4月11日公開の映画『カイト/KITE』の原作者である梅津泰臣監督。
梅津泰臣監督が1998年に手がけたアダルトOVA『A KITE』は、日本国内はもちろん、その暴力描写や性描写がハリウッドなどの海外でも話題を集め、カルトアニメ化した作品である。そんな『A KITE』がこの度ハリウッドで『カイト/KITE』として実写化された。日本では4月11日より全国ロードショー公開となる。
今回、原作者である梅津監督に『A KITE』と『カイト/KITE』に対する思いを中心に、さまざまな思いを語っていただいた。
――12歳の時に両親を殺された少女・砂羽は、数年後、赤井の指示の下、殺し屋として生きている。その仕事は寸分の隙もなく華麗そのもの。だがある日、自分と同じ境遇の音不利と出会ったことから、砂羽の周囲には大きな変化が起こり始めるのだった。
『A KITE』は98年2月25日にグリーンバニーから発売されたアダルトアニメである。原作、脚本、キャラデザイン、絵コンテ、監督とほぼ一人で担当したのが、梅津泰臣監督だ。
梅津「オリジナルの企画をやりたいと思っていたんです。一アニメーターとして企画を通すのは、今もそうだけど当時も非常に困難だった。その頃、18禁アニメーションというのは非常に門戸が広かった。HシーンがあればなんでもOKというくらい、企画の振り幅が大きかったんですね。当時、一般作としては僕の企画は通りにくかった。18禁でなら作ることが可能だという状況が整ったので、そこで『A KITE』の企画を出したわけです」
日本国内販売においては18禁アニメであるため、バイオレンスと性描写に関してはなんら問題にならなかった。逆にセクシャルなシーンを入れることで確実な購買層を獲得できるというメリットがあった。女性を主役に据えて、女性にこびない作品を作ってみたいと考えていた梅津監督は『A KITE』の企画を提示する。
『A KITE』は、女性の殺し屋を主人公にした復讐劇である。殺人請負人である砂羽と音不利はクライアントの指示で動く。依頼主と殺し屋の間の見えない糸を凧に模して、タイトルは『A KITE』となった。砂羽たちは自分たちを縛る糸を断ち切り、自由を手にするのだ。
梅津「やりたかったのは、少女の復讐劇です。そこに後付けとして、アクションとバイオレンスを加えていった。18禁だからというわけじゃなくて、復讐劇を構成する要素として自然と付随してきた。僕が当時出した企画が、ほぼそのまま映像化されたのが『A KITE』です。『A KITE』や(次作の)『MEZZO FORTE』は、僕が映像化したいと思ったことはほぼできてます。多くの人がかかわるテレビシリーズは、オリジナルだからこそ出資者の意見が反映されるので、企画の内容が変貌することもあります。近年僕が作った『ガリレイドンナ』や『ウィザード・バリスターズ~弁魔士セシル』もオリジナル作品なので、厳密には企画当初そのままの形でオンエアされたわけではありません。特に『ガリレイドンナ』はかなり変わってますね(笑)」
それは今のクリエイターの自由度、アニメ業界の自由度がOVA全盛だった90年代よりも保守化しているということだろうか?
梅津「(保守化というわけではなく)今も昔もあまり変わっていないと思います。一個人の企画がストレートに形にはなりにくいだけで、18禁のジャンルが特殊なのかもしれません。OVAも本数が少なく、ビジネス的側面を重視する傾向がありますからね。乱暴に言えば、今はテレビか映画かの二択しかない。
映画は映画でしかできないこと、ビデオではビデオでしかできないことがあるでしょうから。僕はまだアニメで映画を監督したことはないので、実感としては言えないけど、イメージとして思うことはあります。『A KITE』はビデオでしか生まれなかったコンテンツかなと思う。テレビじゃまず無理だったろうし、映画でもできたかもしれませんけど、映画だと別の意味でもっと制約が入ったと思う。特にアニメは、ファミリー映画が主流だから。オリジナルの作品だとなかなか難しい。より多くのお客さんを呼ぶというのが映画の宿命だからね」
しかし、『A KITE』で梅津監督が描き出した世界は、非常に映画的である。劇場用作品のにおいがする。梅津監督は、あらゆる映画を嗜好してきたという。
梅津「映画は大好きで、なんでも観てますね。いつかは世代をまたぐ大河的なアニメを作りたいと思うくらい『ゴッドファーザー』が好きだし、ポール・バーホーベンというオランダの監督の映画も好きだし、ジェイムズ・キャメロンやマーティン・スコセッシも好きです。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も好きで、科学的な要素が詰まったロバート・ゼメキス的な作品もやってみたい。『ガリレイドンナ』は自然科学や空想科学的冒険SF物語をガリレオを題材に描いた物語なんですが、昨今のテレビアニメになかったジャンルなので、もっと視聴者に浸透すると考えていましたが……テレビは難しいです(笑)」
『A KITE』には、映画などにインスパイアされた要素が詰まっている。中でも核となっているのは、思春期に観たテレビドラマだという。
梅津「『A KITE』は、僕が子供のころに観ていた1970年代の時代劇や刑事ドラマが核になってますね。『大都会』や『傷だらけの天使』に『木枯し紋次郎』。『必殺仕掛人』から『新必殺仕置人』までの必殺シリーズ初期作品。当時僕が小学校高学年から中学生の多感な時期で、一番影響を受けたというのもあります。12~15歳で、ああいう大人のドラマを普通に観ていました。『A KITE』を作っているときは、自分の映画的な嗜好であるとか、当時のアニメ業界の決まり事とか、演出に対するアンチテーゼみたいなものも入れてアグレッシブに作ってましたね。
当時のCGは、アクションシークエンスには使われていなかったんですよ。今流行りのCGを使ったカリカチュアしたアクションというのはなかった。『A KITE』はせっかくアニメで作るんだから、アニメならではの突き抜けたディフォルメ趣向のものをやりたかったんですね。(影響された)色彩も鈴木清順の映画だったり。
『A KITE』を制作している前後はハリウッド映画だけじゃなくて、ヨーロッパの映画もたくさん観てました。レオス・カラックスやパトリス・ルコント、ダニー・ボイルなど。ゴダールの映画を観たときは、色彩のインパクトに圧倒されました。『A KITE』は、自分のオリジナル作品を監督できる久しぶりの作品【註:初監督は87年の短編『プレゼンス』】でしたから、いろんな想いをぎゅっと詰め込んだんです」