ろーかる直送便 2015.04.02


重厚なサウンド。
一糸乱れぬアンサンブル。
市音の愛称で親しまれる国内トップレベルのプロ吹奏楽団…90年以上の歴史を誇る大阪市直営の楽団でした。
しかし3年前大きな転機が訪れます。
大阪市の財政難により自立民営化が決定。
これまで利益や経営には無関心でいられた楽団員たちは難しい対応を迫られます。
そんな沈みかけの船にわざわざ職をなげうって乗り込んできた人がいます。
前田恭二さん。
前田さんは経理や営業を担う裏方として楽団の再建に乗り出します。
しかしそこで目の当たりにしたのは予想以上に厳しい現実。
存続の危機に立たされた楽団を救う事ができるのか。
愛する…前田さんの人生をかけた挑戦が始まりました。
民営化が決まり新たな経営スタッフを募っていた楽団におととし入団してきました。
それまで勤めていた洗剤メーカーでは商品を売り込む営業の第一線で活躍してきた前田さん。
一方楽団は民営化した事で新たな経営戦略を模索していました。
その戦略を中心となって考えるのが前田さんの仕事です。
そんなんをしたりとかして。
こっちもこうやって…。
頭の中はいつも市音の事でいっぱい。
手帳か。
シールシールシールこれこれ。
手帳には貼ってないけどどっかに貼ってる。
14年間勤めたメーカー時代に比べると年収は約半分に。
しかし市音の一員になれるならそれでも構わないと転職を決意したのです。
民営化して3か月がたった6月。
今年度最初の定期演奏会が開かれました。
はいはいはいはい…はいはいはいはい…。
50年以上の歴史を誇る市音の定期演奏会。
国内最高峰の響きと評される市音が芸術性を追求して最高の演奏を披露する最も重要な公演です。
民営化後楽団員の給料は以前の1/3になりました。
市の助成金が2〜3年で途絶えるという先の見えない状況。
それでも市音に残った楽団員たちはなみなみならぬ決意でこの日を迎えました。
ところが開演10分前にもかかわらずロビーは入場できないお客さんであふれていました。
当日券予約券などチケットを巡って混乱が起きていたのです。
民営化後スタッフが削減された事で対応が全く追いつきません。
しかも全て手作業に頼っていたため時間もかかります。
開演時間までにチケットを受け取れないお客さんもいました。
生まれ変わった楽団を披露するはずの演奏会。
運営の未熟さが浮き彫りになりました。
大阪市音楽団の歴史は明治時代に日本各地に設置された軍楽隊から始まります。
大正時代に入り各地で廃止が相次ぐ中大阪だけが市の直営として残ります。
無料の演奏会をいつも心待ちにしていた市民が強く存続を求めたのです。
戦後市民への恩返しとして教育にも力を注ぎます。
子どもたちへ本物の音楽に触れる感動を届けてきたのです。
人々に時代を超えて愛されてきた市音の音。
音楽監督を務める宮川彬良さんはこの豊かなサウンドが失われないかと危機感を抱いています。
知恵のあるやつはそういう…こういう知恵のあるやつはいないからさ。
そういう事考えると…民営化後楽団員は音楽以外の仕事により多くの時間をとられるようになりました。
コンサートのスケジュール調整から移動の切符手配まで。
普通オーケストラで演奏者がここまでやる例はありません。
楽団の団長を務める延原さんも音楽家と団長という職務の両立にジレンマを抱えています。
それは私も実感してます。
民営化し見通しの立たない楽団に転職してきた前田さん。
その決断の裏には市音への熱い思いがありました。
前田さんが市音の存在を知ったのは高校生の時。
吹奏楽部でサックスを始めた事がきっかけでした。
市音の圧倒的な演奏を聴くうちに自分もあんな音を奏でたいとどんどんのめり込んでいきます。
そして市音の音楽教室にも通い始め憧れの奏者と音を重ねる夢の時間を過ごします。
そんな折耳に飛び込んできたのが市音の自立民営化でした。
多分あるんちゃうかと思って…前田さんの…幼い子ども2人を抱える中夫の転職はどう映ったのでしょうか。
いや〜まあそら感謝してるよ。
僕はそれはほんまに…。
まあ変な話ねえ…家族には本当に申し訳ない。
でも愛する市音を守れるのは今しかない。
前田さんの思いです。
あっすいません。
あの大阪市音楽団の前田です。
せんだってありがとうございました。
楽団に入って痛感したのは市音の知名度の低さ。
そこで前田さんは入団後すぐにユニークな企画を実現させます。
広場の通行人。
清掃員。
サラリーマンに…作業員。
町なかの何の変哲もない人が突然楽器を演奏し始めます。
実はこれ全員市音のメンバー。
突然出現したオーケストラに観客も大喜び。
この様子を動画投稿サイトにアップしたところ35万アクセスを突破。
大きな反響を呼びました。
手応えを感じた前田さんが次に仕掛けたのはストリートライブ。
新たなファン層を開拓しようと日本有数の人手を誇る大阪・梅田の地下街に目をつけました。
吹奏楽の編成にこだわらず地下街のスペースに合わせて少人数の楽団を編成。
キャッチーな選曲で急ぎ足の人にもふと足を止めてもらう事を目指しました。
いつもと変わらない夕方の地下街。
前田さんはここを一瞬で非日常の空間に変える音のドラマを仕掛けました。

(トランペット)地下街のあちこちからメロディーが…。
こんなにわくわくさせてくれる楽団がそばにある事を知ってほしい。
幅広い世代の人たちが市音の世界に耳を傾けてくれました。

(拍手)そういう仕掛けをどんどんやっぱりしていく。
長年市民に愛されてきた市音が大切にしているコンサートがあります。
60年以上続く…楽団員が裏方から演奏までこなす手作りの演奏会です。
しかしあいにくの夕立。
開場時間が近づいても雨足は強まるばかり。
楽団員はこの日を楽しみにしてくれていたファンのため演奏の準備もそこそこに対応に走ります。
すいませんお待たせしております。
楽団員は開演ぎりぎりまで椅子を拭き続けました。
降りしきる雨の中お客さんは最後まで帰りません。
お尻びちゃびちゃやけど。
あ〜先生すんません。
民営化後前田さんを常に悩ませてきたのが市音が民間のオーケストラとして存続していけるのかという問題。
市から助成金が出る2〜3年の間に経営を軌道に乗せられるのか。
この日前田さんは会計士を呼び団長の延原さんたちと検討を重ねました。
しかし会計士から突きつけられたのは厳しい現実。
こうなった場合はもうお金借りるかですね何かしないとそもそもの資金繰りは回らないという事になる可能性はあると。
オーケストラの収入の柱はスポンサーからの協賛金。
それを集めるのは団長の役目ですが演奏一筋の延原さんには全く経験がありません。
回ってもまあ門前払いというか「お宅どなた?」みたいな感じになってくるんですよね。
今手を打たないと近い将来手遅れになる事は明白。
前田さんは対策を迫られていました。
スポンサー収入がほとんどない中演奏会による収入を伸ばす以外に道はありません。
一つでも多く市音の演奏会を獲得するため積極的に営業に出向いています。
そのかいあって昨年度94回だった公演が今年度は170回以上と大幅に増えました。
寒い。
今日は寒いわ。
前田さんが今目をつけているのは親子が一緒に楽しめるコンサート。
少子化で子どものためにはお金を惜しまない親が増えてきていると考えたのです。
そこで前田さんが仕掛けた秘策がありました。
特注の楽器を配ったのです。
木で出来てる。
だからやっぱりコンセプトとしては小さなお子さんがやっぱりこう音の感覚としてもすごい何ちゅうかプラスチックで出来てるもんと比べて音のクオリティはいいのと…はいマラカスもらってってね!みんなで振るからね最後ね。
ただ音を聴くだけでなく体を使って演奏に参加してほしいというのが前田さんのねらいです。
はい前どうぞ。
子どもに大人気のアニメの音楽。
親世代も一緒に楽しめる曲。
目の前で演奏を披露する演出も取り入れ目指すは親子がまた来たくなるようなコンサート。
そしていよいよ前田さんのマラカスの出番。
ステージの楽団員と子どもたちが一緒にマラカスを振ります。
ちょっとした工夫で子どもたちの心をつかみました。
今年度最後の定期演奏会が目前に迫っていました。
市音が存続の瀬戸際にあるにもかかわらずみんなの危機意識がまだまだ足りない。
そう感じていた前田さんは全員が一丸となってこの難局を乗り越えるためにある事を企てます。
演奏会のステージで市音が生まれ変わる宣言をしようというのです。
更に終演後音楽の興奮冷めやらぬ中次回のチケット販売の告知をしたい。
しかし楽団員はクラシックの神聖なステージにセールストークが持ち込まれる事に不安を感じていました。
終演後終演後。
まあでも5分ぐらい…。
5分でも長い…。
5分しゃべろう思うたら長いよ。
議論は平行線のまま。
例えばプレイガイドで買うたら使へんやんかとかっていうのはあるにしても楽員とのその交流という意味で…。
アンコール前がいいと思いますけど。
アンコール前?アンコール前に?最後に曲やって終わるっていう。
それでもいいけどな。
何せ…はいじゃあありがとうございました。
終わりましょう。
ありがとうございました。
前田さんが終演後に宣言する事だけが決まり会議は終わりました。
経営する側と演奏する側の温度差。
終電間際のラーメン屋は前田さんが唯一一人になれる場所です。
一方で楽団員の中には前田さんの熱意を感じ意識が変わり始めた人もいました。
どうしてもやっぱり…今までの固定観念っていうのもある。
そこんとこは意外と切り替えると周りの人はそうでもない印象があるって…。
不評やいうのは今までのスタイル演奏スタイルはな。
迎えた定期演奏会当日。
楽団にとって民営化1年目の集大成です。
この演奏会を将来につなげるために何を語るべきなのか前田さんは一晩中考えを巡らせてきました。
朝からちょっとやって。
家でちょっと読んだりとかしたんだけど…だんだんちょっと緊張してきてもう不安なってきた。
どうしようかな〜この言い回しやったらあかんやんと思いながら…とか細かいのをちょっといろいろ考えたりした。
おはようございます。
おはようございます。
自分のメッセージが楽団の行く末を左右するかもしれない。
その責任をひしひしと感じていました。
(エレベーターの音)あっ違う違う違う!こっちのエレベーターや。
(拍手)お客さんに生まれ変わった市音を感じてもらう事ができるのか。
(拍手)演奏会の幕開けです。
(拍手)
(演奏)
(取材者)どういうところに魅力があるって思ってる…?やっぱり何やろう…。
プレーヤーもそう言ってはったけど…音楽の中での信頼というのがすごいんやなと思ったりもすんね何か。
うん…。
この一年環境が激変する中ひたむきに音楽と向き合った楽団員たち。
迫真のクライマックスです。

(拍手)・
(拍手)いよいよ市音を代表して前田さんが観客に思いを語りかける時がやって来ました。
(拍手)・
(拍手)はいどうぞ。
お願いします。
(拍手)真剣に話し合い時にはぶつかり合いながら一歩一歩進んでまいりました。
そして我々は大切なある事に気が付きました。
それは…生まれ変わる事を高らかに宣言した市音。
それを象徴する新しい試みを続けて発表します。
(笑い声)
(拍手)握手して帰って下さい。
(笑い声)新しく生まれ変わる大阪市音楽団をこれからも変わらず応援頂きますようによろしくお願い致します。
(拍手)全ての演奏を終えた楽団員はロビーに駆けつけファンに直接感謝の気持ちを伝えます。
前田君。
はい。
ほんまによかったよかった。
よく言うてる事も伝わって。
本当にありがとうございました。
本当は私が言わなあかんのかもしれませんけど…。
どうもありがとうございました。
よかった。
これから頑張っていきましょう。
よろしくお願い致します。
本当に頑張ってやりましょう。
ありがとうございます。
(取材者)ご覧になってました?握手会の。
乾杯!
(一同)乾杯!前田さん自身も市音が一歩前に進んだ手応えを感じていました。
一夜明けた事務所は電話対応に追われていました。
次回公演のチケットが飛ぶように売れていきます。
ではA席のレギュラーシートの方が2口でよろしいですね?はいありがとうございます。
前田さんたちは休む間もなく次のステージへと動き出していました。
ええ音ええ音。
日本一高いビルあべのハルカスの最上階で演奏する機会を得たのです。
次は誰に市音の音楽を届けよう…。
前田さんの果てしない夢が広がります。
2015/04/02(木) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
ろーかる直送便 ドラマチック関西▽すべては音楽のために〜市音に人生をかけた男〜[字]

プロ吹奏楽団「大阪市音楽団」は、全国唯一の自治体運営の吹奏楽団だったが、市の財政難にともない、去年、民営化した。存続の危機に立ち向かう一人の男の挑戦を追う。

詳細情報
番組内容
日本トップクラスのプロ吹奏楽団「大阪市音楽団」。“市音”の愛称を持つ楽団は、全国唯一の自治体運営の吹奏楽団だったが、市の財政難にともない、存続の危機に直面する。そんな“沈みかけの船”に乗り込んだのが、前田恭二さん。大ファンだった市音がピンチだと聞き、一般企業から転職、楽団の経営、営業、広報戦略を引き受ける。去年4月に民営化した市音で奮闘する前田さんの姿を軸に、市音の挑戦の日々を追う。
出演者
【ナレーション】田丸麻紀

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ニュース/報道 – ローカル・地域
音楽 – その他

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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