ソウル行政裁判所行政5部(キム・ギョンラン裁判長)は2日「北朝鮮によって引き起こされた否定的な歴史的事実であっても、あくまで歴史的真実であることから、これを率直かつ正確に生徒へ伝えなければならない。それでこそ、真に対立と葛藤を超えて和解と平和へ進むことが可能になる」と判断した。
また裁判所は、主体思想・朝鮮民族第一主義・自主路線などをめぐり北朝鮮が掲げる主張をそのまま載せた教科書についても「こうした主張がどのような脈絡を有しているのか理解し難いので、記述を補強・修正せよという教育部(省に相当)の命令は適切」と判示した。さらに、朴正煕(パク・チョンヒ)政権の経済開発政策を説明する中で「過度な外資導入による償還の負担は国家経済にとって大きな負担となり、1997年末の通貨危機が起こる一因となった」と記した金星出版社に対しては「朴正煕政権の存在していた時期から通貨危機まで18年もあり、その間に別の政権が三つも存在していた。経済学界で通説として受け入れられていない、因果関係が不足した記述を改めるべき」と指摘した。
■生徒は既に修正済みの教科書を使用
裁判所がこの日「適法」と判断した教育部の教科書修正命令は、2013年11月に、教育部が8種類の韓国史教科書の著者陣に対して行ったもの。この年の8月、高等学校用の新たな韓国史教科書8種類が韓国政府の検定審査を通過した後、「韓国史教科書論争」が起こった。当時の教科書論争の発端は、韓国政府の審査を通過した教科書8種類のうち、保守系の学者が執筆した教学社の教科書に対する、一部の学者や市民団体からの「極右教科書」「誤った教科書」という批判だった。しかし残る7種類の教科書に対しても、左派寄りだという批判や誤りの指摘があり、瞬く間に「韓国史教科書論争」に火が付いた。
これに伴い教育部は、教学社を含む全8種類の韓国史教科書を再検討し、8種類の教科書の発行元に計829件の修正・補完勧告を行った。教育部は、このうちきちんと修正された788件は承認したが、教育部の勧告通りに修正されなかった7種類の教科書の41件について、13年11月に最終的な修正命令を出し、修正命令を受け入れない出版社の教科書は発行を停止すると通知した。すると、教学社を除く6社の著者陣は「教育部は修正の程度を超え、特定の史観を強要するレベルで内容そのものを変更せよと要求している」として訴訟を提起した。著者陣は13年に訴訟を起こすとともに「修正命令執行停止」の申請も出したが、裁判所がこれを棄却したため、、出版社側はひとまず教育部の命令通りに教科書を修正し、生徒に配布した。このため生徒は、既に修正済みの教科書で勉強しており、今回の判決で教科書の内容が変わるということはない。
韓国史教科書論争の後、韓国政府と国会は、誤りがなくバランスの取れた韓国史教科書を開発する必要があるとして、教科書発行システムの改善案を作ることを決めた。現行の韓国史教科書は、出版社が作って韓国政府の検定審査を受けるという形式だが、韓国政府が責任を持って発行する「国定システム」に転換するのか、現行の検定システムを維持するのかなどを決定したいという。