グーグル:東大で「青田買い」 AI技術流出に日本危機感
毎日新聞 2015年04月02日 07時30分(最終更新 04月02日 13時03分)
「優秀な学生を紹介してほしい」
米IT大手グーグルの役員ら約40人が東京大学の本郷キャンパスを訪ね、人工知能(AI)を研究する大学院生らのリクルートを始めたのは数年前のことだ。学生たちに提示した条件は年収約15万ドル(約1800万円)で、日本のサラリーマンの平均年収の4倍以上。豊富な資金力で研究に不可欠なスーパーコンピューターへの投資も惜しまず、世界最先端の研究者たちと切磋琢磨(せっさたくま)できる環境もある。松尾豊・工学系研究科准教授は「優秀な学生から引っ張られていく。国内産業の将来を考えると日本にとどまってほしいが、行くなとは言えない」と話す。
グーグルは、2013年にはカナダ、14年には英国のAI企業を買収するなどの動きも活発化させている。その狙いについてグーグルは「よりよい社会、世界の実現を目指す」などとしているが、経済産業省幹部は「ものづくりでも覇権を握ろうとしているのではないか」と警戒する。
AIは近い将来、ものづくりのさまざまな分野で心臓部になるとされる。自動運転の分野では、車載カメラやセンサーなどが検知した歩行者や信号、道路、建物などの車外情報を運転者に代わって判断し、自動のブレーキやハンドル操作につなげる。誤作動なく車を動かすにはAIの性能が大きく左右する。今後、市場が急拡大するロボットでも操作の中核を担う。
実際、グーグルは自動車分野に触手を伸ばし始めた。12年春には、トヨタ自動車に自動運転技術の共同開発を打診。世界のITと自動車の巨人同士が手を結ぶかに見えたが、「トヨタが目指すのはあくまでドライバーのサポート。無人運転を目指すグーグルとは自動車への思想が違った」(トヨタ幹部)ことから提携交渉は頓挫。これを受け、グーグルは米国トヨタの自動運転開発のメンバーを複数引き抜いた。
グーグルだけではない。自動運転への参入がうわさされる米アップルは最近、日産自動車の北米開発チームの現職マネジャーを引き抜いた。独自動車大手は、東工大の長谷川修准教授が設立したAIベンチャー「SOINN(ソイン)」が開発した、自動運転の実用化ソフトを取り込む計画だ。