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時論公論 「異次元金融緩和から2年 その効果は?」

今井 純子  解説委員

 日銀が異次元と言われる大規模な金融緩和に踏み切って、あさってで(4日)2年。黒田総裁は、「2年で2%、物価を上げる」ことで、デフレ脱却、日本経済の再生を目指すと断言しましたが、思惑通り、効果はでているのでしょうか。また、この目標は、今後、どう考えていったらいいのでしょうか。今夜は、この問題について考えてみたいと思います。

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【スタートダッシュは成功】
(2年前異次元緩和に踏み切る)
 今から2年前の4月4日。就任直後の黒田総裁が打ち出したのが、デフレからの脱却、経済の再生をはかるために、「2年程度で、2%の物価上昇率を目指す」という目標。そして、そのために、「世の中に出回るお金の量を2倍に増やす」という、それまでとは、規模も手法も異なる、「異次元の金融緩和」でした。

(強く反応したのが、円安・株高)
それから2年。強力に金融緩和を進めるという日銀の強いメッセージに、最も強く反応したのが、マーケットでした。一ドル=93円だった円相場は、120円前後に。そして、1万2000円台だった株価は、一時、2万円に迫る水準まで上がりました。
 
(閉塞感を払しょく)
 この急速な円安・株高で、輸出企業を中心に大企業の業績は上がり、株高で富裕層も豊かになりました。ベアゼロが当たり前だった春闘でも、去年、大企業で、6年ぶりに基本給の引き上げ=ベースアップが復活しました。異次元の金融緩和は、失われた20年の間に、日本を覆っていた閉塞感を、払しょくさせる、ショック療法的な効果はあった。スタートダッシュには成功したと言っていいでしょう。

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【2年たって、目標達成は絶望的】
(ゼロに戻った消費者物価)
 しかし、目標として掲げた、物価はと言いますと、狙い通りにはいっていません。
こちらが、物価の推移です。このうち、赤い部分が、去年4月以降の、消費増税の影響を除いた分。日銀が指標としている物価の推移です。2年前、ゼロより下。つまり、下がり続けていた物価は、円安で輸入品の価格が上がり始めたことを受けて、上昇に転じました。そして、1年前には、いったん、1.5%まで上昇しました。ここまでは、黒田総裁の狙い通りに進んだ形です。しかし、去年の夏以降、原油価格が下がったことで、上昇の勢いが弱まり、今年の2月には、ゼロとなりました。指標を見る限り、「2年で2%の物価上昇」という黒田総裁の目標達成は、絶望的なようです。

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(黒田総裁は、目標達成を強調)
 これに対して、黒田総裁は「一時的な原油の影響を除くと、物価の基調は、着実に改善している。今の時点では、2%の物価安定の目標を、2年程度を念頭において、できるだけ早期に実現することが最も大事だと思っている」として、2年2%の旗を降ろしてはいません。

【「2年2%」は、絶対的な目標なのか?】
 しかし、経済にとって、そして、私たちの暮らしにとって、物価が2%になれば、よいことで、2%に達しなければ、悪いことなのでしょうか?

(円安による物価上昇は、生活にも経済にもマイナス)
 急激な円安で、私たちの身の回りでは、特に、生活に欠かせない食品や日用品の値上げが、相次いでいます。その勢いに、賃金の伸びが追い付かず、さらに、消費増税も加わって、実質的な賃金は、19カ月連続でマイナスに陥る事態となっています。多くの消費者にとっては、重い負担です。この結果、消費増税の後、政府や日銀が想定していた以上に、消費が落ち込み、2014年度のGDPは、マイナス成長に陥った見通しです。

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(原油安で、一息)
 むしろ、その後、原油価格が下落したことで、値上げラッシュの痛みが一部和らいで、私たちが、生活に息をつくことができたというのが、多くの人の実感でしょう。
 きのう発表になった、日銀の短観を見てみても、大企業の製造業の景気判断は、横ばい。非製造業は、若干、改善しました。確かに足踏み状態ではありますが、前回の調査では、3カ月先、つまり今の時点の景気については、いずれも、悪化すると見込んでいた。そこから考えると、原油価格の下落などを受けて、少なくとも下げ止まった形です。

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(大事なのは、経済・暮らしの向上)
 大事なのは、なりふり構わず、物価を上げることではなく、経済がよくなり、多くの人の暮らしがよくなることです。2%の物価上昇は、目的でなく、結果のはず。方向性は正しくても、2年という短い期間では、円安頼みにならざるをえない黒田総裁の目標設定そのものに、限界があった。それが2年たって、明らかになったということではないでしょうか。

【明るい材料も】
では、日銀は、これからどうしたらいいのでしょうか。異次元の金融緩和から3年目に入ろうという今。先行きについて、明るい動きも見えています。

(賃上げ)
 一つ目は、賃上げの動きです。今年の春闘では、大企業は、2年連続、しかも去年を超えるベースアップで決着しました。賃金引き上げの動きは、中小企業や非正規の社員にも、広がりつつあります。

(原油安)
 そして、2つ目は、原油価格が下がった恩恵が、これから広く浸透してくることです。原油の下落は、物価という点では、短期的には、黒田総裁の足を引っ張っていますが、経済全体にとっては、大きな追い風です。ガソリンや灯油の値下げ、また、これからは、電気代、原材料費などのコストを引き下げ、地方や中小企業を含めて、経済の後押しとなります。

(経済は好転)
物価も、消費増税から一年たって、前年比では、増税分の影響がなくなります。そこに、基本給が上がることで、今後、実質的な賃金もプラスになるという期待が、高まっています。働く人たちの懐が温まれば、消費も、回復していく。4月からの今年度、GDPは、実質で1.8%とプラスの成長になるのではないか、というのが、主な民間エコノミストの予測の平均です。そうなると、賃金の引き上げに後押しされる、よい形で、物価が上がっていく道筋も見えてくるのではないでしょうか。

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(「2年2%」の目標の見直しが必要)
 こうした気配が見え始めた今。一番大事なのは、賃金を上げ続けることができるよう企業自ら力を付けること。そして、それを後押しする成長戦略です。日銀が、デフレ脱却の旗を掲げ続けることは大事ですが、「2年2%」にこだわる必要はあるのでしょうか。もしここで再び追加緩和に踏み切って、これ以上の円安が進めば、せっかくの原油安の効果を吹き飛ばすことになりかねません。消費が再び冷え込んでは、本末転倒。経済の再生には、かえってマイナスです。
よほど、景気が冷え込む緊急事態が生じない限り、ここは、追加の緩和は、慎重に出番を控えて、黒田総裁は、もう少し、長いスパンで、賃金が上がる形での、2%の物価上昇をめざすよう、目標を見直すことが必要な時にきているのではないでしょうか。

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【まとめ】
 もともと、金融政策だけで、日本経済の再生を果たせるわけではありません。経済の活力の源は、企業です。また、異次元緩和をいつかやめるときに、金利が上がるといった混乱を防ぐためには、財政の健全化も必要です。日銀による異次元緩和のカンフル剤の効果がまだ続いている間に、企業も政府も、本当の意味で強い日本経済をつくる改革に取り組むことが求められている。そのことも、忘れてはいけないと思います。

(今井 純子 解説委員)
 

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