「歴史の歪曲(わいきょく)は国民のためにならない」。そう言って、沖縄返還をめぐる日米密約の存在を証言した元外務官僚が3月末、亡くなった。アメリカ局長などを務めた吉野文六(ぶんろく)さん。自民党政権時代の国会答弁を虚偽と認めた▼核の持ち込みをめぐる密約に切り込んだのは民主党政権だ。政権交代の成果の一つだろう。選挙で新たな担い手が登場し、過去のやり方を見直す。継続を断ち切って変化をもたらすのは民主主義の大切な作用である▼沖縄県民は昨年、まさに変化を選び取った。米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設していいのか。この問いに、県民は知事選と衆院選で明確にノーと答えた。新たな民意を背に、翁長雄志(おながたけし)知事はいま移設作業を止めようとしている▼菅官房長官は先日、知事の行動を「この期に及んで、極めて遺憾」と批判した。しかし、県民は政府の意向に沿った前知事の判断に異を立てた。翁長氏にしてみれば「この期」だからこその行動に違いない▼一昨日、大江健三郎さんら識者22人が緊急声明を出した。強引な政府の姿勢は「県民の意思を侮辱し、民主主義と地方自治を破壊する」と。確かに国と県は上下、主従の関係ではない。おとなしく従えというなら、はき違えだろう▼官房長官が知事と会うという。遅きに失したものの、対話は欠かせない。安倍首相も早く会うべきだ。むろん当事者は政府と県だけではない。安全保障は国民全体の問題である。そのことを改めて銘記し、初の会談を見守りたい。