ごく当たり前のようで、実は、アフリカの新たなページを開くことになった出来事かも知れない。先月末にあったナイジェリアの大統領選だ。

 野党のブハリ元最高軍事評議会議長が、現職のジョナサン大統領を破った。99年にこの国が軍政から民政に移行して、野党に政権が渡るのは初めてだ。

 何より評価したいのは、大規模な暴力事件や多くの犠牲者を出すことなく、選挙が比較的整然と実施されたことだ。ジョナサン大統領は早々と敗北を認め、支持者に平静を訴えた。

 選挙は当初、2月に予定されていたが、過激派「ボコ・ハラム」の活動を理由に延期された。大統領側の策略では、と取りざたされ、選挙での混乱も懸念されただけに、本番での大統領の賢明な対応が際だった。

 アフリカで、民主的な政権交代はまだ、残念ながら主流とはいえない。長期政権、選挙の形骸化、野党への弾圧や投票をめぐる暴力がはびこっているだけに、今回のケースは新たなモデルとなるに違いない。

 ナイジェリアは産油国で、大陸最大の1億7千万余の人口を抱える。西アフリカ全域の安定の鍵を握る地域大国だ。その評価に見合う影響力を行使しつつ、国内では民主主義を定着させるよう、新政権に望みたい。

 当面の最大の課題は、「ボコ・ハラム」との戦いだ。昨年4月に200人以上の女子生徒が誘拐された事件も、いまだ解決を見ていない。その後、子どもを対象にした新たな誘拐も起きている。戦線は国境を越えて周辺のカメルーン、チャド、ニジェールにも拡大した。

 「ボコ・ハラム」が伸長した背景に、拠点とする北部の貧しさがあるのは否定できない。新政権は、組織に対して軍事上の勝利をめざすだけでなく、温床となってきた地域の生活改善にも取り組む必要がある。

 ジョナサン政権時代、政界には腐敗が広がり、権力者によるコネ登用などの疑惑も指摘された。清廉な姿勢で知られるブハリ新大統領には、改善と改革の期待がかかる。

 一方で、ブハリ氏は軍事政権時代のトップとして、強権的な態度から「独裁者」とも批判されたことがある。当時と同じ調子だと、せっかく根付き始めた民主主義を損なうことになりかねない。原油価格の低迷で経済が苦しいなか、過激派と戦い、かつ効率的な政権運営をできるか、不安も残る。

 難しいかじ取りだけに、日本を含む各国も、協力や助言を惜しまないよう心がけたい。