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■筒井康隆(作家)

 小松左京に紹介されて桂米朝さんと会った時からもう五十年以上になる。当時小松さんが米朝さんと連続対談をしていたラジオ大阪の番組に一度だけ呼んでもらったことがあるのだ。主に民俗学的な話題だったと思うが、お二人の博識に圧倒され、せいぜいギャグを二、三発とばすだけだった。その小松さんも今は亡く、米朝師匠も逝ってしまった。歳(とし)をとるとこんな寂しさがあるとはなあ。

 小松さんが親分肌の兄貴分なら、米朝さんは博識でお茶目な従兄(いとこ)、面白いことをいっぱい知っている親戚のお兄ちゃんという親しみが持てる存在だった。のちにご子息を含む多くのお弟子さんを持ち米朝一門と呼ばれたのも、教養や人徳もさりながらあの親戚の誰かを思わせる親しみやすさがあったからではないだろうか。しかも困った時にはずいぶんと頼りになる相談相手でもあったに違いないのだ。交際範囲は広く、動物学者だったわが父とも親交があった。古典の素養は驚くべきもので、文楽や歌舞伎に詳しく、晩年新聞に連載されていた上方芸能に関する蘊蓄(うんちく)などは誰も及ばない筈(はず)だ。

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