「毎年4、5人は死んだよ」
昭和初期の小金井桜の花見
うちからチャリで10分くらいのところに玉川上水がある。ここにかつて東京で一番と評された、お花見スポットがあった。それが「名勝・小金井桜」である。今回は、この小金井桜の昔の花見を知る人のインタビューである。
その前にちょっと小金井桜を説明。
小金井桜とは江戸時代に玉川上水の堤に植えられたおよそ2、000本のヤマザクラのこと。当時は歌川広重に浮世絵で描かれるなど多くの文人・歌人に愛された。明治16年には天皇も見に来たほどの見事な桜であり、大正13年には国の名勝にも指定された。昭和初期の観光ブームの時には、西武新宿線の数少ない観光スポットとして臨時駅まで誕生した。それが現在の私の最寄り駅である「花小金井駅」である。
そんな大人気だった小金井桜だが、今は排気ガスと桜の高齢化によって、すっかり廃れてしまい見る影もない。
さて、前置きはこれぐらい。これからは先日、玉川上水沿いの釣り堀で会った82歳のおじいさんとの話である。
-小金井桜って昔は有名だったんですよね
「そうだよ。私が小さい頃は4月になると人で歩けないほど多かったね」
-小さい頃っていつ頃ですか?
「私が大正10年生まれだから、記憶にあるのは昭和の始め頃の話」
-だいぶ古いですね。
「そうだね。私が小さい頃から凄かったけど電車が開通してからよけいに人が増えたね」
-西武新宿線の開通が昭和4年でしたよね。
「そう、あとその少しに中央線が開通してそっちからも人が来た。あの頃はさ、みんな仮装して花見に来るの」
-仮装? どんな仮装ですか?
「侍とかひょっとこのお面とか被って来る。あれは電車の中から仮装してたのかなぁ…。侍の仮装をした人もさ、持っている刀が本物だった」
-本物?
「そう。あの頃は銃刀法違反もないから本物だったよ。そんで喧嘩になると、それを抜く」
-えっ! 死んじゃうじゃないですか?
「うん、昔の喧嘩はさ。半端じゃなかったからね。一升瓶で殴ったり、耳をちぎったりして、みんな喧嘩っ早いしね。だから毎年上水で溺れ死ぬ人も含めて4、5人は死んでた」
-花見で死人が出るんですか?
「そうだよ」
-その他にそういう話はありますか?
「そうだな、怖かったのが魚屋と床屋だな」
-えっ? なんでですか?
「魚屋はさぁ、毎月何日が休みって決まっているんだよ。そんで休みになるとみんなで花見にきて、そこで包丁でもってその場で魚を裁いて花見客に売るの。それで、あいつらはまた喧嘩っ早いから、酒飲んでいると喧嘩になって包丁で出てくる」
-な、なるほど床屋は?
「床屋も一緒。あの人たちは花見に来て、花見客の髪を切る。だからカミソリを持ってるでしょ。それで飲んで喧嘩する」
-カミソリと包丁と本物の刀、とんでもない花見ですね?
「今じゃ信じられないだろうけどね。私はまだ10歳くらいだったから怖くてね。毎年、床屋と魚屋が来る日はみんなで軒先の武器になるような農具を隠して、私は畑の奥に逃げていた」
-周りの家はどうだったんですか?
「この辺はみんな農家だったけど、4月だけは別だった。みんな家の軒先を都心から来る商売人に金取って貸して、自分らは納屋みたいとこで暮らしてたよ。4月の儲けだけで農家の半年分くらいあった」
-そうなんですか。
「農家の中でも海苔巻きやゆでたまご、後お酒とか売る人もいたよ。当時は誰でもお酒を売れたしね」
-そうか、法律が違いますもんね。
「後はね、今はガソリンスタンドになっちゃったところに「柏屋」っていう2階建ての宿があった」
-ふーん。それにしても仮装した人がいて、露店もいっぱい出る。魚屋や床屋も来る。通りは人で歩けない。喧嘩もいっぱいあった。本当に今では想像もできないですね。何で廃れちゃったんですか?
「う〜ん、昔は桜を近所の若い奴らで消毒とかもしてたんだよ。大事な商売道具だからね。でも戦争から帰ってきたら変わってた」
-戦争?
「詳しいことは分からないけど、この玉川上水の隣りを走る五日市街道は、所沢の飛行場まで繋ぐ輸送路として米軍が整備しちゃた。アスファルトにさ。だから、戦終に花見して寝っ転がっていたら米軍に怒られた」
-それで何が変わったんですか
「五日市街道が広がっちゃったからね。堤の形が変わっちゃった。昔は玉川上水があって堤があって道があって、そこでみんな花見してたけど今はそんな場所はない」
-それで廃れちゃったんですね。
「花見をする場所がなくなっちゃったからね。後は桜が寿命だったんだろうね」
-寂しいですか?
「私はあの馬鹿騒ぎが嫌いだったから寂しくはないんだよ。それにしても今思い出しても昔は凄かったなぁ」
偶然出合ったおじいさんから聞いた話はすごい内容だった。小金井桜に関する資料など沢山ある。しかし、こういう生の情報はなかなか出てこないものだ。死人が出る花見、喧嘩で血が飛び交う花見。昔の花見ははどうやら命がけだったようだ。昭和初期の人々は何事も命がけだったってことか…。それにしても、どんな花見だよ!
(了)
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