失敗から 成功は はじまる
4月、新しいシーズンの到来。気持ちよくスタートを切った反面、慣れない環境で思わずやってしまうのが、失敗。そこで本気で失敗とさよならするためのノウハウをご紹介。ポイントは3つです。
大失敗が発覚したという大手IT企業。あるプロジェクトで大赤字を出してしまったそうで、原因究明の会議にお邪魔しました。ミッションは、これまで人の目で行われていた電気設備のチェックを、コンピュータで一元管理するシステム作り。関係部門の代表者が赤字の原因を探りますが、決め手となる結論にたどり着けません。というのも、開発工程はすべてパソコンの中。分業が高度に進み、複雑多岐に渡るため、本当の失敗原因にたどり着くのは至難の業なんです。
こうした失敗に悩むのはこの会社に限った話ではなく、IT業界全体では、全プロジェクトのなんと7割が失敗に終わるというデータもあります。品質やコスト、納期など原因も様々。そこで登場するのが「IT版・失敗原因マンダラ図」です。この会社のプロジェクトマネージャー佐伯徹さんは、IT業界の有志メンバーで作る「ユーザー研究会」のリーダー。研究会は、IT業界で過去に起こったおよそ300件の失敗事例を分析し、失敗との因果関係を1つの図にまとめあげました。
まず、失敗の原因を大きく3つの領域に分類。「プロジェクト」そのものが原因となった失敗。「組織」や人間関係によるもの。そして「個人」に起因する失敗です。それぞれの原因は、さらに細分化されます。例えば「個人」の領域を見ていくと、「無知」「不注意」「誤判断」「手順の不順守」の4つ。さらに、「不注意」は、たんなる「注意不足」と「疲労・体調不良」に分類されます。(※クリックすると大きな図が見られます)
不確かな世界を視覚化した、まさにマンダラ図。仏教マンダラのごとく、IT業界に悟りの境地をもたらすことが出来るのか!?というわけで、さっそく「失敗マンダラ図」を使い、先ほどの案件を見直してみたところ・・・マンダラ図を使わないで赤字の原因を特定した時は、「見積もり不良」「スケジュール不良」「委託先選定不良」「技術調査不足」という4つが原因として考えられましたが、マンダラ図を使って改めて赤字の原因を調査したところ、新たに9つの原因を発見できたそうです。(※失敗マンダラ図のオレンジの部分)
原因をきちんと把握して、次に生かす。そこがポイントなんですね。
従業員 130人を抱える金属加工会社。医療機器や航空機の精密部品など、扱う製品は1万点。最近では自社ブランドの商品化を進め、昇降棚は国内シェア7割を誇ります。年商、55億円。創業以来35年、ずっと右肩上がりの黒字経営を続けています。その原動力は、社長である城岡陽志さんのモットー、"チャレンジ精神"。しかし、そのチャレンジ精神があだとなり、社員が引き起こした大失敗で、経営が大きく揺らいだこともありました。
今をさかのぼること17年前。若手のホープだった篠川秀樹さん。篠川さんは、当時、次々にオープンするカー用品専門店に注目。ハンドルカバーや芳香剤などの新規生産事業を提案しました。日頃からチャレンジ精神の大切さをといていた城岡さんは、二つ返事で了承。篠川さんを責任者に抜擢し、カー用品の製造に乗り出しました。すぐさま100種類もの商品を大量生産。商品は次々に納品されていきましたが...1年後、納品したはずのカー用品は次々と返品されてきました。異業種だからこそ見逃してしまった取引形態。仕入れ代金を高額にする代わりに、売れ残ればメーカーが全て引き取るというルールがあったのです。
初歩の確認を怠ったがゆえの大損害。その額、5000万円。会社の1年分の利益に相当する金額に、経営は大ピンチ。社内の雰囲気は一気に暗転しました。篠川さんはクビを覚悟します。社長の城岡さんは悩みました。社員の失敗とは言え、元はといえば、チャレンジすることを勧めたのは自分。そこで、ひねり出した起死回生の一手が・・・大失敗賞!しかも副賞は賞金1万円。「(城岡さん)ピンチをチャンスに変えるにはどうしたらいいのか?うちはそんなことでおじけづいたり、怒ったりしないよと。もう一回これにめげずにチャレンジしようやと、彼に対するメッセージでもあるし、全社員に対するメッセージにしたかったんです。」あの時大失敗をした篠川さんは今、昇進してこの会社の中国上海支社長。現地の生産拠点を取り仕切っています。
その後も城岡さんは半年に一度、失敗した社員を表彰し続けています。このことは、"失敗してもただでは転ばない社員を生み出す"という、思わぬ効果も生みました。例えば、営業部・久保祐貴さんの失敗。それはある金属加工を一つの工場に任せたところ、生産ラインのトラブルで納期に間に合わせられなかったというもの。そこで久保さん、加工工程ごとに発注を別々の工場に分散。製造のスピードアップを実現しつつ、万一のトラブルにも対応できるようにしたのです。これまで、大失敗賞を受賞した社員は27人。失敗をたたえながら共有し、新しいノウハウを獲得する。会社は、失敗に強い組織に生まれ変わりました。
木本武宏さん(お笑い芸人)
ほんとに、逆転の発想じゃないですか。こんな会社で働けたら、幸せですよね。うちの実家が工場なんですね。車の修理工場なんですけど販売もしていまして。それで昔、社員さんが新車を納めるときに、間違ってバックに入れて、アクセル踏んでしまって壁にドーンって当てて、だめにしてしまったんですよ。...それ、20年ぐらい前の話なんですけど、うちのおやじ、まだ怒ってますもんね(笑)。
サキどりが入手した、アメリカ陸軍のとあるマニュアル。司令部から末端の現場に至るまで、行動後必ず実施することが定められている重要項目です。その名も「AAR(After Action Review)」。作戦の失敗からいち早く立ち直るため陸軍が開発した、行動後の検証プログラムです。まずはミッション終了後、メンバーは即座に招集されます。投げかけられるのは、次の4つのシンプルな質問。
【1】我々は何をやろうとしたのか?
作戦の内容・目的を振り返り、共通認識します。
【2】実際には、何が起きたのか?
証言・記録を多角的に検証。事実判定のみ行います。
【3】なぜそうなったのか?
責任追及せず、原因究明に集中。地位にとらわれず平等に発言します。
【4】次回なすべきことは何か?
失敗の原因を理解した上で、あくまでも自分たちができる範囲での対策を導き出します。
AARをより有効的なものにするために大切なのは、会議の進行を促進する"ファシリテーター"。その役割は大きく3つあります。
【1】第三者として会議の進行に徹する。 そのため利害関係のない人が担当。
【2】メンバーみんなの参加を促す。みんなの意見を公平に尊重することで、参加者の主体性を引き出す。
【3】責任を追求したり、逆に評価したりしない。失敗から学び、よりよい行動へとつなげるのが目的。犯人探しはしません。
このファシリテーターの存在と、シンプルな4つの質問。これがAARのすべてです。
清水勝彦さん(慶應義塾大学教授)
(こう見るとAARって、けっこう普通のことですよね?)でもその普通が、やっぱり大事だと思うんです。すごくシンプルな言葉、あるいはやさしい、わかりやすいことっていうのは、問題の本質を突いている場合が多いですし、やさしい言葉だと共有がしやすい。特に"普通のシンプルなことをちゃんとやりきれるかどうか"っていうのがすごく大事なポイントだと思いますね。