しっきーのブログ

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英語を学習できるソーシャルゲームの作り方



目次】(ページ内リンクです)


 要約> 序文> ソーシャルゲームのフォーマット> 「学習」をゲームにするために


 無理やり分割する> 学習内容とゲームの機能を結びつける> 誰でも成功(計画→実行→達成)できるようにする> 惰性を組み込む> 学習のインセンティブを作り出す


 英語(語学)だからできること> 勝算はあるのか?> フォーマットの拡張と学習ゲームの未来> おしらせ


要約

 「英語を学習できるソーシャルゲーム」の作り方を説明しながら、「ゲーム」と「学習」を結びつける方法について書いていく。

 基本的な発想は既存のソシャゲの中身を「英語」にすることだが、それが「学習ゲーム」であるためには、ゲーム内のキャラクターのみならず「プレイヤー自身のステータス」を明確に定めなければならない。そのため、学習内容を無理やり分割してデータベースをつくる作業が必要になる。

 キャラクターのスキルやクエストの構成を考えるときは、プレイヤーの「計画→実行→達成」を、どれだけ快適で豊富にデザインできるかに注力する。その目的に沿って日本のコンテンツ文化の優れた蓄積を動員し、「学習」であると同時に「ゲーム」でもある作品を作り出す。


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序文

 「英語を学習できるソーシャルゲームの作り方」を書いていく。自発的に努力をさせる「ゲーム」の仕組みと「学習」を組み合わせた作品を、どのようにデザインしていけばいいかというのが本記事の趣旨だ。

 ゲームの作り方を具体的に記述するが、そのロジックと背景を説明して応用可能なものにするためには、それなりの字数にならざるを得なかった。もしよかったら見ていってください。

ゲームするみたいに勉強できたら

 「ゲームやるみたいにして勉強ができたらいいなあ」というのは、多くのゲーマーが一度は考えたことではないだろうか。昨今流行りのソーシャルゲーム、オンラインゲームは、レベル上げ、スキル上げ、素材集め、リセマラなど、苦行としか思えないこと、やっている本人すら苦行だと自覚しているようなことを、平気でやらせる。さらにその過程で少なくないお金を落とさせる。この仕組みを、何かもっと生産的なこと、例えば「お勉強」に活用することができないだろうか、ということを考えてもいい。

「学習」という差別化

 「ゲームで学力を上げる」みたいな理想を別としても、ソーシャルゲームの競争が煮詰まり、どれだけ制作費をかけるか、人気のある版権を持ってくるか、という勝負になってきたところで、「ソシャゲで遊びながらお勉強できる!」という売り出し方は、戦略の一つとして十分あり得ると思う。似たような「娯楽」や「萌え」を全面に押し出したゲームが溢れる中、「学習×ゲーム」は強力なセールスポイントになる

 ここでは「英語を学習できる」ゲームの作り方を書いていくが、別に教科は何でもよく、同じ方法があらゆる学習項目に応用可能だ。

 ただ、日本人は義務教育で英語を学ぶし、TOEICなどの点数が昇進に繋がる会社もあるらしいし、なんだかんだで英語がわかるとアクセスできる情報の幅は大きく広がる。ジャパニーズにとって「英語」はどれほど重要なのか、それはどのような意味を持つのか、という様々な議論も含めて、多くの関心が集まるトピックであることは間違いない。よってここでは、数ある学習項目の中から「英語」を選ぶことにした。


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ソーシャルゲームのフォーマット

条件が整った!

 まず、「英語を学習できるソーシャルゲーム」が可能になる前提として

①多くのソーシャルゲームが市場で競い合っていること

②流行しているソーシャルゲームのほとんどが同じ構造を持っていること

 が挙げられる。パズドラが流行する前ではこのアイデアが上手くいく可能性は低かっただろう。数多くのソーシャルゲームが製作、運用されていて、さらにそれらが同じシステムを持っているからこそ、ソシャゲの製作者にも消費者にも、ソシャゲはこういうものだという感覚が、なんとなくでも構成されている。

 和製RPGを源流にした人気のソシャゲ…パズドラ、モンスト、スクフェス、黒ウィズ、ブレフロ、トレクル、乖離性MA、DQMSL、テラバトルなどのゲームにおいて、「ガチャ」「合成」「クエスト」といって仕組みは(名称に違いはあれど)ほとんど共通している。

 和製コンテンツの文脈に馴染んでない人には、上で挙げたような日本のソシャゲを面白いものとして理解できない。海外のゲームはわかりやすい刺激をメインにしたものが主流で、概念的なレベル上げや、デフォルメされたキャラクターは、よくわからないものとされることも多い。昆布出汁とか生魚などの和食を美味しく感じるのと同じで、和製RPGを遊んで面白く感じるというのも、日本人が培ってきた一つの文化なのだ。

(参考:日本のRPGとは何か?「ツール」としてのソーシャルゲーム

ソーシャルゲームは「売り方」である

 「ソーシャルゲーム」というのも定義が難しいのだが、ここでは言葉を厳密に使っているわけでもなく、パズドラやモンストなどのことを指している。メイポやMHFなどのオンラインゲームや、艦これや刀剣乱舞などのブラウザゲームもだいたい同じ仕組みということになる。

 ソーシャルゲームのベースになっている仕組みが、ある程度共通していることは、数種類やったことがある人ならわかるだろう。ただ、これはパクりとか、ソシャゲの開発に新しいゲームを作り出す能力がないということにはならない。ソシャゲが同じような形態を取らざるをえない理由は、ゲームシステムと収益モデルが一体になっているからだ。

 アーケードゲームはゲームセンターに設置してコイン投入方式、コンシューマーゲームはパッケージ(ゲームソフト)を店頭販売、という「売り方」があり、それに逆らうのが難しかったのと同様、基本料金無料アイテム課金(ガチャに課金)というソシャゲの「売り方」と違うことをしようとするのは、趣味以外でやっていくなら茨の道になる。そのため、ここでは商業用のゲームを意図して、ソーシャルゲームのフォーマットに則った学習ゲームの作り方を書いていく。

ソーシャルゲームのフォーマットに「学習」を乗せる

 「英語を学習できるゲーム」をごく真っ当に作ろうとすれば、アルファベットのパズル性とか、文法や語法の組み換えとか、単語の構成や意味の繋がりに着目したものを考えるのが、まともなクリエイターの思考だと思う。

 だがここでは、冴えたアイデアを持ってして、ゲームの楽しさと勉強のつらさの継ぎ目が消えてしまうような画期的なものを作ろう、と言った考え方はしない。

 この記事の発想を一言で言ってしまえば、英語の都合に合わせてゲームを作るのではなく、ゲームの都合に合わせて英語を解体することだ。一から新しいものを作るのではなく、「ソーシャルゲームのフォーマット」の上にどうすれば「娯楽」ではなく「学習」を乗せることができるのか、その方法を考えていく。


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 まず、パズドラ、モンスト、黒ウィズ、ブレフロ、スクフェス、などなど、和製RPGを源流にソーシャルゲームの共通項をとると、「ソーシャルゲームのフォーマット」が、漠然とだが見えてくる。ここで、ソーシャルゲームのフォーマットを厳密に定義するのは難しかったが、概念的なものだと考えてもらっていい。


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 それぞれの共通項を取り出してみると、それはただ共通しているだけではなく、上下構造を持っていることがわかる。ソシャゲで共通しているのは土台の部分であり、その共通のフォーマットの上に、パズル、アクション、カードゲーム、クイズ、ビリヤード、すごろく、パチンコなどなど、「娯楽」になるものが乗っかっている。


 ここでは、その「ソーシャルゲームのフォーマット」の上に、パズルやアクションではなく「英語」を乗せようとしている。しかし、そもそも「英語」は生きた言葉として使われているものであり、それを学習要領に落とし込んだ「英語」という教科ですら、複雑な体系を持っている。それをそのままソーシャルゲームのフォーマットの上に乗せることは難しい。


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 先ほども述べたように、「英語」という複雑な体系をそのままゲームで表現しようとすると、それは非常に難しいか、あるいはものすごく労力がかかる。  ここでは、とりあえず「英語」を「ソーシャルゲームのフォーマット」の上に乗せること、まずはそれだけを考える


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 ひとまず、「英語」の中で、乗せることのできるもの、乗せやすいものだけを、まずは乗せる。色んなものを落としてしまう覚悟でやってみる。


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 とりあえずやってみた後、「リスニング」「文法、語法の理解」「言葉の背景にある文化」「詩的表現」「長文読解力」などなど、重要なものがたくさん土台から漏れ落ちてしてしまうだろう。初期段階においては、せいぜい単語やフレーズを覚えられる程度のものかもしれない。

 しかしここでは、「ちゃんとした英語(要議論)」を学べることや学習効率よりも、まず何よりもゲームであることを優先する。「学習」を「ゲーム」にすることが一苦労なのであって、まずはそれを達成しなければならない。また、ちゃんとした学習を否定するというわけではなく、むしろ対象を正確に理解しようとするところにゲームの可能性が生まれる。それについては[フォーマットの拡張と学習ゲームの未来]で述べる。


 この方法が使えるのは「英語」だけではない。すべての「学習」に、おそらくは「数学」でさえも、適用可能だ。基本的に同じやり方で、語学、歴史、法律、雑学、会計、生物、情報、化学、プログラミング、物理、数学などなど、あらゆる学習ゲームをつくることができる。もちろん数学に近づくほど作るのは難しくなるのだが。

 ひとまず最初の試みとしては、最も市場が大きく製作も比較的簡単な「英語」に焦点を当てて、「英語RPG(仮)」の作り方を書いていく。


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「学習」をゲームにするために

 学習系っぽいゲームやアプリは過去にも多く開発されてきた。かつてヒットしたものは、任天堂の「脳トレ」。英語学習系なら「えいご漬け」や「英単語1900」、アプリならドリコムの「えいぽんたん!」などがある。

 しかし、「脳トレ」というのも、直感的な「娯楽」に近いものを学習テイストで売りだした商品であり、あれを続けて何かを「学習」できるとは言いがたい。「えいぽんたん!」などは、ドリル形式で問題をこなして、ペット的な何かが成長する仕組みを備えている。それはたしかにゲームの一部を取り入れていて効果もあるのだろうが、それだけでは学習ゲームと言えるほどのものにはなっていないと個人的には思う。


 「どうやって学習がゲームになるか?」に対しての僕の回答が「ソーシャルゲームのフォーマットに乗せること」なのだが、それをやるに当たって、まずは「娯楽」と「学習」の違いを定義することが必要になる。

言葉の定義

 従来の言葉の意味と乖離していて、違和感があるかもしれないが、本記事では以下のように定義する

娯楽」…パズドラにおいてのパズル、白猫においてのアクション、黒ウィズにおいてのクイズ、スクフェスにおいての音ゲーなど、人の気を惹きやすいもの。

学習」…英語や数学などの教科、いわゆる「お勉強」。ごく普通の人間にとっては気の進まないことだが、ここではそれを進んでこなすためにゲームとくっつけようとしている。

ゲーム」…ここでは、ゲーム一般ではなく、和製RPGのベースになっているシステムのことを言う。ソシャゲにおいては、その土台(フォーマット)になっている部分を「ゲーム」と呼ぶ。

 このように定義した。もちろん人によって娯楽と学習の境目は異なるだろうが、そこらへんはご了承いただきたい。定義した言葉を使ってみるなら、「ゲーム」の上に「娯楽」が乗っているのが従来のソーシャルゲーム「ゲーム」の上に「学習」が乗っているのが今から作ろうとしている学習ゲームだ。


「娯楽」と「学習」の違い

 ゲーミフィケーションとかゲームニクスとか、ゲームを現実に応用しようという試みはたびたび考えられてきた。その背景には、「皆がこれほどゲームに夢中になってるんだから、このやる気を勉強や仕事に持ってくればすごいことになるよ!」という素朴な思いがあると思われる。しかし、ことはそう簡単ではない。

 もともと人気の出るゲームは、誰もが夢中になれるように作られているのだ。一日中熱中してゲームをやっている人が、勉強や仕事でも同じことができるとは限らない。プレイヤーを惹きつけること、楽しませることが目的の「娯楽」と、一定のストレスと、何かを習得する苦しみに耐える必要のある「学習」は違う。

 そして、これからゲームを作っていく上で意識すべき「娯楽」と「学習」の最も顕著な違いは、「娯楽」の場合は手持ちのモンスターやキャラクターのレベルだけが上がればいいのに対し、「学習」の場合はプレイヤー自身のレベルも上がらなければならない

 この違いはとても大きい。「娯楽」の場合、キャラクターのレベル上げやリセマラなどは、それがいくら苦行であっても、上達する苦しみを負うのが自分ではないからこそ熱中できるという面が多分にあると思う。


 娯楽と学習のゲームバランスの違いを図示すると、まず「娯楽」の場合は

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 このようになる。クエストの難易度とそれをクリアするのに必要なキャラ(パーティー)のステータスが比例した図を想定すると、プレイヤーの実力(パズルやアクションの上手さ)は、俗に「ゆらぎ」と言われているように、その直線の幅を変える程度の要素でしかない。クエストをクリアできるかどうかに決定的に作用するのはキャラクターのステータスの部分であって、どんなに実力があっても初期ステータスで降臨クエストを攻略することは不可能だ。

 多くのソシャゲにおいて、「娯楽」は、誰でもそこそこできるが、ずば抜けてできるからといってそこまで攻略に作用しないものとして扱われている。「学習」に近いテイストのある「黒ウィズ」のクイズも、クエスト攻略に与える作用を考えると、当たり障りのないものとして調整されている。


 一方、「学習」を主題にしたソーシャルゲームの場合は

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 このようになる。クエストをクリアするのに、プレイヤーの実力が「ゆらぐ」程度ではなく決定的に関わってくる。つまり、「英語RPG(仮)」の場合は、プレイヤーが英語を覚えているかどうか(プレイヤーのステータス)が、キャラクターのステータスと同様に、決定的な形でゲームを攻略できるかどうかに作用する


 ゲームを作る上で、「娯楽」に対して「学習」は、それ自体が楽しいものではない(ストレスが伴う)ことが多い、プレイヤーの実力が上昇していくようなゲームデザインが必要、という難点がある。

 しかし、それを踏まえた上で、優れた「学習ゲーム」を作ることは可能だと僕は考えている。その根拠は、「娯楽」と「学習」は違うが、「ゲーム」と「学習」は共通項を持っているからだ。

「娯楽」と「ゲーム」は親和性が低い?

 実は、現在のソシャゲは、「娯楽」と「ゲーム」という親和性の低いもの同士が組み合わさっているに過ぎない。というより、「ゲーム」の上には何でも乗せることができて、今はその上に「娯楽」が乗っているけど、それは「ゲーム」の力を100%発揮する形には必ずしもなっていない。

 「娯楽」は、積み上がっていかない、一時の暇つぶしという特性を持っている。一方で、「ゲーム」は、継続すること、積み上げることが楽しさになっている。もちろん、違う特性をもつものだからこそお互いを補う形でくっつくことができる。そこにはカツを卵でとじるような自堕落な素晴らしさがあることは間違いないし、アクションRPGの楽しさを否定する気は毛頭ない。だが「ゲーム」と「学習」の場合は、別々のものとしてではなく同じものとして、歯車が噛み合うような部分がある。その相性の良さにこそ、学習ゲームをまともなものにできる可能性があると僕は考える。

「学習」と「ゲーム」の共通点

 学習とゲームの共通点、それは、「計画→実行→達成」にある。くだけた言い方をするなら、「自分のやりたいと思っていたことが思っていた通りにやれること」、「計画が思い通りにいくこと」だ。

 学習において、「計画→実行→達成」は、要求されるものだ。仕事などにも言えるが、計画を立て、それを立てた通りに実行し、目標を達成することは、ひどく難しいにも関わらず社会はそれを求める。

 ゲーム(虚構)の世界では、「計画→実行→達成」が現実に比べてとても簡単にできるようになっている。そして、誰もが「計画→実行→達成」を簡単にできるということこそが、ゲームが「楽しい」理由だ。ボタンを押して数値を増やしているだけの「レベル上げ」は、その背後に現実的な要求が見え隠れしている。リアルにおいて強く求められながらも常人にはやり通すことが難しいものを、ゲームの世界で解消しているのだ。


 「計画→実行→達成」は、学習においては求められるものであり、ゲームにおいては楽しさになっている。どちらにおいても、その本質から切り離すことのできない重要な部分が「計画→実行→達成」なのだが、その共通要素を噛み合わせることによって、優れた学習ゲームが作れると僕は考えている。

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 「娯楽」においては、ただ「ゲーム」の上に乗っているだけだが、「学習」においては、より上と下が密接に関わることになるだろう。

日本のコンテンツ文化の特徴

 漫画、アニメ、ゲームなどの日本のコンテンツ文化は、ある種の逃避として生まれたという側面がある。それは、現実にあるものを引き伸ばし、抽象化し、誰もが自由に消費できるものにする、そういう「逃げ方」だった。一神教におけるゴッドのような超越的なものを想定するのではなく、身近にあるものを延長する形で現実逃避し、濃縮された欲望を消費する。そして、その逃避先においては、製作者も消費者も「自由」だった。

 日本のコンテンツに特徴的な「萌え」や「美少女」や「HENTAI」と呼ばれる文化は、私見では、現実の女性の振る舞いや仕草から、「萌え」や「美少女」という概念を抽象し、それを二次元で自由に消費できるようにしたものと考えることができる。

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 萌えアニメや美少女アニメが「女の子」を抽象化するものだとするなら、ゲームは抽象化された「成功」を消費する。ゲームの世界では、誰もが手軽に「成功(計画→実行→達成)」する快楽を味わうことができる。それはゲームデザインにおいて、努力のしやすさ、成果が出るまでの適切な速度、といった形で方向づけられる。努力の中身は「表現」されなければならない。


 和製コンテンツの特徴は、単に逃避して解消するだけでなく、その逃避先で文化が花開いたことだろう。対象を抽象化というフィルターに通せば、それは誰もが自由に創作できる、平等なものになる。

 二次元にしてもゲームにしても、それは生々しい欲望から生まれてきたが、抽象化された先で様々な優れた文化が蓄積されてきた。ゲームにおいては、「計画→実行→達成」という無味乾燥な快楽の形を豊かにするために、多くのクリエイターがすぐれた想像力を生み出し続けている。つまり、もともと現実から逃げるようにして生まれ、その逃避先で蓄積されてきた財産を、再び現実と結びつけようとする試みが学習ゲームなのである

(参考:逃避先としての日本型コンテンツのその先にあるもの


 というわけで、前置きがかなり長くなったが、これからは具体的にゲームを作る方法を書いていく。



 という5つのトピックにわけて、説明していく。


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無理やり分割する

 和製コンテンツが蓄えてきた仕組みの中で、最も優れたものだと僕が思っているのは、「同じ高さに並んだデータベース」だ。ポケモンに代表されるモンスターや、AKBやアイマスに代表されるアイドルグループは、日本のコンテンツ文化に特徴的なものであり、ソーシャルゲームやオンラインゲームにおいても中心的な役割を果たしている。

抽象化を通したデータベース

 日本型コンテンツの中心にいるとわかりにくいことだが、ソシャゲにおけるモンスター、キャラクター、アイドルグープというのは、なかなか特殊な考え方をしている。和ゲー的なデータベースは、日本の学校における一人一人の生徒のように、必然性がなく、ただそこに所属しているだけの集団である。例えば、ポケモンにおいては、どのポケモンが抜けても「ポケモン」としては機能し続ける。ソシャゲにおいても同じことが言えるし、AKBなどのアイドルグープもそうだ。

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 一方で、洋ゲーの多くは、役割が明確に規定されているものが多い。例えば、洋ゲーの文脈から生まれた、現在世界で最も人気のある「クラッシュ・オブ・クラン」では、バーバリアン、アーチャー、ゴブリン、ジャイアント、ウォールブレイカーなどのユニットは、それぞれのできること、使い方、役割が強く意識されている。

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 あくまでこれは個人的な分類に過ぎず、議論はあるだろうと思われるが、シミュレーション志向を持つ洋ゲーは、現実にあるものをそのまま表現するために数値を使う。つまり、物理の公式やシミュレーターに近い発想をしている。

 一方で和ゲーの場合は、数値は概念的なものとして扱われる。ドラゴンクエストやファイナルファンタジーの場合、経験値を得てレベルが上がる過程は、一人の人間の成熟を表すものではなく、実態から乖離して、概念的に「ただ強く」なる。

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 小さなものが自分より大きなものを倒す。見た目以上のものが身体に宿っている。これは日本の作品にあまりにも頻繁に見られることだが、海外ではそのような考え方は一般的ではない。

 日本の場合、漫画では、手塚治虫の「鉄腕アトム」、車田正美の「聖闘士星矢」、鳥山明の「ドラゴンボール」まで、見た目に表れない内側に宿る強さを書き続けてきた。漫画においては、何らかの形で表現、説明されるが、ゲームの場合は直接的に「数値」を使うことでそれが表現される。

 「強さ」という概念はゲームにおいて数値化され、それが和製コンテンツの「ありのまま」にとらわれない「強さ」と結びついた。ドラゴンボールの悟空がいつも修行しているように、「全クリ」が無く、永遠にレベル上げを続けるオンラインゲームやソーシャルゲームの世界観が作られた。


 和ゲーには、現実離れした「強さ」や「努力」や「成功」を数値として抽象して、それを消費する文化がある。ドラクエのレベルを99まで上げるのが楽しいという人は少なくないだろう。

 そして、先ほど述べたように、日本のコンテンツはそのような逃避先でこそ自由だった。その自由なデータベースは「ポケモン」が確立した。

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 ポケモンの生みの親である田尻智は、自然を観察し、模倣することによって、ポケモンをつくりだした。だが、ただシミュレートしたのではなく、和ゲー的な「抽象化」というフィルターを通した上で、自然を再編成した。そうやってて生まれてきたのが「ポケモン」だ。ただの鼠や虫や、岩やネジと言った無機物までもが不思議な力を備える。一度抽象化のフィルターを通しているからこそ、かつての特徴を残しながらも、もともとの役割や制限から自由でいることができた。さらに、そこには「進化」という概念はあるけれど、すべてが同じポケモンであるという点では階層がない。抽象化のフィルターは自由と平等をもたらした。

 このような「同じ高さに並んだデータベース」は、ソシャゲを含む後のあらゆるゲームに使われることになる。自由に創作、付け足しが可能で、必然性がないからこそ、どんなモチーフでも取り込むことができる。このようにして培われてきたものこそが、日本のコンテンツ文化の大きな財産になった。当然ながら、「ガチャ」という収益モデルもこれがあるからこそ可能になる。

(参考:消費者が買い支えることで成り立ってきた日本のコンテンツ産業ソーシャルゲームは日本のコンテンツ文化を味方につけている

「無理やり」分割するということ

 「学習」ゲームにするためには、その学習対象を、和ゲーの文脈が培ってきた「データベース」と繋げなければならない。そのために、学習対象(この場合は英語)を、無理やり分割する。それは、何らかの意図や分類に基づいたものである必要は必ずしもない。「英語」側の都合ではなく「ゲーム」側の都合で、ただ分けたいから分ける。


 学習ゲームを作る上でまず最初にやるべきのは、学習する内容を分割してデータベースをつくることだ。 英語は、一つ一つの単語に注目すればいいので、分割するのが比較的簡楽な科目だ。分割の方法はいくつかあるが、今回は「ジャンル(属性)」と「ランク(難易度)」に分けることにする。

 対象は、なるべく細かくわけたほうがいい。細かく分ければ分けるほど、プレイヤー自身のステータスがわかりやすくなるからだ。ただ容量の問題などもあるので、ここでは30くらいにしておく。

ゲームシステム

 分割すると言っても、それがどのように作用するか示すために、ゲームシステムから説明する必要があるだろう。

 TOEICやTOEFLのテストみたいに4択の問題が出てきて、正解すれば味方のパーティーが敵を攻撃し、クエストを進めていく。「魔法使いと黒猫のウィズ」におけるクイズが英語になったバージョンと言えば、やったことがある人にはわかりやすいと思う。


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 こういう感じで問題が出てきて、攻撃するためにはそれに正解しなければならない。

 そして、出てくる問題それぞれに「ジャンル」と「ランク」が設定されている

ジャンル

 「ジャンル」は、例えばパズドラやモンストの火、水、木、光、闇、回復、みたいな属性のことだ。別に「英語RPG(仮)」でも、火、水、木…みたいな分け方で構わない。分割すること自体が重要なのであって、分け方はわりと何でもいいのだ。ただ今回はより英語という科目の特徴に合うように、現実の需要を意識した分割の仕方でやっていく。


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  • 日常、常識、会話、フレーズ … 以下、略として「day」と表記
  • テクノロジー、数学、理論、プログラミング …「tec」と表記
  • 生物、医療、化学系 …「bio」と表記
  • 文学、美術、歴史、文化系 …「cul」と表記
  • 社会、政治経済、ビジネス …「soc」と表記


 あくまで一例だが、とりあえずこんなふうに分類してみた。

 英語は、言葉として日常で「使える」ものでもあるから、プレイヤーの現実的な需要に合わせてジャンル分けしている。

英会話、海外旅行、留学などに興味があるなら「day」

プログラマーなら「tec」

科学や医療系の仕事、研究をしているなら「bio」

文学、芸術、歴史に興味があるなら「cul」

ビジネスで英語が必要なら「soc」

大学受験やTOFLEで英語が必要なら、満遍なく学ぶ

 と、個人の必要によって選ぶべきジャンルを分ける。分野問わず必須の語彙や構文は、それぞれのジャンルの低ランク帯に割り振るのがいい。


 学習ゲームを作るときは、例えそれが突っ込みどころ満載のものになったとしても、無理やりジャンルごとに分割する必要がある。英語の場合は、ジャンルごとに分けた単語帳もあるし、問題文の意味をジャンルに適ったものにすることもできるので、そこまで違和感のあるものにはならないだろう。

ランク

 5つのジャンルに分けたら、それらをさらに「レベル1」から「レベル6」までの6つのランク(難易度)ごとにわける。ランクは数字が低いほど簡単で、高いほど難しい。


 例えば、ジャンル「soc」のランク「レベル1」なら


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・問題文と和訳

彼女の仕事は弁護士だ。

Her work is a (  ).


・選択肢

teacher farmer lawyer journalist

 ランク1は中学英語くらいの初歩的な問題のレベル。問題の形式は、できれば日本語文と英語文を同時に表示したものにしたほうがいいだろう。英語の場合は和文と英文を見比べているだけでも勉強になる。


 ジャンル「soc」のランク「レベル5」なら


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・問題文と和訳

この国では暴力がはびこっている。

Violence is (  ) in this country.


・選択肢

rampant anemic pristine arduous

 ランク5くらいになっていると、かなり難し目の単語を入れる。また、単語レベルで回答するのは難しく、文章の内容と構文をある程度読み取らないといけないくらいの調整。


 4択式の問題でも、ネイティブでも間違えるような言い回しやテクニカルタームを使ったり、問題文の長さに対して制限時間を短くしたりと、いくらでも難しくすることができる。また、いざとなればラテン語やドイツ語やフランス語を混ぜてもいいから、難易度の高さは青天井だ。

 ランク最大値(ここでは6)はゲームシステム上、「運が良くないと正解できないもの」くらいに設定にするのがいい。


 分類のやり方は基本的に自由だが、ジャンルにおいてはそれぞれの特色が強く感じられるように、ランクにおいては下のレベルを踏まえないと上のレベルを正解できないように(人によってレベル3よりレベル4のほうが答えやすい、みたいなことがないように)するのが好ましい。

「プレイヤー自身のステータス」を定める

 ゲームが「学習ゲーム」になるためには、「プレイヤー自身のステータス」が決定的な形でゲームに関わらなければならない。まず初めに学習する対象を分割する必要があるのは、ジャンルと難易度を細かく分けることによって、プレイヤーのステータスが実感、可視化しやすくなるからだ。

 例えば、得意な「day」はレベル4までなら完答できる。他のジャンルはレベル3までなら9割くらいで正解できるが、「tec」は苦手でレベル2でも8割くらい…みたいに、どのジャンルのどのランクならだいたいどの程度の正解率というような、プレイヤーそれぞれの学習進捗度(ステータス)がある程度定まってくる。


 従来のソシャゲは、モンスターやキャラクターだけがスキルやステータスを持っていて、それのみで「ゲーム」を行っていた。学習系のゲームはプレイヤーもステータスを持つようになるのだが、この場合の「ステータス」は単純な上手い下手ではない。

 ゲームをデザインする上で、プレイヤーのステータスは、技能よりも傾向を意識する。上手いか下手ではなく、何が得意で何が苦手なのか、傾向と偏りが意作り出される必要がある。特定のジャンルに特化して学ぶか満遍なく学ぶか、というのも、ゲームを進める上で重要なプレイヤーの選択になる。


 当たり前のことだが、学習ゲームであるからには、ゲームを進めていく過程でプレイヤーのステータス(英語の習熟度)が上昇していかなければならない。作品の世界観や機能が生み出す必要性に動機づけられる形で、プレイヤーが自身のステータスを上昇させて(英語を覚えて)いくのが、学習をゲームの理想とするものだ。そのためには、まず初めに学習する対象を「無理やり分割する」必要がある。


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学習内容とゲームの機能を結びつける

 前章で分割した学習内容(英語の問題)は、プレイヤー自身のステータスを定めると同時に、ゲーム内のキャラクターのステータスやスキルと結びつかなければならない。ゲーム内のキャラクターの効果やスキルも、分割された「ジャンル」と「ランク」に作用する。

「結びつける」とはどういうことか?

 学習ゲームを作る上で最も重視すべきは、プレイヤーが、「一つ上のランクを正解できるようになろう」、「他のジャンルに手を伸ばそう」というモチベーションをいかに強くゲームシステムの中に組み込むか、になる。それは、クエストをクリアする上での「必要」に迫られてのことでなければならない。

 問題を正解するたびにポイントがもらえますよ、スタンプやリアクションなどのご褒美がもらえますよ、というのは、ゲームのある側面を取り入れているにせよ、動機付けとしてそこまで有効なものではない。

 プレイヤーがその問題を正解できるかできないかは、手持ちのパーティーを構成するキャラクター達が持っている能力とも結びつき、それがあるからこそクエストをクリアできる、というものになる必要がある。


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 この図で示したように、クエストをクリアするのに必要なのは、プレイヤーのステータスだけではなく、ゲーム内のキャラクターの力も同様に作用する。というより、その二つのステータスは噛み合う形で作用するのだ。

 この作用については、まずは現在リリースされている大人気のソーシャルゲームを参考にするのが良い。

「パズル&ドラゴンズ」の例

 日本一人気のあるソーシャルゲームである「パズドラ」は、「娯楽」を上に乗せたゲームの中でも、その上の乗った部分と土台の部分が、非常に上手く結びついている。

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 パズドラは、パズルを消すとモンスターが敵を攻撃し、クエストを進めていく。パズルを構成するドロップには火、水、木、光、闇、回復の属性があって、消したドロップと同じ色のモンスターが攻撃するという形で、パズル(娯楽)とモンスター(ゲーム)が結びついている

 パズドラにおいて特徴的なのが、モンスターの「リーダースキル」や「覚醒スキル」などのエンハンス(攻撃力アップ)効果だ。パズドラのエンハンスは、モンスターのスキルという「ゲーム」の部分だけではなく、パズルという「娯楽」の部分と結びついた形で行われる。「火、水、木ドロップを同時に消すと攻撃力4倍」とか、「火属性を一列に消すと攻撃力アップ」と言った感じで、ゲームを遊んだことがある人には説明不要だろう。パズルの部分とゲームの部分が関連し合っていることで、パーティーの構成からドロップマネージメント、コンボが繋がって能力が発動したときのカタルシスと、奥の深いゲームになっている。

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 パズドラのシステムは非常に優れていて、パズル系のソシャゲの標準と言えるものになっている。第二、第三のパズドラがどれだけリリースされているか見てみればわかるだろう。パズルは「娯楽」の中でも「ゲーム」の部分に馴染みやすいものだ。

 パズルとは違う直感的操作で人気の「モンスト」は、パズドラほどの戦略性はないが、代わりに友達とプレイして遊べるなど、コミュニケーションに比重を置いた形で大ヒットした。この作用については後に説明するが、まずは「学習ゲーム」において、どうすればパズドラ並の戦略性、ゲームとしての奥の深さを作り出すことができるのかを考えてみたい。


 学習ゲームも、基本的にはパズドラと同じように「エンハンス効果」を中心にゲームシステムを組み立てる。「英語」の場合はどうしても直感的な操作が難しいので、パズドラに近い構成になる。パズドラはスキルが消したドロップに作用したが、「英語RPG(仮)」においては、プレイヤー選ぶ問題のジャンル作用する。

「英語RPG(仮)」の戦闘画面

 まずは、だいたいどのようなゲームの流れなのか、簡単にイメージを掴んでもらうところから始めなければならない。あくまで一例だが、図を作ってみた。


 戦闘画面のイメージはこんな感じ。他のソシャゲをやったことがあればなんとなくわかるだろう。

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(画像内で使われているキャラクターは、あとらそふとからお借りしました)


 ゲームのルールは


  • 出てくる敵を倒してゴールまで進んでいくクエストの仕組み(他のソシャゲと同じ)
  • 4体でパーティーを組んで、HPと攻撃力は合計で計算
  • プレイヤーは、回答する問題を画面下3×3のパネルから選択する
  • 選んだ問題に正解したら攻撃する。失敗ならターンだけが経過。(黒ウィズみたいな感じ)
  • 攻撃に成功した場合は他のパネルのランクが1アップして、失敗した場合はパネルのランクが1ダウンする


 画像で流れを示す。

 まず、回答したい問題のパネルを選択する。

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 選んだパネルのジャンルとランクに対応した問題が出てくる。

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 回答を選択して攻撃。

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 正解か不正解の判定。学習ゲームなら、それぞれの単語の意味の開示など、フィードバックは必須。単語の意味だけではなく文章の主語、述語、接続詞などがビジュアライズされるとなお良い。

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 正解なら敵を攻撃

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 敵を倒しきることができなければ、問題のパネルランクが1つ上がって、選んだパネルからも新しいものが生成される。既存のソシャゲと同じように、相手もターン経過で攻撃してくる。もし問題に不正解で攻撃失敗の場合は、残りのパネルのランクは1づつ下がる。

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 だいたいこんな感じの流れなのだが、イメージできただろうか。

 また、上画面ではパネルを1つだけ選択したが、ルールとして、3つまでパネルを選択することが可能とする。1つより2つ、2つより3つのほうが攻撃力が上がるが、すべての問題を正解できないと攻撃は失敗になる。

 またここでは、キャラクターに属性はなく、どのパネルを選んでも攻撃力は同じとする。ランクの高いパネルを選んだら攻撃力が上がるというわけではない。つまりこのゲームのシステム上、正解できる確率が高くなるので、ランクは低ければ低いほど良い。

キャラクターの重要性

 このゲームにおいて、プレイヤーのステータス(どの問題を正解できてどの問題を正解できないか)が重要になってくるのは言うまでもないが、キャラクターのステータス(パーティーの強さ)も同じくらい重要になる。

 単純な攻撃力とHPを見ても、攻撃するたびに問題の難易度が上昇するので、相手を何ターンで倒せるかはかなり大きく作用する。また、攻撃を失敗した後は問題の難易度が下降して正解しやすくなるし、相手もターン経過で攻撃してくるので、攻撃を何回耐えられるか、というHPはもちろん重要。


 キャラクター(ゲーム側)のステータスに関しては、単純な強い弱いも(ガチャのために)重要だが、それを育てる過程が充実していなければならない。なぜなら、クエストを何度も周回するレベル上げの作業は、「学習」において最も大事なことと言って過言ではない「復習」と同義だからだ

 クエストをクリアするのに必要なのは、「キャラの強さ+プレイヤーの強さ」だ。プレイヤーの実力だけではなく、手持ちのキャラの実力も鍛えなければならないのだが、そのためにクエストを繰り返す過程で、プレイヤーも「学習(レベルアップ)」していくことになる。


 また、キャラクターのステータスは、単純な攻撃力とHPだけではない。いかにして「パズドラ」のような多様な戦略性を作り出すかを考えれば、やはり「スキル」が決定的に関わってこなければならない。

 ここでは、従来のソシャゲのようにキャラクター自体に「属性(ジャンル)」を定めていない。そのかわり、それぞれのキャラクターが持つ「リーダースキル」や「スキル」を、問題パネルのジャンルとランクに関わるように設定する。

キャラクター効果

 「英語RPG(仮)」の場合、プレイヤーが選べる問題は3×3の9つあって、一度に3つまで選べる。

 ここでは、パズドラなどにおける「リーダースキル」「覚醒スキル」のような、特定の条件を満たせば発動するような「キャラクター効果」をキャラ1体につき一つ想定する。

例1:「day」「cul」「soc」の3パネル同時正解で攻撃力3倍

例2:「tec」「tec」「tec」の3パネル同時正解で攻撃力2倍

例3:横一列にある「bio」「bio」「bio」の3パネル同時正解で攻撃力4倍

 みたいな感じで、キャラクターが持っている効果を設定する。単純にパネルを3つ選ぶというだけでも45通りある。さらに、3×3というパネルの並びを意識して、ビンゴになる位置、上段横一列、左縦一列など、場所という制約を課すこともできる。

 どのパネルが出現するか、というランダム性も含めて、高いエンハンス効果を狙おうというゲームらしさが生まれる。

 また、後で例を出すが、特定の行動をとれば特定のジャンルやランクのパネルが出現しやすくなるなど、様々な形でキャラクターの効果を設定することができる。

ジャンル変換スキル

 キャラの能力(スキル)は、問題パネルのランクとジャンルに作用する。これは、パズドラのドロップ変換をイメージしてもらえればわかりやすい。キャラの持つ「キャラクター効果」は、パネルを回答ときに作用するが、それとは別に、好きなタイミングでパネルなどに作用する「スキル」というものも設定する。多くのソシャゲに備わっているものと同様、ターン経過で使えるようになる。


 ジャンル変換は、パズドラのドロップの色を変換するのと同じように、問題パネルのジャンルを別のものにする。その際、ランクは変化しない。

例1:「tec」パネルを、「bio」パネルに変換

例2:「soc」パネルを、「day」「tec」「bio」「cul」パネルのいずれかに変換

例2:「day」と「cul」パネルを、「tec」パネルに変換

例4:「tec」と「bio」と「soc」パネルを、「day」「cul」パネルのいずれかに変換

例5:「cul」パネルを「bio」パネルに、「soc」パネルを「tec」パネルに変換

 ジャンルを変換するスキルだけでも多くのバリエーションが考えられる。このジャンル変換は、自分が得意なジャンルの問題を選びたいというだけでなく、上で述べたエンハンス効果の発動条件を満たすために使える。

ランク変換スキル

 この「英語RPG(仮)」において、問題のランクは低ければ低いほどいい。どの問題を正解しても攻撃力が同じなら、より確実に正解しやすい簡単な問題のほうが好ましいし、エンハンス効果が作用するのは問題のジャンルにであって、ランクは関係ない。

 しかし、プレイヤーが高いランクの問題を回答しなくていいことにはならない。問題を正解するごとにパネルのランクが上がっていくなら、戦いが長引けば高いランクのパネルを正解しなければならなくなる。また、パネルランク低下がプラスの効果だとすれば、パネルのランク上昇はマイナスの効果になるのだが、プラスの条件とマイナスの条件を組み合わせて、様々なスキルの効果を作り出すことができる。

例1:「day」パネルのランクを-1する

例2:HPが1になる代わりに、「tec」「bio」パネルのランクを-2する

例3:「cul」「soc」パネルのランクを+1し、HPを回復

例4:全パネルのランクを+1し、敵の動きを2ターン封じる

例5:「day」「tec」「cul」パネルのランクを+3し、次のターンの攻撃力2倍

 単純にスキルを消費してパネルのランクを下げるスキルから、パネルのランクが上がる代わりに回復や敵の行動ターン増加などの自分に有利な効果をもたらすスキルなど、これもまた多様なパターンが考えられる。

キャラクターの膨大なパターンと優劣

 ジャンル変換、ランク変換、回復やエンハンスなどの効果だけでも、膨大な組み合わせが可能になる。効果とスキルを持ったキャラクターのパターンが尽きるということはほぼ無いだろう。


 マイナスの要素を持った作用(スキル消費↓、パネルランク上昇↓、難易度の高い能力発動条件↓)とプラスの要素を持った作用(パネルランクの低下↑、エンハンス効果↑、HP回復↑、ジャンル変換↑、敵の動きを封じる↑など)からキャラクター効果やスキルを作る。それらのキャラクターを組み合わせてパーティーを構成し、そこに、ジャンルとランクで細かく分けられたプレイヤー自身のステータス、キャラのHPや攻撃力が掛け合わさる。


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 この膨大なパターンが、「計画→実行→達成」に厚みをもたらすゲームの世界観を作り出す。


 また、マイナスの効果とプラスの効果を組み合わせることで、スキルの優劣もつくりだしやすい。パズドラにおけるスキルのレベルアップは、スキルの溜まるターン数が短くなるというものだが、スキル自体にも成長の概念を作ることができる。


 例えば

「回復してパネルランク+2」→「回復してパネルランク+1」→「回復」→「回復してパネルランク-1」→「回復してパネルランク-2」

 というふうに、わかりやすいスキルの優劣が定まる。また、そこに「スキルが溜まるターン数」と「回復量」分岐要素も含めれば、スキルの成長も多くのパターンが生まれる。あまり複雑になりすぎるものよくないが、「計画→実行→達成」を快楽の中心に据える学習ゲームでは検討に値する。

パーティー例

 当然ながら、ゲームを作る上で、バランス調整も含め、どんな感じのパーティー構成があり得るのかは想定するだろう。あまり書きすぎると長くなるのでやめておくが、とりあえず2つ例を出す。

 あと、パーティー構成のルールとして、キャラクター効果は重複せず、発動条件が被った場合はパーティーの先頭にいるキャラのものが発動することにする。

例1:単色パーティー想定

 プレイヤーのスペックとしては、「day」系を中心に勉強していて、理系っぽい「tec」と「bio」は苦手、「cul」と「soc」はそこそこな人。

(1体目)キャラ名:ゆるふわエンハンス侍

効果:横一列「day」パネル3つ同時正解で攻撃力3倍

スキル:「tec」、「bio」のパネルを「day」に変換


(2体目)キャラ名:アシスト大好きドラゴン

効果:正解したパネルに「day」「cul」「soc」が含まれていると、次のターンに必ず「day」パネルが出現

スキル:「day」パネルのランクを-1


(3体目)キャラ名:回復型オーク

効果:正解したパネルに「cul」「soc」が含まれていればHPを回復

スキル:「tec」「bio」パネルのランクを+3してHPを回復


(4体目)キャラ名:汎用女騎士

効果:同じ色のパネルを3つ同時正解した場合、相手の行動ターンを+1

スキル:2つのパネルの位置を入れ替える

 だいたいこんな感じ(キャラ名は適当)。スキルのターン数などは書いていないが、なんとなく雰囲気はつかめると思う。


 狙いとしては、「day」パネルを横一列に並べて、高い倍率の攻撃を叩き出す。2体目のアシストは、問題を正解することができれば必ず「day」が出現するので、事実上「cul」「soc」を「day」に変換することができる。変換機能を上手く使うためにも、「cul」と「soc」を正解できる実力が必要になっている。また、3体目にあるように、「cul」と「soc」を正解することで回復することができる。4体目は、攻撃できるパネルが揃わなくてどうしようもなくなったときに、ジャンルを問わず同じ色の3つのパネルを選んで正解できれば生き残れる可能性があるということ。

 このプレイヤーの場合、「tec」と「bio」を捨てジャンルにしている。3体目のスキルは、パネルランクを上昇させる代わりに攻撃に耐えられるくらいまで回復して、上がったパネルを選んで失敗、他のパネルのランクを下げて正解しやすくすると共に、苦手ジャンルのパネルの排除を行う、という使い方を基本的にはする。

 「day」一つに特化したパーティーはこんな感じだが、それでも、「cul」や「soc」のジャンルを正解できたほうがより使いこなせる、という方向付けがされている。

例2:多色テクニカルパーティー想定

 ゲームにも慣れていて、幅広いジャンルに対応できる自信のある人向けのパーティー。

(1体目)キャラ名:ワンチャン太郎

効果:中央縦一列の「tec」「bio」「soc」同時正解で攻撃力7倍

スキル:「day」パネルを「bio」に、「cul」パネルを「soc」に変換


(2体目)キャラ名:威嚇お姉ちゃん

効果:横一列「day」「cul」「soc」同時正解で相手の行動ターンを+2

スキル:相手の行動ターンを-1


(3体目)キャラ名:天使たそ

効果:中央縦「day」「bio」「cul」同時正解で、全パネルのランクを-2

スキル:全パネルのランクを-1


(4体目)キャラ名:調整オバケ

効果:2つのパネル同時正解で、選択前のパネルとは必ず違うパネルが出現

スキル:画面上にあるパネルの配置をシャッフルする


 多色パーティーだとこんな感じになる。高倍率の攻撃が可能になるが、全ジャンルを確実に正解できる実力と、狙ったパネルがちゃんと揃うかの運も関わってくる。1体目の高倍率を狙うために、2体目で相手の攻撃を遅らせたり、3体目でパネルのランクを下げたり、4体目でパネルの調整、シャッフルを狙う。


 例を挙げるとキリがないのだが、こんな感じで色々なパーティー構成が考えられる。キャラクター効果とスキルだけを書いたが、実際は攻撃力やHPやスキルの回転率も重要になる。ステータスが高い代わりにスキルが弱いキャラクターや、スキルが強いかわりにステータスが心もとないキャラクターという差別化をしてもいいし、1体のキャラが2つや3つくらいスキルを使えてもいいと思う。

 また、ゲームのルールなどはあくまでサンプルなので、プレイヤーのステータスとキャラクターのスキルが噛み合う形でパーティー構築できれば、どんなルールでも構わない。

補足

 素朴に考えて、「ソーシャルゲームのフォーマット」に則るなら、「属性に対応してキャラクターが攻撃する仕組み」や、「属性相性」と言ったシステムを導入しないのは、おかしいのではないかと思われる方もいるかもしれない。キャラクターそれぞれがジャンルを持っていて正解したパネルに対応したキャラだけが攻撃するとか、「day」は「tec」に強く「tec」は「soc」に強く「soc」は「day」に強いみたいなジャンル同士の相性をゲームに組み込むべきではないのか。たしかに、それでも別に構わない。

 この記事における一環した発想は、いかにして「学習」を「ソーシャルゲームのフォーマット」の上に乗せるのか、ということだ。ただシステムの表面をなぞるのではなく、「ゲーム」をゲームとしてうまく機能させているのはどのような要素なのか、それは「学習」と噛み合うのか、ということを常に考える必要がある。よって矛盾するようだが、「ソーシャルゲームのフォーマット」のわかりやすい定義も、現時点ではしないほうがいいと感じた。


 色に対応したキャラが攻撃する、というルールは、パズルゲームにおいて非常に優れたシステムであることに疑う余地はないが、「学習ゲーム」とは相性が良くない。正解したジャンルのキャラだけが攻撃するのなら、属性染めの優位が高まり、他のジャンルを学ぶ動機付けが弱くなる。それはそもそもの目的からして好ましくない。

 また、「属性相性」というのは、単なる数字のぶつかり合いに「ジャンケン」を取り入れることによって、ゲームの選択肢と戦略性を確保する初歩的で安易な手法だ。たしかに「ジャンル」ごとの相性の導入は検討に値するが、キャラの持つ効果やスキルのみでゲームの選択肢を増やしていくというのが意識の高いやり方だと思う。

 ジャンルごとの得意不得意は、ゲームのキャラクターにではなく、プレイヤー自身の偏りという形で、すでにゲームの核となる形で組み込まれている。

 「学習ゲーム」は、「プレイヤーのステータス(偏り、属性)」というこれまでゲームにあまり無かった要素に着目する。その場合、キャラクターの差異は、攻撃力とHP、効果とスキルの使い勝手だけでも十分に表現できるのではないだろうか。

 ただ、属性相性をベースに構成したほうがゲームを作るのが楽になるので、あまりおすすめはしないがやってもいい。(属性相性という形にしなくても、モンストにおける◯◯キラーのような、特定の敵に種族や状態を定めて、それに有効な能力値の補正をかけるという仕組みはあってもいいかもしれない。やはり安易なやり方だが)


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誰でも成功(計画→実行→達成)できるようにする

 和ゲー的な文脈におけるゲームの楽しさは、「成功」を誰でも手軽に味わえることにある。その原型は、国民的RPGにあるように、ただボタンを押せばレベルが上がって強くなっていく「計画→実行→達成」だが、和ゲーが発展する過程で、そのプロセスを豊かにする仕組みがいくつも生み出されてきた。先ほどまででゲームの仕組みやパーティー構築を説明したが、これからはクエストやイベントの配置の話をする。

ゲームの楽しさとは?

 ここで、そもそも僕達がソーシャルゲームをやる上で、何を楽しいと感じるのか、なぜゲームをやり続けるのか、という問題を掘り下げて考えてみたい。

 ゲームは、一つの作品の中に様々な快感が詰まっている。目新しい直感的な操作や、現実では不可能なことができるカタルシス、システムと物語が並行した叙述、などなど、色々あるだろう。だがここでは、JRPG的な文脈におけるゲームの快感、「計画→実行→達成」に焦点を当てる。


 僕達は、受験勉強や資格試験や仕事などで、目標を立て、その目標に沿って行動し、それを達成することを求められる。その過程は、人間にとってはなかなかできることでないのと同時に理想になる。目標を立て、計画し、達成までの道筋を思い描くのは楽しい。参考書を買ったり、学習系、啓蒙系のブログ記事をブックマークして、自分がそれを達成するところまでを夢想するのは誰でもやることだが、実際にそれをやり通すことは大多数の人にとって難しい。

 しかし、それを誰もが「達成」にできるようにしたものが(和製RPGを源流にした)ゲームの快感なのだ。自分の思い描いたプランが予定通りに実行できる。やろうと思っていたことが、実際に思った通りになる。「目標→行動→達成」が強力な快楽を秘めていることは間違いがない。プレイヤーの操作が介在するゲームというコンテンツが、その快楽を中心にシステムを組み立てるのは、とても理にかなっている。

(参考:ゲームは僕たちに平等をもたらしてくれるのか?


 ゲームは、システムの部分でもデザインの部分でも、「計画→実行→達成」をとてもやりやすくしている。しかし同時に、プレイヤーが「ただボタンを押しているだけ」と感じないよう困難を「表現」する。

 モンハンやパズドラのルールは、すごく複雑でややこしい。しかしだからこそ、それに馴染むことができた時にはややこしかった一連のプロセスが代えがたい快感になる。「達成」の喜びを味わうためには、自分が挫折しない程度の困難を必要が必要になる。

 人気のソシャゲでも、レベル上げや素材集め、レアドロップ狙いの周回などは、やっている本人も苦行だと自覚している。しかし、ゲームの世界の中において、それが計画と達成の間にある「実行」であるからこそ、その間の距離感が適切なものであるからこそ、プレイヤーは苦行を自発的に引き受けることができる

 プレイヤーの困難が「計画→実行→達成」という快感に繋がっていること、それを感じさせる調整は非常に重要だ。

どのように「計画→実行→達成」を充実させるか

 例えばパズドラユーザーは、あのパズルが好きで好きでどうしようもなくて、その手触りやドロップが消える感触がたまらないからずっと同じようなクエストをやっているのか、と言われると、大方は違うだろう。土台にある「ゲーム」の部分、「計画→実行→達成」があるからこそ、多くのユーザーが莫大な手間と金をそれに費やしているのだ。

 ソシャゲやオンゲにおいて、基本的に「ゲームクリア」という概念はない。あえてプレイヤーの目的を定めるなら、「現環境におけるもっとも難しいクエストをクリアできるパーティーを実現していること」なのだが、実質的なゲームの中身はその過程である「計画→実行→達成」にある。


 和製RPGは、無味乾燥な「計画→実行→達成」を豊かにする財産を蓄えてきた。「計画」の段階では、それが多様な選択肢から自分の好きなものを選ぶということが力を持つ。もしくは、レアドロップなど、ゲーム内における何らかの価値に導かれる形で計画が定まるのが好ましい。そのための仕組みが、自由な創作が可能なデータベースが作り出す世界観の厚みだ。

 これに関しては、人気のゲームを参考にしてみるのがいい。

ポケモン

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 「モンスター」や「タイプ相性」などソシャゲの元になる仕組みを確立し、現在に至るまでその世界観を広げ続けている。ポケットモンスターというゲームは、自分はどんなポケモンが好きか、物語や世界観から何を受け取ったか、対戦する上でどんな能力のポケモンを使いたいのか、どのような育て方、戦い方をしていくか、どういうこだわりを持つか…などなど、選択肢が多様であり、パーティーの構築にも創作性が溢れ、「計画→実行→達成」の間に様々な体験や叙情の入り込む余地があるという点で、本当に優れている。


 一方で、ソシャゲの原型と言って間違いないほど、生々しい仕組みを備えたゲームでもある。優秀なポケモンを入手して、理想のパーティーを実現しようとした場合、手間と試行回数という努力を重ねる必要だ。そこまでの道のりは楽ではないが、誰でもできるという(現実に比べれば圧倒的に良バランスな)点で、まさにゲーム的な「計画→実行→達成」である。ポケモンは人を廃人にするゲームだが、当然ながらそこには優れた世界観による動機づけが働いている。

モンスターハンター

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 優れたアクション性と戦略性のあるゲームだが、無駄に堅いモンスターを何度も狩って装備を整える感覚、同じクエストの繰り返しというゲームシステムが、モンハンの核になる部分とも言える。日本では国民的ゲームといっていいほど人気があるが、和ゲー的なエートスを確立した作品かもしれない。ガチャを追加したモンハンの簡易版が、現在流行しているソーシャルゲームだ。

パズル&ドラゴンズ

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 パズドラはこの記事で何かと例に出しているけど、一番人気のソシャゲだから。長い期間トップを維持し続けてきたこともあり、ゲームバランスなどは最も参考になると思う。パズドラを代表とするソシャゲは、ポケモンやモンハンのような世界観の厚みや、歴史や、様々なシステムを盛り込む容量がない。しかしそれだけに、快感の核になる部分を直接的に打ち出している。また、これはほとんどのソシャゲに共通することだが、容量がないぶん「時間」を取り入れることで「計画→実行→達成」をデザインしている。

(参考:ソーシャルゲームの「時間」という発明


 そして、ソシャゲの備える仕組みで最も強力なものが「ガチャ」だ。ゲームはあんまりやらないけどガチャだけは引く、みたいなユーザーがいるほどすごい仕組み。モンスターという「データベース」には強い弱いを含めた様々な特徴の差異があり、それは単なるデータに、現実の金と替えたいと思わせる「価値」を付与する。データベースの中のどれかをランダムで手に入れる「ガチャ」という仕組みは、収益システムそのものであり、高収益を上げるソーシャルゲームの中心になるものだ。

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 優れたソシャゲは、「ガチャ」や「レアドロップ」というゲーム内における「価値」に導かれるようにして、「計画→実行→達成」が作り出される。例えば、レアガチャで「ホルス」を引いたら…こういうパーティーを完成させるためにここのクエストを周回しよう、「パンドラ」を引いたら…みたいに、「価値」に動機づけられる形で「計画→実行→達成」が定まる。そして、それは逆もあり得る。現在自分のパーティーはこういう状態だから、レアガチャを回して◯◯が欲しい、せめて△△が出るだけでもだいぶ違う…みたいな感じで、ガチャを回すという行為がゲームの快楽である「計画→実行→達成」に組み込まれる。

学習ゲームの動機づけ

 「英語RPG(仮)」も、ゲームとして遊べるものにするために、上で挙げたゲームを大いに参考にするべきだ。まず、どのキャラクターにも一長一短があり、クエストを攻略可能なパーティーの組み合わせがいくつもあること。そこに個人の趣向と選択と創造性が絡んでくるものが理想だ。

 それを踏まえながらも、ゲーム内における「価値」を上手く創りだす必要がある。「同じ高さに並んだデータベース」にも、差異は必要になる。ステータスやスキルによる差別化で、比較的価値のある(強い)キャラクターと価値のないキャラクターを作らなければならない。もちろんこれは、今のソシャゲで当たり前にやられていることなので説明不要だろう。


 学習ゲームにおいては、ゲームのルールとゲーム内の価値によって、プレイヤーの学習(計画→実行→達成)が動機づけられるのが好ましい。

「計画」のための選択肢を有効に

 選択肢があらかじめ豊富で、それが自分にとって意味があれば「計画」のフェーズが豊かになる。ジャンルごとに問題の特色があって、一点特化するか、2つを交互に学んでいくか、満遍なく均等に学ぶか、という選択がルール上有効なものとして備わっている時点で、それはゲームになる。

キャラの「価値」による動機づけ

 既存ソシャゲでは、強いキャラが手に入ったらそれに合わせたパーティー構築を考えるが、学習ゲームも同じである。ただ、学習ゲームの場合、それに加え、強いキャラが手に入れば、それを使いこなすために勉強しなければ(自分のレベルを上げなければ)ならない。ゲーム内の価値に動機づけられる形で学習するモチベーションが高まる。例えば、手に入れた最強クラスのキャラクターが、「day」「bio」「cul」を同時に正解する必要のある能力だったら、やはり使えるように頑張るしかないだろう、ゲーマーなら。

 そして、逆のことも言える。頑張ってクエストをこなし続けて、自分の実力がついてきたら、せっかく勉強頑張ったんだからそれを活かせるようなキャラが欲しい→じゃぶじゃぶ課金というパターンもあるだろう(ゲス顔)。いずれにせよ、色んな状況に対して、ガチャのランダム性に基づくゲーム内の価値が上手く機能してくれる。

レベル上げのための反復

 学習ゲームにおいては、キャラのレベル上げというのは非常に重要になる。クエストを繰り返すレベル上げの過程でプレイヤーの実力が形成されていくからだ。そのため、例えばパズドラやモンストみたいに、メタドラや亀のような特定のレベル上げ用モンスターを用意するのではなく、普通にクエストをクリアする普通のレベル上げを推奨するゲームデザインがいいと考えている。単調なレベル上げでも、ごく稀にクエストで普通に使える強力なキャラ、進化やレベルアップに必要なレアキャラがドロップする、みたいな形にすればメリハリがつく。もちろんゲリラクエストもいいのだが、パズドラやモンストみたいに極端なのはいただけない。

 また、キャラクターの効果やスキルのレベル上げの仕組みを導入するのもいい。効果の場合は攻撃倍率が上がったり、スキル上げは必要ターン数が短くなったりする。スキルの成長に関しても、「回復」というスキルをレベルアップするとき、それが「回復+特定ジャンルのランク-1」か「大回復」か、という分岐を作ってもいい。

 キャラクターを成長させるという過程に、プレイヤーが他のジャンルへ手を伸ばす動機付けを与えることはあらゆる形で可能だ。例えば、「day」系のキャラクターの進化素材、スキル強化素材に、「tec」系のキャラクターの素材が必要になる、みたいな調整で、必要に迫られる形で他ジャンルへ誘導できる。

どうやってクエストの違いを出すのか?

 ソシャゲは同じようなクエストを何度も反復するが、それは、少しHPや攻撃力などの数値をいじれば新しい敵を簡単に作ることができるからだ。違いや目新しさは、属性の組み合わせとか、攻撃ターン数、バインドやブラインドなどの厄介な技で表現されてきた。

 属性相性などを設定しない「英語RPG(仮)」においても、パネルの出現傾向でクエストの違いを表現することができる

 パズドラの「火クエスト」は火属性の敵が多めに出るクエストだ。「英語RPG(仮)」の「dayクエスト」は、「day」パネルがたくさん出現する。そのような方法でクエストの違いを出す。


 プレイヤーのステータス(属性)に働きかける形でクエストの違いを出すなら、それはパネルに作用するのが正統なやり方だろう。特定の2色だけが出やすいとか、出現しないパネルがあるとか、パネルの出現確率にグラデーションをつけるだけでも様々なパターンがある。また、敵側の能力としても、パネルのジャンル変換、ランク変換、位置シャッフル、HPの回復、スキル封じを使ってきたりと、いろいろ考えられる。そこに、敵の数、攻撃ターン数、攻撃パターン、HPや攻撃力などを設定すれば、十分クエストごとに違いが出る。

クエストの配置について

 今あるソシャゲを「学習ゲーム」にする上で、慣例を変える必要がある部分はいろいろあるが、その中で僕の思う最大のものは、直線的なクエストの配置である。

 今のほとんどのソシャゲに見られる、簡単なクエストから順番に出てきて段々難しくなってくるというやり方は、ゲームにおいて決定的な要素が「キャラクターの強さ」だからこそ、成り立つものだ。しかし、プレイヤーの実力が決定的に関わってこなければならない「学習ゲーム」では、娯楽系のソシャゲと同じような直線的な配置は窮屈になってしまう。

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 基本的なソシャゲのクエスト配置は、最初から順番にこなして、どこかで先に進めなくなるポイントがあり、突破できるようになるまでは、それより下のレベルの経験値効率の良いクエストでレベル上げやランク上げをする、みたいな感じだと思う。結局はレベル上げのために一度やったクエストを遡るのだから、最初から色んな種類のクエストを遊べるようにしたほうがいい。


 もちろん、段々難しくなるメインクエストは、パーティーを強化していく目標を定めるためにも、最も重要になる。次の目標、高いハードルは常に目の前になければならない。

 一方で、それと平行して、「dayクエスト」「tecクエスト」「bioクエスト」「culクエスト」「socクエスト」というそれぞれの「ジャンルクエスト」が、最初から遊べて、難易度もいきなり難しいやつに挑めるくらいでいい。この「ジャンルクエスト」は、経験値稼ぎと素材集め用のクエストという位置づけだ。

 「英語RPG(仮)」の肝は、プレイヤーの趣向にあった選択肢が最初から用意されているところだ。ジャンルクエストをあらかじめ用意することで、得意なジャンルに特化するメリットを作り出す。例えば、「day」系の問題が得意な人は難易度の高い「dayクエスト」を周回できるので、経験値効率が良くなる。


 もちろん、特化するメリットと共に、他のジャンルに手を伸ばす動機付けも用意する。例えば、合成する際に、経験値効率の良いキャラやスキルを強化してくれるキャラを作り出すために、複数のジャンルのクエストをこなさなければいけない、という調整がある。

 高難度の「dayクエスト」で稀に入手できるキャラが出たのだけど、こいつを有効に使うためには、中程度の「tec」クエストで手に入るキャラと合成しなければならない…みたいな感じにして、他ジャンルへ手を伸ばす動機付けを作り出す。

 また、一つのジャンルに特化していれば、キャラが強くなるのと同時に「day→tec変換」など、変換スキルも充実してくる。育てたキャラと得意なジャンルをある程度引き継いだ状態で、他のジャンルに手を伸ばせるようにする。このような形で、段々次のジャンル、上のランクへと導いていく。


 強化、合成、進化、スキルアップの仕組みは、ある程度複雑にしたほうが「計画→実行→達成」が豊かになる。一方で、複雑でありながらも、その複雑さを無視できるようにすることも忘れてはならない。工夫をすれば効率が良くなるけど、あんまり考えずに合成などをやっていてもレベルアップはできる、というふうに。

学習ゲームのバランス調整について

 「英語」に関しては、誰もが義務教育で勉強している、関心分野ごとにジャンル分けしやすい、というゲームを作る上で非常にやりやすい要素が揃っている。かわりに、最初からプレイヤーのステータスに大きな開きがあり、ゲームを最初からこなす中でプレイヤーの傾向を作っていくのは難しい。どちらかと言えばジャンルに特化するメリットを強めにして、ゲームを始めた時点から難易度の高いクエストにも挑めるようにしておくといいように思う。


 学習ゲームのバランス調整について、どのような問題の難易度、ジャンルの振り分け、クエストの配置、キャラクターの効果やスキル、進化やスキルアップのフローチャート、レアドロップ率にすれば、よりプレイヤーが継続して学習するものになるのか、または収益率の高いものになるのか、それはまだわからない。

 既存のソーシャルゲームには、今までやってきたバランス調整の蓄積があるし、もちろんそれは有用なデータだ。しかし学習ゲームは「プレイヤーのステータス上昇」という新しい概念が加わるので、その調整の塩梅はだいぶ変わってくるように思える。実際にバランス調整を考える際には、ゲームのみならず、学習教材なども参考にするべきだろう。

 最初は、ある程度、クリエイターの手づかみで調整してみるしかない。ゲームが大作になるにつれて否定されてきているが、もともと和ゲーは個人の感覚、作家性にもとづいてゲームの細かいところを調整していたわけだし、やってみてできないこともないだろう。むしろ本領発揮と言えるかもしれない。

 だが、事後的データを分析する際には、「クエストがたくさん行われている=ユーザーが勉強している」なのでわかりやすい。もともとは唾棄されるべき「いかに金を落とさせるか」という統計に基づいた一連の手法が、「いかに学習継続率を上げるか」という世間に認められやすいものになる。


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惰性を組み込む

 僕がゲームを作る上で重要だと思っているのが、「惰性」でできることだ。これは、現実と対比してゲームでは「計画→実行→達成」が容易であることとも関係がある。

人はどうしてついスマホをいじってしまうのか?

 ゲームのシステム上のことだけではなく、スマートフォンというハードウェア自体が持つ特徴にも言及しておいたほうがいいだろう。これは個人差もあると思われるが、満員電車など集中力が切れやすい状態で本を読むのは気合がいるけど、スマホアプリならお手軽に時間を忘れて没頭できる。勉強は一時間も続かなくても、ゲームなら余裕で徹夜できる。。

 アナログな時間が続いていく現実の冗長さと比較して、ゲームは、入力から出力までの速度と確信、その積み重なりが力を持つ。これに関しては、詳しくは過去記事を参照。

(参考:「ゲーム」の定義と、ゲームが持つ超越性についてゲームは冗長さを縮減する


 自分の内部ではなく外部に「確信」があること。入力に画面が反応する、スライドが切り替わる、キャラが動く、派手なエフェクトが出る…素早く快適なレスポンスが、それをゲームたらしめている。

 ゲームを集中してプレイし続けられるのは、、入力から出力までの速度、人間の外部にある「確信」が自分を引っ張ってくれるからだ。ゲームが自動で「確信」を積み重ねてくれるから、人間は安心してその勢いを借りることができる。だからこそ、惰性で没頭するといった矛盾したみたいなことが可能になる。


 「学習ゲーム」において、どうやってその力をどう利用すればいいかだが、ソーシャルゲームの形式に準拠した時点で、それはある程度備わる。手元のスマホで遊べて、入力に対してすぐに反応が返ってくる仕組みを持っているだけでも、それなりの価値がある。  

ゲームに「幅」をつくる

 しかし、惰性でできるゲームの特徴をうまく活かした仕組みを、一つ考えてみたい。

 パズドラやモンストの優れている点は、ゲームのやり方に「幅」があるところだ。めちゃくちゃ考えてプレイすることもできるし、適当にやることもできる。差し迫った場面ではすごく悩んで全力でプレイすることになるが、一方でレベル上げや素材集めのときには、ニコ動を視ながら片手間に、全然考えずに流す感じでプレイすることもできる。「パズル」や「おはじき」という「娯楽」の部分に、そこまでの「幅」をもたせたところが、上の二つを人気ゲームにしている理由の一つかもしれない。


 惰性を組み込むやり方は多くのゲームに有効なものだが、学習ゲームにおいて惰性できるということは、かなり大きな意味を持つ。(惰性で勉強できるとか最強だろ!)

 「学習」とは言えそれがゲームであるからには、考える労力をできるだけ減らした上でプレイできる仕組みは重要になると思う。「ボタンを押せば数値が増える」に近い形で、意識の低いお勉強をできる幅があると良い。

 英語学習の場合は、和文と英文を見比べているだけでもそれなりに勉強になる。レベル上げ時なんかは、あまり考える労力を使わずに、さくさく進める仕組みが欲しい。


 そこで、AP(アンサーポイント)みたいな仕組みを想定する。

 キャラのステータスに「HP、攻撃力、AP」と、新しく数値を儲ける。このAPという数値は、消費することで自動的に問題を正解できるポイントだ。この仕組みによって、レベル上げなどそれほど気合を入れないクエストを、考えるコストの少ない「ただボタンを押す」作業に近づける。

 クエストで出てくる問題は4択式だが、APを消費することによって、問題を1つから最大4つまで選択できるようにする。


 APを消費して問題を2つ選択。どちらかに正解があれば攻撃が成功する。

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 3つ選択することもできるが、その分APの消費量も増える。

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 まったくわからない場合は4つ選択することもできる。その場合は必ず正解になる。

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 APの消費量は問題のランクが高いほど高くなる。このような仕組みをつくれば、簡単なランクのクエストは、APを消費しながらどんどん進んでいけることになる。

 またAPは、プレイヤーの習熟度の段階をよりはっきりさせる効果を持つ。4つ選択肢がある中で、まったくわからないのか、少なくとも1つは違うと断定できるのか、選択肢を2つまで絞れるのか…というふうに、自分がどれだけ身についているかより実感しやすくなる点で、優れた仕組みだ。

 難易度の高いクエストの場合は、どのタイミングでAPを使用するのかが重要な駆け引きになってくる。単純な「わかるかわからないか」に「APを使うか使わないか」という選択肢が加わり、「何となくこれのような気がするんだけど…」という場面がより緊迫したものになる。


 さらに、APに汎用性を持たせるなら、スキルの発動条件などにAPの消費というのがあってもいいし、APの回復効果というのも当然考えられる。

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 AP消費というマイナス要素と、AP回復というプラス要素を上の図に加えれば、よりゲームの選択肢に厚みが出る。


 ただ、問題を選択するフェーズに複雑な判定を持ち込むのは負担がかかるので、何でもできるわけではなく、余裕があるならやったらいいかな、という一つの例に過ぎない。取捨選択は必要だろう。本当は英語学習なら、問題文が出てくるのと同時にリスニング音声が流れるのに越したことはないのだけれど、まあ難しいよね。


 別にAPを導入しなくても、レベルの高いパーティーで難易度の低いクエストに行けば自然と惰性でできるようになる。ただ、全力のプレイと惰性のプレイを同じルールで実現することのできる、「幅」のあるゲームシステムは、ソシャゲにおいてかなり優れたものと言えるだろう。


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学習のインセンティブを作り出す

 ゲームの中のデータ「価値」は、作品の世界観の中でのキャラクターの強さに紐付けられているが、それを入手する方法は主に「レアガチャ」であり、そのガチャを引くためにはゲーム内の「資源(=パズドラにおける魔法石、モンストにおけるオーブ)」が要る。「資源」は、現実のマネーとも結びついている、最も直接的な価値だ。

 毎日魔法石がもらえるログインボーナスのように、「資源」の直接的な価値による動機付けは、当然ながら学習ゲームにも有効。

単語帳とスタミナ回復

 「英語RPG(仮)」にも、既存のソシャゲの多くで使われている、クエストに出ると消費するスタミナシステムは実装する。魔法石を使えば回復するのも同じ。

 クエストをこなしているだけでも、段々英語が身につくゲームにするべきだが、やはりそれとは別に、直接語彙を鍛える「単語帳」という仕組みは必要になると思う。クエストの文中に入れるのが難しいリスニング音声も、できれば単語帳には導入したい。よくある英語アプリのような標準的なもので構わない。

 ただし単語帳も、ジャンルとランクごとにわける。ジャンル「day」ランク「3」の正解率を上げたいなら、それと対応した単語帳を見れば、問題として出る単語はすべて乗っている、という具合だ。

 自分のステータスを強化するためにプレイヤーが自発的に単語帳をめくりたくなる、というモチベーションのデザインは、学習ゲームがその作品全体を通してずっと意図するべきことだが、ここで、英単語をめくるとスタミナが少し回復するというシステムを導入する。


 既存のソシャゲにおけるクエストとスタミナ消費のバランスは、ゲームごとにわりとばらつきがあるようにも思えるが、序盤に関しては共通している。ゲームオーバーにならずにクエストをクリアし続ければ、ランクアップでスタミナが回復して、ある程度まではずっとプレイし続けられる。途中で敵が強くなって先に進めなくなれば、スタミナ回復に時間を必要とするようになる。


 既存のソシャゲの序盤は

 クエストを数回クリア→ランクアップでスタミナ回復→クエストを数回クリア→ランクアップでスタミナ回復→繰り返し

 でスタミナの回復を待つことなくゲームをプレイし続けられる。


 「英語RPG(仮)」の場合は

 クエストを数回クリア→スタミナ切れ→単語帳をめくってスタミナ回復→クエストをクリア→ランクアップでスタミナ回復→クエストを数回クリア→スタミナ切れ→単語帳でスタミナ回復→繰り返し

 というループで、中盤を越えるまではずっとゲームを続けられるバランスが良いのではないかと思う。単語帳をめくって自分に必要な能力を鍛える作業を、ゲームの流れに組み込むのだ。

文法学習

 英語を「学習」する上では、単語やフレーズだけでなく、文法や語法の理解も、避けて通れないものかもしれない。クエストは文章で問題が出てくるので、まったく学習できないことはないが、ゲームのシステムとして文法学習を意図したものは現段階では想定していない。

 文法も単語帳と同じように、いつでも参照できる形で勉強できるのがいいが、文法学習には単語帳よりもさらに直接的なメリットを用意する。クエストとは別に問題を用意して、クリアすれば「資源(魔法石)」や強力なキャラクターが手に入る。

 「覚える」ことよりも「理解する」ことのほうが頭を使うコストが大きい。より強力なリターンで動機付けて、学習をスムーズにする。ログインボーナスなんかと同じ仕組みだが、そのゲームの中の価値体系を受け入れたユーザーなら、少し気鬱なこと、頭を使わなければならないことでも、石が貰えるなら必死でやるだろう。


 単語学習や文法学習は、クエストとは別にホームみたいな空間を作り出して、そこで特典の受け渡しを行うのが楽しいんじゃないかと思う。なんなら、単純なスタミナ回復や石の入手だけではなく、クエスト中に有利な効果があったりお金が稼げたりする仕組みを設けるのもいい。

 既存のソシャゲで言うと白猫プロジェクトの「タウン」みたいな仕組みだ。

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 白猫の「タウン」は洋ゲーの要素を取り入れてみたものだが、クエストとは別にこういう和らぎ的な空間を作るのは、わりといいことだと思う。「モンハン」も、クエストの繰り返しの合間には村がある。ソシャゲにおけるゲームの空気感や時間感覚は、モンハンを参考にするのがいいんじゃないかと個人的には思っている。

通信プレイとフレンド機能

 通信プレイ(協力プレイ)も、もしできるならあったほうが良い要素であることは間違いない。ソシャゲは、というよりゲームは、それが流行していればしているほど優れたコミュニケーションツールになる。中高生なんかは、毎日英語を勉強せざるを得ない身分でもあるわけだし、「友達もやってるから僕もやってみるか」と思わせるには十分過ぎる環境だ。

 パズドラの欠点は協力プレイができないことだが、「英語RPG」の場合は4択の問題を選べばいいだけなので、比較的簡単に実装できるだろう。モンストと同じように、ホスト以外のスタミナは減らないけど報酬は手に入るとか、通信プレイでしか行けないクエストがあるという形にすれば十分に協力プレイのメリットはあるし、コミュニケーションの前ではそれも出汁に過ぎない。キャラを一人づつ持ち寄る場合は、通信プレイ用に、2番手として強いキャラとか3番手として強いキャラの需要が高まるかもしれない。

 そして、当然ながら「英語RPG(仮)」の場合は、持ち寄るキャラだけでなくプレイヤー自身のステータスも非常に重要になってくる。問題が出てきたとき、4人でやる場合は、4人いるうち誰か一人が正解をわかればいいわけだから、役割分担が成り立つ。特定のジャンルに特化して、例えば「day」のレベル5までなら確実に正解できる、というプレイヤーはそれだけで需要がある。

 通信プレイを導入すると、学力アップのモチベーションに対人関係が加わる。友達同士で楽しく役割分担することができる。オンラインプレイ市場に乗り出せるように勉強して、その勉強した成果を他プレイヤーの前で披露することもできる。また、多くのプレイヤーがやる中で特定ジャンルの不人気が顕著になったとしても、人気がないからこそ通信プレイ市場では価値が高くなり、格差を埋めてくれる働きもある。


 フレンド機能もできれば作ったほうがいい。ただし、効果やスキルの組み立てをベースにしてゲームを構成する「英語RPG」に、直接キャラを1体パーティーに加えるやり方はそぐわないかもしれない。

 そもそも、今のソシャゲはプレイヤーではなく手持ちのキャラとフレンド登録しているのだが、別にキャラクターベースじゃなくて普通にそのユーザーと友達になる、みたいな感じでいいと思う。「day」系のクエスト攻略突破数が多いユーザーをフレンドにすると、たまに「day」パネルのランクを下げてくれる、みたいな感じにすれば、個人がクエストをクリアするモチベーションもさらに高くなる。

期間限定クエスト

 当然、時間軸に働きかける期間限定クエストは導入するべき。ゲリラクエストや降臨クエストなど、ここらへんの感覚は既存のソシャゲと同じでいいと思う。

 メタドラクエストを周回するのは、ゲリラ期間中はパズルが特別に楽しくなるというわけではなく、「計画→実行→達成」の一部として有効だからこそ、みんなが夢中でやるのだ。ただ、「英語RPG(仮)」は、復習としてのレベル上げを重視するべきなので、メタドラや亀のような極端な経験値効率モンスターはあまり良くないと思う。

 期間限定クエストは、そのクエストが出るまでに◯◯ジャンルと◯◯ジャンルのランク◯までは完成させておきたい、というモチベーションが生まれるようなやり方が好ましい。


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英語(語学)だからできること

 ここまでで述べてきた「学習」と「ゲーム」を結びつける方法は、「英語」に限らず他の分野にも応用可能なものだが、英語(語学)だからこそ、ゲームとしてより面白くなる部分もある。

問題文でストーリーを表現する

 「ゲーム」の俎上に乗せる題材としての「英語(語学)」が、他と比べて圧倒的に優れている部分がある。英語(語学)の問題は、それが「解けるか解けないか」というゲームを構成する要素であると同時に、一問一問が文章としての意味を持っている。

 日本のRPGは、テキストをよく読む文化だと言われる。ノベルゲームは言うまでもなく、RPGも文章が多い。和製RPGを源流にしたソーシャルゲームと、「テキスト」をたくさん読ませる語学学習は、お互いに上手く噛み合う素地がある。


 そして、ストーリーについてだが、問題文の文章の断片を集めるような形で、ストーリーを語ることもできるのではないか。

 ソシャゲの快楽は「計画→実行→達成」にあり、そこでストーリーが重要な要素になっているとはあまり思えない。パズドラやモンストにはまったくないし、ストーリーを用意しているようなソシャゲも、もちろんユーザーによって異なると思うが、あまりストーリーがゲームの楽しみになっているとは思えない。スキップしまうユーザーも多いのではないか。

 ストーリーを強制すること、ゲームの中に一々長いお話やムービーが入ることは、いくら日本人が比較的そのようなものに耐性を持っているとはいえ、あまり好ましくない。これは個人的な好みかもしれないが、ゲームにおける優れたストーリーの魅せ方は、プレイヤーにそれを強制せず、それでいて深い考察が可能になるものだ。例えば、フロム・ソフトウェアの「ソウルシリーズ」なんかがそれだと思う。

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 ソウルシリーズは、ストーリーはものすごく大雑把にしか説明されないしスキップも可能だが、武器やアイテムに書かれている説明文を読み込むことで、その壮大な背景が浮かび上がってくる。物語を無視してもゲームは楽しめるんだけど、それに興味があるならアイテムの説明文を熟読する。断片から物語が構成され、その編集作業とゲームプレイが組み合わさる。非常に優れたストーリーの魅せ方だと思う。

 フロムと同じレベルのことは簡単にはできないが、語学系のソシャゲは、問題文自体がそのままストーリーの断片になるので、ソシャゲにおけるストーリーの新しいやり方になるかもしれない。ストーリーと言わずとも、それぞれのキャラクター性を強調するだけでも大分違うだろう。キャラに「強い」「使える」以外の価値を持ち込むやり方は、方法として確立するのは難しいが、「難これ」や「スクフェス」が参考になりそうだ。文章を読むことでゲーム内のキャラクターの個性や物語が浮かび上がってくるなら、学習という目的にもより一層適ったものになる。

英語(語学)はコラボと相性がいい

 他作品、他メディアとのコラボは、ソシャゲの面目躍如と言ってもいいものだ。自由に創作と参入が可能な「データベース」が「計画→実行→達成」を豊かにしているからこそ、まったく関係のない種類のものを雑多に混ぜあわせ、その力に変えることができる。

 人気のある版権を使うというのは、競争が激化しているソシャゲ業界の中で、ますます有用な方法の一つになりつつある。版権で成功したソシャゲの代表格は「ONE PIECEトレジャークルーズ」だろう。やはり日本で一番人気のコミックだけあって強い。

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 トレクルのゲームシステムと版権元のワンピースって全然関係ないのだけど、どんなものとでも気軽にコラボできるところが日本のソシャゲの優れたところだ。パズドラやモンストも、コラボという形で色んな版権を取り込んでいる。


 英語(娯楽)のソシャゲを作ろうとしたときに、版権、コラボというやり方は、一層強力になる。なぜなら、上で述べたように、文章の一つ一つが意味を持つからだ。魅力のある版権があったとして、適当にオモチャみたいなゲームをくっつけるよりも、キャラのセリフや印象的なシーンなどを文章にして提示したほうがより効果的なコラボのやり方だろう。アニメ作品などはノベルが原作のことも多いし、そのような版権と語学は非常に相性がいい。

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 「もえたん」を知っているだろうか。別に知らなくてもいいのだが、アニメなどのセリフが例文で出てくる単語帳だ。英文がちょっと残念なので本の評判はあまり良くないが、試みとしては面白い(アニメ化もされているし、スマホアプリもある)。

 語学と版権を組み合わせた場合は、「◯◯に出てきたキャラをパーティーに加えることができて楽しい+原作のセリフが出てきて嬉しい+英語も身につく」というふうに相乗効果が働く。別にアニメやラノベじゃなくても、名言や歌詞、雑学や文学作品や技術書など、文章と組み合わせれば色んなものとのコラボになる。

 人気声優が文章読み上げてくれたりしたら最高だよね。まあ英語は難しいだろうが、歴史とか法律なら十分にありだと思う。


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勝算はあるのか?

 ここまで、「僕の考えた最強のゲーム」のアイデアをつらつら述べてきたのだが、それなりにゲームを打ち出す上で勝算はあると考えてるし、だからこそこんなに長い文章を書いてきた。(読むほうもしんどいと思うけど書くほうはもっとしんどいんだよ!あとちょっとだから我慢してくれ!)

 作り手側へ、学習ゲームのセールスポイントを説明していく。

権威に働きかけることができる

 エグい話ではあるけど、「学習ゲーム」は権威に働きかける形でそのサービスの価値を高めやすい。コンテンツの「面白さ」は、そこに根拠を求めることのできない不安定なものだ。これから競争が激化していく中、狙ってヒットを出すのは茨の道になる。一方で「お勉強」は、「面白さ」とは別の枠にカテゴライズされやすい。ゲームやりながら勉強できるというだけで圧倒的な差別化を果たしている。

 また、学習ゲームの場合は、他のソシャゲの基準では失敗とされるユーザー数と継続率でも、大成功する導火線を常に抱えている状態になる。例えば、友達の間で「英語RPG(仮)」をやっていた学生の英語の成績が目立つくらいに上がって、ニュースに取り上げられたとしたら…!「学習」「成績」というのが、学生だけでなく、その親や、まったく関係ない人にとっても、関心のあるワードであることは間違いない。何らかのニュースになれば、それは最高の宣伝になる。

 お勉強は社会的な関心だし、ゲーミフィケーションは世界的に関心が集まるトピックだ。ここまで述べてきた学習ゲームのは発想は、かなりドメスティックな文脈に焦点を当てたものだが、僕はそれくらい日本のコンテンツ文化が強力なものを備えていると思ってる。ソシャゲをやる日本の子供の成績がどんどん上がると、その文化は新しいジャパン・パワーとして世界中に恐れられるようになるかもしれない。

ソシャゲ運営の倫理とモチベーション

 以前、あるゲーム会社の方とお話させていただいたことがあって、そのとき感心したのが、「簡単にサービスを辞めない」というのがソシャゲの倫理だという話。パッケージの売り切りとは違って、運営型のゲームは作っただけじゃ終わらない。良い作品を作る、というのも大事なんだけど、一番大事なのは、続けてくれるユーザーがいる限り、収益が取れなくなったからといって簡単にサービスを辞めないこと。(少なくない金を落とさせた負い目もあるだろうしね。)

 できるだけ続けることが、ソシャゲの倫理であり、信用だと。ただ、運営するのも無料じゃないし、採算も取れずこれからヒットする見込みもないなら赤字だけが膨らんでいく。ソシャゲの制作コストが上がっていくにつれ、ここらへんのジレンマも大きなものになるのだろう。

 二番煎じ三番煎じのものを作って、ヒットする兆しが見えなければ、なかなかモチベーションを保ち続けるのは難しいと思う。その点、学習ゲームの場合は、権威や社会的関心と結びついた大ヒットの導火線を常に抱えている。それに、「続けてくれているユーザーがいること=彼らが何かを学んでいる」ということになるので、社会的意義も大きいし、投げやりにならず、プライドを持って運営を続けることができるのではないだろうか。

長期的なビジョンを示せる

 ソシャゲは急に台頭してきたコンテンツだが、一度爆発的にヒットしても、それを継続するのは難しい。新規参入が容易な状態で、それが根拠のない「面白さ」を競う「コンテンツ」である限り、かつての勝者が没落するのはある程度の必然性すらある。今ウハウハ言ってる企業も、数年後に同じ状態である確率は低い。どうやって任天堂やソニーやカプコンのような確かな実力とブランドを築いていくかが課題になる。

 「学習」や「教育」というジャンルは社会的意義があり、土台のしっかりしたものだ。泡のように沸いてきて、金を搾り取るだけの機械として評判が悪いソシャゲも、それが子供の学力を上げる効果があると認知されれば、手のひらを返すように爆発的な賞賛が与えられるだろう。それが真っ当なものかは別として、それだけ「お勉強」に関する権威や思い込みは強力だ。

 ただ、同質性が薄れ、学習意欲の段階で格差が広がりつつある昨今、遊びと学びの境界を溶かしていく作業は非常に重要なものになってくるだろう。ベンチャーを立ち上げるにしても、大手の会社がやるにしても、「学習ゲーム」という取り組みは、一考に値するものだと思う。

最初は英語がいい

 あらゆる分野の学習ゲームを作ることが可能だが、最初は英語がいいと個人的には思う。この記事も、英語のゲームを例に出して話を進めてきた。勉強したいと考える層が一番広くて深い学習分野は「英語」だ。

 英語は中学高校大学でもほぼ必ず学習するので、本筋の補助という形で力を発揮しやすく、英単語を覚えることができる程度のものでもかなり有用になる。個人的には、植民地じゃあるまいし日本人が英語を喋れるようになるべきとも思わない。語学はやればいいと思うが、それが英語である必要もない。馬鹿が下手に英語できるようになるとかえって迷惑なんじゃないかとすれ思ってる。ただ、学習の需要が圧倒的に大きいのは英語だし、まずは英語でやってみるのが一番成功率が高いと思う。

コンシューマー化の可能性

 今回は、「ソーシャルゲームの作り方」という体で説明していったのだが、最も参入しやすく最も入力機能が限られた形式のほうが、他に応用が効きやすいからだ。ソシャゲが土台として持っている日本のコンテンツ文化、その収益モデルに着目しているというのもある。

 ただ、3DS並のデータ容量と文字認識インターフェイスがあるだけで、けっこう話は違ってくる。もっと色んな仕組みを導入できるし、かなり完成度の高いゲームになると思う。だが、その際においても、まずはここで「ソーシャルゲームのフォーマット」としたものの土台に英語を乗せるという発想は変わらない。

 パズドラ3DSや任天堂とDeNAの先例ができたし、ソシャゲからコンシューマー(任天堂)への可能性も十分ありそうだ。とてもわくわくするぜ!


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フォーマットの拡張と学習ゲームの未来

 今までずっと話の核に据えてきたのが、「ソーシャルゲームのフォーマット」に「娯楽」ではなく「学習」を乗せる、という発想だ。最初の[ソーシャルゲームのフォーマット]という章で少し触れたが、とりあえずゲームにするためにフォーマットの上に乗せても、すべてがその上に乗るわけではない。漏れ落ちたものを拾い上げるには、フォーマットを拡張する必要がある。そして、ともすればその拡張作業は、今のゲーム業界が必要としていることかもしれない。

フォーマットの拡張

 学習ゲームを作る上で、その学習内容のより根本的な理解を要求すれば、土台である「ソーシャルゲームのフォーマット」を拡張する作業が必要になる。

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 「学習」を「ゲーム」の土台の上に乗せる際に、漏れ落ちてしまったもの、切り捨てざるを得なかったもの。これらを「学習ゲーム」の中に取り込むために、土台の部分を拡張することになる。

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 ソシャゲのゲームシステムはどれもほとんど同じようなものだが、その仕組みをおさえた上で、その学習内容ごとに、それぞれに適応した仕組みを容易する。かなり抽象的だが、言わんとしていることはわかると思う。

 語学、歴史、雑学、地理、法律など、暗記が中心の科目は、この記事で述べてきた手法で十分まともなゲームを作ることができる。ただ、生物、化学、プログラミング、物理、数学と、理系科目になるにつれて、それは難しくなる。


 ここまで説明してきた学習ゲームの作り方は

プレイヤーのステータスを規定するため、学習内容を細かく分割してデータベースに

 ↓

学習内容の「データベース」とゲームの部分の「データベース」を結びつける

 ↓

上の過程で作り出されたゲームの体系で、プレイヤーの「計画→実行→達成」をデザインする

 といったものだが、理系科目をゲームにするときにはその先が必要になるということ。それが、フォーマットの拡張だ。実は、僕がより関心と熱意を持っているのは、その拡張のやり方なんだけど、それを説明するのにもかなりの文字数を要する感じ。次回は「数学、物理、プログラミングを学習できるゲームの作り方」でお会いしましょう!投稿できるのが何ヶ月後になるかわからないけど…。

ゲームは必ず学習と結びつく

 今まで説明してきたような学習ゲームが実現できるかはともかく、長い目で見ればゲームは必ず学習と結びつく。社会がゲームの力を要請するからだ。今のソシャゲのような形ではなく、もっとずっと先、フォーマットが拡張され、色んな発想が生まれ、それが統合された姿を空想してみたい。

 これから学習ゲームを作っていく上では、それぞれの学習分野ごとに地道に作品を作って、少しずつそのようなものを世に広めていくしかないわけだけど、「学習」という視点からゲームを見たときに、その本質的に優れた部分は、多くのものを一つにまとめる統合力だと思う。色んな可能性と選択肢を、一つの作品の空気の中に押し込むことができるのが、ゲームの力ではないだろうか。

 学習ゲームの流行とフォーマットの拡張の先、最終的に意図するのは、英語とか数学とかではなく、総合的な学習、一般常識から専門分野までを、一つの作品で学べるような、ゲームの世界観がユーザーを導いてくれるような、総合的なゲームだ。


 現在は、産業が停滞して、コンテンツの価値が見直されてきているが、社会が「ゲーム」を必要とする場面は少なくないように思える。教育における最も大きな格差は、意欲の格差だ。同質性が比較的高いと言われている日本でも、勉強しようと思える意識やモチベーションの段階で、階層ごとに格差が広がっている。総合ゲームは、間口が広く、同じゲームの世界観の中に、遊びと学習が混在している。誰もがそこで遊ぶことができ、その中には、勉強して自分を高めようとする動機付けが、あらゆる可能性へと用意されている。

 SF的な空想だが、将来は、誰しもが最低一作品はそのような総合ゲームを終了して、自分が育ったゲームによってコミュニティや派閥や宗教ができるようになるかもしれない。


 もともと日本のゲームは、子供向けに作られてきたこともあり、「入口は低く出口は高く」、複雑なものをゲームの中で自然に説明し、プレイヤーが上達する仕組みを作り上げてきた。そのような優しい手触りが現在ではお金を搾り取る部分に使われているのかもしれないが、「学習ゲーム」にその文化を応用しようとするのは、ごくまともな発想だろう。

ゲームが「学習」を必要とする?

 「学習ゲーム」の流行が、ゲームというコンテンツに良い影響を与える可能性がある。

 ソーシャルゲームは、ゲームの新しい「売り方」として、認めざるをえない。しかし正直に言って、僕は今のソシャゲをあまり肯定的に捉えているわけではない。さらに、そのソシャゲにおいても、かつてのコンシューマーのように制作コストが高くなっていく現状は、さらに憂慮すべきだと思っている。


 ソシャゲは、日本のコンテンツ文化を背景にした非常に優れた仕組みだが、それが優れているだけにある部分では行き詰まっている。ソシャゲは「売り方」であり、ゲームシステムが収益モデルと一体化しているので、ソーシャルゲームのフォーマットの上に何を乗せるのか、という競争を辞めるのが難しい。制作費が高騰して失敗できなくなるほど、それはますます困難な道になるだろう。

 フォーマットが確率され、消費者それを受け入れていけばいくほど、プレイヤーがそれに馴染んでいけばいくほど、それを崩すメリットがなくなっていく。行き詰まるとはそういう意味だ。その作用を逆に利用した発想が、今回の「学習ゲーム」になるのだけれど。


 僕は、学習をゲームに持ち込むことは、ゲームの側にも大きなメリットがあることだと思っている。

 一つは多様性だ。多様性を確保すること、創作への参入コストを下げることは、和製コンテンツの命題だ。学習は分野が多彩なので、英語、数学というメジャーなものから、バードウォッチングや植物図鑑やファッションの歴史やサバイバル技術やギリシャ語やアフリカの地理みたいなマニアックなものまで、あらゆる学習ゲームを考えられる。

 学習ゲームの手法が行き渡り、少人数でも開発、運営できるようになるにつれ、ニッチな需要に答えた多様性のあるゲーム製作が行われるようになるかもしれない。「学習」を持ち込むことによって、どれだけリッチにするか、どれだけ過激になるか、という競争を緩和することができる。また、たくさんの学習ゲームが作られれば、個人の作家性が重視されるフォーマットの拡張作業も、より活発になるかもしれない。


 そして、「フォーマットの拡張」の必要性が、ゲームをより良いものにする可能性がある。これまでゲームのシステム面の話をしてきたが、ゲームの表現、芸術性として「学習」を考えれば、それと相性がいいのは複雑な考え方を要する分野だろう。「ゼルダの伝説シリーズ」みたいなことができるのなら、数学や物理を楽しくワクワクした気持ちで学べるゲームが作れても、まったくおかしなことではない。

 現在のソーシャルゲームシーンでは、同じようなものばかり量産されているように、製作側からして既存のフォーマットを崩すのはビジネスとしてやる上で非常に難しい。しかし、何らかの学習内容を、ゲームをしながらより良く理解できるようなものなら、それは必ず需要がある。学習ゲームの競争が激しくなってくると、いかに鮮やかにフォーマットを組み替えるか、というのが、有効な差別化の要素になるはずだ。それは、細かい役割分担が必須になったゲーム産業に、個人の作家性を強く介入させる必要性を作り出す。


 学習がゲームを必要とする以前に、ゲームのほうが学習を必要としている、ということだってありうる。僕は別に、ゲームで学習できるようになったからと言ってそれが大したこととも思わない。もともと日本のゲームは、課題をクリアすること、今までできなかったことができるようになること、その過程に込められた作為と叙情と祈りがあっただけで、それ以上のものではなかった。しかしゲームに慣れるにつれて、小さな頃に感じた感動を味わうことは難しくなる。プレイヤー自身が多くのパターンを把握してしまったとき、ゲームの楽しさは「計画→実行→達成」という白昼夢のように変わるのかもしれない。

 ゲームの中に「学習」を持ち込めば、大人でもクリアしたいと思わせるハードルと必要性を作り出すことが可能になる。ゲームに慣れた人が、というより慣れた人だからこそ、全力で取り組み、子供の頃と同じような感動を味わうことができるようなものを、「学習」を「ゲーム」にすることによって作り出せる可能性がある。


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おしらせ

 どうもどうも、しっきーです。ここまで長い文章を読んでくださった方がいるのかはわかりませんが、もしいましたらご苦労さまです。具体的なゲームの作り方はもっとずっと簡単にまとめることができたのですが、今回は、当ブログで僕がこれまで書いてきたゲーム論、ゲームについての考え方を、どうやって実践的なものにしていくかというのがテーマでした。

 以前書いたソーシャルゲーム批判以来の長文記事ですが、あれだけソシャゲを批判しておいて、今度はソシャゲ作ろうぜって言ってるんだからなかなかおかしいですね。ただ、主張のベースになる部分はそんなに変わってないと自分では思ってるんですけどね。学習とゲームを結びつける、というのはなかなか熱い試みだし、もし成功すれば社会的にも評価されやすい仕事だと思います。

 もし、ここで説明してきたゲームを作ってみたい、少し興味がある、という個人、団体、企業の方がいましたら、よろしければご連絡ください。記事中には書ききれませんでしたが、問題文とストーリーの作り方、具体的なスキルやステータスのバランス設計に部分でちょっとやりたいことがあるので、気軽にお話だけでもさせていただければと思います。

 別に教科は英語以外でもいいし、ソシャゲじゃなくてもブラウザでもオンゲでもコンシューマーでもいいです。

 あと、学習ゲームに興味とかまったくないけどとりあえず話してみたい、とかでも大丈夫です。出会い厨というわけではないのですが、将来ゲーム業界に行きたい方とかゲーム会社で働いてる方とはぜひお話してみたいです。


 連絡先は bunjinsyobai@gmail.com まで

 ツイッターアカウントは@sskkyy17です。ツイッターの場合は、フォロバしますので、そこからDMでご連絡くださればと思います。


 それでは、お疲れ様でした。


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関連項目
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