これまでの放送
~海外輸出・新戦略の行方~
都内にある国内最大手のアニメ制作会社。
新作アニメ映画の公開に向けて制作を進めています。
この会社の看板作品、「ドラゴンボール」です。
主人公が仲間と共に敵と戦い、成長していく物語。
29年前から、世界70か国以上でテレビ放送などがされてきました。
今回の映画は、最初から海外市場を意識し、日本に続けて世界30か国以上での公開を計画しています。
すべての国の子どもたちに受け入れてもらえるように、数あるヒット作品の中からこの人気作品を選びました。
山室直儀監督
「見ていて多分、スカッとするんだと思うんだけど。
強いものへの憧れって世界共通じゃないか。」
しかし、世界に売るためには新たな配慮が必要だといいます。
特に子ども向けアニメの場合、日本とは比較にならないほど表現に対する規制があるからです。
そのため今回は、日本で多く見られる流血の場面はできるだけ避けるようにしています。
そうした世界に広く受け入れられるようにする「標準化」を進めることで、この会社は各国のファンを獲得しようとしています。
東映アニメーション 木下浩之常務取締役
「喜んでくれる作品を作り続ける意味でも、やはりビジネスとしてうまく成立する作品というのを作っていかなければいけない。
(海外から)日本国内に還流するお金を大きくすることができるのであれば、クリエーターにも戻すことができる、原作者にも戻すことができる。」
海外人気は高いといわれてきた日本アニメですが、ここ10年近く輸出は伸び悩んできました。
日本のアニメ制作会社のアドバイザーを務めるジョン・イーサムさんは、日本がかつての成功に安住したことが、その後の低迷を引き起こした要因だと指摘しています。
イーサムさんによると、2000年代前半、「ポケットモンスター」がアメリカで大ヒットしたことで大量の作品が日本から輸出されたといいます。
日本アニメの輸出に詳しい ジョン・イーサムさん
「(ポケモンと)同じことをみんなが狙っていて、日本からたくさんの作品を買い始めた。
1話あたり10万ドル(約1,000万円)という話も当時はあった。
日本のアニメをどんどん(アメリカで)放送できました。」
その後、ブームは去ります。
黙っていても売れる状況はなくなり、アニメ作品の輸出は減少。
しかし日本企業は、売るための戦略やノウハウを蓄積できませんでした。
日本アニメの輸出に詳しい ジョン・イーサムさん
「アニメというものはキッズ向けのもの、アメリカ的にはそうだった。
残念ながら今、キッズ向けのヒットしている日本のアニメが減っている。
やはり(海外の)ターゲットをどうするかが課題だと思う。」
日本の輸出が低迷している間に標準化の海外戦略を徹底し、輸出を伸ばした国があります。
韓国です。
この作品はロボットに変身する車が主人公の大ヒットアニメ。
世界80か国以上で放送されています。
制作を手がけた会社です。
この会社は、企画段階から海外に展開することを想定しどこの国でも受け入れられやすい作品を作ることに力を傾けています。
その1つが、試写会です。
各国のバイヤーにパイロット版のフィルムを見てもらい、それぞれの国の実情に合わない部分を訂正したり削除します。
どの国に輸出しても耐えられる作品を作るために、時にはストーリー自体を変えることもあるといいます。
オム・ジュンヨン監督
「私たちの作品をできるだけ多くの国の子どもに見てもらいたいので、それぞれの国にある制約を守ることは当たり前です。
壁だとは思っていません。」
日本のお家芸ともいえるアニメを、どうしたらもっと見てもらえるのか。
あえてどの国にでも受け入れられる標準化を目指すのではなく、1つの国にとことん寄り添って売り上げを伸ばそうとする動きも現れています。
このアニメ制作会社が今、取り組んでいるのが、代表作である「ルパン三世」の新作を日本より先にイタリアで放送することです。
文化的な影響力の強いイタリアで新しいテレビシリーズを放送してブームを起こすことができれば、ヨーロッパ全域での販売につなげることができると考えました。
そのため今回、現地を調査し、イタリア人の好みに徹底的に寄り添いました。
例えば、主人公のルパン三世。
トレードマークは赤や緑のジャケットですが、調査の結果、青色に変更しました。
浄園祐プロデューサー
「イタリアの人に『ルパンはどういうジャケットの色が似合うか』と聞いたら、『青色が似合う』と即答。
アズーリ(サッカーイタリア代表)の選手も青を着ていますけれども、やはりかっこいい男の象徴みたいなところがある。」
また、物語の主な舞台は、多くのイタリア人が憧れる古都サンマリノに設定しました。
ストーリーにも一工夫。
イタリア人の好むワインやサッカーの話題も絡めています。
こうした特定の国を対象にした「現地化」戦略を進めることで、日本への波及効果も狙っているといいます。
トムス・エンタテインメント 戸塚麻美海外営業部長
「これだけ(ルパンが)人気の潜在力のあるマーケットで、最初に出していくところで起爆剤になり得るのではないかと思ったので。
もともと日本のものなのに『彼ら(イタリア人)が最初に見たんだ』という悔しさもあおりたいし、そういった意味では新しい形になって帰ってくるんじゃないかと思う。」