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さようなら竜生、こんにちは人生 作者:スペ / 永島 ひろあき

第二十一話 デンゼルとドラン

さようなら竜生 こんにちは人生

第二十一話 デンゼルとドラン

 ガロア魔法学院への入学の意思を固めた以上、私のやる事はもう決まっていた。
 マグル婆さんが使い魔を使ってすぐに連絡を取ってくれた為、デンゼルさんは質素な作りの実用性一点ばかり茶色い箱馬車に乗って村にやって来た。
 デンゼルさんは私の父と同年代の壮年の男性である。
 デンゼルさんが村に到着したその日、マグル婆さんの使い魔の一体黒猫のキティを介して呼び出しを受けた私は、ディアドラの黒薔薇を手入れする手を休めてすぐにマグル婆さんの家へと足を向けた。

 マグル婆さんの調合棟の屋根から伸びる煙突からは、薄紫色の甘い香りのする煙が立ち上っていて、息子の帰省にもかかわらずマグル婆さんが今日も自分の仕事に精を出しているのが見て取れた。
私は勝手知ったる庭内を進み、調合棟の扉の横に置かれている丸椅子の特等席の上で丸くなっているキティに、にゃあ、と挨拶をしてから調合棟の扉を開いて足を踏み入れた。

「マグル婆さん、ドランです」

 マグル婆さんは入ってすぐの大部屋の中央に置かれたテーブルの横で、椅子に深く腰掛けたまま、皺に埋もれた眼差しを私に向ける。
 風土病、魔物、自然災害、異民族と日々生命の危機があらゆる形で襲い来るこの辺境で、村の人々の命脈を保ち続けてきた魔法医師の瞳には、老齢から来る衰えは微塵もなく深い知性とこちらの胸の内を見透かすような輝きが宿っていた。

「呼び出して悪かったね、ドラン。不肖の息子がようやく到着したんで、早速呼び出させてもらったよ」

 デンゼルさんは学院での長期休暇や父親の命日などには村に帰って来るし、また私がマグル婆さんの弟子である事もあり、年に数日は顔を合わせている。
 テーブルを挟んでマグル婆さんの向かいに立っているデンゼルさんは、最後に見た新年の時と変わらず壮健な様子であった。
 デンゼルさんの顎先や鼻と唇の間を飾る髭はよく手入れが行き届き、針金でも通しているかのようなぴしりとした背筋と佇まい、そして金糸の刺繍で縁取られたケープや右手に握られた黄金の鷲の頭飾りがついた杖といった服装と相まって、紳士然とした風格と気品がある。
 獲物を見定める猛禽類の如く鋭いデンゼルさんの瞳が、私の顔を映すと少し柔らかになった。

「久しぶりだな、ドラン。ようやくお前が私の誘いに応じてくれる気になってくれて、嬉しいぞ」

「色々と思う所がありまして、少し身の丈に合わない野心を抱いてみました」

「まあ、立ち話もなんだ。ドラン、ここにお座りな。今、お茶を淹れてあげるからね」

 マグル婆さんの手招きに応じ、私とマグル婆さんとデンゼルさんとで三角形を描く位置に置かれた丸椅子に、私は腰掛けた。
 私が着席するのに合わせてデンゼルさんも椅子に腰かけ、ほどなくしてマグル婆さんが白い湯気を吹く青い水面のお茶を三人分用意してくれた。
 すっと鼻梁の奥まで瞬時に爽やかな香りが吹き抜けて、どんな睡魔に襲われていようとも一瞬で目が醒めるような清涼感が私の嗅覚を満たした。

「今日の主役はドランだ。婆は口だしせんで話だけ聞かせて貰おうかね」

 マグル婆さんはそれだけ言うと手ずから淹れたお茶に口を付けはじめ、これ以上私とデンゼルさんの話に参加する意思がない事を表明した。
 私はマグル婆さんの弟子ではあるが、既に成人した大人であるし、また魔法に関しても免許皆伝のお墨付きを貰っている。
である以上、私が決めた事に師としても村の年長者としても口を挟むつもりはないらしい。

「では早速だがお前の我がガロア魔法学院への入学の件だが」

 マグル婆さんの淹れた青いお茶を一口飲んでから、デンゼルさんは余計な話を挟まずにずばりと本題を切り出してきた。
 背筋を正して真摯な姿勢で話を聞く態度を取る私に、デンゼルさんはゆっくりと話し始める。

「既に学院では入学式と進級式を終えている。だが素質のある者が見つかり、その者が希望するのならば魔法学院はこれを歓迎するのが創設以来のしきたりだ。
 もちろんただ素質があるだけで入学できるほど、規律の緩い場所でも無い。一度学院に足を運んで筆記と実技の試験、それに面接を受けて貰ってお前の能力を学院に証明してもらう事になるだろう。
 とはいえかねてから私が推薦していたし、またエンテの森での一件で学院長ご自身がお前に目を掛けている事もあり、不合格になる事はまずあるまい。
 もともと学院の教師などからの推薦であれば、よほどの事が無ければ不合格にはならんしな」

 魔法の素養がある人間は全体的に少なく見つければ積極的に勧誘している、と以前耳にした事があったが、実際デンゼルさんの言う通り勧誘を受けたり推薦を受けたりした者ならば、まず入学は出来るのだろう。
 現役の教師であるデンゼルさんとオリヴィエ学院長の推薦がある以上、私の魔法学院入学はほぼ決定と考えてもよさそうだ。
 仮に推薦が無かったとしても、筆記と実技なら問題はなかった自信はある。もっとも面接だけはどう転んでいたか、まったく想像もつかないけれど。

「にしてもドラン、学院長が郷里に戻られた時にお前に出会い、さらには魔界の者達からの侵略の魔の手を退ける手助けをしたと聞いた時は口から心臓が飛び出るかと思ったぞ。
 小規模な軍勢の侵略であったとは言うが、森の民らの苦境に駆けつけて見事な働きをしたというではないか。
 お前の魔法の才能が尋常でない事は知っていたし、昔から魔物や蛮族相手にも物怖じせずに戦う子だと思っていたが、よもや魔界の魔性共を相手にしても変わらんとはな。正直、お前を過小評価していたらしい」

「はは、あれはエンテの森の戦士達と共に戦ったからこそです。私はほんの少しお手伝いをしただけですから」

 ふむ、どうやらオリヴィエは私が魔兵を指揮していたあの堕ちた戦神を討った事までは、デンゼルさんに伝えていないようだ。
 その事を他者に伝えたとて何かオリヴィエに利益があると言うわけでも、また不利益があると言うわけでもなさそうだが――そもそも信じる者はほとんどいないだろう――、あのウッドエルフの賢者は私に対する疑いを自分の胸の裡に仕舞う事にしたようだ。
 私としても余計な風聞を広められるような事は避けたいから、ありがたい判断ではあるが、それとも不穏分子を自分の目と手の届く所で監視する意図でもあるものか……。

「そう言えばデンゼルさん、クリスティーナという女生徒の事を知っていますか? 長い銀髪に血のように赤く鮮烈な瞳を持った、長身のとても綺麗な少女です。
 エンテの森では彼女も共に戦ってくれました。サイウェスト村でオリヴィエ学院長と互いに面識があるようでしたので、ひょっとしたらデンゼルさんも御存じなのでは?」

 私がクリスティーナさんの名前を出すと、これまで私達のやり取りにだまって耳を傾けていたマグル婆さんが、ほんのわずかにぴくりと肩を揺らした気配がした。
 血の繋がったデンゼルさんやディナさんでも分からない様な、人間ならぬ知覚を有する私でも無ければ気付けない様な微細な反応は、村長同様にマグル婆さんもまたクリスティーナさんの素性を知っている事を何より雄弁に物語るものだ。
 そしてデンゼルさんの反応はより顕著だった。かすかに眉根を寄せると黒手袋をはめた左手で顎髭を擦り、どう話したものか悩む素振りを見せたのだ。

「クリスティーナか、彼女はガロア魔法学院でもかなりの有名人だ。まあ、なんだ、色々と事情のある生徒でな。本人はいたって真面目で才能豊かな実に優秀な生徒だよ。
 お前が彼女と縁を結んでいたとはこれも予想していなかった事だ。クリスティーナからは彼女自身の事をどの程度聞いている? 
 彼女の事情はいささか知る者を選ぶものだ。彼女自身が誰よりその事を理解しているから、おいそれと吹聴はしないはずなのだが」

「一応、命懸けの戦いを一緒に戦い抜いた仲ですから、人並み以上に親しくはなったと思います。とはいえほとんど事情を聞いてはいません。
 ただ産まれた時から貴族としての暮らしをしていたわけではない事。幼い頃は国内の様々な所を旅していた事。既に母親が亡くなっている事。
 それにあまり今の家族と上手く行ってはいないらしい事。ざっとこんな所でしょうか。村に来た時より随分と明るい表情を見せてくれるようにはなりましたが、私が知っているのは以上です」

「そうか。うむ、まあ、その程度の事なら問題はないか。だが魔法学院での彼女の生活態度を考えると、お前は随分と打ち解ける事が出来たようだな。
クリスティーナはあの美貌とずば抜けた実力で学院の生徒達から人気があるが、他人を寄せ付けない雰囲気と他者と壁を作る態度を意図的に取っているから、あまり気心の知れた学友というものがおらん。
 お前が入学する事が出来たなら、彼女の事を気にかけてくれるとありがたい。もっともこれは私の個人的な願望だがな」

「それは私としても望んでいる事です。クリスティーナさんとは奇妙に馬が合いましたからね」

 それにしてもクリスティーナさん、教師から見ても友達が少ないと認識されているのか……。
 デンゼルさんの話とクリスティーナさん本人の性格などを鑑みれば、自分からそうしているようだが、それほど家の事情が重いものなのだろうか?

「そう言ってくれるとありがたい。試験に話を戻すが、急な話になるがお前には私と一緒に魔法学院に来て貰って、すぐに試験を受けて貰う事になる。
 試験に向けての時間はほとんどないが、お前の実力なら問題は無いだろう。お前の都合が気になる所だが、どうだ?」

「ふむ、問題はありませんが、なにか用意しなければならないものはありますか?」

「筆記用具に関しては私の方で用意する。もちろんお前が普段使い慣れている物を持って行って構わんよ。
 実技試験で使用する杖などは全て魔法学院で用意した物を使うのが決まりだから、お前が普段使っている杖は使えないから、注意しなさい。
 後はそうだな、ガロアに向かうまでの道中の着替えや護身の為の武器の用意くらいか。
 もっと時間の余裕を持たせてやりたい所だが、進級式からあまり日が経っていない方がお前も他の生徒と馴染みやすいだろう。さて、何か他に聞きたい事はあるか?」

「いえ、私がもっと以前から入学の意思を伝えていれば良かった話ですから、気にしないでください。一応確認を取らせて欲しいのですが、魔法学院に入学した場合、私は寮で暮らす事になりますよね」

「ああ。学院の生徒は寮に入る決まりとなっている。中等部からの入学ならば高等部までの六年間を過ごすのが通例。
 だがお前の学力と魔法の実力を考慮すれば、高等部の一年生かあるいは二年生からの入学も十分可能だ。
 お前はこの村から離れる事を理由に、これまで入学を渋っていたようだが、成績や業績次第では飛び級する事もできる。こればかりはお前の努力次第ではあるがな」

 上手くやれば一年で卒業もできると言うことだろうか。
 村から離れなければならないという現実は、私にとって入学を決めた今となっても胸の中で消せぬしこりとなっている。
 それから私はもう一つ、絶対に確認しなければならない事をデンゼルさんに問うた。

「デンゼルさん、私は今村に住んでいるラミアの少女と親しくしているのですが……」

「うん?」

「実はベルン村を離れる話をしたら、彼女も私と一緒にガロアに行きたいと言う話になりまして、無理お願いをしていると自覚はあるのですが、ラミアの彼女を共に魔法学院に通わせる事は可能でしょうか?」

 私の無理な話にデンゼルさんはしばし瞑目する。私への解答を頭の中で纏める為には、幾許かの時間が必要なようだった。
 私はベルン村を離れる話をした時に見たセリナの悲しみ、寂しさ、そして共に行こうと決めた時に見た、輝かんばかりに美しい笑顔を思い出しながら、デンゼルさんの答えを待った。

「お前の口利きでこの村にラミアが暮らし始めた事は知っていたが、よもや魔法学院に同行させたいと望むほどの仲になっているとは、流石に想像もしなかったぞ、ドラン」

「彼女、セリナと言うのですがセリナを村に受け入れた責任もありますし、正直に言えば魔法学院に一人で行くよりは二人の方が何かと心強くありますね」

「お前がそんな繊細な神経をしているわけがあるまい。そのセリナというラミアが危険でない事は、村の皆の態度と話から十分に分かる。
 だがラミアは人間を始め亜人種を襲う事がままある魔物だ。魔法学院はおろかガロアに入る事さえ容易では無い。
 ただし彼女達が人間の従属下にあるというのなら話は別だ。使い魔の事は当然知っているな? セリナをお前の使い魔とするのならば連れて行く事は、まあ、出来るだろう」

 むう、使い魔か。マグル婆さんの所の黒猫のキティやジャイアントクロウのネロ、ジャイアントモールのベティが思い当たるがセリナを使い魔にするというのは、ふぅむ。
 マグル婆さんの授業によれば、この時代の魔法使い達にとって使い魔は小動物や猛獣、魔物のみならず自身が制作した魔法生物やホムンクルスなどでも構わないらしい。
 ただ倫理面から人間や亜人を使い魔とする事は強く禁じられている。
 ラミアは魔物であるからこの定義に外れるので、使い魔としても特に問題が生じるわけではないのだろう。

 使い魔化した動物や魔物は主との間で精神が一部接続され、言葉に依らない思念での会話が可能となり、五感の共有や使い魔の知性や魔力の増加、逆に主の方も使い魔が有する記憶や知識を得ることもできる。
 使い魔が主からの命令に逆らえないのに対し、現在の私とセリナの関係はセリナの意思を無視して服従させる術を施しているわけではない。
 あくまでセリナが村に居続けているのは本人の自由意思によるものだ。
 村に連れ込んだのが私の意思に依る所が大きいのは否定できないが、それでもセリナは村を出て行こうと思えばいつでも出て行けるのである。
 だがそれも一度使い魔とその主となれば、そうも言えなくなるのか……ふんむ。

「もしお前がセリナをどうしても連れて行きたいというのならば、彼女に使い魔になって貰う他に術は無い。それにしてもそんなに一緒に来て欲しい相手なのか?」

「先程口にしたのが理由のほとんどですよ。ただ、そうですねセリナはとても愛らしい外見をしていまして、そんな彼女が涙で瞳を潤ませながら一緒に行きたいと懇願してきたら、世の男性のほとんどは断れないでしょうね」

「お前はなんとなくそう言う色仕掛けは一切通じないと思っていたが、案外人並みに色恋に興味はあるのか? それにしてもラミアを村に受け入れてそこまで懐かれているとは、ドラン、お前にはモンスターテイマーの素養があるのかもしれんな」

 瞳の深奥を好奇心でらんらんと輝かせるデンゼルさんは、私を一人の人間と言うよりは興味深い研究対象であるかのように見ている。
 新しい魔法薬の開発や、魔法の開発に意欲を燃やしている時のマグル婆さんも良く似た瞳をする。研究者という人種は、誰しもが少なからずこう言った倫理や道徳からかけ離れた一面を備えているものなのだろう。
 デンゼルさんが口にしたモンスターテイマーというと、魔物や魔獣を魔法で意のままに操る魔法使いか、あるいは特有の調教術などで魔物などを飼いならす部族に与えられる称号だったはずだ。
 前者であるなら特に個人の素養に大きく左右されるから、ラミアであるセリナを村に連れ込んだ私にモンスターテイマーの素養を見るのは無理のない事か。

「ラミアのように人間と変わらぬ知性と高い魔力を持った魔物を使い魔としているのなら、入学するに当たって更に高い評価を得られるだろうが、そう簡単に決めるべきではないだろう。
 重ねて言うがお前は私以外にも学院長からの推薦もあるからな。試験の合格はほぼ決まったも同然だ。慌てて使い魔の契約を結ぶ必要はない」

 更に話を続けて、教えて貰った事を簡単に纏めるとこうだ。
 私がガロア魔法学院に入学するに当たり、試験を受ける必要がありそこでの成績次第で学費免除かあるいは奨学金の授与などの待遇が決まり、その後の成績次第でこれらの待遇も変わる。
 デンゼルさん曰く私の学力なら高等部の二年生くらいから始められ、また成績次第では三年になる前に飛び級で卒業もできる。
 私としては嬉しい話だ。学院卒業後の展望も大きく開けようし、なにより私自身の努力次第で結果をいかんとも変えられると言うのが私の気に入った。
 何事も自身の努力で未来を切り開く方が私としては好みなのである。

「分かりました。セリナへは使い魔の件を話しておきます。入学が決まった後、彼女と正式に契約を結ぶかどうか決めるべきでしょう」

「自らの意思と知性を持った相手が居る話だからな。使い魔としての契約の話は、あまり無理強いはするな」

「そうします」

 とはいうものの実はセリナにはこの会話を中継している。
 使い魔の話が出た時には既にセリナから、若干の戸惑いや期待などと共に、ドランさんの使い魔ならなってもいいです、という返答が返ってきており、セリナの家に戻って返答を貰う必要はなかったりする。
 一通り話が終わった所でデンゼルさんは、すっかり冷めきったお茶に口を付けて、あっという間にそれを飲み干した。
 どこか疲れたように見せるその仕草に、私はデンゼルさんらしからぬものを感じた。

「どうかしましたか? 私の入学の話がデンゼルさんにとって、何か負担になっていましたか?」

「う、む。実は、これはあまりしていい話ではないのだが、お前と母さんの口の堅さを信じて話す。
 知っているとは思うが魔法学院は王都の本校のほかに東西南北に一校ずつ、全て合わせて五校存在しておる。
 それぞれに独自色があるのだが、実は本校を含めたこの五つの学院は互いを競争相手として認識しているのだ。
 基本的には根が同じ組織であるから表だっていがみ合う様な事はしないが、教師や生徒の中には他校と張り合おうという考えの者が少なくない。
 そして三年前に南の学院に、一年前に西の学院にそれぞれ十年に一人と言われるほどの天才が入学してな。
 それに加えて元より生徒と設備の質と量で頭一つ飛びぬけていた王都の本校や、東方との交流で独自色の強い東の学院に比べ、我がガロア魔法学院は一歩遅れた形になっていると言わざるを得ん」

「つまり、他の学院に比べて遅れを取っている分、魔法使いの素養がある子は熱心に勧誘していて、素養ばかりでなく魔界の者との実戦経験があってマグル婆さんやデンゼルさんに教えを受けている私は、点数稼ぎにちょうど良い?」

 横目でちらっとマグル婆さんを見ると話を聞いていない素振りは変わらずだったが、その過ごしてきた年月が刻んだ皺深い顔には不満の色がありありと見えた。
 愛弟子の一人である私が各魔法学院に利用される形になっている事に、不満を抱いているのかもしれない。
 この様子では以前からあったデンゼルさんからの魔法学院入学の推薦も、この母と息子の間ではそれなりにすったもんだがあったのではないだろうか。

「うむ。優秀な生徒を輩出すれば当然学院全体の評価に繋がり、王国から降りる予算も増すからな。実際の所、ドランよ、お前は西と南の天才とも張り合えるだけの能力があるかもしれん。
 特に西の生徒は今年の春から高等部の二年に進級する。同じ学年のお前ならちょうどいい対抗馬になるというわけだ。
 しかもお前は私と学院長の推薦を受け、さらにはエンテの森を侵略していた魔界の者と一戦交え、これまで交流の無かった森の民達との交流の道を開いたという実績がある。場合によってはラミアを使い魔とするかもしれない、というおまけも付いていると来た」

 言われてみると確かになんともはや異常な経歴である。
 他校に比して遅れを感じているガロア魔法学院のお偉方にとっては、私は降って湧いたように都合の良い生徒と言うわけか。
 実際入学試験で多少失敗しても、目を瞑って私を入学させるのではなかろうか? 入学させてしまえばあとは幾らでも処置の使用はある、と言う意味でだ。

「でもガロアにもクリスティーナさんのような優秀な人もいるでしょう」

「う、む。彼女か。確かに彼女は学生の中でも最高峰の能力を持っているが、本人の性格とちとやんごとない事情があってだな」

 思いきり苦いもの含んだ表情になるデンゼルさんの様子と言葉から、クリスティーナさんが紛れもなく優秀な生徒である事の確認は取れたが、まあ確かに他人から注目を浴びる事を率先してしようという性格ではないか。
 ふむ、にしてもデンゼルさんの口ぶりからすると、クリスティーナさんほどに優秀な生徒は他にはあまりおらんということだろうか? 
 学院の裏の事情を話してくれたのはデンゼルさんなりに負い目を感じていたからだろうし、あまり責める気にはなれない。
 そういった事情があるのなら、私が入学する時やその後もなにかしら便宜を図ってくれるのではなかろうか、という打算もあった。私もすっかり人間らしい考え方が身についたものである。

「なるほど、では出立の用意と挨拶をしてきます。そう言えば使い魔の契約を結ぶ方法は御存知なのですか?」

「ああ、私と母さん、それにディナも儀式は知っているからな。試験の合格通知に関しては、三日以内に私が伝えよう。
 それまでの間にセリナと使い魔の契約に関する話を済ませておくと良いだろう。魔法学院での使い魔の定義については、魔法学院への道中で詳しい事を説明する。
 それと村を出るのは夕方になってからでも間に合うから、そう急がなくても大丈夫だぞ」

「分かりました。それとマグル婆さん、お茶、ごちそうさま。美味しかったよ」

「そうかい、そいつは良かった。ラミアのお嬢ちゃんとゴラオン達にはちゃんと家を空ける事を伝えるんだよ」

「もちろんだとも」

 さあ、ガロア魔法学院に着いたら私の人生の新たな扉が開く。そしてその扉の先には何が待っているのか。私は多くの期待とほんのわずかな不安を抱いていた。
遅くなりました。最近文量が短くてすみません。
誤字脱字を修正しました。
邪部そとみち様、no_nemo様、藤乙様、ご指摘ありがとうございました。
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