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2006-06-08 バビロンプロジェクトの元ネタが何なのか、もう一度考えてみる。

バビロンプロジェクトの元ネタが何なのか、もう一度考えてみる。

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Wikipediaで、『機動警察パトレイバー』のバビロンプロジェクトについて、「2006年1月29日 (日) 07:30の版」で記述が追加されていたので、もう一度検証してみようと思います。


手元に資料がないので、引用しているサイトより、「孫引き」。後で追って確認するつもりですが、引用の「孫引き」ということに留意します。これが正しければ、元ネタの一つとして東京湾フェニックス計画があることは確かです。

バビロンプロジェクトの詳細は以下に記載。これは伊藤和典著『風速40メートル』からの引用である。

バビロンプロジェクトの原型は、建設省が80年代に提唱した“フェニックス計画”である。東京湾首都圏から排出される大量の廃棄物で埋立て、官公庁や国際関係施設、および居住地に転用しようというプランだったが、主に東京都の反対によって凍結されていた。

その後、90年代に入って東京湾中部大地震で壊滅した既成市街地再開発が始まると、これから発生する大量の瓦礫の処分先に困った各自治体は、今度は東京都の提案で再開された“ネオフェニックス計画”に賛同することになる。

が、この計画は予想外の事態により大規模な変更を余儀なくされた。

気象庁よって検証された地球規模の気象変動、とりわけ温室効果による地球温暖化は両極の氷を溶かし、崩壊する氷山の容積が海水面を現在よりほぼ10メートル押し上げ、東京においては都心部のほとんどが水没することが判明したからである。

かくして、国家的規模による海岸保全計画、バビロンプロジェクトスタートした。

東京湾口堤防が完成すれば、首都圏を一周する大環状線が完成するばかりでなく、十数か所に設置された水門で潮流を利用した排水が開始され、海面沈下と埋立てにより十年後には東京湾に四万五千ヘクタールの用地が確保されることになる。


これは、21世紀を通しての首都圏の用地問題が一挙に解決されるに十分な面積だった。

※太字=筆者

機動警察パトレイバー/漫画版パトレイバーは篠原重工のOS開発の社史である


気になる点をいくつか。


フェニックス計画とはなんぞや?

フェニックス計画とは、そもそもなんなのか。


「大都市圏域における最終処分場確保の要請に対処するため,地方公共団体等が共同して利用する広域最終処分場計画」


まぁこんな話なのですが*1、ここから始まる話だと思います。


フェニックス計画というのは、広域最終処分場整備事業と呼ばれるもので、1987年4月に旧厚生省と旧運輸省が大都市圏の廃棄物排出量の増大と、地価高騰による用地確保の困難さから廃棄物の最終処分地の確保および、有効な土地利用を目的に計画されたもので、当初は東京湾フェニックス計画と、大阪湾フェニックス計画(正式名称:大阪湾圏域広域処理場整備事業)が存在しました。大阪湾フェニックス計画は、稼働していますが、元ネタとおぼしき東京湾フェニックス計画は、1998年11月18日に七都県市首脳会議において見送り、凍結となっています。東京都はイニシアチブをとろうとしない、千葉県は困る、埼玉県は海面を持っていない*2という状況の中でご破算になったようです。


フェニックス計画と災害廃棄物

広域最終処分場整備事業と災害廃棄物との関係については、大阪湾広域臨海環境整備センター所管の尼崎沖埋立処分場が1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災災害廃棄物を受け入れたという経緯があるので、パトレイバー世界で1995年*3に発生した東京湾中部大地震による災害廃棄物の受け入れというものが、現実に想定されるものです。


参考文献

大阪湾フェニックス計画(大阪湾圏域広域処理場整備事業)

大阪湾広域臨海環境整備センター

厚生白書平成元年版

厚生白書昭和56年版



確認 フェニックス計画がバビロンプロジェクトになった経過

孫引き引用に従えば、以下の通りになります。


1987年:広域最終処分場整備事業 「フェニックス計画」

 ↓

1995年以降:東京湾中部大地震災害廃棄物処理計画 「ネオフェニックス計画」

 ↓

国家規模的な海岸保全計画  「バビロンプロジェクト


ここで、疑問に上がるのが、「海面沈下と埋立てにより十年後には東京湾に45,000haの用地が確保されることになる」の記述です。なぜなら、東京湾フェニックス計画の当初計画は、500ないし600haの処分場で処分する計画であったので、その二つには大きく開きがあります。


前回調べたときに、国会質問に上がるレベルの計画の中で、一番大きい「東京湾コスモポリス計画」でも10,000haだったのでその大規模さに驚きます。


整理


進んでしまった現実から遡及して考えられるのは、バビロンプロジェクトが「海岸保全計画」の名の通り、海面上昇への対応に重点がおかれていたということにあります。なぜなら、先に述べた「東京湾コスモポリス計画」自体は、首都機能移転まで含めた規模であることを考えると、最大規模で有った可能性が高いからです。また、1995年に発生した阪神・淡路大震災災害廃棄物を受け入れた大阪湾広域臨海環境整備センター所管の尼崎沖埋立処分場に搬入された埋め立て容積は280万平方メートルに過ぎず、埋め立て用地に占める割合から計算すると、21haに過ぎないためです。45,000haとはあまりにも開きがある。東京都市規模を考えたとしても阪神・淡路大震災の2000倍被害規模が適正だと言うことには当然ならないのです。やはり、ここは廃棄物の最終処分地、災害廃棄物搬入、それに加えて「海岸保全計画」の役割が大きかったことが分かります。


干拓計画

「十数か所に設置された水門で潮流を利用した排水が開始され、海面沈下と埋立て」ということなので、この海面沈下とは、いわゆる干拓ということになります。干拓事業と聞いて思い出すのは、諫早湾八郎潟児島湾の三つ。


長崎県諫早湾の干拓事業、1989年着工、約942haを造成予定

秋田県八郎潟の干拓事業、1957年着工、1977年に竣工、約17,000haを造成

 岡山県児島湾の干拓事業、1899年に着工、1963年に竣工、約5,500haを造成


かなり大規模な八郎潟干拓事業の例を見ると、17,000haということですから、東京湾で45,000haの造成するというのも、全く飛躍しているというわけでもないようです。ただ、ここで注意しておきたいのは干拓した土地は軟弱であるため、宅地造成には向かないという点です。埋め立てだと面積は稼げないし、干拓だと上に構造物を建設するのには、向かない。そういう意味では、埋め立てと、干拓の組み合わせというのは、リアリティを持った展開といえるでしょう。


海上都市計画

また、バビロンプロジェクトは、首都圏の用地問題を一挙に解決するという話がありました。


木更津第1人工島です。最終埋立総面積450000平方メートル川崎沖合の第2人工島と並ぶ本計画の重要拠点のひとつで、これが終わればいよいよ工事の最終段階。ふたつの人工島を経て木更津川崎間をむすぶ総延長15キロメートルの大突堤建設が本格的に始まることになります。完成の暁には首都圏を一周する大環状線が開通するだけでなく、十数箇所に設置された水門で潮差を利用した排水を開始。海面沈下と埋立で10年後には東京湾に45000ヘクタールの用地を確保。21世紀を通しての首都圏の用地問題が一挙に解決されます。永遠の都バビロンコスモポリス東京をめざす文字通り今世紀最大の洋上工事計画バビロンプロジェクトというわけですよ。

機動警察パトレイバー/全台詞(06.6.08)


東京湾に海上都市建設するというコンセプトを考えた場合には、丹下健三黒川紀章らが1960年代に構想していた「東京計画1960」、「東京計画1968」を無視することもできないのではないか、と思います。「東京計画1960」、「東京計画1968」は、大友克洋の「アキラ」の世界観ベースになったといわれるものでもありますが、巨匠丹下健三というブランドネームと計画の模型を見れば、海上都市計画の一端を垣間見ることが出来ると思います。「東京計画」においては、船舶の航行用に運河を考えていたため、巨大な島といった印象ではなく、隙間が有る感じではあります。まぁ、海面上昇を考慮した話ではないので、当然とも言えます(笑)


以下に構想の写真が載ったページ。まぁ見てみてください(笑)

JDN/東京建築展−住まいの軌跡/都市の奇跡−(06.06.08)

KTA : 丹下健三・都市・建築設計研究所 作品(06.06.08)


結論

引用の通りであれば、バビロンプロジェクト元ネタは、1987年に旧厚生省、旧運輸省によって発表された「東京湾フェニックス計画」をベースに「東京湾コスモポリス計画」のような首都機能移転計画、「諫早湾干拓事業」、「八郎潟干拓事業」のような干拓事業を組み合わせたものである。

また、そのコンセプトの根幹には、丹下健三黒川紀章らの「東京計画1960」、「東京計画1968」のような海上都市計画を含めたものがあるといえるのではないでしょうか。

*1:厚生白書昭和56年

*2第145回国会 予算委員会第七分科会 第2号

*3:奇しくも同じ年になっています

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