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嵐が日本一の男性アイドルグループとなった理由を、音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンスという4つの視点から読み解いた書籍『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』が、4月16日に刊行される。同書はリアルサウンド編集部が制作を手がけ、青井サンマ氏、柴 那典氏、関修氏、田幸和歌子氏、成馬零一氏、矢野利裕氏など、嵐に詳しい気鋭の評論家・ライターが寄稿。嵐の魅力を多彩な角度から解き明かしている。
書籍の発売に先がけ、先日公開した【嵐が次にめざす方向性とは? “日本一のエンタメ集団”を徹底分析する書籍登場】に続き、音楽ジャーナリストの柴 那典氏と評論家の矢野利裕氏が嵐の音楽性について語り合った対談を、一部抜粋してお届けする。(編集部)
柴「楽曲ごとにジャンルの違った多彩な仕掛けが組み込まれている」
ーー二人が嵐を聴くようになったきっかけを教えてください。
矢野:僕はそもそも嵐のメンバーと同世代の人間で、二宮くんとはぴったり同い歳です。彼らがデビューしたのは99年で、僕が16歳のとき。デビュー曲の『A・RA・SHI』がすごい勢いでヒットチャートに入ったので、ファンでなくとも、当たり前にそこにあるものとして聴いていました。その後、古い歌謡曲なども好んで聴くようになっていき、ジャニーズのことは「常に面白いことをしているな」と思ってチェックしていたんです。ジャニーズには戦後歌謡曲を覆うくらい長い歴史があります。そうした中で、嵐というグループはリスナーやファンにとってどのような存在なのだろう、というのは漠然と興味を持っていて、ジャニーズを調べるようになってから改めて深く聴くようになりました。だから、世代的にはずっと傍にあるものとして享受していて、あとから詳しく聴き直したという感じです。
柴:僕は、リアルサウンドという音楽メディアでヒットチャートを分析するコラムを書き出したことがきっかけです。毎回、1位を獲得した曲をちゃんと聴き込んで、どこに音楽的な魅力があるのかを紐解いていくんですが、嵐は新曲を出すたび1位をとっているので触れる機会が多くありました。当然これまでのヒット曲くらいは知っていたけれど、本当にちゃんと聴き出したのは連載がスタートしてからだから、ここ1年くらいでしょうか。そうして嵐が1位をとる1曲1曲がまた、とても面白いんですよね。楽曲ごとにジャンルの違った多彩な仕掛けが組み込まれている。そうして興味を持って、音源をどんどんさかのぼって聴いて、デビューからの楽曲の変遷も知っていったんです。アルバム1枚を通して聴いたのも『THE DIGITALIAN』が初めてだったので、まだまだ新規リスナーですよ。
矢野:チャートアクションを観察しているうちに、嵐の面白さに気づいたということですね。どんなところに面白みを感じますか?
柴:ここ数年では、スウェーデンのクリエイターが書いている曲に注目しています。たとえば「誰も知らない」や「Breathless」がそう。もともとの発想が違うのか音の作り方が違うのかわからないけど、一筋縄ではいかない構成になっていて面白いです。最近のシングル曲は、作曲家やプロデューサーがタッグを組む「コライト」という方法で作られた曲が多くなっていて、中でもそれらの楽曲はかなり上手く作られているなと思いました。
矢野:その辺りの楽曲も含まれるのですが、僕はベストアルバムの出た2009年以降、嵐はさらに面白くなったと思っています。特に『Popcorn』『LOVE』『THE DIGITALIAN』の3作がすごくいい。メディアでの露出が昔と比べて多くなったこともあり、「嵐」という器の中で、できることを思う存分にやっているんじゃないかな。さらに同時代的には、USヒットチャートもすごく多様になってきているんですよね。テイラー・スウィフトとカニエ・ウェストが一緒にチャートアクションしているのは、冷静に考えるとすごい。嵐も、先に述べた3つのアルバムにはそういったジャンルレスの面白さを上手く消化している。最初のデビュー曲から数曲はたしかにポップスとして良く出来ているんだけど、同時に王道のJ-POPへの気遣いも強く感じるので、正直物足りないと思っていました。でも、最近の曲は、めちゃくちゃ面白いと思いますね。
柴:たしかに、さかのぼって聴いたら「今聴いている嵐と全然違う!」とびっくりしたんです。初期の方向性って、まさにブラックコンテンポラリーですよね。ブラコンの中でも特にファンクを踏襲してる。たとえばデビューシングルの『A・RA・SHI』はファンクをどうJ-POP化するかを考えて作られた曲だと思うんです。同じようなことはSMAPもやっていますよね、それを嵐は後輩としてそのまま引き継いじゃった。最後がゴスペルみたいなコーラスになっているのも規定路線だし、こうしたファンキーかつポップな曲調ということで一旦グループの方向性は定まっていたんでしょう。
矢野:『A・RA・SHI』は、イントロがもろファンクだし、ジャニーズのど真ん中をやるんだという方向性を示している曲ですよね。ジャニーズが長らく紡いできたブラックミュージックの系譜を受け継ぐぞ、という覚悟が見える。それから、DA PUMPがブレイクした直後だという時代背景も大きいと思います。それまでのジャニーズ楽曲では飛び道具的に扱われていたラップを『A・RA・SHI』では思い切って全面に打ち出してきた。それは、櫻井くんがヒップホップをやりたかったということまで含め、ヒップホップが当時ポピュラリティを獲得していたということですよね。
柴:ああ、それはありました。僕は当時ロッキング・オンという会社にいたのですが、98年はZeebraが1stアルバムをリリースした時のインタビューで読者に向けて「韻とは何か」ということを基礎から説明していた時代でした。まだメディア側がヒップホップを取り扱いはじめたばかりで、リスナーは「韻を踏む」ということすら知らない状況。その中で嵐はラップの入った曲でデビューした。こうして積極的に新しいカルチャーを持ってくる試みをしていたのは、嵐が時代の最先端にいたという証拠ですよね。
矢野:嵐の活動は必ずしも音楽が中心ではありません。だからこそ、お茶の間と海の向こうの音楽を繋ぐ存在たりえます。それが、ある時にはヒップホップになり、ある時にはEDMになる。嵐が嵐として日本で活躍することで、海外のトレンドが自然と日本のマーケットに注入され、それが国内で独自の形になって進化を遂げる。音楽性は時代ごとに異なりますが、その姿勢はデビューから現在まで一貫していますよね。今後、お茶の間のような場所が維持されるかどうかは難しい問題ではありますが。
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