■母娘問題を克服するヒント
弁当に泣かされたのは初めてだ。
八丈島に住む40代シングルマザーと、反抗期に差し掛かった高校生の次女。素直じゃない娘の言動に抵抗すべく、母は奇想天外な報復を思いつく。“キャラ弁作り”だ。ただ作るばかりではない。日々の弁当写真を公表し続けたブログは、月間約350万アクセスを誇る。
昼はお土産屋さんの工場、時には内職と多忙な母はお酒も好きで、二日酔いもしょっちゅうだ。それでも朝は5時起きで弁当作りに励む日々。その作品は、「木工ボンド」あり「缶コーヒー」あり、ある時は海苔(のり)の貞子が呪っていたり、チーズのマツコ・デラックスが説教をかましていたりと、確かにこれは嫌がらせ以外の何ものでもない。「普通の弁当を!」という娘の嘆願もものかは、母は断固、キャラ弁を作り続けた。
すぐにまねしたくなったお母様がた、ここは慎重に。まず、この手法は「娘」限定である。息子? 母のメッセージを理解する前に3分で完食、がオチである。娘なればこそ、キャラ弁当にこめられた膨大な手間すなわち愛を理解できる。シャレとマジの境界をきわどく攻めるユーモアのセンスも必須だ。
高校3年間、キャラ弁を食べ続けた娘に、母は弁当で表彰する。それに答える娘の文章にほろりとする。評者が感動したのは、ここにあの難しい母娘問題を乗り越えるヒントを発見したからだ。「あなたのため」と称してなされる「おせっかい」よりも、愛情を込めて続けられる「嫌がらせ」のほうが“健全”なのはなぜか? そこにあるのが「支配」ではなく「交渉」だからではないか?
たかがキャラ弁とあなどるなかれ。そこには関係とコミュニケーションのもつれをほどく、意外なヒントがあったのだ。
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三才ブックス・1080円=7刷14万3千部