中国が主導して設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、約50カ国・地域が参加する見通しとなった。事業の公平性や意思決定の透明性が確保されるかどうかなど課題は多いが、中国がアジア経済圏で影響力を一段と高めるのは間違いない。
アジアは世界の経済成長の中心となったが、「法の支配」の理念の浸透や共通のルールに基づく経済の秩序づくりは、まだ道半ばである。中国は国内でも法の支配の徹底や透明性の向上に及び腰で、その存在感の高まりがこの地域の経済秩序づくりにマイナスの影響を与える懸念はぬぐえない。
だからこそ、日米が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)を早く実現しなければならない。貿易や投資、金融サービスなど幅広い分野で明文化したルールをつくり、力が強い国や声が大きい国の独善的な判断が入り込まない枠組みを築くべきだ。
AIIBは金融機関であり、TPPは通商協定である。とはいえ全く別の領域の話だと考えるのは誤りである。2つの構想はどちらも、明日のアジア経済秩序のあり方を大きく左右する可能性を秘めながら、現時点では全く異なる道筋を示している。
参加国が対等な立場で共通のルールをつくるTPPは公平性と透明性が高い枠組みになるはずだ。国際標準となりうるそのルールを先んじて固める必要がある。こうしたスピード競争の側面を日米両国の政権は肝に銘じるべきだ。
交渉は最終段階に入っているのに決着が遅れているのは、米オバマ政権が米議会から通商交渉の権限を取得できないでいるためだ。与党の民主党議員の大半は権限付与に反対し、多数を占める共和党の一部にも反対派がいる。
オバマ大統領は一般教書演説で「ルールは我々が築く」と宣言した。言葉だけでなく議員の説得に全力をあげてほしい。夏までに交渉が決着しないと、TPPの実現は来年の米大統領選が終わった後にまでずれ込みかねない。
安倍首相は今月末の日米首脳会議に向け腹をくくるべきだ。TPPの核となる日米協議にめどがつけば、オバマ政権の背中を押し、米議会の理解も得やすくなる。
AIIBへの参加を見送った日本は、国際標準のルールを重視するよう中国に外部から促していかねばならない。そのためにもTPPの枠組み完成は欠かせない。