ツイッター 東海本社編集局
公式アカウント。静岡県内のニュースを主につぶやいています。
静岡沼津の出版社発行の古書雑誌復刻◆金沢の出版社 実現に20年
戦前に沼津市の出版社が発行し、地方の愛書家の熱い支持を得ていた古本界の情報雑誌「図書週報」を、金沢市の出版社「金沢文圃(ぶんぽ)閣」が復刻、一〜三巻(全十巻)を出版した。監修した国立国会図書館利用者サービス部司書の小林昌樹さん(47)は「こうした業界誌は図書館に残っていない。出版事情や社会風俗を知る貴重な資料です」と語る。 図書週報は一九三〇(昭和五)年、沼津市に住んでいた渡辺太郎(故人)が出版社「古典社」を設立し発行を開始した。小林さんによると、渡辺は東京で出版関係に勤めた後、沼津に戻り労働運動に参加。二八年の共産党一斉検挙で捕まって転向し、古典社を始めるとともに週報を発行した。その後、こうした雑誌がブームになり、先駆けの役割を果たしたともいえる。
週報は新刊本のニュースとして週刊でスタートしたが、読者の要望もあって古本の情報が入り、さらに地方からの出版、読書界情報、発禁一覧、研究文献目録、エロチックな本類などさまざまな情報が載せられ性格を変えていく。「週報は公式の図書館にはなく、インターネットの検索にもかからない書物・情報が載っています」と小林さん。 金沢文圃閣代表の田川浩之さん(46)は「出版を思い立って二十年目、やっと実現しました」と振り返る。東京で出版社勤めをしていたときに週報の存在を知り「研究に必要な資料だ」と思った。その後、故郷の金沢に帰り一九九九年に同社を設立。古書店経営を兼ねながら昔から興味のあった出版史などさまざまな歴史資料を復刻してきた。
二〇〇四年ごろ、古本を求めて店にきた小林さんと知り合った。小林さんが初期のころの週報を古本屋で購入していたことから、田川さんが以前入手していた後期の分などを合わせて、全号がそろい復刻することにした。しかし、全体を解説する人が見つからず結局、書誌に詳しく古本コレクターでもある小林さんが解説を書き、同社が出している出版、書誌、書物メディア史のシリーズ「文圃文献類従」の四十二番目の書として復刻した。 同社は、これまで満州国出版目録(全八巻)、全国貸本新聞など戦後の大衆の読書を支えた貸本関係の資料集成(全二十四巻、別巻六)、戦前期の台湾出版目録など図書館や研究者に必須の資料を発掘、復刻してきた。文献探索人叢書(そうしょ)なども出版している。実績は国内よりむしろ海外で高い評価を受け、特にフランス国立図書館は同社の文圃文献類従をすべて購入する契約を結んでいる。日本研究の盛んな米国コロンビア大学なども多数購入しているという。 ◆実態知るのに貴重柴野京子上智大文学部准教授(出版流通論)の話 出版物は東京中心でこぼれ落ちるものが多く、特に戦前の地方の読書界は見えにくい。その実態を知るのに有意義な復刻です。金沢文圃閣の地道な復刻事業は社会史やメディア研究にとって貴重です。 (小寺勝美) PR情報 おすすめサイトads by adingo
|
|
Search | 検索