所有する超豪華ボートが座礁「ABCマート」創業者と有名マリーナの2億円訴訟
2014.03.01
神奈川・三浦半島。石原慎太郎・日本維新の会共同代表やホンダの創業者・本田宗一郎も愛したこの地には、瀟洒(しょうしゃ)な別荘や名門マリーナが立ち並ぶ。そのひとつ『荒崎シップヤード』の敷地内に、『ディスカバリーⅢ』という名のひときわ大きなプレジャーボートがある。全長16m、重さ40t。価格は約2億5000万円という超豪華ボートだ。
’09年10月、このボートが台風で流され、座礁するという事件が起きた。船の持ち主は、シューズ販売専門店『ABCマート』。全国に753店舗(1月末現在)を展開し、年間売上高は1837億円、経常利益は343億円に上る(’14年2月期連結決算予想)、東証一部上場企業だ。実はこの座礁事件を巡って、ABCとマリーナを運営する、荒崎造船所との間で2億円の訴訟に発展しているのだ。
事情を知るマリーナ関係者が話す。
「ディスカバリーⅢの事実上のオーナーはABCマートの創業者で元会長の三木正浩氏(58)です。三木氏はいまも大株主で、会社に強い影響力がある。氏は荒崎マリーナからほど近い、海岸沿いの500坪超の土地に豪華な別荘を持ち、野球選手や力士などを呼んではパーティをしていました。別荘に直接この船が係留できる設備を作ろうとしたんですが、地元の漁協とモメて頓挫した」
そのため、三木氏の船は、’06年9月頃から荒崎マリーナに艇置されることとなった。だが、’09年10月、大型の台風18号が襲来。ディスカバリーは猛烈な風によって海に滑り落ちると、すぐさま大きな波に押され、マリーナ近くの海岸で座礁してしまう。日本に数台しかない300t級のクレーン車を使い、延べ20人以上が3日がかりでなんとか離礁させるという大事故になった。船の修繕費用を含め、損害をどちらが負担するのか――。ABCとマリーナの訴訟は、ここが争点となった。
’10年、まずABCが提訴。マリーナ側に船の修繕費用2億円を請求した。さらにマリーナ側の責任で船舶の保険契約が継続されていなかったとして、その補塡の1億5000万円も求めた。
翌年、荒崎マリーナも反訴。事件後、放置されたままになっていた船の艇置料(船をマリーナに置くために払う料金)や、離礁作業に要した約5000万円の支払いを求めた。
実は事件前に、艇置料の金額をめぐってマリーナと三木氏がもめ、三木氏側が1年近く艇置料を支払っていないなど、両者の契約が明確でなかったことが話を複雑にした。ABC側は、法廷で次のように主張した。
「今回の座礁事件の原因は、マリーナが保管上の注意義務を怠った点にある。なので、船の修繕費用はマリーナが負担すべき。もちろん、事故後の作業費用も艇置料もこちらが支払う必要はない」
一方の荒崎マリーナの主張はこうだ。
「船を置く土地を貸していただけで、保管していたわけではなく、注意義務は発生しない。加えて台風であれだけの被害が出るとは予見不可能であり、修繕費用も作業費用もABCが負担すべき」
’09年10月の台風では高波が20mにも達し、それまでには例のない規模だったが、事故を防ぐことはできたのか、双方が法廷で激しく主張を戦わせた。
今年1月29日の判決で、東京地裁はABCに対し、荒崎マリーナに6000万円を支払うよう命じた。
保管上の注意義務はあったと認めたが、台風で流されると予見・回避することは不可能だったとして、マリーナ側に違反はなかったとした。ABCに艇置料の支払いを求めたうえ、5000万円という離礁の作業費用は高額だが、内容は妥当で、その必要性はABCも容認していたと判示した。
ABCは即日控訴している。この件を取材した司法記者は、
「台風のあとの損害をどちらが負担するのか、判断が難しい訴訟だった。ただ、クツの販売会社が豪華なボートを所有し、それを創業者が乗り回していることには、違和感を持ちました」
と感想を漏らした。
ABCマートは本誌の取材に対し、
「係争中であるため、弁護士に一任しており、コメントは差し控えます」
と回答している。