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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー

第二百十四章 箱庭のワルツ

日付が変わったのでネタばらしをしますと、今回の話は「間違えて三話投稿の三話目を投稿しちゃってネタバレ満載! どうしよう!」という回りくどいエイプリルフールネタで、二百十二章と二百十三章は初めからありません

投稿の順番間違えてますよ、とメッセージ等で教えてくれた方たちはどうもありがとうございました!
こういう真面目で善良な人ほど今回のネタは読めないというバグがあったので予定より少し長く置いておきます

人の善意を踏みにじる割と珍しいタイプの本作ですが、完結まであと少しですので懲りずにお付き合い頂ければ幸いです


――――

※重要※
三話連続更新最後の一話になります
本日21:00より第二百十二章、第二百十三章を続けて投稿していますので、未読の方は必ずそちらを先にお読みください
「邪神が、食わ、れた……?」

 為す術なく立ち尽くす俺たちの前で、蒼い髪が、揺れる。

「…ん。ごちそう、さま」

 封印のくびきから解き放たれた邪神を、ほんの瞬きの間に消し去ったリンゴは……いや、リンゴと呼ばれていた少女は、そう、いつものように言い放った。

 だがそれが、恐ろしい。
 この異常すぎる状況にあって、普段と何も態度が変わらないことこそが、俺には何よりも恐ろしかった。

 向かい合い、見つめ合う俺とリンゴ。
 その間隙に割り込むように、

「ありえ、ない! 邪神を、邪神の欠片を、食べる、なんて! あれは、あれは……!」

 自失から立ち直ったサザーンが、思わずといったようにリンゴに詰め寄ろうとする。
 もちろん、邪神に対するサザーンの思い入れを考えれば、それは自然なこと。
 だが、それはたとえようもないほどの悪手だ。

「駄目だ、サザーン!」

 リンゴが指先をサザーンの方へ向けるのを見た瞬間、考えるより早く、身体が動いた。
 刹那、リンゴの指からほとばしった雷撃が、一瞬前までサザーンの立っていた地面を打つ。

「ぐっ!」
「そ、ソーマ!?」

 間一髪、俺はサザーンを抱きかかえ、雷撃の射線上から退避させることに成功していた。
 だが、避け切れなかった雷撃が一筋、俺の肩をかすめる。
 焼けつくような痛みに、顔をしかめた。

「……大丈夫、だ」

 腕の中、心配そうに俺を見るサザーンに、笑いかけてみせる。
 実際、大した傷ではない。
 しかし……。

 ――雷撃の威力が、大幅に上がっている。

 かすめただけで、これだ。
 もし直撃していたら、と思うと震えがくる。

 このパワーアップは、邪神を食らったからなのだろうか。
 あるいは、これがもともとの……。

「ソーマ! あ、あいつは、あの女は一体、なんなんだ?!」

 サザーンの悲鳴のような叫び。

「それ、は……」

 彼女は、リンゴだ。
 俺の前に突然現れたバグった少女で、シェルミア王女のデータを持つ女の子。

 そう、ずっと思ってきた。
 そう、ずっと信じてきた。

 けれど、本当にそうなのか。
 もし、この世界の成り立ちが俺の推測した通りなら、彼女は……。

「…ソーマは、おかしいと、おもわなかった?」

 穏やかにささやきながら、青い瞳の少女は指を閃かせる。
 その度にほとばしる雷撃。
 遠距離に放つことが出来る通常攻撃という、猫耳猫にあってあまりに異質な力。

 ――そうだ、異質。

 リンゴの雷撃は、あまりにも猫耳猫のルールと違いすぎる。

 そして、なぜだろう。
 単なる通常攻撃のはずなのに、同キャラであるはずの真希は、今まで雷撃を使えたことはない。

 それは単なる適性や、ゲーム慣れのような問題かと思っていた。
 だが、そうではないとしたら?

「…ソーマしか、シェルミアをしらない。なぜ?」

 静かな問い。
 だが、それは俺の胸を激しく打ち抜いた。

 シェルミア王女、という名前を俺は自分自身の口以外から聞いたことがない。
 でも、それはだって、真希の短冊の力で、記憶が入れ替わったからで。


 ――本当に?


 胸の内から沸き上がった疑問の声に、俺は何も言い返せない。

 だって、短冊の願いが発動したと思われる七夕の日。
 それよりの時点にだって、俺はシェルミアという名前を一度も聞いたことがない。

 シェルミア王女の名を聞かなかったのは、本当に、短冊の願いのせいだったのか。
 あるいは、最初からこの世界には……。

 惑う俺の心の隙を突くように、リンゴは、青い髪の少女は、嗤う。

 無表情のまま、楽しそうに。
 嗤う。嗤う。嗤う。

 そして、

「…きおくそうさは、といた。おもいだせる、はず」

 瞬間、弾ける記憶。

「あ、あぁあああああ!」

 思い出した!
 思い出した思い出した、思い出した!

 シェルミア王女。
 リトラル王国の若き王女。

 彼女は七人いる主人公の、ゲームキャラクターの一人。
 ただし、それは猫耳猫では、なく、

「別のゲームの、キャラクターだ……」

 呆然とつぶやいた俺に、彼女は、〈リトラル王国興亡記Ⅲ〉の主人公、シェルミアの姿を持った彼女は、「せいかい」とささやいた。



 シェルミア王女は、リトラル王国興亡記Ⅲという、猫耳猫とは違ってRPG要素のほとんどない、完全アクションゲームのキャラクターだ。
 威力が低く、その代わりに連射性能の高い遠距離攻撃である雷撃を通常攻撃に持ち、そして、異次元の怪物を呼び出して、全てを捕食する必殺技を使う、プレイアブルキャラクター。

 猫耳猫のキャラクターとは毛色が違って当然だった。
 だって彼女は、彼女の戦闘技能は、猫耳猫とは全く別の系統のものなのだから。

「待て、待てよ! 何が、どうなってるんだよ!
 ここは、お前の言う『ねこみみねこ』とかいう『ゲーム』の世界なんじゃなかったのか?!
 だったら……!」

 混乱するサザーンに、俺は力なく首を振った。

「……違うんだ。その前提がまず、間違ってたんだ」

 どれだけ信じがたくても、証拠はもう、そろっている。

「この世界は、確かに『猫耳猫』のゲームにそっくりだ。
 でも、基になっているのは、『猫耳猫』のゲームそのものじゃ、ないんだ。
 この世界は、俺の記憶。俺の中にある『猫耳猫の記憶』から作られた世界だったんだよ!」
「な、に……?」

 俺だって信じられはしない。
 だが、そうでなければ、つじつまが合わない。
 俺たちが、ver1.06で修正されたはずのバグ、〈天駆けるアラームワープ〉で俺たち三人が天空都市に侵入出来たことの説明がつかないのだ。

「まさか自分の記憶違いが、世界の真実を呼び込むことになるとは、ね」

 自嘲気味に、吐き捨てる。
 そうでもしないと、心が折れてしまいそうだった。

「おかしいとは、思ってたんだ」

 世界を、世界として構築するためには「バグ」という要素は明らかに不要だ。
 なのにこの世界には、たくさんのバグが、それも、俺が攻略に利用していたものばかりが完全な形で残されていた。
 それは、明らかに不自然だ。

 でもそれも、この世界が「ゲームの現実化」ではなく、猫耳猫というゲームを、「バグを内包した世界」であると認識していたゲーマー、つまりは「俺の主観を具現化」したものであると考えれば、説明はつく。

「じゃあ、ここは、いや、僕たちは……」
「…ん。ソーマのもうそうが、かたちになったもの」

 おそるべき、そして想像もしていなかった真実。
 それに必死に抗うように、サザーンは反論する。

「ま、待て! マキだ! マキがいる!
 あいつは、ソーマと同じ世界の人間で、だから妄想なんかじゃ……」
「…それも、ちがう」

 サザーンの必死の抵抗を、リンゴは一言で切って捨てる。
 棘の一切ない、いや、むしろ憐れんですらいるような口調で、淡々と語る。

「ほんもののマキは、げんじつのせかいにいる」
「な、に……?」

 本物の?
 じゃあ、じゃあ、俺たちと一緒にいる真希は、短冊の力によってこの世界にやってきた真希は……。

「…ゲームのもうそうと、おなじ。あれは『ふしぎなたんざくによってこのせかいにまきがやってきた』という、もうそう」

 そう、だ。
 俺は、王都で真希が王女になっていると聞いた時、短冊のことを思い出して、まるで物語の伏線のようだ、と思った。

 だが、実際は、逆だ。
 願いを叶えるようなアイテムが、そうひとところにゴロゴロとしているはずはない。
 あれはただの短冊だった。

 でも、その短冊を覚えていた俺は、「妄想」したんだ。

 表層的には、意識をしていなかったのかもしれない。
 真希の名前を聞いた時に初めてその可能性に思い至ったように、自分でも錯覚していたのかもしれない。

 ただ、確かなことは、一つだけ。
 俺は、想像した。
「あの短冊が特別なもので、真希が現実世界からこの世界に俺を追いかけてきてくれるかもしれない」なんて、都合のいい妄想を、心のどこかでしていたんだ。

 そんな、理屈を。
 あるいはサザーンも、理解してしまったのかもしれない。
 そんな、とつぶやいたきり、その場に崩れ落ちた。

「サザーン……」

 俺は彼女に何か声をかけようとして、でも、出来なかった。
 そう、彼女だって、俺の妄想が生み出した存在なのだ。

 その姿かたちも、性格も、バックボーンも、全て猫耳猫をプレイした「俺」が考え出したもの。
 無意識の創造主だったと言ってもいい。

 そんな俺に、一体どんな言葉がかけられる?
 一体どんな言葉をかける資格がある?

 この世界で、俺によって「妄想」されたモノでないのは、たった一つ。


「…ソーマは、よく、やってくれた」


 ――リンゴ。

 バグによって俺の前に裸で現れた少女。
 俺は、ほかの全ての出来事について、「実際にそうなる」とは考えていなくても、「そうなるかもしれない」程度のことは意識下、無意識下において、考えてはいた。

 だが、ただの一回、リンゴとの出会いに関してだけは、想像も妄想もしていなかった。
 彼女は、彼女だけは、俺が唯一、「想像すらしていない存在」なのだ。
 だと、したら。

「お前は、誰なんだ? お前の目的は、なんなんだ!?」

 シェルミアという皮をかぶり、俺を陰に日向にと支えてきた、彼女は一体、なんなんだ?

「…わたしはかりとるもの」
「刈り取る、者……?」

 おうむ返しにつぶやいても、もはやリンゴは一顧だにしない。

「…あなたがそだてたしゅしは、りっぱなきになった」

 何も伝わらないまま、何も分かり合えないままに、

「…もう、あなたは、ひつようない」

 明らかな敵意を、いや、殺意を持った指先が、俺を示す。

 まさに、一触即発。
 しかし俺には、まだ確かめなければならないことが、あった。

「待って、くれ。戦う前に、最後に一つだけ、聞かせてほしい」
「…な、に?」

 ほんの少しだけ、緩む警戒。
 そこに押し込むように、俺は言葉を叩きつける。

「これまでの時間は、リンゴとして過ごした日々は、本当に全部、何から何まで、演技、だったのか?」
「――!?」

 その質問は、確かに彼女の虚を突いたらしかった。
 一瞬、本当に一瞬だけ、彼女の鉄面皮が崩れる。

「頼む! 聞かせてくれ!」

 これが俺の、本当に訊きたかったこと。
 世界の真実だとか、彼女の目的だとか、本当はどうでもよかった。

「なぁ、リンゴ。俺たちは、ずっと長いこと、一緒に冒険してきたよな」
「…………」

 リンゴは、答えない。
 それでも俺は、声を張り上げた。

「楽しいことも、つらいこともあった。楽なことばっかじゃなかったし、迷惑をかけたり、かけられたりもした!」

 でも、それでも、確かにあの時間はそこにあった。
 かけがえのない、大切な時間として、そこにあった。

 だから、縋る。
 縋りついて、「妄想」する。

「あれは、俺たちを騙すための、嘘っぱちだったのか?」

 だって、考えてみれば。
 世界が安定して、自立したのであれば、もっと早い段階で俺は必要なくなっていたはずなのだ。

 なのに俺を今まで殺さなかったのは、もしかして、あの日々を彼女も大切にしていたからなんじゃないかと。
 俺たちと一緒にいて、楽しかったからなんじゃないかと、そんなありえない仮定を妄想する。

 だから俺は、叫ぶのだ。
 ありえない妄想を、ご都合主義の願望を、それでも声高に、ぶつけるのだ。


「――なぁ! あれは本当に、全部が全部、嘘だったのかよっ!」


 俺の、その、渾身の叫びに……。


「…あたり、まえ」


 リンゴはあっさりと、あまりにもあっさりと、うなずいてみせる。
 そうして、言ったのだ。

 全てを終わらせる言葉を。
 俺の信じた世界を、根底から否定する、その言葉を。



「――だってきょうは、エイプリルフール、だから」



 そしてその言葉が、ゆっくりと脳にしみわたって、

「ああっしまったー! そーいえばそーだったーっ!!」

 そうして俺は、心なしか誇らしげにふむんっと胸を張るリンゴに、「本来エイプリルフールは午前中に嘘をつくものだから、こんな時間にやっちゃうのはルール違反なんだぞ」と負け惜しみを言ったのだった。
どうしよう……
絶対このルートの方が本編より面白い……

なお、この偽二百十四章は四月二日のうちに手動的に消去されます

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