米国の強硬姿勢を受けて、朴大統領も習主席との会談で「参加します」とは約束できなかった。「韓国は中国がAIIB設立を提起したことを称賛するが、中国と意思疎通を保ちたいと述べるにとどめた」(14年7月4日中国国営の新華社通信)というわけで、あとは水面下で中韓間のすり合わせが行われてきた。
その中で、韓国側は「ソウルにAIIB本部設置という条件を提示した」(中央日報電子版14年7月14日付)という。中国が出資金の5割を出すというのに、ソウルに本部を、というのは、いかにも韓国らしい夜郎自大式発想だと思われがちだが、北京側はその言葉の裏を読み込んだに違いない。AIIBは朝鮮半島、つまり北朝鮮をカバーしろ、という意味だと。
中国は最後に「北朝鮮カード」を切った。3月27日の産経新聞ソウル支局藤本欣也記者電では、「韓国の企画財政省高官はAIIBの総会で認められれば北朝鮮にも投資可能だと打ち明けた」という。世界銀行やアジア開発銀行未加盟の国、つまり北朝鮮にはAIIB融資はできない決まりだが、中国が仕切る総会承認で可能にすると、北京は約束したのだ。
AIIB参加決定を受け、韓国の経済団体は早速、共同声明を発表、「韓国企業がアジア社会基盤の建設に主導的に参加できる道が開かれた」と歓迎した。現代グループなど北朝鮮開発に賭けてきた韓国企業にとって、この「アジア」とは「北朝鮮」のことだ。北朝鮮に強硬姿勢を貫く日本と米国はAIIB問題でますます結束して対応せざるをえない。 (産経新聞特別記者・田村秀男)