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現代版「朝貢システム」か=「秩序覆す」習主席の戦略−中国〔深層探訪〕

時事通信 4月4日(土)8時29分配信

 中国が主導して設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に50カ国・地域が参加を表明した。習近平指導部はこの資金源を活用し、中国から欧州、アフリカを陸と海で結ぶ壮大な「シルクロード構想」(一帯一路)の下でインフラ整備を大々的に展開する。「中国のために国際秩序がひっくり返ろうとしている」(共産党機関紙・人民日報)。習国家主席が目指す世界観に注目が集まる中、中国を世界の中心と位置付けた歴史的な「朝貢システム」と絡めた議論も出ている。
 
 ◇「面子プロジェクト」
 習主席は3月28日、海南島でのボアオ・アジアフォーラムでの演説で、アジアの「運命共同体」構築を訴え、シルクロード構想やAIIBは「開放・包容的だ」と呼び掛けた。この「包容」という温和な言葉の中に、日米がAIIB参加に慎重にならざるを得ない理由がある。
 AIIBでは「包容」という理念の下、習主席自身は「各国が自主的に選んだ社会制度や発展の道をまず尊重する」と強調。この呼び掛けが、人権・環境問題などで融資審査が厳格な世界銀行やアジア開発銀行(ADB)を軸にした金融秩序に不満を持つ新興国や途上国を引き付ける一因となった。
 一方で習指導部は一党独裁体制の維持を最優先し、西側の民主的価値観の浸透を強く警戒している。世界最大の外貨準備と巨大インフラ市場をちらつかせて「友人」の輪を広げることで、共産党体制の影響力を世界に拡大させ、長期的な安定政権を構築したい思惑があるのは間違いない。
 「習氏の面子(メンツ)プロジェクト」。北京の改革派知識人は、中国が主導して先進国が参加する初の国際機関であるAIIBに関してこう言い切る。「中華民族の偉大な復興」を掲げる習主席は、欧米中心から中国中心の秩序への転換を本格化させ、先進国まで従える世界秩序の頂点に立とうとする戦略をあらわにしたという見方だ。
 
 ◇「共産党と世界の交渉の場」
 シンガポール国立大学の著名な中国問題専門家、鄭永年氏は3月下旬、北京での講演でシルクロード構想に関連して「朝貢体系とは実際のところ自由貿易体系だ」と述べた。中国メディアが伝えたところでは、鄭氏は「西側諸国は中国の『朝貢体系』を中国的帝国主義と見ているが、(実は対等・互恵的であると)『朝貢体系』に対する見方を変えるべきだ」と提唱した。
 中国中心の「華夷(かい)秩序」では、周辺国が王朝皇帝の徳を慕って朝貢し、皇帝が認める冊封という形を取れば、中国は内政・外交面で周辺に干渉しないのが原則。中国にとって周辺との緊張を回避でき、19世紀初頭まで世界最大の「大国」だった中国王朝の安定体制につながったとされる。
 習主席は「中国が最も必要とするのは安定した国内環境と平和的な国際環境だ」と繰り返す。東シナ海や南シナ海など周辺で摩擦が絶えないが、シルクロード構想などを通じて現代版の朝貢システム構築を念頭に置いている可能性も高い。
 日本は中国の地域戦略にどう向き合うべきか。先の改革派知識人は「AIIBは共産党と世界の交渉の場。親分にうなずくだけの機関は最も良くない。日米が入り、制度的問題に異を唱える必要性がある」と解説した。(北京時事)

最終更新:4月4日(土)12時19分

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