井上恵一朗
2015年4月2日11時14分
東京都新宿区弁天町に「行き場のない遺骨」を格安で引き受ける寺がある。さまざまな事情を抱えた遺族や、自らの死後に備える人々が訪れる。貧困、孤独死、無縁社会……。埋葬のあり方をめぐる世相を映し出す。
■NPOと共同事業
約400年続く浄土真宗の南春寺。近代的な4階建てのビル。4年前に建て替えた。エレベーターであがった3階に、寺の協力を得て活動するNPO法人「終(つい)の棲家(すみか)なき遺骨を救う会」の受付がある。
お彼岸が近づく昨秋のある雨降りの日。黒のスーツに黒のネクタイをした男性スタッフが、横浜市から見学にきた男性(57)の相談を受けていた。
男性は両親をこの2年で相次いで亡くした。代々の墓があるのは出身地の大阪。いまいる親戚に先々の墓守を頼ってよいものか。迷い、遺骨を埋葬できずにいる。
「お墓をたてるにも費用が……」。口ごもる男性にスタッフが諭すように言った。「昔のように、思いもお金も、めいっぱいやってくださいという時代ではないと思いますよ」
次に訪ねてきたのは、北区の男性(77)。昨年7月に81歳で逝った妻の遺骨を携えていた。スタッフが骨つぼのなかをあらため、埋葬許可証を確かめた。
故郷の栃木県に両親の墓がある。だが、生前の妻とは「立派な戒名も葬式もいらない」と話していた。
遺骨とともに本堂へ。瀧田隆博住職(51)の読経を、両手をひざに置いて聞いた。焼香後、後日合祀(ごうし)される永代供養墓「有縁(うえん)塔」の説明を受けた。「墓の下で新たな縁をつむいでほしい、と名付けられました」
御影石でできた高さ2・4メートルの有縁塔は、400基ある墓地の中ほどにたつ。男性は、自らも死後に塔に入る「生前予約」を済ませた。「みんなで同じ所に入ればさびしくないね」。ひとりごとのように言った。
雨がやみ始めた午後、「飛び込み」の持ち込みがあった。2日前に父の遺骨を引き取ったばかりの長女(38)と次女(29)だった。子供のころに両親が離婚した。約20年間疎遠だった父は昨年7月、病院でみとる人もなく死んだ。享年69。生活保護を受け、行政による火葬だった。「埋葬だけでも」と戸籍を調べた福祉事務所から電話があった。
元妻(63)も来ていた。本堂で焼香する間、10秒ばかり目を閉じ、手を合わせた。こんな形で再会するとは思わなかったね。心のなかで語りかけたという。
■総費用3万円の永代供養
「総費用3万円の永代供養」。このNPOがそんなうたい文句で、南春寺と共同で埋葬支援事業を始めたのは一昨年の4月。
NPOによると、一般的な合祀墓の永代使用料相場は7万~30万円。ほかにお布施として3万~10万円かかることもある。
「実家の墓が遠い」「墓が高くて買えない」。都市への人口移動や経済的な事情だけではない。独居の高齢者が増える一方で、少子化が進み、死後への不安を抱える人が増えている。埋葬できないままの「行き場のない遺骨」の受け皿を提供する――。それがNPOの設立趣旨だ。
成約数は2年足らずで約1400件を数え、うち3割を生前予約が占める。
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