手術実績の「水増し」
—そうまでしてなぜ、彼女は手術をしたがったんですか。
医師B 退院後、診察に来た彼女はこう言いました。
「私には子どもが3人いて、成人しているけど、まだまだしてやりたいことがある。抗がん剤治療で延命できたとしても、副作用で何もできないでしょ?それより、ほんの短い間でも、手術して動ける時間がほしかったの。限られた命なら、そう使いたかった」
置いていった菓子折りの中に50万円入っててね。次の診察のときに返そうとすると、「だったら研究費として病院に寄付したい」と。
医師A 研究費か。そこまで言われると無下に返せませんよね。
医師B 手術から3ヵ月後、彼女が救急車で搬送されてきました。腹水がたまって、息が苦しそうで・・・・・・。私は余命1ヵ月と診断しました。そして、「家で最期を迎えたい、家族に囲まれていたい」という申し出を受け入れ、退院させました。それでも、彼女は退院から3ヵ月生きた。亡くなる日の前夜まで自力でトイレに行っていたそうです。
—先生の診断よりも長生きした。
医師B 後にご主人が挨拶に来られて、また菓子折りを置いていきました。今度は200万円入っていて、添えられた手紙にこう綴られていました。
〈おカネで解決できることではないことは知っています。しかし、私たちの感謝の気持ちを表すことはこれしか考えられませんでした。また研究費として寄付させてください〉
有り難く、受け取らせていただきました。
—患者にとって何が治療なのか、考えさせられる話ですね。一方で思うのは、謝礼を受け取るだけの価値がある外科医がどれくらいいるのか、ということ。
医師C 助手として手術室にいただけのオペを〝実績〟としてカウントしてる者はザラ。ペースメーカー埋め込みや心臓カテーテル検査のような補助的な作業も心臓手術としてカウントし、症例300だ、400だと謳っている悪質な外科医もいます。ホームページに記載された実績を鵜呑みにしてはいけない。
医師A なぜそんなことが起きるのか。日本ではなかなか経験を積めないからです。慢性的に看護師が不足しているため、医者が手術スタッフをやらざるを得ない。医師はラーメン屋とは違い、一緒に働いていればいずれ店長—専門医になれるわけではないんです。術者として100~150例の手術をこなさなければ一人前にはなれない。大学病院は年間約200件の手術を行いますが、医師が15人いれば年間10件ちょっとにしかならない。つまり、専門医になるのに5年~10年かかるわけです。
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