社説:機能性表示食品 安全性の監視怠りなく

毎日新聞 2015年04月05日 02時30分

 1日から食品の表示ルールが変わり、「機能性表示食品」制度が導入された。事業者が科学的な根拠を消費者庁に届け出れば、健康維持や増進に役立つといった効果を包装紙などに表示できる。早ければ約2カ月後に商品が登場する。

 「脂肪の吸収をおだやかにします」「胃腸の働きを助けます」など具体的に体のどこに効くのかが表示される。消費者が自分に合った食品を選ぶ参考になるという利点があるが、届け出るだけでいいため、表示内容の信頼性が大前提になる。

 事業者が適切に表示する責任が重いのは当然だが、それを監視する仕組みが働くことも、制度の健全な運用には欠かせない。

 同じように、どのように健康に役立つのかを表示できる制度として「特定保健用食品(トクホ)」がある。ただし、臨床試験が必要な上、効果や安全性について国が数年がかりで審査し許可する。事業者にとって費用面の負担は重い。

 一方、「機能性表示食品」は、事業者が販売予定の60日前までに消費者庁に届け出る。その際、安全性や効果について科学的な根拠を示す必要があるが、臨床試験の代わりに研究論文の分析結果を提出して代替できる。野菜や魚など生鮮食品も対象でトクホよりも対象が広い。

 届け出た内容は消費者庁のホームページで公開される。消費者は商品情報を販売前に確認できる。

 国の成長戦略としての規制改革で導入が決まった制度だ。食品業界をはじめ経済界の関心は高い。

 ただし、消費者団体などからは安全性への懸念や消費者被害を増やすことにつながると不安の声がある。

 健康食品などをめぐる苦情が年間1万件以上、全国の消費生活センターなどに寄せられている。国の審査を経ない表示食品が市場に出回ることを心配するのは理解できる。

 科学的な根拠の情報を公開することによって表示に反した食品の販売防止につなげたいというのが消費者庁の考え方だ。だが、研究論文の質は千差万別で、果たして適切な評価がされるのかまず疑問が残る。

 消費者庁は、消費者の苦情など具体的問題が出れば、表示の取り消しなど対応に動く。しかし、消費者の健康志向につけ込み、制度を悪用する不正な商法が出てくることは想定される。継続的な抜き打ち検査などで品質への監視を強めるべきではないか。そうした取り組みを消費者団体が進めることも大切だろう。

 消費者の自覚も問われる。そもそも機能性食品を多く摂取しても病気が治るわけではない。健康についての常識を身に着け、事業者の説明をじっくり検討し上手に利用したい。

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