前編は以下からご覧ください。
パッチワーク経済学-リフレ派の幻想-(前篇)
マネタリズムとケインズ経済学の邂逅?
リフレ派は量的緩和政策によってベースマネーを増やすことはできるが、マネーストックを増加させることはできないことを認識しつつあります。それゆえ「デフレは貨幣現象である」と貨幣数量説に依拠した発言をするかたわら、数量説とは別の経路でマネーストックを増加させる「技(理屈)」を考えました。それはベースマネー増加とマネーストックの増加の因果関係の間に「中長期的な物価水準はマクロ的諸要因によって決定される」というワン・クッションを置くことでした。サッカーに例えれば、直接フリーキックから間接フリーキックへ切り替えたようなものです。
マクロ的諸要因とは需給ギャップ、失業率、予想インフレ率等です。しかし同時に、リフレ派は、特に岩田副総裁は、そうしたマクロ的諸要因をマネタリーベースの拡大と2%インフレ目標コミットメントによってコントロールできると主張しているのです。すなわち需給ギャップを埋められると言っているのです。需給ギャップを埋めるためには総需要が増加する必要があり、そのためには最終財を買うためのカネが実体経済内で増えなければなりません。つまりリフレ派は、リフレ政策によってマネーストックを増加できると主張していることになります。これは「ベースマネー増加」と「物価上昇(マネーストックの増加)」の間にマクロ的諸要因を介在させただけであって、基本的には数量説的見解と同じなのです。
岩田副総裁はかつて日銀の翁邦雄氏と金融政策をめぐって論争をしました(「岩田・翁論争」)。その際、ベースマネーによるマネーサプライ(現在のマネーストック)のコントロールは可能だと主張しておりました。翁氏は反対に、貨幣乗数の値は安定的ではなく、ベースマネーによるマネーサプライの操作は不可能であると主張しました。統計データから見ても翁氏に軍配が上がるのですが、如何せん、彼はそれを理論化することは出来ませんでした。実はそうした現実性を理論化するためには既存の経済学から脱却する必要があるのです(拙著『経済学とは何だろうか』2012年八千代出版 参照)。
翁氏の見解は経済学が主に依拠してきた外生的貨幣供給論を否定することになるため、経済学者達からは不興を買ったようです。結局、その論争自体は、「両者の問題対象とした期間に相違がある」という形でうやむやに終わりました。しかし、経済理論と現実の経済現象の対立として意義深い論争であったと思います。現在、岩田氏はリフレ派という新たな装いをまとい、日銀副総裁という立場に就きました。それでも、尚、ベースマネーによるマネーストックの操作可能性に固執しているのです。現実を直視せず、経済理論通りに経済が動くと信じているのでしょう。その姿を見るにつけ、学者の頑固一徹さを感じ思わず苦笑してしまうのは筆者だけでしょうか。
さて話が逸れましたが、問題は民間の人々がこのようなリフレ派の効果波及経路を熟知しているか否かです。「そうか。こうした経路で量的緩和によってインフレになるのだ」と大半の国民は理解しているのでしょうか。そして、リフレ派の理屈に基づいてインフレ期待を形成しているのでしょうか。残念ながら、それはあり得ないと思います。専門家ですら、この錯綜した理屈を追うためには、様々な相矛盾する諸前提を一時的にせよ受け入れなければ理解し難いからです。
実は、量的緩和と物価上昇の間にマクロ的諸要因を介在させるというこの間接フリーキック作戦は必ず失敗します。初手から論理的に成り立たないからです。リフレ派は「量的緩和をすれば人々のインフレ期待が高まる」と言いますが、どうしてそうなるのかを説明しません。否、できないのです。なぜなら、「マクロ的諸要因が中長期的な物価上昇(インフレ)を決める」と言明してしまったからです。総需要が増加して需給ギャップが埋まり、それから物価が上昇するという説明は正しくケインズ的な説明です。その場合、人々は需給ギャップを埋める以上の総需要の増加策を見て、はじめて将来のインフレを予想するのです。民間金融機関にベースマネーを渡すだけの量的緩和策を見たところで、誰もインフレになるとは思わないでしょう。
それでも「量的緩和によって人々のインフレ期待が高まる」と強弁するためには、人々の期待形成に関する次の条件が必要になります。すなわち、「人々は短期的には貨幣数量説に基づきインフレ期待を形成し、かつベースマネーの増加をマネーストックの増加と錯覚すること」です。短期的にはマネタリズムに立脚してインフレを予想し、中長期的にはケインズ経済学に立脚してインフレを予想する。さすがに、これは詭弁でしょう。現実経済において、そうした奇妙な期待形成をする人々は、リフレ派以外に見当たりません。
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