4月ですね。
この春から周りに国内大学院MBAに通われる方も多いということで、
今年も自分の経験から、お勧めの2015年度版ファイナンス系参考図書11冊を記載してみました。今回は
4冊入れ替えました。ご参考になれば幸いです。
初心者向け
「入門ビジネスファイナンス」西山茂著
私にとってこの本の位置付けは変わりません。先ずはここからということで、とてもわかりやすいです。2008年の発刊なので、ちょっと時間が経っており、本来であれば、そろそろ入れ替えを行いたいところですが、正直、これ以上初心者向けの書籍はないとの印象です。これは初めてファイナンスを学ばれる方にお勧めです。
NPVに関する詳細な説明、たとえばゼロ年目には割引率を掛けない等のアドバイスがされており、薄目の本なので、
2
日間くらいで一気に読めるかもしれません。ぜひ著者に改訂版をお願いしたいところです。
これもそもそも企業価値って何なのか的なところから説明しており、バリュエーションの本としては非常にスタンダードな本です。森生氏は「ハゲタカ」の監修で有名ですし、国内社会人大学院の講師としてもご活躍です。
中級者向け
「企業価値評価
第5版 上下」マッキンゼー著
/本田桂子訳
2012年に第5版が発売されました。現在私が実務を行う上で考え方のベースになっている書籍です。ブリーリー・マイヤーズの「コーポレートファイナンス 上
/下」に比べ実践的であり、バリュエーション方法については下巻で赤字会社の場合、金融機関の場合等個別業種で記載されています。DCF
法についてのハイネケンのケースはかなり詳細に書かれており、翻訳も秀逸です。最近ではKindle版もあり、携帯が楽になっているようですね。
「フィナンシャル・マネジメント」改訂3版 ロバート・C・ヒンギス著/グロービス経営大学院 訳
今回新規で追加しました。原書は既に10版まで出ていますが、今回和訳の改訂第3版となりました。第2版までは、ボリューム的に若干少なめでしたが、今回はベンチャー・キャピタル・ファイナンスのバリュエーション等が追加され、相応なものになりました。本書もKindle版が提供されています。
上級者向け
「企業価値評価の
Q&A」プルータス・コンサルティング著
昨年の8月に第3版が出版されました。前述のビジネスバリュエーションを更に深掘りする上で、サイズプレミアム、コントロールプレミアム、永久成長率などについて、かなり詳細な説明がなされています。プルータスは上場企業の大型
M&AやTOB
の株価算定やフェアネスオピニオンを行っているコンサル会社なので一見の価値ありです。
「スチュアードシップ・コード時代の企業価値を高める経営戦略」ニッセイアセットマネジメント会社著
今回、新規の追加となります。近年注目されているスチュアードシップ・コードですが、昨年12
月に出版された本書は、機関投資家であるニッセイアセットマネジメントのファンドマネージャー、アナリストが各社の
ROE、配当性向、企業価値を算定し、長期の事業計画(5
年)を作成、その際のプロの着目点やノウハウが詰まっており、非常に価値のある良書だと思います。
テーマ別推薦書
「経営戦略のコーポレートファイナンス」砂川伸幸、川北英隆、杉浦秀徳、佐藤淑子著
これは6年前に出版された「日本企業のコーポレートファイナンス」の続編にあたり、これは日本企業のファイナンスに特化し、ケーススタディが多く「東武鉄道のスカイツリー事業」や「富士フィルムホールディングス事業転換とファイナンス」等、資本コストや
βの情報が集約されており、経営戦略と財務戦略の整合性を俯瞰する上では非常に参考になると思います。投資銀行の若手にはお勧めです。
「日本のM&A 理論と実践の研究」 服部暢達著
今回新規に追加となります。本書は今年の2月に出版されました。
M&A
の方法等、基本的な説明も書いてありますが、特筆すべきは過去の実際のディールに対して、筆者の主観としてのM&A
の成功例と失敗例に分けて執筆されていることでしょうか?
成功例としてはブリジストンによるファイヤストン買収、日本たばこによるRJRインターナショナル買収、ロシュによる中外製薬買収等があり、失敗例としては、古川電工によるルーセント光ファイバー事業買収、第一三共によるランバクシー買収、パナソニックによる三洋電機買収等が書かれています。全部で
30ケースが記載されていますが、もっとケースを減らして、深く分析した方が良かったかもしれませんが、これはこれでケースの収集・評価として参考になります。
「起業のファイナンス 増補改訂版 ベンチャーにとって一番大切なこと」磯崎哲也著
2010年10月に発刊され、起業系ではすでにスタンダードになっていますが、今年の1月にコーポレート・ガバナンスの追加を中心とした増補改訂版が出版されました。従来からの新規上場するための資本政策に留まらず、創業経営者が
VCから資金を調達するために、どこに注意しなければならないか、また現状日本の新規上場では種類株は上場前に普通株に転換されてしまため、なかなか種類株の資本政策がわかりにくい中、種類株をどの様に運用していけばいいかなど、非常に参考になります。
「資本・業務提携の実務」西村あさひ法律事務所著
今回新規の追加となります。昨年の12月に出版になりました。アドバイザリー業務や自ら投資業務を行う中で、実務として非常に重宝しております。資本提携としてのマジョリティ出資とマイノリティ出資との違いによる、業務提携の内容の濃淡や、提携解消時の株式買取請求、各権利の移転等の実務にとても有効です。改めて
M&Aは突き詰めれば契約に収斂されると思った次第です。
「企業価値向上の事業投資戦略」野村證券金融工学センター著
2011
年3月に発刊されましたが、コングロマリット化した大企業が事業部のポートフォリオ評価を行う上で、簡便で有効な書籍だと思います。エコノミックプロフィット法を使い、
NOPATからWACC×
投下資本を引くことで、その事業の価値が拡大しているのか毀損しているのか測ることが可能です。但し実際には社内のデータを持っている財務・企画の人間で無い限り、有価証券報告書上のセグメント規模より小さい単位を評価するのは難しいかもしれません。もう時間も経っているのでそろそろ改訂版が欲しいところです。
今年も改めて書きますが、
ファイナンスは非常に面白い学問です。カネに色はついていません。
私がファイナンスに魅せられている理由は、極めてロジカルでダイナミックだからです。
よく議論をしていると、答えは2つあるとか
3つあるとか、実は答えはないとかいう話があったりしますが、少なくともファイナンスや数字については、答えはある一定の領域しかないと思っています
「エコノミクスはすべてに優先され、マーケットは常に正しい。」
本来はこのぐらいの価値があるはずと言われていたとしても、今あるマーケットの姿が、紛れもない真実であり、唯一の答えです。起こることはすべて正しいのです。
戦略は正しい。きちんと人材の分野も押さえていて、高い志もある。
とは言っても、そういったものを全部つなぎ止めるベースとなるべきものは、
やはりロジカルな数字です。
数字があるからこそ、こういった話ができると思うのです。
数字を抜きにして、「企業は人です」だけで話を全部済ませてしまうのは、
どうも自分としては違和感が残ります。
もちろん、数字が全てというつもりはありませんが、 戦略は当然ファイナンスとつながり、志や人の動かし方といった話ができるのは、その前にきっちり数字に強くなってからではないかと思うのです。
この日本からファイナンスに強いMBAがたくさん生まれて欲しい。
そのために自分ができることを、引き続きやりたいと考えています。
今後ともよろしくお願いします。
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