年度末だったので、こないだまで「書類に欄があるから血液型を調べて下さい。」
という患者さん(の保護者)が何人かいました。
保育園・幼稚園・学校の書類以外でも防災頭巾や名札なんかにも、
血液型を書く場所を設けています。(検索してあまりの多さにちょっと目眩しました。)
だからお子さんの血液型を知らない保護者の方が、心配になってしまうんですね。
でもね、血液型を知らないと危険だということはありません。
例えばそういった記載を元に医師がお子さんに輸血を行って
間違いがあった場合は、確実に医者の責任が問われます。
血液型を書いた持ち物が、確実にその子のものかどうかわかりません。
兄弟姉妹のおさがりとか、お友達との取り違えがあり得ますからね。
書類、名札だけでなく、保護者が「この子はA型です。」と申告してさえ、
その情報だけを元に輸血をすることは、絶対にありません。
どんなに緊急時でも。
入院患者さんでも、過去入院中に血液型検査をしていても、輸血する際には
必ず交差試験(クロスマッチテスト)をするのです。
超低出生体重児で未熟児貧血治療中でさえ、血液型を確かめるために輸血時は採血します。
間違ったら死んじゃうからです。
だから、いざという時のために調べておく必要はないんです。
(大人の患者さんでの超緊急時に血液型の情報が不確かな時は、クロスマッチをしながらO型の赤血球と
AB型の血漿を輸血することはあるようです。)
また、血液型をなんらかの理由で伏せておきたいというご家庭もあるでしょう。
養子縁組であることをもう少し成長してから話す予定なので、知らせたくないとか
まあ、私もNICUで働いていたので知りましたが、その他にも事情ってあるんですよ。
そういう場合、保護者以外にお子さんの血液型を知らせる必要があるでしょうか?
そういった人達にとって、血液型は大変な個人情報です。
簡単に書くことはできないし、役に立たないなら尚更他人に知らせたくないはず。
「少しでも子どもに関したことは知っておきたいから。」という人もたまにいます。
実際に外来でお会いしたことはないけれど、Twitterで「自分の子どもの血液型を
知りたくて、なぜ悪い」ってメンションを飛ばしてくるんです。
子どもに関することで知るべきことと、それを知るためにどのくらいお子さんが
デメリットを受けるかのバランスが大事じゃないですか?
健康なお子さんに、知りたいからという理由で肝臓の生検をするかって言うと
絶対しないですね。侵襲が大きい一方、メリットがないからです。
そういう話を外来で一人ひとりに説明して、「それでも私は知りたいんです。」
と言われると大変、徒労感があります。
私1人が今やらなくていいですよと言っても、他院に行って検査する人もいるでしょう。
どうしてそこまでして知りたいのか理由を聞いたことはないんですが、NICU時代に
垣間見たような複雑な事情なんでしょうか。
尋ねない代わりに、そうなんだと思うしかありません。
そして、実際にじゃあ血液型を調べましょうってことになった場合、
お子さんに話しても3歳以下だとこういった事情を理解するのは、まず無理です。
10歳でも「注射はイヤ、何を言われてもイヤ!」って子もいます。
なので、採血に協力してくれないとナースや助手さんがお子さんを抑えますね。
動いたら危ないからタオルでグルグル巻きにしたり、上に乗っかったりします。
子どもは本気で抵抗して、大暴れの大泣きです。
待合室でそれを聞いている保護者のあなたは、
「やっぱり必要ないならやらなくてよかったかな。」って後悔しませんか?
16歳になったら献血ができます。
その際には献血手帳をもらい、血液型もわかります。
それまで待てない、どうしても知りたい、でも痛い思いをさせるのは可哀想という
方は、小児科で病状から必要があって血液検査をしますという時に追加してもらうのは
どうですか?必要がある項目は保険(実質無料)で、必要性はないけれど知りたいな
という血液型は自費での検査になります。
自費診療は医療機関によって金額が違います。
そういう際には、聞いてみてください。
大事なことなのでもう一度言いますが、
書類、防災グッズ、名札の血液型は空欄にしておいて全く問題ありません。
以前にアメブロで書いた同様の記事。
ご指摘頂き、空欄ではなく「不明、不詳あるいは未検」でもいいと思います。
書き漏れではなくて敢えて書かないということがわかりますね。