イランの核問題は、中東情勢のみならず、核なき世界をめざす国際努力や、世界の安保・経済を占う喫緊の課題である。

 国際社会が成否を凝視してきた欧米など6カ国とイランとの交渉が、大枠の合意に達した。決裂を避け、希望をつないだ双方の努力を評価したい。

 これから細部を詰め、6月末までに最終合意をめざす。長年の宿敵同士だった米国とイラン双方には依然抵抗が強く、予断を許さないが、最終合意の実現に全力を注いでほしい。

 近年の中東の混乱の背景には、イランと米国・イスラエルの根深い対立が影を落としてきた。1979年の革命以来、イスラム教シーア派の政教一致体制をとるイランは、スンニ派の地域大国サウジアラビアなどとも覇権を争っている。

 そのイランが核武装すれば、対抗する周辺国が連鎖的に核開発に走りかねない。イスラエルは軍事行動も辞さない構えで、中東の油田地域全体を動乱に陥れる恐れがぬぐえない。

 今回の合意は、イランの低濃縮ウランの量や、濃縮に使う遠心分離器を大幅に減らし、核兵器の材料を1年以内にはつくれないようにした。核施設への国際機関の立ち入りも認め、合意の履行を確認しつつ、米欧側は経済制裁を緩める。

 最終合意になれば、これまで孤立してきたイランが国際社会に復帰する足がかりとなろう。イランの影響力が強いイラクやシリア、イエメンの紛争収拾の模索にも追い風となり得る。

 しかし、米国では野党共和党が、そしてイランでは保守派がそれぞれ妥協に反対している。強硬姿勢を崩さないイスラエルのネタニヤフ政権や、イランへの不信感を募らすサウジの抵抗も重大な不安材料だ。

 どの関係者も、中東と世界の未来を見すえた理性的な熟慮が必要である。これ以上、中東で流血と難民の悲劇を深めてはならない。危うい核のドミノを広げてはならない。小異を捨てて交渉を進め、長い目で見た安定を視野に妥結を図るべきだ。

 かつて米国を「悪魔」呼ばわりしたイランでは今回、オバマ大統領の合意発表を国内にテレビで生中継する異例の措置をとった。長年の不信感が一気に氷解することはあり得ないが、この歩み寄りの歴史的な機運を逃してはなるまい。

 日本も到底、無関心ではいられない。ペルシャ湾への自衛隊派遣など中東での軍事論議をする前に、主要国が挑んでいる難題の外交解決に何とか貢献する道こそ探るべきではないか。