金正恩氏が自分の“ヘンな写真”をせっせと公開するのはナゼなのか

近年、北朝鮮のメディア情報戦略が巧妙さを増してきている。「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」など複数のウェブサイト上で記事、写真、動画などを駆使したり、国内の新聞で日本政府や韓国政府の秘密を暴露したりしながら、揺さぶりをかけてきているのだ。

そこにはおそらく、金正恩氏の強いリーダーシップが作用している。根拠は次のふたつだ。

ひとつは、軍事情報にかかわるものだ。朝鮮労働党機関紙・労働新聞は2月7日、金正恩第1書記が新型対艦ミサイルの試射を視察したことを伝える記事に添えて、8枚の写真を掲載。うち4枚に、ミサイルを発射する艦艇の姿が鮮明に写っている。

デイリーNKジャパン編集部ではこのミサイルについて、写真のシルエットから、ロシアで開発され1980年代から90年代にかけて配備された「3M24ウラン」(空対艦型はKh-35)のコピーであると判断した。

このような分析ができたのは、ミサイルの写真がタテ・ヨコ・ナナメから撮影され、それが労働新聞の紙面で確認できたからだ。

これは、かつてなら考えられないことだ。

北朝鮮が装備する兵器の種類や性能については、軍事パレードに登場したものの大きさを、周囲の人間の身長や車両の大きさなどと比較しながら測り、分析を行うしかなかった。

北朝鮮は、そのように秘密を小出しにしながら、ミステリアスなベールをまとうことで情報戦で優位に立とうとしてきたのだ。それが現在では、新兵器の情報を敢えて公開することで、韓国との軍事バランスに影響を与える戦略にシフトしたのである。

これは、大きな戦略的転換であり、労働新聞の編集局レベルでできることではない。一介の編集幹部がこんなことをすれば、誰かに政治的に足をすくわれ、ヘタをしたら命にも関わってくる。そのため最高指導者が直々に指揮を取らなければ、恐ろしくて誰もこんな編集はできないのだ。

そして次なる根拠は、労働新聞などでの金正恩氏の写真の使われ方だ。

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正恩氏の頭の上に小人が乗っかっているようにも見える上の写真は、何も冗談で掲げたわけではない。

これは最近、金正恩氏がある機械工場を現地指導したときのものだ。幹部たちに指導を与える正恩氏を、後方の高い位置で作業している労働者がしゃがんで眺めている図である。

これは従来、労働新聞が新兵器の写真を公開するよりも、さらにあり得なかった光景である。かつて、生前の金日成主席や金正日総書記はまさに神様のような扱いをされており、彼らを高い所からしゃがんで見下ろしたりすれば、本人たちは即逮捕。そんな写真を掲載した編集責任者も逮捕されてしまっただろう。

最近の労働新聞には、こうした写真が実に多い。とくに、金正恩氏の後頭部を撮ったものが目に付く。

日本やアメリカのメディアだって、総理大臣や大統領の後頭部を好んで載せはしないだろう。

正恩氏の後頭部の写真をセレクトして公式メディアに載せる判断を下せるのは、正恩氏本人以外にあり得ない。ついでに言うと、大の飛行機好きとして知られる正恩氏は、自分が飛行機に乗っている写真を頻繁に公開している。

もっとも、正恩氏が自分の後頭部や「覇気ヘア」を強調する理由までは筆者も分析できていないが……。

ともあれ、北朝鮮メディアの変化は現在も進行している。世界一おカタいとも言える北朝鮮メディアを正恩氏がどこまで変貌させるか、今後に注目したい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。

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