がすぐにインターネット検索できるからである。
しかも通信代はほかの用途で900円と消費税を支払っているので、運用費用としては無料!
なお、そのSIMフリースマホは16000円ほどだった。初期費用としてはさほど高額ではない。そのスマホは実質、小型タブレットとして使っているわけである。
レセプト病名は、妙に厳格でやっかいなものだ。たとえば「双極性障害」の診断名を付けていても、サインバルタ、レクサプロ、リフレックスなどの抗うつ剤を処方していると、査定される。
つまり、レセプト的には、
双極性障害
うつ病(ないしうつ状態)
を並列しなければならない。その理由は、添付文書上、上記の抗うつ剤の効能効果には「双極性障害」または躁うつ病」の診断名はないから。(ただし、これはローカルな面もあると思う)
精神科医からすると、統合失調症ならともかく、双極性障害には経過上、うつ状態の時期は生じるわけで、いろいろな議論があるにせよ、双極性障害にはうつ状態の処方も容認されるべきといったところである。
泌尿器系の薬、たとえば、ベタニスなどは正確に診断名を付けていないと薬価が高いこともあり、容易に査定される。
そのような際に、小型タブレットがあると非常に便利である。あっという間に最新の情報が検索できる。(薬は次第に病名追加されるため、書籍は最新とは言い難い)
自分の友人はタブレットはカルテの記載の際に、字引として使うと便利というが、僕は患者さんの前にして、字を検索するためには使えない。
ただし、患者さんにその薬の効能効果に誤解がある場合、タブレットで検索して見せるのは有用ではないかと思っている。まだその機会がないが。
しかしその用途だと、4インチだと小さすぎてわかりにくいかもしれない。年齢にもよると思うが。
simフリー端末は、使ってみると、意外に便利といったところだと思う。
参考
SIMフリーのスマホとタブレット
2015-04-01 19:26:50
テーマ:精神疾患
ある時、交通事故後の疼痛で悩んでいた人が軽快し、普通に生活できるようになった。しかし服薬は続けていた。その年配の女性が、ある日の診察中、
これからの人生は儲けものです。
と言った。なぜそう思いますか?と尋ねたところ、
一時は辛くてもう死んでも良いと思っていた。今は夢みたいです。
と言う。そのようなことから、「これからの人生は儲けものです」という言葉が出たらしい。
これは実に前向きというか、プラス思考だと思った。
プラス思考は単に性格的なものではなく、その時の精神症状も深く関係している。
参考
自分は2度死んだので多分長生きしますよ
2015-03-30 23:50:05
テーマ:精神科一般
そう頻度は高くないが、患者さんが給与明細書を見せてくれることがある。
これは色々な心理と言うか動機があるのであろうが、1つは、きっとあまり給与明細書など貰ったことがないからなんだと思う。明細の項目について質問されることも多いからである。
給与明細書をみると、その仕事の給与からどの程度社会保険料を引かれているかがわかる。純粋なアルバイトの場合、全く社会保険料は引かれていないことが多く、自分で国民保険料などを支払わないといけない。
理想的には社会保険料を引かれているのが理想だ。手取りは減るが、長期的にはその会社は長く働くメリットが大きい。
そのようなことを明細書を見ながら、僕は説明したりするが、本人はその辺りが全然わかっていないみたい。ただし、これは年齢にもよる。
多分だが、学校を卒業ないし中退して、働いたことがない人にはイメージできないんだと思う。
個人的に、患者さんと一緒に明細書を見る際の雰囲気は、けっこう重視している。
参考
私は肉体労働が良いです
人の判断に興味がある
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