上方落語の会 ▽「〓(き)き酒」桂文鹿、「饅(まん)頭こわい」月亭文都 2015.04.03


さて本日は第348回「NHK上方落語の会」の高座から月亭文都さんと桂文鹿さんの高座をお楽しみ頂きましょう。
そしてそのあとで六代文枝会長とのインタビューもありますんでそちらの方もお楽しみに。
まずは文鹿さん1994年に桂文福師匠の下に入門。
名前に鹿の字が付いてありますとおり奈良のお生まれでございます。
最近は創作落語にも凝ってはりまして今日はその中の一席「き酒」をお聴き頂きましょう。
ではどうぞ。

(拍手)という事で文鹿でおつきあいを頂きたいと思います。
皆さん方も天満天神繁昌亭という所へお運びになった事ございますでしょうか。
全部で10演目がございます。
10演目でございます。
私はいつも出番を割って頂くのは9番手の位置でございまして私のあとはトリの師匠でございます。
昨年でございますかな私がちょうど夏頃繁昌亭へ上がりました。
座布団の上へ座っておじぎしてフッと顔上げたらその辺のお客さんが女の人2人がボソボソボソッとしゃべりはったんですね。
コソコソ話でしょう。
ところがこのホールっちゅう所はコソコソ話がものすごい響いたりするんですね。
ワ〜ッとね。
お客さんがワワワッと笑わはったんですよ。
何を言わはったかいと私はここへ座ってフッと顔上げたらそこのお客さん2人が「あと2人やわ」って言うて…。
分からんでもないですけど残り物みたいに言われてね。
大変な状況でやらして頂く。
…でまあまあ私も後がトリの師匠でございますんでそない長い事やりません。
特に前の人がウケたりしますとどんどんどんどん延びてくるんですね。
15分割ってもうてたかて私の持ち時間ちゅうのは大体10分ぐらいしかいつも残ってないんですよ。
10分しかしゃべれないです。
それから終わりましたらトリの師匠が「おい打ち上げ行くぞ」てな事で「飲みに行くぞ」てな事言うて連れてもらう訳ですね。
「行かしてもらいます」てな事で。
皆居酒屋行きましてビールにこんもり泡盛ってもうてね「ほなまあ乾杯しようか。
はいお疲れ〜」言うてね全然疲れへんっちゅう…。
10分しかしゃべりませんから。
もうほとんど疲れてないというようなねまあまあ10分しかしゃべらないのに打ち上げが7時間半と進む。
そっちの方がしんどいわっちゅうようなもんでございます。
まあ大変な世界でございますけれども昔はね私ら入りました頃は師匠が「行くぞ」言わはったらかばん持って皆ついていったもんでございます。
今は繁昌亭出来てからの世代の若い人なんか断る人が出てくるんですねやっぱりね。
平気で断るやつがいてるんですね。
「おい師匠行く言うてはんどお前らついていこかい」てな事で。
「あ〜にいさんすいません僕らちょっと明日ありますねん」てな事言うと「明日ある」言うて。
僕ら明日あるて何かまるで俺らに明日がないみたいな…。
お前らだけに明日があんのかいってなもんで。
もうとんでもないような事になったりする訳でございますが。
あのお酒と落語の会というのがねとある酒蔵で催されまして私も10年ほど前に行かして頂いたんですね。
こないして落語を聴いて頂いたあとに皆で蔵の方へ移動致しましてそこでいろんなお酒に関するイベントみたいなもんが行われてる訳。
そこでございましたのがき酒でございましてね私はそん時に初めてき酒っちゅうのをやらして頂きました。
どんなき酒や言うたら5種類の酒がここ置かれてるんですね。
5種類。
この5種類一つ一つがどこの銘柄やなんていうような当て合いする。
これはやっぱり素人ではまず無理です。
はっきり言いまして。
私らも一番初歩的なもんでしてそこの酒蔵のお酒5つ並んでるうちの「これは大吟醸や。
これは純米酒や」なんてそういうのを当て合いする訳。
答案用紙みたいなもん配られましてねそこへ線引いてこう…。
パーフェクトで5種類ピタッと当たったらそこのお酒高級なお酒をプレゼントされるというようなそういう趣向やったんですよ。
当日全部で200名の方が挑戦なさいました。
200名。
さあこの5種類の酒をピタッと当てた人が200人中何人いてたと皆さん方ご想像されますか?どんなもんでしょう?1割当てたとしたら20人ですわ。
なかなかなかなかそこまでいかん訳でございますね。
5人やろか10人やろかってな事思わはるかもしれないけれども当日200人中この5種類をピタッと当てたんがたったの一人でございました。
私もえらい大層な事言うねんなとは思いましたが実際酒師の方であるとかお酒に関わるような方々に聞きますと5種類ぐらいの酒をピタッと当てれるというたらこれはね150人に1人から200人に1人。
これぐらいの確率になるそうでございます。
なかなかやっぱり当たらないもんです。
ですからね皆さん方でも立ち飲みで飲まはる事もちろんあるやろ思いますけどちょっとええとこ行ったりしはりますとねお品書きのところにどこそこの何という銘柄。
銘柄と土地柄こないして一緒に書いてますやろ。
あれを見てたら皆さん方も必ず迷わはる思うんですね。
どれしようかってなもんでね。
私らでも迷いますよ。
こないして見て「はあはあはあこれ大吟醸の酒北海道の酒か。
新潟の酒。
新潟の酒もうまいもんなあこれなあ。
広島のもあるなあどうしようかな。
どっちにしようかああ迷うなあ〜。
ああどうしようかな〜」言うて迷ってる人いますけれどもあんなん皆さん方迷わんで結構ですよ。
200人に1人しか当たりませんから。
何飲んでも一緒。
何飲んでも一緒か分からないけど。
まあまあ最初の1口目ぐらいはどれにしようかなってうわ〜これこういうもんかなんて言うて吟味する。
それはよろしいやろうけれどももう飲みだしてから1時間も2時間もたって真っ赤な顔しながらどれにしよかって一番安いのにしとけっちゅうのほんまにもう。
まあまあそないしてねお酒なんてえのはなかなかやっぱり当たらんもんやというふうにまず思うて頂きたいと思っております。
このお話はですね全国津々浦々いろんな所に酒どころっちゅうのはございますけれども京都は伏見の酒蔵やと思って頂きたい。
ですから今日NHKホールでございますけれどもここから皆さん方伏見の酒蔵をちょっと散歩してるようなそんな気分でご覧頂いたらええかなと思うとりますが…。
「おいええ天気やな」。
「ええ天気やでおい。
時候がええところへさして日和がええやないかい。
人出があってなかなかお前結構なこっちゃのう」。
「ホホホッほんにせやな。
いやそらそうとなあっこへぎょうさんの人が寄っとるなあ。
あっこ一体何や?」。
「何やと見て分からんか?あれがお前有名な伏見の寺田屋やないかい」。
「はああれが寺田屋か!」。
「寺田屋かてお前寺田屋知ってんの?」。
「ハハハハッばかにすなお前。
寺田屋ぐらい小さい子どもでもよう知っとるやないか。
あれやろお前坂本龍馬の何やしたとこやろ」。
「ああまあまあそや。
坂本龍馬の何やしたとこや。
大概皆そんな事言わはんねん。
何したとこや?」。
「え?」。
「何したとこやっちゅうねん」。
「その詳しい事はわしも知らんけれども龍馬の生まれた家か?」。
「情けない。
あほかお前。
龍馬がお前奉行の役人に襲われた。
その宿やないか。
前見てみい。
ここお前川流れてるやろ。
ここ行くのが観光船十石舟っちゅうのやな。
後ろにあんのが西岸寺の油懸地蔵や。
向こうは中書島の遊郭の跡やな。
柳の木がなかなかフラフラッとしてて風情があってええやろうがな」。
「アハハハッほんにせやな」。
「いやいやそらそうとちょっとこっち来てくれ」。
「え?」。
「最前からな酒蔵の軒下んとこ見てたら何や大きなぼんぼりがつってあるやないか。
あのぼんぼり一体何や?」。
「ハッハッハッ。
ぼんぼり言うやつあるか。
あらな酒林とか杉玉とかこない言うねや」。
「何やねんその杉玉っちゅうのは」。
「どこの酒蔵にもな軒の下に大きな杉の玉がつってあんねんな。
年にいっぺんだけ青々とした新しいもんに取り替えられるとなるとここの蔵では新酒が出来ましたという一つの知らせになっておる」。
「なるほど。
という事はここも青い。
これも新酒が出来たとこういう事か」。
「そういう事になるわな」。
「ハハッ何ちゅう小屋や?ああ上に看板が上がってあんな。
何や?え?清酒猫の盛りやて。
猫の盛りやて!ハッハッハッハッけったいな名前やな。
もっとまともな名前なかったんやろか」。
「ほんにそうやな。
何や看板が出てあんな。
何?『き酒やってます』か。
おもろいなあ。
き酒っちゅうような事ここでやっとるで」。
「ハッハッハッハッいやいやこら言うてやれんわ。
せっかくやから覚えといたらええ。
昔からな日本酒清酒っちゅうようなもんはな濁りを嫌うっちゅうねや。
澄んでる酒の方がええ酒やっちゅうねん。
ほんで今何ちゅうた?き酒とこない言うたな。
酒の部分をお前酒なんて言うて濁らしたらいかんねん。
こういうもんはな昔からな澄んで言うねん。
き酒き酒と。
こういうふうに言うっちゅうのがほんまの言い方や」。
「あっそう。
き酒や言うたらあかんの?き酒言わんといかんの?知らなかったなほんまかいなこれ。
いやちょ…ちょっと待ってよ。
おかしいぞ。
え?いやいやお前き酒言うてるけど昔からあれ甘酒いうて。
甘酒いうやないかい」。
「せやせやから甘酒濁っとるがな」。
「甘酒濁ってるわ」。
「お前あほやろほんまにもう。
情けない。
まあまあ中入ろう。
ついてこい。
ごめん。
ごめんやす」。
「へえお越しやす」。
「表の看板見て入らしてもうたんやけどなあんたんとこでき酒ちゅうような事さしてくれんの?」。
「へえへえ。
うちでき酒やっておすえ」。
「ちょっと待ってえな。
おい。
けったいな具合やでお前。
お前がウンチクたれて何やき酒とか言うてるけど蔵店の人がき酒や言うてはるけどどないなってんねん」。
「そんな細かい事…どっちでもええやないか」。
「そんなあほな事言うなお前。
ずるいなお前は」。
「まあまあええがな。
いやいやねえさんあんたの言うてるそのき酒っちゅうのは一体どないすんねんな」。
「へえへえ。
簡単なこっておす。
き猪口が5つ並んでおす。
この中で同じもんがどれか当ててもろたらそれでよろしゅうおす」。
「ほうほうなるほど。
わしの前にも5つこないしてき猪口が並んである。
この中で同じもんがどれかっちゅうの当てたらそれでええっちゅうの?へえ〜。
ほれで目安はいな?」。
「目安いう事はおへんけれども飲んでもうて明らかに違うもんよけていきはったら最後に同じもんが残んねやなかろうかと。
ずばりと当ててもろうたらお代は一切頂きゃしまへんので」。
「ハッハッえらい事言いよるなおい。
大体京の人間はちゃっかりしてるいうねどお前。
ズバッと当てたらタダや言いよった。
怖いなおい。
え?おいおいおいお前んとこもそれ前にズラッと5つ並んであるやん。
ちょっと順番に端からやっていけ」。
「あっこれわいの並んであんの?順番にやっていってええの?ほうか。
いやいやせっかく飲むのやったらな何かちょっとアテか何か頼ましてもらおうか」。
「ちょっと待てよおい。
今から何をするか分かっとんのんか?おい。
き酒をしよう言うてんねんな。
酒のお前微妙な味をやな舌の先でお前き分けよういうねんで。
そんなお前アテか何か頼んでやな口ん中にそんな鯖のみそ煮やとかどて煮やとかそんなもん混じってしもたら味も何も分からんようになるやないか。
ああ見てみいこれ。
目の前にあるこれ。
片口の上からブチャッと潰した器。
これな漢字で書いたら吐く器と書いて吐器っちゅうねん。
こういうもんはな飲むんやないねん。
ええか?口へ含むやろ。
クチュクチュクチュッとこの中で味だけ確かめてなこれこういうもんやなって分かったら体の中に酔いが回らんうちにペッとここへ吐いてまうのや。
これ」。
「え?5つ並んだのこれ飲むために置いたのとちゃうの?これ。
口含んでクチュクチュッてペッて吐くの?飲まんと?飲まんと吐くの?これ。
飲んだらあかんの?ああそう。
いやわしな昔からあの…飲み過ぎて吐きそうやいうのはようあんねんけどもな飲まんと吐くの?銭要んのか?」。
「当たり前やないか。
そういうもんやないかき酒っちゅうのは。
ちょっと順番にやっていけ」。
「難しいな…ほんなもんええ?した事ないほんなもん。
飲んだらあかんて。
分かるかな?ちょっとやらしてもらおうか。
飲んだらあかんのやろ。
ヘヘッ飲んだらあかんてほんな。
フフッ飲んだらあかんのやろ。
分かってる分かってる。
飲んだらあかん。
フフッフフッ…」。
「うん。
フフッ…」。
「飲んでもうた」。
「あかんがな!お前情けないやっちゃ。
ちょっと一回置けよお前は。
大体お前き酒のイロハっちゅうのを全然分かってないのやないか。
ちょっと見てみいなこれき猪口っちゅうて普通の猪口とちゃう。
こんな大きいねんこれ。
1合から優に入るやないかい。
こんなもんお前5杯も飲んでたらベロベロになってしまうわ。
中のぞいてみいなこれ。
蛇の目っちゅうてな藍色の二重丸がここへ書いてあるやろ。
藍色の部分と白い部分のあわいさんとこで揺らしててみいな。
これ濁りがよう分かるやろ。
なっ?ここである程度品種を絞り込んでいく訳や。
そのあとにな鼻へ持ってきてまずは香りを楽しむねん。
そのあとで口へ含む。
口へ含んだかてこれ味見んのと違うねんで。
先に鼻からフ〜ッと1回抜くいわゆる含み香っちゅうのを確かめる訳やな。
そのあとで舌の先の所で甘みを見るわ。
縁の所で酸味と辛みやな。
苦みっちゅうのを最後にこの舌の付け根の所で味わうっちゅうそんなの難しねんどお前。
わしがちょっとやったる。
ちょっと見とけお前。
ええか?こないすんねん。
フンフン…はあ」。
「うん」。
「うん…。
フンフンフンフンフン。
ペッ。
なるほどな。
昔からな香りの吟醸うまみの純米ってこない言うねやな。
甘口ながら甘さっちゅうのを感じさせずその甘さっちゅうのをまたうまみに転化してるわ。
こういうところになこの酒の杜氏さんの心意気っちゅうのを感じるな。
恐らくこれは純米酒やと思うな」。
「え?お前これ純米酒やと思う?純米酒?俺の思たんと一緒や」。
「ほんまかいなそれ。
お前自分で考えろお前。
そんなもん人のまねすなお前。
ちょっと2杯目やってみいや」。
「ハハッ2杯目。
これも飲んだらあかんの?」。
「飲んだらあかんがな」。
「分かった分かった。
飲んだらあかんもんばっかり置いてあんな。
嫌になってまうなほんまにな。
飲んだらあかんの?分かった分かった分かった。
飲んだらあかん」。
「フフフッフフフッフフッ…。
ゴロゴロゴロゴロッ!」。
「何をしてんねん!友達や思われたら格好悪いわ。
ちょっとそっちに行けほんまにもう情けない。
ちょっと見とけよお前。
2杯目いくぞ。
フンフン…」。
「うん…。
フンフンフン…。
ペッ。
なるほど。
酒の中でもなきれいな味やとか味がきれいっちゅうのはこういう事を言うねやな。
吟醸香との調和がまずようとれてるわ。
これは恐らくこれは吟醸酒やと思うな。
ほんで3杯目どないする?」。
「これも飲んだらあかんの?」。
「飲めや!ほんならもう腹立つなお前。
どうせ分からへんのや飲んだらええ」。
「飲まいでか!ほんま腹立つなお前。
大体今日はお前伏見来て俺酒飲んで帰ろう思てんねん。
何でお前銭出してさっきからペッペッペッペッ吐いてなあかんねんほんまにもう。
けったくそ悪い。
飲むっちゅうねんほんま。
何言うとんねんお前。
飲むわほんま」。
「あ〜やっぱうまいなあ。
ハハッおでん頼んでええか?」。
「頼んどけあほ。
情けないやっちゃでほんまに。
まあまあええやんな。
3杯目いくで。
見とけよ。
フンフン」。
「うん。
うんうん…。
ペッ。
こら分かりやすいな。
透明感あふれる吟醸香と清涼感これはまさしく至極の大吟醸やと思う。
それから4杯目やで。
なかなかお前ここらまで来たらペッと外してしまうな見とけよお前。
いくぞ」。
「う〜んうんうんうん!ペッ。
答えが出たっちゅうようなもんやな。
一番最初に飲んだ酒と全く同じ口当たりや。
という事はこの4番目の酒これも純米酒やと思う。
…で5杯目か。
最後やで。
見とけよお前。
さすがですなって言わしてみせたらぁな。
びっくりさしたるがな。
ちょっと見とけよお前。
フンフン」。
「うんうんうん!うん!ペッ。
淡麗のこのスッキリとした味わい。
コクがあるっちゅうのはこういう酒のええところやろうけれども辛口の本醸造なんていうのはこういう造り方を言うんやろうな。
という事はやで一番最初に並んでるこの酒と4番目の酒この2つが純米酒いう事で同じ酒やと思うねんけどもおかみあんたどないやな」。
「まあ大したもんどすなあ…。
いろんなお客さん来てくれはりますけれどもまあお客さんの言わはるウンチクっちゅうのはほかのお客さんと違うて違うておす」。
「当たり前やないかい。
こっちはなだてにな酔うために飲んでんのと違うねん。
分かって飲んどんねん。
この1番の酒と4番の酒この2つが純米酒いう事で同じ酒やろ!どないやな!?」。
「まあ大したお舌どすなあ。
正解は全部同じお酒どすね」。
(笑い)
(拍手)続きましては月亭文都さんの登場でございます。
文都さんは大阪市の出身でございまして1986年に月亭八方師匠に入門。
八天という名前を付けてもらいましたが2013年に七代目月亭文都を襲名なさいました。
今日演じますのは古典落語中の古典落語「饅頭こわい」の一席です。
ではどうぞ。

(拍手)楽しく和やかな休憩時間が終わりましてまた過酷な後半戦の始まりでございまして。
どうぞお力落としのないようにお気を確かに持ちまして最後まで耐え忍んで頂きまして皆さんが迷わず成仏されん事をお祈りする訳でございますが。
最近は結婚事情なんていうのも変わっておりましてですねなるべくお金をかけずに結婚しようという訳でね新郎新婦の2人が丘の上のチャペル教会か何かで2人きりで結婚をするというこんなんがはやってるんやそうです。
牧師さんにお願いをしまして「結婚式が滞りなく終わりましてありがとうございました牧師さん。
ところでお礼の方はいかほど差し上げたらよいでしょうか」と聞きますとこの牧師さんというのがなかなかしゃれた方でなんぼなんぼくれっちゅうようなそんな下世話な事は言わないです。
不粋な事は言わないんです。
「花嫁の美しさほど頂けますか?」。
(笑い)…とこう言うたんやそうです。
これなかなかしゃれた言葉でしょ?そらそうですよ。
今結婚したばっかりで世界で一番美しい人はこの人だと思ってるその新郎に向かって「花嫁の美しさほど頂けますか?」なんて言いますと大枚なお金を出すだろうと思っとりましたら新郎が懐から財布取り出しまして「じゃあこれで」言うて1,000円出したんですわ。
「1,000円!?」。
今どきの話です。
1万5万10万出してもおかしないのに1,000円とは何事やと思ってパッと花嫁さんを見ますと教会で結婚式を挙げてますから洋装の場合は花嫁さん顔の前にベールというのが下がってるんですね。
このレースみたいなのがかかってます。
ですから牧師さんがこれをたくし上げまして「ああなるほど」言うて納得して500円お釣り返したという話があるんですけどね。
(拍手と笑い)まあいろんな話がございますな。
ある人の奥さんが1年前に亡くなりまして今日はその奥さんの命日。
…で奥さんが生前大好きだった中華料理のシューマイ。
ひと折り10個入りのシューマイを買うて帰りましてそれをご仏前にお供えしました。
晩方にそのお下がりを頂戴しようと思って蓋を開けてみますとなんと10個入りのシューマイが1つ消えて9つになってるんです。
「あらおかしいな。
何でやろ」。
店員さんが入れ間違うたんやなと思いましてそのまま食べずに蓋して置いといたんです。
明くる日の朝あれ食べないかんわと思いまして蓋を開けてみますと今度は10個入りのシューマイが3つ消えて7つになってるんです。
「えっ何でや?うちは子どもも誰もいてへんのに誰が食べたんやろ?気色悪」ってなもんで。
またそのまま食べずに蓋して置いといたんです。
3日ほどしまして「あれもう腐ってんのと違うかいな?」。
蓋を開けてみますと今度は10個入りのシューマイが7つ消えて3つだけになってるんです。
「ギャ〜ッ!これは仏さんが食べはったんや〜!」と思うてフッと見たら蓋に7つひっついてたっちゅうですけど。
(拍手と笑い)あれ乾燥しますとねひっつく癖がございます。
ところがこの話には後日談がございましてねこの人があまりの驚きにそのままポックリ死んでしまいましてお葬式を出す段になりまして弟さんが喪主を務めたんですが…。
いざご出棺という時に「そうや兄貴の大好きやったあのたばこ柩の中に入れてやんのんコロッと忘れてんねん。
葬儀屋さんえらいすみませんもういっぺん開けてもらえませんか?」。
「そら仏さんのためややってあげなさい」というのでこの葬儀屋がくぎ抜きを持ってきて蓋を開けてみますと中の死体が消えてるんです!「ギャ〜ッ!死体が消えた!」と思ってフッと見たら蓋にひっついてたっちゅうんですけど。
そんなあほな話はございませんがここらが我々の材料でございますが。
例によりまして裏長屋という所を舞台にしましたお噺を聴いて頂く訳でございますが…。
「大勢おったな」。
「集まったな」。
「集まったな」。
「おもろいな」。
「おもろいな」。
「何が?」。
「何がってこんだけ大勢おってやで同じ顔してるやつが一人もおれへんやろ」。
「ハハハッおもろいなあ」。
「当たり前やがな。
同じ顔してるやつがおったらややこしてしゃあない」。
「せやけどやでようこれだけ違う顔ができるこっちゃと思て。
また人間顔だけやなしに考えてる事とか気持ちとか性格これみんな違うわ。
例えばやでちょっと食べるもんなんかでも人それぞれ好き好きがあるわ。
いやいやあるであるで。
お前とわし同じベロ舌を持っていながらお前が食べてうまいと思てもわしがまずいとかな。
俺が好きでもあんたが嫌い。
こんなんあんねん。
これ聞いてみると面白いもんやで。
皆暇にしてんのやろ。
ちょっと聞いてみよか。
ほな松ちゃんからいこか。
お前食べるもんで何が一番好きや?」。
「食べるもんてなんやけどわしゃ口に入れるもんで一番好きなもんというとやっぱりこの酒か」。
「あっなるほど!松ちゃんの一番好きなものは酒。
シュッとしてある。
男らしいがな。
男が何が一番好きやと聞かれて『俺は酒だ』。
シュッとしてある。
なるほど。
隣の竹やんお前の一番好きなもん何や?」。
「わい2番目が酒やねん」。
「あっなるほど。
ここがおもろいやないかいな。
聞いてみんならんっちゅうのはこのこっちゃ。
松ちゃんの一番好きなものは酒。
竹やんは2番目が酒。
人によってこれだけ違うというところが面白い。
ほなお前の一番好きなもんは何や?」。
「わい2番目が酒やねん」。
「そうそうそうそう。
それは今聞いて分かってんねん。
2番はええのやがな。
一番好きなもんを聞いてんねん」。
「一番好きなものは…2番が酒」。
「なぶってのやないどおい!2番はええのやがな!」。
「3番は…」。
「誰が3番聞いてんねん!1番を聞いてんねん1番を」。
「わいの一番好きなもの?」。
「そうやがな」。
「目の前のあなたよ」。
「気色悪いなこいつ!こんなやつが交じってる。
あっち行けほんまにもう…。
辰つぁんお前の一番好きなもん何や?」。
「誰が何と言うてもぜんざい」。
「何?」。
「誰が何と言うてもぜんざい」。
「誰も何も言うてへんけどな。
好きなようにしてくれたらええねんけども。
ぜんざい好きか」。
「ぜんざい好き!」。
「甘党やな」。
「甘党や。
ぜんざいに蜂蜜かけて食う」。
「えげつないな。
甘すぎるで。
何かけてもええけど蜂蜜
(八光)だけはやめとけ。
あいつのお父さんよう知ってんねん」。
(笑い)「な…何のこっちゃねん?」。
「まあまあ何でもないねん」。
「分かる人にしか分からへんねんさかいいらん事言いなや。
まっさん一番好きなもん何や?」。
「これぐらいの丼鉢」。
「え?」。
「これぐらいの丼鉢」。
「けったいなやつがおるなあわしらの仲間には。
え?丼鉢みたいなもんガリガリッとかじんのん?」。
「違うがな。
これぐらいの丼鉢へさしてごはんの炊きたて。
まだヌクヌクッと湯気の上がったあるやつを半分ぐらいよそいまんねん。
鯛のごく新しいやつをゲタの歯ほどのごつさに切って5つ6つポンポンと放り込む。
卵を2つコツコツと割って白身はほかして黄身だけをこの上へ載せまんねん。
浅草のりのビカ〜ッと光ったやつをとろ火であぶって細こうちぎってパラパラパラッと振りかける。
ワサビの上等をジュッとすり込んで薄口の醤油をサ〜ッとかけるっちゅうとお箸でグルグルグルッとかき回してガッガッガッガッガ〜ッと18杯食う」。
「化け物やがな。
ようそんなもんが腹に入るなお前は。
よっさんあんたの一番好きなもん何や?」。
「私の好きなものは麺類です。
麺類です」。
「ああ麺類ね。
私も好きですわ。
うどんそばそうめんとかいろいろありますけど何が一番好きです?」。
「まあ麺類の中ではぼた餅ですか」。
「え?」。
「ぼた餅」。
「ぼた餅あれ麺類か?」。
「え?あれいつから人類に?」。
「何を言うてんのん。
ちょっとも分かってへんがな。
いやいやしかし面白いやないかいな。
好きなもんがこれだけ違うという事が分かった。
今度は嫌いなもんといこう。
嫌いなもんと。
昔からないわゆる虫が好かんとか怖いという事があるわ。
ナメクジが怖いとかネズミが嫌い。
こういうのあんねん。
これも聞いてみると面白いもんやで。
ほなまた松ちゃんからいこうか。
お前の一番怖いもん何や?」。
「え?」。
「お前の一番怖いもん何や?」。
「蛇…」。
「え?」。
「蛇」。
「何?」。
「へへ…蛇」。
「お前の一番怖いもんは蛇!シュッとしたある。
男らしい!」。
「どこが男らしいの?」。
「けどまあ蛇が怖いっちゅうの多いのんと違う?隣の竹やんお前の一番怖いもん何や?」。
「わい2番目が蛇やねん」。
「お前そればっかりやがな。
もうええわ。
もうあっち行けお前は。
辰つぁんの一番怖いもの何や?」。
「誰が何と言うてもクモ」。
「お前もそんな言葉しか知らんのかおい。
クモ怖いか?」。
「クモ怖いがな。
わしな夜中によう便所行くねん。
便所の壁にクモがベチャッとへばりついてんの見たらな今まで出かかってたオシッコがピッと止まって背中から水浴びせかけられたようにゾ〜ッとなって『ギャ〜出た!』ちゅうなりダ〜ッと走って帰ってお布団の中へゴソゴソッと潜り込んでわいもう布団の中ですんねん」。
「お前の方が怖いわ。
それ小さい方だけやろうな」。
「たまには大も」。
「汚いな!ほんまにもう…。
まっさんは怖いもん何や?」。
「ハエ」。
「え?」。
「ハエ」。
「何?」。
「ハエ」。
「何?」。
「ハエ」。
「何?」。
「ハエ」。
「ハエが怖いの?」。
「ハエ
(はい)」。
「しょうもない事言いないな。
しょうもない返事すんな。
よっさんの怖いもん何や?」。
「アリさん」。
「え?」。
「アリさん」。
「もう情けないな。
聞くの嫌になってきたわ。
アリンコが怖い?」。
「アリ怖いがな。
アリが1匹こっちの方からチョコチョコチョコチョコッと来るでしょ?こっちからも1匹チョコチョコチョコチョコッと来るわね。
真ん中で何や角みたいなもん合わしてボシャボシャボシャ。
何かお話ししてたんかなと思うとそのまままたチョコチョコチョコチョコッ分かれていきよる。
アリひょっとしたら…わいの悪口言うてたんかと思ったらもう晩も寝られへんねん!」。
「何を言うてんねん。
けったいなやつやでほんまにもう」。
「若い者が寄って何をワーワー言うてんねん」。
「あっおやっさんでっかいなこっち仲間入っとくんなはれ。
いいえ今ね怖いもんの尋ね合いやいうてこの男がアリが怖いてな事言うて皆で笑うてるてなこってんねん。
そういうとおやっさんあんたね常平生から『わしはこの世には怖いもんは何一つない』ちゅうてよう言うてなはるけどほんまにいっぺんも怖いと思った事おまへんか?」。
「うん?昔から人間は万物の霊長っちゅうぐらいや。
当たり前やないかい。
わしはなこのようにはばかりながらギャッと生まれてこの方こっから先も悪い事をした事のない代わりに怖いと思うた事なんかいっぺんもないわい」。
「うわ〜強い人やな。
けどねおやっさんあんたいくつ何十になるか知りまへんけどほんまに今まで長い事生きてきて怖いと思はった事おまへんか?」。
「う〜ん待て待て待て。
そういうとなわしにもいっぺんだけ怖かった話があるな」。
「あっさよか。
へえ〜。
おやっさんみたいな強い人が怖いと思いなはってん。
どんな話でんねん?」。
「うん。
あれはなうちの親父がまだ生きてた時分や。
お前ら知ろうまいがうちの親父っちゅうのはなそれはわし以上に恰幅があってもう鬼瓦みたいな恐ろしい顔した男や。
わしその親父とよう相撲取ったんや。
ところが親父のてこに合うもんやないわい。
あっちへ飛ばされこっちへたたきつけられそれがなわしが16になったある春の日のこっちゃ。
その時分親父はもう足腰も弱ってるわい。
また相撲を取った。
よいしょっと立ち上がるなりわしが手をバ〜ンと前へ出すと親父がそのまま後ろへゴロ〜ッとひっくり返ったなあ」。
「何の話でんねん。
それあんた。
いやあの違いまんがな。
怖かった話を聞いてまんねん」。
「せやさかいに親は負けて子は勝った
(怖かった)言うてねバンザ〜イ!」。
「何を言うてんのあんた。
おやっさんと大喜利してる場合やおまへん。
何を言うてん。
光つぁん光つぁんこっちへ来なはれ。
あんた悪い癖や。
あんたいつも何や隅の方でイジッとしてなはるやろ。
いやいや聞いてなはったやろ?今怖いもんの尋ね合いです。
あんたにも怖いもんおまっしゃろ。
あんたの怖いもん何です?」。
「私はもう結構です」。
「え?」。
「私はもうよろし」。
「そんな事言うてたらいかん。
みんな言うてまんのやさかいにあんたにも怖いもんおまっしゃろ。
あんたの怖いもん何?」。
「私はもういいんです」。
「あのねこの際ですからはっきり言うてあげますわ。
あんた皆に嫌われてまっせ!そうでっしゃないかいな。
皆がワーワーワーワー楽しい話してる時あんたいっつも何や電信柱の陰か何かへ隠れてこっちを七三に見ながら『ああ愚かなる者たちよ。
君たちに明日はない』ちゅうような顔してるやろがな。
気ぃ悪いねん。
帰んのやったら帰んなはれ。
話に入んのやったら入んなはれ。
誰かて怖いもんの1つや2つはあんねん。
あんたの怖いもん言うてみなはれ」。
「私にもね怖いもんはあるんですけどこれが怖いと口に出して言うのも怖い…」。
「え?よっぽど怖いねん。
よっぽど怖いねん。
そうなったら気になるな。
ちょっと言うとくなれ。
いや誰にも言えへんさかいにあんたの怖いもん何です?」。
「ほなまあ思い切って言います」。
「ええ。
何でんねん?」。
「あのね…」。
「ええ」。
「あのね…」。
「ええ」。
「うう〜っ!」。
「へ?」。
「はううう〜っ!」。
「顔はおもろいけどちょっとも分かりませんねんけどね」。
「まだ言うてない」。
「はよ言えあんた!何でんねん?」。
「…饅頭」。
「へ?」。
「…饅頭」。
「ま…まんじゅう?まんじゅうてどんな虫?クモ科の一種か?おい。
光つぁんまんじゅうてど…。
ああ食べる饅頭!あのね光つぁん食べるもんでも好きなもんは終わりましたんや。
ええ。
怖い…。
饅頭が怖いの?饅頭が怖い?光つぁん饅頭ちゅうたらね丸うてポチャポチャとしてて竹の皮の座布団か何かひいてあってピ〜ッとめくってパカッと割ったら中からあんが…」。
「ニュンガゴエニュンガゴエウニョニョニョニョ…。
ああ私が口に出して言うのさえ怖いちゅうてまんのにどんなもんであんなもんで中からあんやなんて…。
ううっ見てみなはれ震えが出てきました。
私この分やと2〜3日仕事休まんなれん儲からん。
お先に帰らしてもらいます。
さいなら!ごめん!」。
「ちょっとちょっとちょっと!光つぁん!これ!あら帰りよった。
けったいなやっちゃな。
こんな事てあるやろか?」。
「ある」。
「あるか?」。
「あらいでかいな。
人間誰しも虫が好かんという事はあるわな。
あの天下を取った徳川家康公というあんな偉い大将でさえカエルを見たら飛び上がった」。
「カエルは分かるけどお前饅頭っちゅうのはどういうこっちゃ」。
「さあ?あいつの先祖にはな饅頭屋の大将と金のいざこざか何かがあってやで夜な夜な忍んで行てその饅頭屋の大将をあやめてしもうたというような因縁というか怨念というかそんなんがあんねん」。
「何をしょうもない事言うてんねん」。
「おい今光つぁんね饅頭怖い言うて帰りよったやろ。
わし面白い遊び考えついた」。
「どないすんねや?」。
「光つぁんちゅうやつ嫌なやっちゃで。
日頃から高慢ちきで鼻高々。
人を見下したような物の言い方しよるやろ。
いっぺんギャフンと言わしたろうと思うててんけどもその機会がこう早い事巡ってくると思わなんだ。
これからね皆で光つぁんをお見舞いに行こう。
お見舞いに」。
「何で嫌いな者をお見舞いに…」。
「そうそうそこやがな。
ねっ。
饅頭が怖い言うとったやろ。
そやさかいあいつの怖い嫌いな饅頭をねお見舞いの品や言うてぎょうさん買うていくねん。
『光つぁんお見舞いに来ましたで入れてもらいまっせ』ちゅうて表からダ〜ッとほり込んだんねん。
向こう一方口裏口ないさかいに狭い部屋ん中を光つぁんが怖い饅頭に追いかけられて『キャ〜ッバタバタッ!キャ〜ッバタバタッ!キャ〜ッバタバタッ!』と逃げ惑い泣き叫ぶ姿見て楽しもか」。
「悪いやっちゃなお前は。
そんな事してええと思うてんのんかい!」。
「あかんか?」。
「やろう!」。
「やんの?」。
「やろやろ。
わしもそういう事至って好きや。
そうと決まったらな光つぁんの怖がる饅頭を買うてこいよ。
饅頭の中の饅頭っちゅうの買うてこいよ。
え?買うてきた。
ぎょうさん買うてきたなあ。
よし。
これだけあったら大丈夫。
さあさあ行こう行こう行こう。
シ〜ッ!光つぁんの家の前まで来たさかいなわしちょっと中のぞいてみる」。
「プッ!光つぁん頭から布団かぶって寝てます。
光つぁんお加減はどうでおます?」。
「おおきに。
おかげさんで震えだけは治まりました」。
「クックッおかげさんで震えだけは治まったて。
またこれから改めて震え直さんならんのに…。
光つぁんあんた気分が悪い言うて帰んなはったやろ。
皆心配してお見舞いに寄してもらいましてん。
お見舞いの品持参の上です。
入れてもろてよろしいか?入りまっせ。
行きまっせ。
入るよ。
行くで。
ウフッウフッウフフフフフッ!」。
「お前は悪魔か!?お前は!おかしな声出すのやないわい。
それほり込め〜!」。
「キャ〜ッバタバタッ!キャ〜ッバタバタッ!キャ〜ッバタバタッ!」。
「何をいちびってんねんお前は。
お前がキャ〜ッバタバタ言うてどうすんねん」。
「今のわい?」。
「わいてお前やがな」。
「中の光つぁん」。
「シ〜ンとしてはるがな」。
「え?うんしたあるね」。
「したあるねあらへんがな。
これで終わりか?しまい?」。
「いやそらいかんで。
お前が中の光つぁんがキャ〜ッバタバタッ言ういうさかいみんなない銭はたいて高い饅頭を買うてきてんねん。
この始末はどうつけてくれんねん?」。
「ポンポン言いなやポンポン言いなや。
わいかてこんな事年中やってる訳あらへんがな。
言うと思てんけどな。
何でやろうな。
ちょっと待って。
もういっぺん見てみるわ。
おかしいな。
何でやろうな。
えらい事した!」。
「どないした?」。
「光つぁん死んだ」。
「え?」。
「光つぁん死んだ!」。
「光つぁん死んだ!」。
「そらそうやこら考えが浅はかやった。
うかつな事をしてしもた。
饅頭のまの字を聞いただけであない怖がってたやつや。
それがほんまもんが飛んできてんねん。
どうせ1つや2つこの辺にカ〜ンと当たってるに違いない。
もう『キャ〜ッバタバタッ!』もなし。
アッちゅうたらこの世の別れ。
びっくりの頓死心臓まひで死んでしもうたがな」。
「え〜!えらいこっちゃがな」。
イジメというのはいけませんな。
もう表の方は「青菜に塩」というやつでシュ〜ンとなってしまいます。
一方中では光つぁんが…。
「もめとおるもめとおる。
あいつらあほやな。
わしが饅頭大好きやっちゅうの知らんのかいな。
1品や2品食うてるとこ見てると思うけどな。
あない言うて帰ったらこないなるかいなと思てあない言うて帰ったらきっちりこないなったなあ。
計画どおりやがな。
なあわしはな甘いもんには目がないのや。
食べてもええかな。
怒りよるやろうな。
けど辛抱たまらん。
頂こう」。
「高砂屋のじょうよや。
こんな上等久しぶりやな。
ご機嫌さん。
フフッ。
竹の皮の座布団敷いてもろて…う〜ん。
わああんもピカッと光ったある。
頂きま〜す。
うんうんうんうん…。
舌の上であんがフワッととろけるわ。
うんうんこらうまい。
利休堂の羽二重餅こっちは粒あんや。
これも頂こう。
うんうんうんうん…。
粒あんはこの歯茎に挟まんのが嫌やけどな。
湖月堂の最中。
最中もええな。
上顎にちょっと皮がひっつくけど」。
「ポロポロ落ちるわこれほんまに。
かき集めたろ。
甘泉堂の栗饅頭。
大きいなこれ。
一気にいったんねん。
あ…!うん。
ああうまい。
亀山のふくさ女の人の好きなやつや。
うんうんうんうん…。
戎橋橘屋のへそしばらく見ん間に君もちっちょなったなほんまに。
うんうんうんうん…。
何やこの白いボテッとしたの。
大阪名物豚まん。
誰やこんなもんほり込んだ!」。
「おかしな具合や」。
「何が?」。
「何がってお前中でムシャムシャムシャムシャ音がする」。
「そんな事あらへん。
光つぁん死んでんねん。
音する訳ない。
あいつ独り者やで」。
「そうかてお前ムシャムシャいうてるがな」。
「ちょ…ちょっと待ってちょっと待って。
おかしいな。
そんな事ないねん。
もういっぺん見てみるわ。
何でやろうな。
おかしいな…。
ア〜ッ!ア〜ッ!ア〜ッ!」。
「カラスかお前は!どないしたん」。
「光つぁん饅頭食てる」。
「え?」。
「光つぁん饅頭食てる」。
「光つぁん饅頭食てる。
またあいつに一杯食わされてんねん。
饅頭いっぱい食われてんねん」。
「どっちでもええわい!飛び込まんかい!」。
「飛び込むか。
光つぁん!」。
「あっびっくりした。
あ〜びっくりした!もうちょっとで饅頭と心中するとこやった。
いや〜ただいまは皆様ごちそうさま」。
「ごちそうさまやないで。
あんたが饅頭が怖い言うさかい皆がない銭はたいて高い饅頭を買うてきてんのにあんたのほんまに怖いもんは何でんねん?」。
「今度は濃いいお茶が1杯怖い」。

(拍手)番組のおしまいには上方落語協会会長六代桂文枝師匠にお越し頂いております。
よろしくお願い致します。
お願いします。
ここのところ上方落語界は襲名がどんどん続きまして文都さんの落語を聴いてもろたんですけども師匠ご自身も…。
私も去年の3月の8日に襲名の披露興行が1年8か月かけて主催はフェスティバルホールだったんですけども。
2,700人お客様が…。
そうですね。
その後も菊丸さんとか今年は花團治さんですか。
やっぱり襲名っていうと本当に華やかでお客さんもよく来て頂きましてですね活性化のためにはいいんじゃないかなと思いますけど。
今年もねまた華やかにいこうと思うておりますやさきに3月の19日に米朝師匠がお亡くなりになりまして。
そうですね。
長らく舞台から遠ざかっておられましたがやはり米朝師匠がいらっしゃるのといらっしゃらないのとでは精神的な支えというものが全然違いますし本当に残念な事ですし米朝師匠のすばらしさ偉大さは万人が知るところですけどもただ米朝師匠がいらっしゃらなくなって上方落語が消えた終わったみたいな言われ方をしたりするのが私としてはそれは寂しいなと。
それも私が言う事ではないんですけどないと思うんですよ。
米朝師匠が落語家の種をまいていかはって。
そうですそうです。
それをね。
それを師匠とかざこば師匠とか仁鶴師匠とかそういう方たちが吹かしたんですかね。
芽を吹かして。
そういう意味ではこれからだと思うんですね。
師匠がやって下さったいろんな功績を無駄にする事なくね。
繁昌亭では師匠に「楽」という字を書いて頂きましたからやはりお客さんを楽しませなさいという事ですからあの字に恥じないように我々は一丸となって頑張って上方落語をますます盛り上げていきたいなと思いますね。
これからまた何かそういう新しい企画なんかは?そういう意味では米朝師匠のお弟子さんをたくさん育てられました。
個性的なね。
私もつなぐという事で若手の噺家のグランプリみたいなのを6月にやりまして。
最終審査はなんと在阪のテレビ局のラジオ局のディレクタープロデューサーの方がすると。
ですからそういう皆さんにちょっと落語を見て頂いてあっこれ使えるなという人を探してもらおうと。
これからやはりメディアっていう伝播力がすごいですからね。
米朝師匠もやはりテレビというのを大事にされましたしそういう意味では我々も米朝師匠のされた事に続いていかないといけないなと思いますよね。
繁昌亭を造った修業した成果をそこで終わるんやなしになんとか出していってほしいですね。
そうですね。
そのためにはこの間も総会でみんなにハッパかけたんですけどもやっぱり死ぬ気で頑張れと。
もう本当に稽古して稽古して風前のともし火だった落語を米朝師匠をはじめ四天王の皆さんは本当に血のにじむような思いでやられたんですからね。
それを無駄にする事なくそれ以上に頑張らないとこの時代はもっともっと厳しいですから頑張りなさいとハッパをかけましたですけど。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
いや実は米朝師匠もね創作落語についてはものすごく興味持ってるしやらなあかんって…。
ご自身も「一文笛」だけがなってますがたくさんの古典と思てるやつを実は創作してはる事を知りました。
お前も頑張らなあかんで言うてもらいましたけども私もほんま微力ではございますけども上方落語の一員とさして頂きまして。
力強いです。
ありがとうございます。
よろしくどうぞ。
というところで本日の「上方落語の会」これにてお開きでございます。
ではまた。
2015/04/03(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方落語の会 ▽「〓(き)き酒」桂文鹿、「饅(まん)頭こわい」月亭文都[字]

▽「〓(き)き酒」桂文鹿、「饅(まん)頭こわい」月亭文都▽第248回NHK上方落語の会(27年1月15日)から▽インタビューゲスト:桂文枝

詳細情報
番組内容
桂文鹿「〓(き)き酒」と月亭文都「饅(まん)頭こわい」を、上方落語協会の桂文枝会長のインタビューも交えてお送りする▽〓(き)き酒:二人の若い者が、京都伏見の酒蔵で利き酒をすることに。さんざんうんちくを述べたところで、酒蔵の主人が言ったこととは…。▽饅(まん)頭こわい:町内の若者が集まり、好きな物、嫌いな物を言いあっている。その中の一人が自分はまんじゅうが恐いと打ち明け帰って行ったので若者たちは…
出演者
【出演】桂文鹿,月亭文都,【インタビューゲスト】桂文枝,【案内】小佐田定雄
キーワード1
落語
キーワード2
漫才

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
バラエティ – トークバラエティ

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