これまでの放送
~歩行者を襲う危険~
街なかにあふれる看板。
突然落下し、命を脅かす事態が起きています。
先月(2月)、札幌市の中心部で重さ25キロの看板が落下。
歩いていた女性の頭に当たりました。
女性は、今も意識不明の重体です。
こうした看板の事故が、全国各地で起きています。
調査を進めると、さびたり腐食したりした看板が数多くあることが分かってきました。
「ポコッと落ちる可能性。」
さらに、安全を守るための業者の点検や自治体のチェックが、十分に機能していない実態も見えてきました。
自治体 担当者
「『腐食ない』と(報告が)来ていれば、それを信用するしかない。」
歩行者を突然襲う落下物。
安全をどう守ればいいのか考えます。
札幌市中心部の繁華街。
先月中旬、高さ15メートルから金属製の看板が突然落下しました。
重さ25キロの看板が、通りがかった21歳の女性を直撃。
女性は頭と首の骨を折り、1か月近くたった今も意識は戻っていません。
被害に遭った女性の中学校時代からの友人です。
女性は看護師を目指して、市内の病院で働いていたといいます。
被害者の友人
「明るくて元気で、みんなを笑わせてくれるようなユーモアもあるし、ただただぼう然というか、なんでという気持ちがすごく大きくて。」
事故前の看板の写真です。
落ちたのは一番上の部分。
落下の衝撃はどれほどのものだったのか。
重さ5.5キロの板を、高さ10メートルから落としたときの衝撃を調べた実験です。
ぶつかった際の衝撃は、重さにして100キロ相当。
札幌の事故の場合、この10倍以上の衝撃があったのではないかと見られています。
事故が起きた看板は、設置から30年たっていました。
根元には、さびのようなものが見られます。
ビルとの接合部分で腐食が進んでいたと見られています。
事故の直前、すぐ下の小さな部品が落下。
1時間半後に看板が落下しました。
看板の腐食に、事前に気付くことはできなかったのか。
3年前、市の条例に基づいて行われた定期点検の報告書を入手しました。
鉄骨の腐食や変形、ボルトの緩みがないかなど、検査項目は合わせて18。
すべての項目で異常なしとされています。
事故につながった取り付け部分の溶接も劣化はないとされていました。
点検を行った業者が取材に応じました。
点検の際に撮影された写真。
看板の状態は下から目視で確認していました。
条例で具体的な方法が定められておらず、それ以上の詳しい点検は必要ないと考えたといいます。
看板を点検した業者
「双眼鏡で確認なんですけど、非常にきれいだった。
施行方法も完璧、見た感じ。
なしなしになった。」
報告書を受け取った札幌市です。
原則、報告書の内容は書面で確認するだけだといいます。
今回の点検報告書にも特に問題が見られなかったため、それ以上は調べませんでした。
札幌市 道路管理課 田川清志課長
「『腐食ない』と(報告が)来ていれば、それを信用するしかない。
もっとできたことあったんじゃないのか、そこまで突き詰めればあったのかもしれない。」
看板を所有する飲食チェーンです。
建築基準法で年に1回義務づけられた点検の報告を、今年度行っていなかったことも明らかになりました。
札幌かに本家 日置達郎社長
「本当におわびを申し上げたいと思います。」
看板などが落下する事故は、全国で起きています。
金沢では一昨年(2013年)、ビルの2階から古くなった看板が落下。
長崎では3年前、幅5メートルの看板が落ちました。
さらに先月には新宿・歌舞伎町で、築40年近いビルの外壁の一部が20メートルの高さから落下しました。
街なかに、見過ごされてきたリスクがあるのではないか。
新宿区では、看板や外壁の緊急調査に乗り出しました。
調査の対象は、特に人通りの多い新宿駅周辺のビル1,320棟。
「さびてきた部分が外れやすくなる。」
調査を始めたところ、金属のさびや腐食が次々と見つかりました。
「亀裂が入っている。
ポコッと落ちる可能性、危ない形。」
新宿区も、これまで業者が行った点検については書面で内容を確認するのが原則でした。
今回の区の調査で、これまでに金属のさびや腐食などが見つかったビルは249棟。
調査を終えたビルの3分の1に上っています。
新宿区 建築調整課 金子修課長
「思ったよりも、看板のさびですとか外壁のクラック(亀裂)とか、そういったものが改めて発見できた。
所有者に(点検を)やってもらうよう、区もいろいろな機会を持って働きかけをしていかなければならない。」
●新宿区が行った研究調査、これまで調べた建物の3分の1にさびや腐食が見つかったが?
屋外広告物は特に出来た当初、非常にしっかりしたものであったとしても、経年変化による劣化というのが非常に大きいものですので、危険なものというのは全国にもかなりあるんではないかと思っております。
●目視点検でどこまで腐食・危険な実態が分かる?
屋外広告物の看板は、やはり見栄えを重視しておりますので、接合部であるとか、細かい部分を隠すようなデザインになっていますので、そこがおかしくなっているところを見つけるのは難しくて、目視で外にさびが出ているような状態であると、かなり危険な状態に進んでいるのではないかと思います。
●看板や外壁がさらされる状況、過酷なものでは?
そうですね。
風に吹かれる、それから太陽の熱に当たる、素材そのものが伸び縮みをする、それこそ自動車の振動を受ける、かなり過酷な状況にさらされている工作物ではありますね。
(金属劣化などがいずれ起きてくる?)
そうですね、非常に進みやすいものだと思います。
●高い所に上がる検査、なぜほとんど行われない?
コスト面が一番大きいんです。
下から双眼鏡で目視をするというのは1万円程度のコストですけれども、高所作業車であれば10万円以上のコストがかかってしまって、なかなかそれだけお金をかけるってことは難しいっていうのが現実です。
●点検の対象になっていないものもかなりある?
屋外広告物は許可制なんですけれども、無許可のものが7割を超えているというような報告もされておりますので、そういったものの実態がなかなかつかみにくいというところもございます。
●行政側も点検業者の報告書をそのまま信用して受け取っている?
行政の中での屋外広告物を担当する部署の人数もかなり限られておりますし、かなり少ないのが実態ですので、その報告が上がってきたものをそのまま信用して、確認をするというだけにとどまっておりますね。
●安全管理がおろそかにされてきた背景、どう見る?
高度経済成長のときに、インフラ、かなりのものが急速に増えました。
つくるだけで精いっぱいで、それを点検していくまで手が回らなかったと。
トンネルの天井落下事故も含めて、これから建物、工作物、そういったものの点検ということがいかに重要な段階になってきているかということが言えると思いますね。
(作られたときが一番安全な状態だった?)
そうですね。
(そこからは安全性がずっと劣化をしている?)
劣化をしてきてますね。
ですから、その劣化をどの段階で除却するのか、あるいは更新していくのか、そこの判断というのが今まで行われてこなかったということですね。
もう本当に、安全第一で考えていかなければいけない時期だと思っております。
建物の所有者に直接働きかけ、安全を確保しようとしている自治体があります。
福岡市です。
福岡市でも5年前、高さ4メートルの看板が倒れ女性がけがをする事故が起きました。
根元が腐食していたこの看板。
市の許可を得ずに、30年以上設置されたままでした。
無許可の看板はどれほどあるのか。
福岡市は実態調査に乗り出しました。
360度撮影できる特殊なカメラが搭載された車を使い、1億2,000万円をかけて調査を実施。
市内の延べ1,500キロの道路を走り、周辺の看板を撮影しました。
GPSの位置情報をもとに、看板が許可を得ているかどうか一つ一つ確認していきました。
その結果です。
「許可申請の番号が入っていないので、許可がされていないということ。
ここもなし、それからここもなし。」
許可が必要と確認された看板は、1万2,000余り。
このうち8,000近く、全体の64%が無許可のものだったのです。
調査結果を受け、福岡市は新たに区ごとに担当者を配置。
所有者に直接連絡を取り、指導しています。
担当者
「まだ申請が出ていない。
非常に役所としても対応に困っている。」
改善が見られない場合は繰り返し電話をかけ、直接出向くこともあるといいます。
担当者
「もうこれ以上期間が過ぎますと、御社の社長宛てに市から督促の書類を出さざるをえない。」
福岡市 都市景観室 正木康徳室長
「設置した人に責任を持って、安全管理は自分の責任なんだということを自覚を持ってもらいたい。」
看板そのものの撤去を進め、安全の確保につなげた自治体もあります。
京都市です。
厳しい景観保護を進めてきた市では、平成19年に屋外広告物条例を全面的に改正しました。
「これが京都市で看板を規制する独自の条例です。」
人通りの多い中心部などで、歩道にはみ出す看板をすべて禁止したのです。
これは、条例が改正される前の四条通の写真です。
看板がずらりと並んでいます。
それが一変。
今は、ほとんどの看板が撤去されました。
条例の改正後、市は嘱託職員を80人以上採用。
専門の部署を立ち上げ、規制に取り組んできました。
看板の調査を進める中で、景観保護が安全にもつながることが分かってきました。
看板の中に、危険な状態のものが相次いで見つかったのです。
「(看板を)支えてある鉄骨などもさび付いて、非常に危ないような状況。」
京都市 屋外広告物適正化推進室 則本和弘課長
「かなり老朽化している、落下しやすいような看板もあったのも事実。
安全の確保は取り組みとしては非常に大きかった。」
担当者は直接、所有者のもとを訪ね、交渉を重ねてきました。
撤去の費用は、すべてビルの所有者に負担を求めています。
担当者
「点検のほう、よろしくお願いしたいと。」
この日、訪ねたのは、市内に13棟のビルを所有する会社です。
ビルの壁に残されている古い看板の枠組みを撤去するよう要請しました。
担当者
「市民の安全にも関わってくることになる。
確実にそういう事故がないような形で進めていただけますように。」
この会社はこれまで、12棟のビルの看板を合わせて3,000万円かけて撤去しました。
ビルを所有する会社
「想像を絶する費用と労力がかかっています。
ひとつずつやってきながら、ここまで事故なしにこれた。」
この7年間に京都市で撤去されるなどした看板は、合わせて2万4,000余りに上ります。
京都市 屋外広告物適正化推進室 則本和弘課長
「安全や景観のことをしっかり伝えることで、徐々にご理解いただいてきた。
全域で取り組みを進めたと、行政としての本気度は大事だと思います。」
●福岡と京都の取り組みをどう見た?
特に福岡のように、総点検をするというのは非常に重要なことだと思います。
まず、そこから始まるのかなと。
いわゆる危険なものとそうでないもの、それを見極める、それはやっぱり総点検があって、初めて次に続けていけることだと思います。
●国は建築基準法に基づく点検報告を求めているが、この対応は十分?
国の対応は、やっぱり建築基準法で定められた点検の義務ですとか、そういったものだけを扱っておりますので、屋外広告物の総量としてはまだまだ足りないのが現状ですね。
(過去に調査を行ったビルだけを対象にすると、無許可のものは?)
かなり、それ以上にあるというのが実態です。
●安全性を高めていくには、今後どうすれば?
屋外広告の業者、設置業者たちも、いろいろと官民含めて検討をしております。
その安全性をどう確保するか、そういう業者らの中でも登録をしてあってもそういう情報が伝わらない方たちもおりますので、そういった方たちも含めて抜本的な改革、安全性を得るための方策を考えていくことが必要だと思いますし、国は安全の基準、それを作っていくことも大事だと思います。
(すべての人に伝わるような仕組みを作るべき?)
そうですね、そういうことも必要ですし、そういう情報が伝わる組合ですとか、そういったところへの加盟ですとか、そういった所が広く安全に対する一人一人の業者の意識というものを高めていかなければならないことだと思っております。
●不特定多数が歩く公道の上の危険な構造物、対応はどうすべき?
これは、まず今あるものに関しましては、3年の更新だとか、そういう時期があります。
その時期に対して一定の時期にきたら、目視だけではなくて実際に中を見るような…費用はかかりますけれども、今、もうそこまでやらなければならない段階だと思っておりますので、そういうことも含めて進めていかなければいけない。
それから新しいものに関しては、工作物としての安全基準、それが少しあいまいになっている部分もありますので、それもしっかりとなんらかの枠組みを作っていかなければいけないと思っております。
●不安が高まると看板をどんどん撤去すべきという流れにもなりかねない?
そうですね。
屋外広告物、看板はですね、その地域固有の文化でありますし歴史もあります。
その中で、街のにぎわいをつくっていくうえで、これから景観をつくっていく、いろんな人々が地域の街づくりの中でのいろいろな重要な要素だと思っておりますので、そこを損ねてはいけないと思っております。
それを損ねないためには、まずは安全性をが第一になるということですね。