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 著作権の保護期間の延長に反対する日本劇作家協会の副会長、劇作家の平田オリザ氏(52)に聞いた。

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 著作権の保護期間を死後70年に延長すれば、作家のモチベーションが上がるという主張がありますが、そんなことはあり得ません。延長しても自分の収入になりませんから。米国のディズニーに代表されるグローバル企業がもうかるだけなのです。

 私は保護期間は死後20年くらいでいいと思っています。女房には迷惑をかけているけど、(著作権使用料で)孫の生活まで面倒をみるつもりはない。それが、私たち劇作家の一般的な意見ですね。

 日本の演劇界はチェーホフ(1860~1904)が40代で亡くなったおかげで保護期間が早く切れ、彼の作品をほとんど無償で自由に改変して上演してきました。そのことが、日本の演劇界の発展に非常に寄与しました。

 一方、保護期間が切れていないテネシー・ウィリアムズ(1911~83)の作品「欲望という名の電車」を、日本の劇団が「女形」でやろうとしましたが、遺族に拒否されました。テネシー・ウィリアムズはゲイだったので、遺族はそのことを強く気にしていて、日本文化の女形を理解せずに、ちゃかしているように思ったのです。

 私も一昨年、サルトル(1905~80)の作品の上演を断られました。フランスのノルマンディー国際演劇祭から「出口なし」の上演を委嘱され、主役をロボットにする内容で準備したのですが、著作権を受け継いだサルトルの養女から反対されたのです。

 これはフランスの演劇界でも大きな問題になりました。サルトルは自作をロボットが演じることを想定していなかったと思いますが、数十年たてば新しいメディアや科学技術が生まれます。それをふまえた上演が、人類の進歩や芸術文化の発展に寄与するものであっても、一遺族の意思で否定されてしまうのです。