はだしのゲン:スリランカのシンハラ語版出版 23言語目
毎日新聞 2015年04月03日 10時42分(最終更新 04月03日 10時51分)
原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」の、スリランカの公用語の一つ「シンハラ語」版が同国で出版された。3月29日に千葉県香取市のスリランカ寺院蘭華(らんか)寺であった出版記念祝賀会には、翻訳者のタランガッレー・ソーマシリさん(55)も出席した。
「はだしのゲン」の翻訳版は23言語目になる。1、2巻各1000部を出版してスリランカの中心都市コロンボの書店で販売するほか、図書館と学校にも寄贈する。3巻の出版も6月に計画しているという。
ソーマシリさんはコロンボ郊外にある平和寺の住職。1990年代に大正大(東京都)などに留学した経験があり日本語も堪能で、その後も毎年来日して蘭華寺で在日スリランカ人らに布教活動をしている。
日本人の知人に勧められ、広島への原爆投下で孤児になった少年ゲンの物語を涙を流して読んだという。スリランカの内戦は、2009年に終結するまで26年続き、7万人以上が亡くなったとされる。平和寺では8〜20歳の孤児35人と暮らしているソーマシリさんは昨年9月、「戦争は苦しみ、悲しみ、悩みしか残さない。平和の大切さを訴えているこの作品を紹介したい」とシンハラ語での翻訳を思い立った。
知人を通じて、作者の故・中沢啓治さんの妻ミサヨさん(72)の許可も得た。ミサヨさんは「願ってもないこと。世界のあちこちで今も戦争が続いているので、夫の作品がもっと広まってほしい」と喜ぶ。
午前5時から寺の仕事をしているソーマシリさんは、起床をさらに2時間早めて翻訳に充て、半年で「ゲン」の1、2巻を翻訳した。「軍歌の歌詞や広島弁が難しく、子供たちが理解できるよう訳すのに苦労した」と振り返るが、一足先に読んだ寺の子供たちは「頑張って生きるゲンの姿に涙が出た」と話しているという。
「はだしのゲン」を巡っては、13年に松江市教委が「一部描写が過激」などとして市立小中学校での閲覧制限を求めた問題も起きた(後に撤回)。ソーマシリさんは「図書室から絶対に外してはならないと思う。子供たちが戦争の悲惨さを忘れないように」と話した。【早川健人】