挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です 作者:天野ハザマ

現れたもの

 超高濃度の魔力の渦。
 少しずつ収縮していくソレを見て、ヴェルムドールは口を開く。

「……何かを造ろうとしている、な」

 そう、その表現が一番正しいだろう。
 イクスラースより奪った力を元に、何かが組み上がろうとしているのだ。

「一体何が出来るというのですか……?」
「分からん。だが、イクスラースという手駒を捨ててでも使おうと思える何かなんだろうな」

 ヴェルムドールに抱えられたままだったゴーディは身体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。

「くっ……それにしても不甲斐ない。まさか魔王様のお手を煩わせるとは」
「構わん。あんな自爆攻撃じみたものに対処しろというほうが無茶だ」
「規模こそ違うかもしれませんが、私は対処しましたよ」

 そこに、転送光に包まれたイチカとニノが現れる。
 イチカはいつも通りの無表情で、ニノは少し居心地が悪そうな顔をしている。

「まあ、そう言うなよ……ニノはどうした? 珍しい顔をしているが」
「あのブルータスとかいう男の変身による被害を防げなかった事を悔いているようです」
「それこそ無茶だろう……気にするな、ニノ。あんなものは俺にだって、どうにも出来ん」
「……うん」

 苦笑するヴェルムドールに頭を撫ぜられて、ニノは小さく頷く。
 確かに魔王城は壊れたが、そんなものは直せばいい。
 ただそれだけの話に過ぎないのだ。

「それより、お前等が此処にいるってことは……」

 そのヴェルムドールの言葉に、イチカとニノは渋い顔をする。

「……いえ。どうやら、あの魔力の渦に力を飲み込まれたようでして。下で気絶しています」
「ニノの相手もそうだよ。いきなり魔人に戻った」
「……ほう?」

 どうやら、予想以上に力を集めているらしい。
 しかし、イクスラースの仲間である黒い騎士に関してはファイネルがすでに殲滅したという報告を受けている。
 ならば、その分の吸収は防げたということでもあるだろうか?

「……出るぞ」

 魔力の渦を注視していたサンクリードが、静かに呟く。
 その言葉と同時に、魔力が一気に収縮する。
 辺りを埋め尽くすかのような輝きと共に、鈍い輝きを放つ黄金の鎧が出現する。
 中身を闇で埋め尽くしたソレは、手に清浄な輝きを放つ銀色の剣を手にしている。
 一番似ているのは魔操鎧だろうが……どうも、それとも違うような気がする。

「……何アレ」
「さて、な」

 ニノの呟きにそう答え、ヴェルムドールはステータス確認魔法を発動させる。

名前:聖鎧兵
種族:神族
ランク:B
職業:???
装備:
浄剣
聖鎧
技能:
???(隠蔽)
完璧A
魔力感知A
詠唱破棄A
???

「……なんだ、これは」

 ステータスを見たヴェルムドールの口から出たのは、そんな言葉だった。
 まさか、と。そんな言葉が口をついて出そうになる。
 聖鎧兵。
 神族。
 そのまま流すには、あまりにも重要すぎる情報が並んでいる。
 何故このタイミングで出すのか。
 今まで暗躍を続けていた神の影が、ここにきて急に色濃くなる。
 何故だ。
 何故、このタイミングなのか。
 自問するヴェルムドール。
 しかし、答えが出るはずもない。
 すでにサンクリードは聖鎧兵へ向けて走りだしている。
 イチカとニノは、ヴェルムドールの前に立ち防御態勢をとる。

「……サンクリード、気をつけろ! そいつは恐らく神の尖兵だ!」
「ああ、了解した」

 サンクリードの剣に、闇の魔力が宿る。
 黄金の鎧に向けて振るわれた剣はしかし、弾かれ魔法剣の輝きを失う。

「……む?」

 訝しげに剣を見るサンクリード目掛けて、聖鎧兵の剣が振り下ろされる。
 しかし、そんな適当に振るったような剣が当たるはずもない。
 サンクリードは難なく回避し、今度は剣に火の魔力を宿らせる。
 振るった剣は聖鎧兵に命中し……やはり、その剣から火の魔力が消え失せる。

「なるほど、な」

 何度か違う魔法剣で同じ所作を繰り返し、サンクリードは理解する。
 どういう理屈かは知らないが、魔法剣が無効化されてしまっている。
 その為、本来ならば必殺となるはずの一撃もただの剣撃となってしまっているのだ。

氷槍撃(フリーズランス)!」

 ならばと放った魔法も、やはり聖鎧兵の鎧に弾かれ消える。
 魔力の技が通じない。
 これは魔法剣士にとっては力の半減どころの騒ぎではない。
 しかし、サンクリードは聖鎧兵を見つめ……もう一度、魔力を練り始める。

「……火よ」

 サンクリードの剣に、火の魔力が宿る。
 ただし、先程よりも遥かに強い。
 剣の耐えうる限界ギリギリまで火の魔力を込めた剣は、赤熱するかのように赤く輝いている。
 そのサンクリードの剣を見て……どことなく余裕ぶった緩慢さを見せていた聖鎧兵は自らの剣を構え直す。

「その態度……確かめる必要性もなさそうだな」

 赤く輝く剣を構え、サンクリードは走る。
 それを迎撃するべく、聖鎧兵の剣が薄い銀色の輝きを纏う。
 そして剣と剣が……魔力と魔力がぶつかり合う音が響く。
 弾かれるように後ろへ跳んだ聖鎧兵に、サンクリードは剣を持つ手とは逆の手を向ける。

爆裂弾(ボルカノンショット)

 放たれた爆裂弾(ボルカノンショット)は聖鎧兵の鎧の表面で炸裂し、しかし黄金の鎧の表面には傷ひとつついてはいない。

「……厄介だな」

 呟くサンクリード。
 その後姿を見ながら、ヴェルムドールを守るように立っていたニノが疑問符を浮かべる。

「どういうこと?」
「推測になるが……」

 ヴェルムドールは言いながら、手の中のベイルブレイドを眺める。
 恐らくは、先程のイースの技と同じなのだ。
 あの聖鎧兵の纏う鎧は恐らく、全属性を持っている。
 その為、どの程度かは分からないが……一定の攻撃を相殺してしまうのだ。
 だが、と思う。
 あの聖鎧兵は、黒騎士の力を吸収しそこねているはずだ。
 その分の弱点が、そこにはあるはずだ。

「……試してみるか」

 ヴェルムドールの手の中に、光の塊が生まれる。

光撃(アタックライト)

 放たれた光撃(アタックライト)は聖鎧兵に命中し、確かな傷跡を残す。
 そこには、先程までのような相殺はない。
 ということは、とヴェルムドールは考える。
 やはり、黒騎士……恐らくは闇の属性だったのだろうが、その分の力を吸収できなかったことで、足りていないのだ。
 となると、光属性の魔法があの聖鎧兵の弱点ということになる。
 そして、あるいは……ヴェルムドールのベイルブレイドならば、そんなものは関係なしに斬り裂けるだろうか。
 だが、イチカとニノはヴェルムドールを聖鎧兵に近づける事を許しはしないだろう。
 あの聖鎧兵が他に何を隠し持っているか判断できない以上、そんな危険に魔王自ら近づくことを許すはずがない。
 ……もっとも、ヴェルムドールがわざわざ出るまでもないだろう。
 サンクリードはすでに先程の一撃で、光属性の攻撃が聖鎧兵の弱点であることを看破している。
 魔法剣を光に切り替え、光属性の魔法で聖鎧兵に立ち向かっている。

 ……しかし、と思う。
 今後、完全なる聖鎧兵が出てきた場合はどうするのか。
 いや、間違いなく戦う時は来るだろう。
 今回は、こちらに準備が整っていたから勝てる。
 だが、もしも。
 もしも、今程戦力が整っていなかったらどうなっていたか。
 その時に、今のように冷静に状況を分析できていただろうか?
 それを考えると、ヴェルムドールはゾクリとする。

「……これで、トドメだ!」

 そして、サンクリードの一撃が聖鎧兵を真一文字に斬り裂く。
 聖鎧兵の中に溜まっていた闇が四散し、ただの全身鎧と化した聖鎧兵がガラガラと崩れ落ちる。
 同時に、サンクリードの剣が酷使に耐え切れず砕け散る。

「ご苦労、サンクリード。しかし、お前の剣に関しては早めに何とかしないとな」

 ヴェルムドールがそう言って溜息をつくと、サンクリードはヴェルムドールの手元を……正確にはベイルブレイドを、じっと見る。

「……俺の剣はやらんぞ?」
「そうか。残念だ」

 そう、ベイルブレイドはヴェルムドールの切り札だ。
 これをサンクリードに渡すわけにはいかないが……しかし、同等のものをサンクリードには用意する必要がある。
 そう、例えば……聖剣がもう一本あれば丁度いい。
 そこまで考えて、ヴェルムドールはふと気付く。

「ニノ。その辺りに薔薇の装飾の剣が転がっているはずだが」
「うん。あっちの隅っこに引っかかってる」

 言われてニノの指差す先を見ると、崩れかけた床の亀裂に挟まってルフィルソードがユラユラと揺れている。

「これはどうする」
「ん? そう、だな……」

 魔操鎧にレフィルソードを拾っておくように命令すると、ヴェルムドールはサンクリードが油断なく見つめているモノを見る。
 聖鎧兵の残骸。
 未だ強い魔力を放つソレはもう動かないようだが、普通に鎧として使うにはサンクリードが豪快に斬り過ぎた。
 剣のほうは無傷だが、とりあえずどちらも回収しておくべきだろうとヴェルムドールは思う。

「よし、回収してマルグレッテの工房に送ろう。何か面白いことになるかもしれん」

 そう言うと、手の空いている魔操鎧達が聖鎧兵の残骸を運び始める。
 ヴェルムドールにとっては魔力の強いだけのガラクタでも、マルグレッテならば何か使えるものにしてくれる可能性は高い。
 恐らく近いうちに、良い報告が聞けることだろう。

「あとは、戦後処理ってところか」

 言いながら、壊れた魔王城をヴェルムドールは眺める。
 天井は崩れ、曇天の空が見えている。
 正面の壁は盛大に崩れ、アークヴェルムの街が一望出来る素晴らしい眺めだ。
 更に床も大幅に崩壊し、魔王城は残骸一歩手前というところだろうか?

「……始まりの時を彷彿とさせる、な」
「あの時も此処までは崩れていませんでしたけどね」

 改修にかかる費用を考えて、ヴェルムドールはげんなりとする。
 ザダーク王国黎明期ならともかく、しっかりと国家経営をしている今では予算の都合というものがある。
 決済の必要な書類の数を想像するだけでも頭痛がしてきそうだった。

「……まあ、ともかく。これで何とか情報の糸口も手に入ったというわけだ」

 被害は大きかったが、その分得るものも大きかったとヴェルムドールは自分を納得させる。

「下に倒れてるとかいう連中は回収しとけ。あとは……そうだな」

 魔操鎧達に指示を出しながら、ヴェルムドールは玉座の近くに横たえられたイクスラースに近づく。
 気絶しているのは、実に丁度いい。
 これからする事には、今のヴェルムドールでは相手の同意か、あるいは相手が正常に抵抗できないことが条件として必要だからだ。
 ヴェルムドールはイクスラースの頭に触れ、すっと目を閉じる。

「さて……見せて貰うぞ」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ