社説:イラン核協議 これからが正念場だ
毎日新聞 2015年04月05日 02時32分
完璧な合意にはほど遠いが、確かに前進した。イランの核開発をめぐる同国と欧米など6カ国の枠組み合意である。6月末が期限の包括合意が成れば、2002年から世界の不安定要因だったイランの核問題は、ひとまず決着を見ることになる。
イラン反体制派が暴露した核疑惑について、イラン政府は一貫して核兵器製造の意図を否定してきた。だが、1979年の革命で反米に転じ、米国と断交中のイランには敵も多く、特にイスラエルは核施設空爆も辞さない態度を取った。
同国は過去にイラクの原子炉やシリアの核疑惑施設を空爆している。イラン空爆となれば石油市場も含めて世界の大混乱は必至だ。
このため国連安保理常任理事国(米英仏中露)とドイツは対イラン協議を始める一方、ウラン濃縮などをやめないイランに制裁を科す安保理決議を後押しした。13年に強硬派のアフマディネジャド政権からロウハニ政権に移行したことで、交渉の機運が一気に高まった。
今回の合意によると、ウラン濃縮に使うイランの遠心分離機を3分の1弱に減らして約6100基とし、15年間は3.67%を超える濃縮を禁止する。今後10年は濃縮活動を中部ナタンツの施設のみに限定し、濃縮関連施設は国際原子力機関(IAEA)の監視下に置かれる。
イランはウランを濃縮して2、3カ月で核爆弾を作る能力があるが、これらの措置で製造期間を1年以上に引き延ばす。欧米側はイランが合意を順守すれば制裁を停止し、違反があれば再び制裁を科す方針だ。
一気に展望が開けたわけではない。サウジアラビアや米議会にもイランへの不信が強く、イランにもロウハニ政権の対米融和姿勢への反発がある。合意をめぐる双方の認識の違いが早くも露呈している。疑惑を残さない検証方法も含めて、これからが正念場だ。北朝鮮との核協議で米国の詰めの甘さが問題になったことも忘れてはなるまい。
だが、関係国が我慢強い交渉によって枠組み合意に到達したことを、まずは評価し歓迎したい。協議が決裂すれば、米国が中東情勢でイランの協力を得るのは難しくなり、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いにも影響が出るはずだ。
本来、中東の核問題はイランだけを責めても解決しない。今月から開く核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、米国の同盟国で多数の核弾頭を持つとされるイスラエルの特権的地位も討議されよう。サウジも地域情勢を思えばイランと対立してばかりもいられまい。過激派が国境を越える中東では国際協調が大切だ。今回の合意をその足場にしたい。