2015年3月30日(月)

アカデミー賞監督 最新作への思い

2012年のアカデミー賞で、作品賞など5部門を獲得した映画「アーティスト」。
往年のハリウッド映画さながらに、全編モノクロで男女のロマンスが独特の映像センスで描かれました。
あれから3年、監督が最新作の舞台として選んだのが、1999年、ロシア軍が侵攻したチェチェン共和国です。
ロシア軍により、両親を目の前で殺された9歳の少年・ハジ。
幼い弟を抱いて、辛うじてその場から脱出します。
無事保護されますが、強烈なショックから、声を失ってしまいます。
EU職員として働くキャロル。
ハジとの出会いにより、自分の仕事の意味に疑問を持ち始めます。
この紛争を一刻も早く止めたい。
国際社会に、チェチェンの惨状を訴えかけます。

映画『あの日の声を探して』より

EU職員 キャロル
“10月中旬、南部に民間人を巻き込む大量爆撃…。”

しかし、各国の関心は薄く、キャロルは無力感を覚えます。
この作品は、侵攻する側の兵士にも注目します。
ごく普通のロシアの学生、コーリャ。
友人に勧められてマリファナを吸い、警察に逮捕されます。
警察の手配で、軍隊に入隊しますが…。
暴力が日常的な組織の中にいて、彼の人格は大きくねじ曲げられていきます。
過酷な運命に翻弄される人々。

特集・キャッチ!インサイト、今朝は注目の映画監督へのインタビューを基に、作品に託されたメッセージに迫ります。

映画に見る “紛争の現実”

香月
「特集・キャッチ!インサイト。
今朝は、来月(4月)公開の映画『あの日の声を探して』を取り上げます。」

徳住
「今朝のゲストは、タレントで女優のサヘル・ローズさんです。
サヘルさんはイランで生まれ、1980年代の戦争のさなか、空爆でご両親・ご兄弟を亡くして、孤児として養母に引き取られ、その後来日されました。
サヘルさんはすでにこの映画をご覧になったということですけれども、どんな感想をお持ちになりました?」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「素直に、子どもがいつも犠牲になってしまうんだなというふうに思いましたし、その孤独感や紛争によって受けてしまった傷はトラウマになってしまうと思うんですよね。
そういった傷を癒やすことってすごく時間がかかると同時に、犠牲者になってしまう少年と、人格崩壊によって関わりたくない武器を持たなくてはいけなくなってしまう、別のかたちの視点も見せているじゃないですか。
でもそこに必ず手をさしのべる人もいれば、無関心な社会も見えてきてしまうんですけれども、それがすごく今の現代社会に通じる部分がたくさんあって他人事ではないなと。
こういう紛争とか戦いというのは過去にはならない、現在進行形で続いてしまっているのが怖いなと思いました。」

香月
「私も拝見して、全く同じ感想なんですけども、この映画の舞台は1990年代のチェチェンではありますが、今の国際情勢でも全く同じことが言えると思ったんですね。
シリアでは難民が300万人を超えたといったニュースを私も伝えてきたんですが、紛争に巻き込まれた1人1人には、この映画に出てくるようなそれぞれのストーリーがあるのだというのを、非常に深く感じた。」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「いろんな視点がありますよね、本当に。」

アカデミー賞監督 最新作への思い

徳住
「それではここで、監督へのインタビューをご覧いただきます。
映画に込めた思いについて、聞きました。
作品の題材について、監督はこう語っています。」

脚本・監督/ユダヤ系フランス人 ミシェル・アザナヴィシウスさん
「あなた方の報道番組も、日々たくさんのニュースと情報を伝えていると思いますが、私が関心を持ったのは、テレビの特集でごくまれにしか紹介されることのない、その他大勢として扱われる、名もなき一般の人たちです。
私は今回の作品の中で、そのような一般の人たちが持っている“人間的な視点”を描きたいと考えたんです。」

徳住
「次に、なぜチェチェン紛争を取り上げたのかを聞きました。」

脚本・監督/ユダヤ系フランス人 ミシェル・アザナヴィシウスさん
「20万人から30万人が死亡したと言われるチェチェン紛争では、壮絶な殺りくが行われました。
しかし、世界の多くの人々は、全くと言っていいほど関心を寄せませんでした。
その点に私は心を揺さぶられました。
これほどの惨劇が起きているのに、人々がなぜここまで無関心でいられたのかという点です。
結局、無関心が多くの人命を奪うことになるんです。
私たち欧米人は、遠くで起きているあのような紛争に対して、自分に何が出来るかを考えることもなかなかないでしょう。
しかし、自分自身の無関心に対しては、何かしらの行動を起こせるのではないでしょうか。」

いま問われる 国際社会の“無関心”

徳住
「サヘルさんも先ほどおっしゃっていましたけれども、監督も紛争への無関心が問題だと話していましたね。」

香月
「実は私もブリュッセルのEU本部やジュネーブの国連機関などで、まさに映画に出てきたような紛争地の人権状況の報告といったことをしばしば取材してきたんですけども、われわれメディアも含めまして、すべての紛争に常に高い関心があるとはなかなか言えない状況なんですよね。
監督がおっしゃっていた『無関心さは多数の命を奪うことにつながる』ということば、非常にわれわれにも大きな意味があると思うんですけども、サヘルさんは、この国際社会の無関心について、どのように感じていますか?」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「たぶん、必ずみんなが無関心ではないと思うんですね。
知ろうとする人もいれば、じゃあどこからスタートして、何をどう知っていったらいいのか、また伝える側の立ち位置もすごく大事だと思うんですけれども、この映画を通して思ったのが、無関心ほど怖いものはないなと。
キャロルが一生懸命話をしていたシーンでも、耳を傾けてくれる人たちもいれば、全く他人のように思ってしまっている方々もいるじゃないですか。
でも他人ではないですよね。
同じ人間としてみんな生まれているからには、他人事ではないと思うんですよ。
でも、どこか別の遠い国の出来事、今のことだけ。
でも、今処理しなくてはいけない問題がたくさんあると思うんです。
無関心が生んでしまうものは、無関心でいるとき、気付かないときにいろんなものが出来てしまって、それがまた処理しないでいることでテロが生まれてしまう、またそのテロによって多くの方々が亡くなってしまう。
亡くなってしまったその国の子どもたち、若い世代の人たちが憎しみを持ってしまって、また負の連鎖が続いてしまうんですよね。
無関心で一番私が思うのは、負の連鎖を生んでしまう一番危険なものだと思うので、まずは知ること、伝える事ってすごく大事。
もちろん伝える側も命がけということもたくさんあるので、知らないといけないことってたくさんあるんだなと思いました。」

強い孤独感を抱える 戦場の子どもたち

徳住
「そしてこの映画では、『無関心』というテーマのほかに手をさしのべる人々にもスポットが当たっていたと思うんですけれども。
この映画でも、孤立したハジ少年をEU職員のキャロルが親身になって保護しています。
サヘルさんもご両親を亡くされているということでしたが、ご自身の体験と重なるところもあったのではないでしょうか?」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「正直、キャロルがハジの手を握ってあげたと聞いて、自分の養母であるフローラ、お母さんのことを思い出したんですよね。
たぶんあのときハジはすごく、ふと心のどこかでやっと居場所を見つけたんだなと。
すごく怖かったと思うし、でも、子どもって素直に感情が出せない。
ハジもキャロルと、ああいうふうに泣けたりとか、自分の怒りをぶつけるまではすごく時間がかかったと思うんですよね。
そのくらい子どもって、普通でも自分の感情をどうやって出したらいいか分からない。
かつ紛争の中で、目の前で両親の(殺される)あの状態を見てしまったりだとか、武器の音とか。
私は今でも花火の音を聞くとどうしても空爆に聞こえてしまったりとか、トラウマってずっと残っているんですね、大人になっても。
そういうときに大人が誰か手をさしのべてケアしてあげないと、そのまま大人になってしまったときに、自分の中の子どもというのは成長できないんですね。」

徳住
「これが手をさしのべてくれた、フローラさん?」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「彼女によって私は居場所を見つけることが出来たし、本当は私みたいに、フローラみたいな養母、キャロルみたいな手をさしのべる大人がたくさんいればいいんですけれども…。
今はきっと、まだまだ多くの子どもたちが1人でいろんな問題を抱えて、施設の中や紛争地で愛してくれる人を探していると思うと…。
この映画は大きなテーマを掲げていると思うし、だけどすごく心が痛みますね。」

孤児のために 私たちに出来ること

徳住
「そしてこちらの写真をご覧いただきたいんですが、こちらは現在サヘルさんが活動されているものの1コマなんですけれども、プライバシーの問題から子どもたちの顔は隠しています。
サヘルさん、これはどんな活動なんでしょうか?」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「私の原点が、やはり児童養護施設で自分も4年間生活をしていたので、施設の子どもたちに会いに行ったり、一緒に遠足に行ったりしている写真なんですけども。
なぜ私が今も施設に行くかというと、施設で生活しているとどうしても誰かの、1人の人の目になかなか映らないじゃないですか。
私が思うのは、子どもはせっかく生まれてきたからには1人1人夢を持っているし希望を持っているんだけれども、きっと今の若い世代にとっては生きていることがどこか当たり前になってしまっていたりとか、1日1日を真剣に生きていることをどこか忘れている。
でも、どんな状況下でも必死で生きている子ってたくさんいるので、そういった子どもたちのちょっとしたケアができたらいいなと。
また、キャロルじゃないですけども、心の居場所になってあげられたらいいなと思っています。」

香月
「サヘルさんの将来の夢というのは、何かあるんですか?」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「私は自分の国・イランで児童養護施設『サヘルの家』というのをつくりたいんです。
また、日本の方々にも自分を通して…日本の中でも社会的養護で生活している子どもっておよそ4万人いるんですね。
それは自分の家族の元で生活できずに、施設やいろんな環境下で生活しなければいけない子どもの数なんですが、そういう子どもたちというのは皆さんの国民でもあるので、そういう子どもに目を向けてほしいし、知っていただきたい。
まさに無関心と通じるんですが、知らないと何もスタートできない。
でも知れるということは、皆さんまずスタートラインに立てますよね。
子どもとふれあって、そしてその子どもたちが後に国をしょっていく立派な社会人になっていくので、まずは知っていただきたい、スタートラインに立ってもらいたい。
そういう子どもたちの状況を伝えていきたいと思っております。」

徳住
「知らないと何もアクションを起こせませんし、気付いてほしいというサヘルさんの思いも込めて、この映画、みんなが見てくれるといいですね。」

タレント・女優 サヘル・ローズさん
「ぜひ。
本当に『あの日の声を探して』、みなさんも『今の声』を探してほしいなと思います。」

香月
「われわれも、多くの人に関心を持ってもらえるよう、世界の様々なニュースをしっかりと伝えてゆきたいと思います。」

徳住
「ミシェル・アザナヴィシウス監督の新作『あの日の声を探して』、公開は来月、4月24日からです。」

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