ニューヨーク白熱教室 最先端物理学が語る驚異の未来(1)アインシュタインの夢 2015.04.03


今回の「白熱教室」はニューヨークから。
マンハッタンの北西に位置するのが…この大学からはこれまで10人がノーベル賞を受賞しました。
中でも物理学での受賞者は4人に上り最先端の分野の研究に貢献してきました。
この大学のモットーは「過去を敬い今を見つめ未来へ向かえ」。
今回登場するのは世界で最も有名な理論物理学者の一人で未来学者としても知られる…日系3世のカク教授の専門分野は「超弦理論」と呼ばれる理論物理学の世界。
驚異の発展を続けている現代物理学はこれまでSFとしか思われてこなかった不思議な世界が私たちのごく身近に存在する事を解き明かしつつあります。
更にカク教授の興味は今「未来」へと向かっています。
現代科学がこのまま進歩したとすると一体私たちはどこへ行き着くのか。
4回にわたって行なわれる特別講義では2,000年に及ぶ人類の科学の発展史からスタートし最先端の物理学が描く異次元などの奇妙な世界。
科学技術の発展がもたらす…更に心の未来へと及んでいきます。
それは最先端の研究に裏付けられたSFとは全く異なる驚異の未来論なのです。
今回のテーマは…アインシュタインはこの世の全てを説明できる簡潔にして美しい理論を追い求め30年を費やしてきたが完成できなかった。
重力だけでなくミクロの世界の力も説明できるこの理論に最も近いと言われているのが「超弦理論」と呼ばれるものなのだ。

(拍手)こんなに拍手が起きて誰が講師なのか知りたいね。
さあ4回シリーズの特別講義を始めよう。
その内容に圧倒されるかもしれない。
今回のシリーズは物理学の最先端「宇宙論」とそして「皆さんの未来」についてだ。
第1回で紹介するのは「万物の理論」だ。
アインシュタインはこの世界の全てを説明する究極の理論「万物の理論」を探求して過ごした。
それはもし完成すれば僅か1インチの長さの美しい方程式で表されこの宇宙の創造主の心をも解き明かすものだ。
過去2,000年の「宇宙論」と「万物の理論」の探求について第1回では学ぼう。
第2回では「万物の理論に人類がもしたどりついたら何が起きるか」がテーマだ。
実はタイムトラベルワームホールなどといったSF世界だけのものだと思っていた事が今現実に研究されつつあるのだ。
そこで登場するのが「超弦理論」だ。
それが私の専門でもある。
この超弦理論では異次元の空間が存在するという事実が語られる。
第3回のテーマは万物の理論が解明された先の未来社会についてだ。
私は世界中の優秀な科学者300人以上に話を聞く事ができた。
イギリスとアメリカの科学番組のスタッフと共に世界トップの研究者を訪れたのだが彼らの研究テーマは全て未来と関係していたんだ。
人工知能の未来はどうなる?ロボットはどのくらい賢くなっているのか。
老化を止めて永遠に生きる事が可能な日が来るのだろうか?そして第4回最終回のテーマは科学で今最も熱い分野について。
「心の未来」だ。
ここ15年ほどの間で驚くほど多くの事が脳について分かってきた。
物理学が進歩するにつれて何かを考えている際の脳の働く様子を実際に目にする事ができるようになった。
思考がピンポン玉みたいに脳内のあちこちで弾んでいるのが分かった。
こうした進歩が続けばテレパシーや念力のような超能力や記憶を互いに送り合ったりあるいは夢を録画するといったSFの世界に迫れる可能性がある。
そして究極は「私たちの意識を宇宙に送信する事はできるか?」だ。
SF作家たちはずっとこれを夢みてきた。
「ヒト・コネクトーム」人間の神経回路の地図を丸ごとレーザービームにのせて送れるかもしれない。
脳の神経回路の全体図をのせて宇宙に送るのだ。
これなら1秒で月まで行け火星には20分で行ける。
これは人間の宇宙観を大きく変えるだろう。
今回の特別講義ではSF物語を話すわけじゃない。
物理学の最先端科学の最前線について語る。
これが宇宙や自分たちの脳の理解にどう影響を与えるのか考えていこう。
まず私がどうしてこの一連の研究に興味を持ったのかというところから話をしよう。
忘れもしない私はまだ8歳だった。
ある日突然私の人生を変える出来事が起きた。
その日誰もが亡くなったばかりの偉大な科学者の事を話していた。
それはマイケル・ジャクソンやダイアナ元妃が亡くなった時と同じような感じだ。
世界中の新聞にその科学者の机の写真が掲載されていた。
机の写真だけだった。
こんな感じの説明が添えられてあった。
私は彼が何か偉大な仕事を成し遂げられなかったという事にワクワクした。
その科学者が誰か知らなかったし何をしていたのかも分からなかったが。
そして私はこう思った。
「何が問題なんだ?宿題が分からなかっただけだろ?ママに聞けばいいじゃないか。
どこが問題なんだ?」と。
そして私は図書館へ行きその男の名前がアルバート・アインシュタインだと知った。
「万物の理論」というものを構築しようとしていたんだと。
そこでまた図書館でそれが何かを調べたが何も出てこなかった。
全く何もなかったのだ。
でも私にとってそれはどの冒険物語よりもどのミステリー小説よりも面白かった。
彼の机の上にあったものが知りたくなった。
現代の偉大な科学者をもってしても解くのが難しい問題とはどのようなものなのかと。
ところで8歳の子供だったから私は毎週土曜日には新聞に載っている漫画を見たものだ。
またテレビシリーズの「フラッシュ・ゴードン」も放映していた。
私は宇宙船や他の惑星に住むエイリアンや光線銃や空中都市を見て魅了された。
私の同年代は皆「フラッシュ・ゴードン」が描く「未来の世界」にとりつかれた。
そんなころ私は気付いたんだ。
夢中になれる事が2つある事に。
1つはさっき話した「物理学でまだ完成されていない理論」。
2つ目は「未来」だ。
そのころ何となく分かってきたんだ。
この2つは本当は同じものなのだと。
もし物理学と科学を理解できれば未来も理解できるのだとね。
例えば誰が「フラッシュ・ゴードン」の世界を可能にしたのか?物理学者だ。
物理学者が宇宙船を造りそれがきちんと動くようにしたんだ。
そして私は気付いた。
未来への鍵は物理学を理解する事なのだと。
ところで時々こんな質問を受ける。
「教授量子物理学は私たちの身近なところで役立つ事をしてくれてきたんですか?」。
私はこう答える。
「量子物理学はトランジスターを発明した。
レーザーを発明した。
インターネットの構築を手助けした」とね。
ワールドワイドウェブは素粒子を研究していた物理学者が発明した。
だから「物理学が私たちにしてくれた事は?」という問いに対する私の答えは「全て」だ。
世界経済も量子物理学に依存している。
更に忘れないでもらいたい。
物理学者がテレビやラジオレーダーや電子レンジを作り出した。
病院で使われているものも一切合財物理学者が作り出した。
X線装置MRICTスキャンなどだ。
更に我々物理学者が宇宙計画を立案した。
宇宙船を設計しGPSシステムを構築した。
「物理学が私たちに何をしてくれたか」という問いに対する答えは「全て」だ。
さあここからがメインテーマだ。
物事全ての事を統一的に説明する事ができる「万物の理論」だ。
2,000年前にギリシャ人が「世界は何で出来ているのか?」という疑問を呈して以降物理学が向き合ってきた問題が「自然界で働く力」だ。
現在物理学者は4つの基本的な力が宇宙をつかさどっていると信じている。
皆さんの周りにあるもの全て星や太陽人間の体火機械も全てこの4つの力がつかさどっている。
1つ目は「重力」だ。
地上に立っていられるのは重力があるからだ。
重力が地球をひとまとめにしている。
重力がなければ太陽は爆発する。
地球も分解する。
重力が太陽系を保っている。
それが重力だ。
2つ目は「電磁気力」だ。
電磁気力が街の明かりをともしている。
電磁気力によって街は明るいのだ。
3つ目の力は「強い核力」だ。
それが我々の体を一つに保持している。
原子核陽子中性子はこの強い核力によって一つにまとめられているのだ。
4つ目は「弱い核力」だ。
これが放射能と関係している。
ところでなぜ地球の内部は熱いのか?なぜ火山があるのか?こう思うかもしれないね。
「ばかげた質問だ。
地球内部が熱いのは誰もが知っている事だ」。
だがなぜ熱いのだろう?本来なら何十億年も前に冷えてしまっているはずだ。
地球は誕生して45億年がたつ。
だが今も地球の内部は熱い。
その熱が地震や火山活動を起こす。
地球内部を温めているのは何だろう?それが「弱い核力」だ。
地球の中心部ではトリウムやウランなど重い物質が放射線を出す事で地球を熱しているのだ。
それがなければ地球は今凍っているはずなのだ。
ここで教授が語る重力以外の3つの力について簡単にご説明しておきましょう。
まず電子を原子核に引き寄せ原子同士をまとめ上げている「電磁気力」。
「強い核力」は原子核を構成するクオーク同士を結び付けています。
そして原子核から放射線などを出す力が「弱い核力」と呼ばれるものです。
こんな疑問が浮かぶ。
「どうして自然界には4つの力が存在するのだろう?なぜ1つの力じゃないのだろう?」。
実はこの4つの力のうち3つ電磁気力強い核力弱い核力は「量子論」でまとめて考える事ができる。
よって「量子論の力」と「重力」が基本的な2つの力だと言う事ができる。
しかしこれには問題が残る。
重力を説明する「相対性理論」と一方の「量子論」この2つの枠組みは正反対の理論なのだ。
アインシュタインの「相対性理論」は物事を滑らかな一続きのものとして捉える事が特徴だ。
一方の「量子論」は物事をバラバラの粒として捉える。
光子のようなエネルギーの粒だ。
だから「相対性理論」と「量子論」は使われている数学も全く違う。
つまり問題はなぜ自然界に正反対の基礎的な理論が2つ存在するのかという事なのだ。
ではここから理解を深めるために物理学の歴史を遡ってみよう。
中世の暮らしは快適ではなかった。
まず異端審問魔女裁判というものがあった。
もし君たち科学者の卵が中世にいたら火あぶりの刑に処せられる可能性が高い。
1600年イタリア人で元修道士のジョルダーノ・ブルーノが神を冒涜するような事を言った罪でローマの広場で火あぶりの刑に処せられた。
彼は「太陽は星だ」と言ったために処刑されたのだ。
それはなぜだろうか。
もし太陽が星であるというのなら全部の星は太陽と同じような存在だという事になる。
太陽の周りには惑星があるのだから普通の星の周りにも惑星がある事になる。
地球には生命体がいるのだから宇宙の惑星にも生命体がいる事になる。
その生命体が人間のような生物ならば法王がいるかもしれない。
イエス・キリストがいるかもしれない。
宇宙には何十億もの星がある。
法王は何人いるのだろうか?数億人か?イエス・キリストは何人いるのだろう?10億人か?こんな事を考え始めると頭が爆発してしまう。
「太陽は星である」という1つの発言が無数のイエス・キリストの存在という厄介な問題を引き起こした。
そこでブルーノの発言を熟考するよりもただ彼を火あぶりにしたのだ。
しかし今毎週のようにブルーノは敵をとっている。
毎週ブルーノが予測したように星を周回する惑星がいくつも発見されているからだ。
当時2つの物理学があった。
一つは地上の現象を説明する物理学。
教会は地上には罪があふれていると言った。
なぜならイブが禁断の果実をアダムに食べさせたからだ。
もう一つの物理学は星々が従う美しい天空の物理学だ。
美しい音楽のような世界だ。
1,000年もの間人々は2つの物理法則があると信じていた。
地上の物理学と天空の物理学だ。
地上の物理学について最初に記したのがアリストテレスだ。
驚くなかれ彼は言った。
「物体が落ちるのはそれが大地とつながっていたいと熱望しているからだ。
大地とつながっていたいと願っているのだ」。
更にボールを蹴ってもやがて動きを止めるのはなぜか。
それはボールが疲れてしまうからだと言った。
1,000年もの間人々はこのような考え方を信じていた。
だがやがて天空と地上美しい宇宙と邪悪な世界この2つの物理学が統一される日がやって来る事になるのだ。
1066年イングランドの上空に彗星が出現した。
当時のハロルド王の軍は恐れおののいた。
このタペストリーに描かれているように空高く彗星が現れたからだ。
「彗星は王の死の前兆だから兵士が恐れて脱走し始めている」とハロルド王の耳に入った。
王は死にゆく運命にあると。
その結果ハロルド王は戦いに負けノルマンディー公ギョームが王位についた。
こうして今につながるイギリスの王朝が誕生したのだ。
数百年後その同じ彗星がまたロンドン上空に現れた。
その彗星が1,600年代にイギリスの上空に出現したのだ。
そしてまたもや人々を恐怖に陥れた。
王や王妃皇帝や貧しい者みんながこの彗星について話をした。
このころイギリスにエドモンド・ハレーという金持ちがいた。
商売で財を成した彼はアマチュアの天文学者でもあった。
この彗星について科学者の意見を聞きにロンドンに出かけた。
そして有名な偉人アイザック・ニュートンに会うためケンブリッジ大学に出向いたのだ。
ニュートンは光の理論を確立していて反射望遠鏡を作っていた。
既に有名だったのだ。
ハレーはニュートンに会ってこう言った。
「彗星についてあなたの意見を伺いたい。
みんな彗星について話しています」。
ニュートンの返答はこうだった。
「それは簡単ですよ。
私は反射望遠鏡でずっと観測していました。
完全に楕円軌道を描いて動いています。
彗星は『距離の二乗に逆比例する法則』に従って動いているのです」。
ハレーがどう反応したか。
彼は口をあんぐりと開けた。
そしてこう続けたにちがいない。
「ちょっと待ってくれ。
誰も彗星の事なんか知らないはずです。
誰もだ。
これは何千年も前からの謎なのにそれを観測していてその軌道を予測でき『距離の二乗に逆比例する法則』に従って動いているですと?」。
ニュートンは「そうです」と答えた。
ハレーは更にこう言った。
「なんて事だ。
なぜ本にして出版しないのですか?」。
ニュートンは答えた。
「多額の費用がかかり行き詰まってしまったんだ。
これを出版するには多額の費用がかかる。
とてもすばらしい研究なのだが…」。
するとハレーは言った。
「ニュートンさん私は裕福です。
商売で財を成しました。
私が費用を出しましょう。
科学の世界で最も偉大な著書『プリンキピア』の出版に私がお金を出しましょう」。
そしてその本は出版され人類の歴史を変えたのだった。
ニュートンはどうやってそこにたどりついたのか。
農園を歩いていた23歳の時だった。
ケンブリッジにもペストの猛威が襲いかかり大学は閉鎖され彼は実家に戻っていた。
この時農園でリンゴが落ちるのを見た。
そして月を見て歴史を変える疑問を持った。
「もしリンゴが落ちるのなら月も落ちるのではないか」。
そして月も落ちている事に気付いた。
地球の周りを自由落下しているのだと。
つまりリンゴが落下する法則を月の運動にも適用できる事に気付いたのだ。
ニュートンはこう考えた。
「山の頂上からリンゴを投げたとしよう。
どこまで飛ぶと思う?」。
遠くではない。
でも速いスピードで投げればリンゴは山から遠い所に落下する。
そして世界史を変える重要な疑問を持った。
「このリンゴをものすごいスピードで投げて地球を一周して自分の頭の後ろに当たったら?」。
ニュートンはその時気付いたのだ。
リンゴは自由落下しながら地球を回るのだと。
つまりリンゴが落下するという地上の物理学を利用すれば天空にある月の運動も説明できる事を意味した。
実際に月の動きを分析すると大当たり。
彗星も月も同じ重力の法則に従っていた。
これはすごい事だ。
人類は有史以来初めて迷信や無知のレベルから彗星や月を含むあらゆるものの運動全ての運動を数学的に予測できるレベルへ移行した。
皆さんの周りにある運動はニュートンの運動の法則に従っている。
ヨーロッパの知識層の間に衝撃が走った。
ニュートンの考え方は力が物を動かすというものだった。
物体は大地とつながっていたいと熱望するから落ちるのではない。
落ちるのは力が働くからだ。
その力の大きさは計る事ができ数式に落とし込めるはずだった。
そこでニュートンはリンゴの落下運動を計算しようとした。
しかし1,600年代の数学はそこまで優れていなかった。
ではどうしたのか?彼は新しい計算法を発明して月の落下運動の問題を解決したのだ。
その計算法とは「微分・積分」だ。
皆さんも学んだ事があるだろう。
ニュートンは微分・積分という計算法を君たちが学校で学んだのと同じくらいの短期間で作り上げたのだ。
ニュートンが微分・積分を発明したのは月がどのように地球の周りで自由落下しているのか計算したかったからだ。
皆さんだって自由落下している。
今椅子に座っているが歩く時落下して飛び上がってまた落下して飛び上がる。
歩く事は自由落下なのだ。
全ての物は静止しているか自由落下している。
こうしてニュートンは惑星や彗星の運動を計算したのだ。
突然宇宙の謎が解明された。
距離の二乗に逆比例する法則を数式化して天体の運動を計算する事に成功したのだ。
これはすばらしい事だ。
人類が迷信と魔法の時代から土星の輪を通り抜けていく探査機を送れる時代へ飛躍したのだから。
これはすごい事なのだ。
何か天体ショーが起きると人々はこう言う。
「神様こんなすてきな事を起こしてくれてありがとうございます」。
だが本当は「ニュートンありがとう」と言うべきだ。
なぜならニュートンが軌道を計算できるようにしてくれたからだ。
もはや天体の運動は謎じゃなくなったのだ。
それだけじゃない。
この意義が社会に広がり始めた。
発明家たちがこう気付いたのだ。
「これは使える。
石炭のエネルギー量を計算するのに使える」。
1,800年代ニュートンの法則を使って物理学者たちは「熱力学」というものを確立した。
石炭の塊から抽出できるエネルギー量の計算が可能となったのだ。
すると蒸気機関のエネルギー量の計算ができるようになった。
たちまち蒸気機関車が登場した。
更に蒸気機関を利用した工場が現れた。
産業革命が起きたのだ。
産業革命はニュートン力学が火付け役となった。
ヨーロッパの知識層と発明家にニュートンの法則が広がったのだ。
近代史においてこれは最初の偉大な革命だった。
産業革命を促したのだ。
当時暮らしは快適ではなかった。
例えば1900年ころのアメリカの平均寿命は何歳だったと思う?49歳だ。
ほとんどの国では30歳代か40歳程度だった。
人間は長生きできなかったのだ。
1900年における移動手段は何だったろうか?それは四輪の車か馬だ。
でも当時多くの人々にとって自動車はまだ手の届かない高価なものだった。
1900年の長距離通信手段は何であったろう。
窓からただ叫ぶ事だ。
当時の人々がとっていたコミュニケーションはそんな程度の距離が限度だった。
インターネットで遠くの人に意志を伝える事はできなかった。
それが僅か100年前の暮らしなのだ。
ニュートン力学が発展したおかげで超高層ビルが建ち並ぶ世界が可能になった。
子供時代をカリフォルニアで過ごした私はマンハッタンや摩天楼の話を読んでいたものだ。
そしてこう思った。
「超高層ビルは崩れてしまうかもしれないのにどうして建設する事ができるんだろうか」。
当時から既にマンハッタンの摩天楼は超高層だった。
なぜ崩れないと分かるのか。
ニュートン力学を教えている今の私には分かる。
ニュートンの法則を使ってそのビルが崩れないか計算できるからだ。
それでは科学史における2つ目の偉大な革命の話に移ろう。
2つ目は電気と磁気の統一だ。
はるか昔稲妻や嵐に対する人間の考え方は進歩していなかった。
人間はこれらの現象を説明するために神々を創り出した。
なぜ稲妻が走るのか。
それは雷の神様トールがいるからだ。
なぜ嵐が起きるのか。
それは太陽や気象をつかさどる神がいるからだ。
全てにそれぞれの神がいた。
なぜなら人間は電磁気力について無知だったからだ。
最初に磁気を利用しコンパスを作ったのは中国人だった。
このコンパスのおかげで大海原にこぎ出す事ができ貿易や発明が広がった。
コンパスがあれば方向を見失わずに海を渡る事ができる。
しかしこれはどんな仕組みになっているのだろうか。
電気とは何だ?磁気とは何なのか。
次の躍進はベンジャミン・フランクリンによってもたらされた。
彼は電気に対する人々の理解を一変させた。
稲妻と雷は神々が起こす現象だとされていた時代。
フランクリンは凧を使って雷から電気を捉えられる事を見せた。
カーペットの上を歩くと発生するあの静電気と同じものだったのだ。
ニュートンと同じで天空の物理と地上の物理を一つにしたのだ。
フランクリンは嵐の中凧を揚げて天空の電気と人々が日常で接する電気は同じものだと示したわけだ。
そしてマイケル・ファラデーの研究が登場する。
彼は電気と磁気の関係を発見した人物である。
ある意味電気と磁気は同じものだというのだ。
ファラデーは動いている磁場が電場を作り出し更に動いている電場が磁場を作り出す事を発見した。
2つは本質的には同じものだという事だ。
ファラデー自身は一風変わった人物だった。
少年の頃実質的にホームレスだった。
だが王立研究所で助手の仕事を得た。
初期の頃から周囲の人々はこのほぼホームレスの少年に才能がある事に気付いたのだ。
その才能とはものの本質を暴く実験ができるというものだった。
そしてファラデーが行なった実験は産業社会を文字どおり変えた。
彼は磁石を持ってこのように磁石を動かした。
するとこのワイヤーを流れるものがあった。
電気だ。
これが近代史を完全に変えたのだ。
さて電気はどこから来る?子供だって知っている。
どの子供も知っている事だ。
では壁のコンセントの電気はどこから来るのか?何人かの子供はダムから来ると知っている。
発電所から来るとね。
でも電気は一体どうやって作られているのか?ファラデーの方法だ。
運動する磁場が電場を作るのだ。
ダムの水が車輪を回し回っている車輪が磁石を回転させる。
そしてその動く磁石が電子を押し出す。
そうやって電気が我々の家に供給されているのだ。
こうして世界に明かりがともされた。
これは宇宙から見た地球だ。
ファラデーの法則が地球をともしているのだ。
マイケル・ファラデーは紙幣に描かれている数少ない科学者だ。
紙幣に描かれた科学者を何人知っている?トランジスターやレーザーの発明家はアメリカ紙幣に描かれているだろうか?ほとんどの人は誰がレーザーやトランジスターを発明したのか知らない。
でもファラデーはイギリスの20ポンドの紙幣に描かれている。
こうして電気と磁気の2つは統一された。
だがここで疑問が生じる。
もし電気が磁気に変わりもし磁気が電気に変わるのならその2つの変化が永遠に繰り返されたら何が起こるのだろうか。
磁場が電場に変わり電場が磁場に変わり続ける。
2つが繰り返し入れ代わる。
どのくらいの速さでこの電場と磁場の変化が伝わっていくのだろうか。
その計算をジェームズ・クラーク・マクスウェルが行い大きな発見をした。
これがまた歴史を変えた。
この波の速度が実は光の速度と同じである事を発見したのだ。
マクスウェルは言った。
「これが光の正体だ」。
光とは電場と磁場が次々と入れ代わる現象の事だったのだ。
さてここで「相対性理論」の話に戻ろう。
アルバート・アンシュタインは16歳の頃に自問した。
彼はこの疑問を10年間考え続けた。
16歳の少年はこう言った。
「光を追いかけるように走れば光は止まって見えるにちがいない」。
しかし止まった光はそれまでに観測された事がなかった。
光は常に全てのものよりも速く飛ぶ。
そして彼は答えを見つけた。
「光より速く飛ぶ事はできない」。
そしてそれが時間に関する新しい理論につながった。
時間は全ての場所において均等に流れているわけではないのだ。
更にアインシュタインは言った。
「それだけではない。
時空は曲がっているかもしれない。
この場所では10時でも向こうでは10時じゃないかもしれない」。
実際月で実験するとこうなる。
地球より月の方が時間の進み方が速いのだ。
だから「今何時?」と聞かれても答えは「それがどこかによる」となる。
地球より月の方が時間の進み方が速い。
重力が弱い場所ほど時間の進み方が速いのだ。
GPSシステムがうまくいくのはこの相対性理論のおかげだ。
アインシュタインの空間と時間の理論を考慮に入れないとGPSは全く機能せず不正確な位置情報を知らせる事になる。
アインシュタインの理論で自分のいる正しい位置が分かるのだ。
一方「相対性理論」の副産物が原子爆弾だ。
それは星がどうやって光とエネルギーを作り出しているかも教えてくれる。
簡単な数式だ。
質量がエネルギーに変化するこの式が宇宙を動かしているのだ。
ニューヨーク市立大学シティーカレッジは実はアインシュタインと関係が深い。
1921年アインシュタインはあの偉大なニュートンに立ち向かう現代の思想家として頭角を現していた。
初めてアメリカへ旅行した時それが1921年だがアインシュタインはこの大学を選んだ。
70年代までこの教室のすぐ隣にあったスタジアムで講義を行った。
アインシュタインは「星から来たメッセンジャー」と呼ばれていた。
大学じゅうの学生がこの「メッセンジャー」を取り囲んだ。
それと驚くなかれ。
アインシュタインは紙吹雪が舞う中ブロードウェイをパレードした。
ニューヨーク・ヤンキースではなくアルバート・アインシュタインがブロードウェイをパレードしたんだ。
それまで科学者がパレードした事があるだろうか。
さて一方の量子論の原点はこの疑問だ。
「宇宙は何から出来ているのか?」。
この質問に対する完璧な答えはまだ誰も持っていない。
この疑問は古代ギリシャ人が始まりだ。
今では物質は原子から成り原子は原子核から成り原子核は陽子と中性子から作られている事が分かっている。
更に陽子は実はクオークから出来ている事も分かっている。
クオークのような素粒子が従う法則は「標準理論」と呼ばれている。
標準理論は原子を粉々に砕く実験を繰り返す事で見いだされた理論だ。
だが原子を粉々に砕く事ですぐに標準理論が証明されたわけではなかった。
実際1950年代に原子を砕く事に真剣に取り組み始めた頃あまりに多くの種類の粒子が現れたため物理学者は困惑した。
あのオッペンハイマーはこう言った。
「今年のノーベル物理学賞は新しい粒子を見つけなかった人に贈られるべきだ」。
そのくらい正体不明の粒子であふれた。
だが今では大型ハドロン衝突型加速器がある。
1周27kmもあり総工費は100億ドル。
これまで建造された最大の実験装置だ。
巨大な円形の加速器でほぼ光の速さまで加速させた陽子同士を衝突させる。
粉砕されたあとそこにはクオークや他の素粒子の姿を見る事ができる。
あのヒッグス粒子も発見された。
総工費100億ドルの実験装置からこうして標準理論が証明されたのだ。
素粒子の標準理論にはこれまで発見されている全ての素粒子が含まれている。
ありとあらゆる物質はクオークなどの素粒子が結合して出来ている事が示されたのだ。
ではこれが万物の理論なのか?そうではない。
なぜなら標準理論は科学の歴史の中で最も醜い理論なのだ。
どのくらい醜いか。
素粒子の標準理論には36種類ものクオークが登場する。
そしておよそ20もの重要な数値がこの理論からは導けない。
更に同じような素粒子が何重にも重複して理論の中に現れる。
万物の理論に近いと思われる理論だが史上最も醜い理論でもあるのだ。
これはちょうど自然界で最も優雅な動物を人工的に作ろうとしたようなものだ。
クジラにカモノハシとツチブタをセロハンテープで貼り合わせて「ほら!これが自然界の最高傑作だ。
地球上で何百万年かけて進化すべき最終形態だ」と言っているような感じだ。
一体何が間違っていたんだろうか?確かに標準理論は何十億ドルも費やした実験の果てに20ものノーベル賞を生んだ。
だが最大の問題はこの理論に重力が含まれていない事なのだ。
それだけではない。
アインシュタインの相対性理論にも綻びがある。
これらが今日我々が直面している問題だ。
宇宙に関する偉大な2つの理論アインシュタインの相対性理論と量子論この2つともが未完成なのだ。
だからこの2つの理論を超えた大きな理論があるはずだ。
それが超弦理論だと我々は考えている。
2,000年前ギリシャ人は振動するたて琴の弦から「弦の理論」を作り出した。
当時の人々はその理論に驚嘆した。
ピタゴラス学派は「この調和の法則で宇宙の全てを説明できる」と言った。
しかしそこから発展する事はなかった。
なぜならそれは岩や木火や大気や嵐を説明する事ができなかったのだ。
現在我々は物質はさまざまな素粒子から作られている事を知っている。
そしてまだ証明はできていないがそうした全ての素粒子はいわば「音」のような存在だと我々は考えている。
弦を振動させた時に生まれる「音」だ。
その場合電子とは何か?電子とはある周波数で振動する輪ゴムのようなものだと考えている。
それをはじくと音の高さつまり周波数が変わる。
すると突然ニュートリノに変身する。
もう一度はじくと力を伝える素粒子に変わる。
何度も何度もはじくとあの標準理論に登場する素粒子が全て現れる。
だから標準理論は振動する弦が奏でる音楽にほかならない。
つまり…その場合物理とは何か?物理はいわば振動する弦が奏でるさまざまなハーモニーだと言える。
ではケミストリー化学とは?化学はいわば複数の弦をはじいた時に生まれるメロディーだ。
それでは宇宙とは何か?それは弦による交響曲だ。
では「創造主の心」とは何だろう?アインシュタインは30年にわたって創造主の心を知るための万物の理論を探求してきた。
我々が考える創造主の心とは11次元の超空間で響きわたるいわば宇宙の音楽だ。
ここで問題となるのはこの理論を1インチほどの短い数式にまとめられるかという事だ。
ちなみにこれは私が作った数式だ。
同僚の吉川教授と一緒に書き上げた。
あらゆる超弦理論と完全に対応している。
ではこれが万物の理論なのだろうか?そうではない。
問題は今メンブレンと呼ばれる膜のような存在をきちんと説明できる完璧な理論を書く事が求められているからだ。
つまり…現在我々はメンブレンと呼ばれる存在をどのように理論に組み込めばいいのかが分かっていないのだ。
第1回を終わりにする前に小ばなしを1つ紹介しよう。
子供の頃私が模範としたのはアルバート・アインシュタインだった。
私のお気に入りの彼のエピソードを話そう。
アインシュタインが高齢になった頃繰り返し同じスピーチをする事に疲れていた。
ある日お抱え運転手が彼にこう言った。
「教授実は僕は役者なんです。
教授のスピーチは何度も聞いているから全部暗記しています。
ですから入れ代わりましょう。
僕はひげをつけてかつらをかぶって偉大なるアインシュタインになります。
教授は僕の上着を着て運転手になってただ聞いていて下さい」。
アインシュタインはこのいたずらが気に入り入れ代わった。
これはしばらくうまくいっていた。
ところがある日後ろの方にいた数学者が難解な質問をした。
アインシュタインは万事休すだと思った。
ところが運転手は「それはとても簡単な質問ですね。
ここにいる私の運転手でも答えられますよ」と言った。
質疑応答の時間はあるから質問のある人は手を挙げて質問してほしい。
どうぞ。
超弦理論について質問です。
それが万物の理論に近づく唯一の道なのでしょうか?それとも他の道もあるのでしょうか?もっとコンパクトにシンプルに説明できる他の道はないのでしょうか?あるいは過去に何かを見落としていて万物の理論を発見できないおそれはないのでしょうか?いい質問だ。
いわゆるたまねぎ理論を信じている人々もいる。
それはたまねぎのように外側の皮が原子で更に内側に原子核陽子クオークと続きそれが永遠に続いていると考える理論だ。
それも一つの可能性だ。
誰かがこう言うかもしれない。
「超弦理論は好きじゃない。
代わりの理論をくれ」。
だが現在超弦理論に取って代わる理論はない。
アインシュタインの相対性理論は優雅だが複雑すぎる。
量子論は更に複雑だ。
今のところ超弦理論だけがこの2つの理論を1つの枠組みに収める事ができるのだ。
つまり今のところさまざまな難題を克服できる唯一の理論が超弦理論なのだ。
この超弦理論を突き崩そうと実に多くの学者が挑戦している。
だが何回難題を吹っかけられても超弦理論は崩れていない。
次々と数学的な工夫がなされて難題を解決してしまう。
ただその代償がこの世界は11次元であるという奇妙な予言だ。
次回の講義では超弦理論から得られる帰結をタイムトラベルを含めていくつか紹介しよう。
過去に遡る事はできるのか。
タイムマシンの存在を超弦理論は許すだろうか?他の宇宙につながるゲートウエーとしてブラックホールを利用する事はできるだろうか?このような超弦理論の帰結について次回講義したいと思う。
超弦理論に対する批判について私はこう答える。
「批判はかまわない。
ただより優れた理論を考え出してくれ」。
するとみんなたじろぐ。
それでは次回はタイムトラベルや超空間について話そう。
まるでSFのように聞こえるかもしれないがきちんと物理学の観点から話をする。
Thankyouverymuch.
(拍手)2015/04/03(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
ニューヨーク白熱教室 最先端物理学が語る驚異の未来(1)アインシュタインの夢[二][字]

科学の歴史は、“創造主の意思”ともいえるたった一つの自然法則を探求する道のりであった。現代の最先端物理学が挑む“万物の理論”への道のりをたどる。

詳細情報
番組内容
科学の歴史は、“創造主の意思”ともいえるたった一つの自然法則を探求する道のりであった。17世紀、ニュートンは地上と天空の現象を統一的に説明する万有引力の法則を発見。19世紀には電気と磁石による現象が実は同一だという発見がなされた。そして21世紀、人類は全ての法則をわずか一行で説明する“万物の理論”へ肉薄しているという。最有力候補は超弦理論。異次元の存在を予言する奇妙な最先端理論への道のりをひもとく
出演者
【出演】ニューヨーク市立大学教授…ミチオ・カク

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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英語
サンプリングレート : 48kHz

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